万事休す(1)
本日は1話のみ、13時の予約投稿です。
騒ぎがあってからだいぶ時間がたっているにもかかわらず、ネオ21の北の検問は再会されていなかった。
兵の指揮や統率は、もともとうまくいっていなかったが、何が起きたのかわからず、茶の砦へ急ぎ逃げ帰る人たちの混雑も相まって、検問再開は遅れていた。
ユウキたちは難なく北門を通り抜けた。
茶の砦に向かう道は、検問所を抜けた先の大きな石畳の広場から、立木により歩道と車道に分けられている。
バギーに屋根はなくリフトアップされ、側面には鋼鉄の網が溶接されていた。
振動も大きく、声は少し張り上げないと聞こえない。
「みんなに渡したフォース武器は、拾い集めた回収品を改良したものなんだ。
矢が必要になるボーガンははずして、ロングソートとダガーだけにした。
気づいている人もいるだろうけど、両刃の片方は削ってミネになっている。
対人戦のときに、できればミネ打ちで敵を討ってほしい。
殺めるのは簡単だけど、どんな理由があっても人殺しには違いないから。
それと無駄な抵抗はしない。
仲間を守り切れないと判断したら、白旗を上げてほしい。
誰も失いたくないから」
ビスワの話に、みんなは小さくうなずいた。
先ほどから軍用バイクがバギーを追い越していく。
「ほっほ、どんどん砦に連絡にいってね。
そんでじゃんじゃん兵士が出て行ってくれるとありがたい」
バルが言った。
「都市の事件が砦に伝われば、応援に兵がかり出され、砦の警備は手薄になる。
そこでだ、へりを離陸させるために、砦で起こす騒ぎだけど……」
ビスワはそう言いながら、バギー内に積み込まれていたコンテナボックスから、黒く細長い筒をみんなに配りだした。
「ペッツ、そっちのバギーのコンテナから、着火弾筒をみんなに配って」
「アイサー!」
無線でビスワが別のバギーに乗っているペッツに指示を出した。
1本の筒を手に取ると、車両の床に座って説明を始めた。
「安全装置を外して、へこみの部分に人差し指を入れて引っかけるような感じでボタンを押す。
黒くて小さいゴム玉のような着火弾が飛んで、ぶつかった先で着火、燃焼が始まる。
石にぶつかっても5分は燃焼材が燃え続ける。
弾が出ないからと言ってのぞき込まないように。
俺が作って確認したから不良品はない。
距離は飛んでも30メートルほどだ」
ヘリを無事に離陸させるためのおとり作戦は、警備が手薄になった茶の砦の建物に火を放つことだった。
砦は舗装された大きな道が南北、東西と2本走っている。
それ以外の道は石畳だ。
南の門から入り、運転をしているメルケンとマルコムの2名、それとシュウ以外は全員バギーから降りる。
降りた地点から、南北に走る道の西側のエリアだけに火を放つ。
「西側エリアを北上しながら、最初はかたっぱしから着火弾で屋根を狙う。
人が道にあふれてきたら、あとはどこに打ち込んでもいい。
弾は50発入っているが、全部使う必要はない。
ヘルメットは置いていくから、フォーススーツを着ていても走る速さは常人とかわらない。
決して無理はしないこと。
焦げ茶色のマントを着た兵士たちを見たらすぐにその場から離れるんだ」
焦げ茶色のマントを羽織った兵士は警備兵ではなく指揮官や戦闘要員だ。
以前赤の砦でケンカをした、茶の砦の兵士たちも焦げ茶色のマントに、ヒョウの兜をかぶっていたことをユウキは思い出した。
「バギーは、南北に走る道の北出口近くに止めておく。
大胆にバギーを置いていた方が怪しまれない。
兵は西エリアに集合しているだろうしね。
ある程度騒ぎが広がったら、すみやかにバギーに戻るように。
全員バギーに乗ったら、北の検問所を派手に突破する。
その時点で、ヘリが飛び立てなかったとしても、助けに行くことはできない。
俺たちは全力で追っ手を振り払うことに集中する」
バルが言った。
「ヘリがうまいこと離陸したとして、追っ手をかわせるのか?
戦闘機とか……」
無線の向こうからペッツが聞いた。
「ヘリ組には強力な接着剤を入れたシーラントガンを持たせた。
駐機している他のヘリ2機の扉や車輪に、何カ所か接着剤を打ち込めば、固まって簡単には動かない。
ヘリの音が聞こえれば成功したと考えて言いだろう。
俺たちおとりが出来ることはそこまでだ。
15や21の戦闘機は、ガワしかないことを知っている者もいると思うが。
21はもともと銃の製造や、投下型の爆弾を禁止している。
銃は電気的ショックを与える銃しかないし、戦闘機の機銃も作れない。
15も21に習って同じような取り決めをしている。
もっとも15は、自力で戦闘機なんて作れる世界じゃないけど。
人を殺すための武器を好き勝手に作って実践しているのはゼロだけだ。
まあ、そういうことだから戦闘機があったとしても、戦闘ツールは何も積んでいないはずだ」
ビスワが答えた。
以前は21でも攻撃、殺傷能力にすぐれた戦闘機を作っていたが、年々土地が海に沈んでいくのに、争いをしている場合ではないことに気づいた。
今ある土地や資源を無駄にしないために、破壊行為をやめる方向で、全ての国が合意した。
再現なく進化していく、軍用機や軍用船などで壊し合いを続けることは、無意味で無駄であると判断された。
「砦の北門が見えてきました!
車両やバイクがどんどん出てきます!
立っている兵は……いないようです」
運転をしていたメルケンが叫んだ。
「了解。
ネオ21への応援で、詰め所の待機兵も出払っただろう。
さあみんな、準備はいいか!」
バルのその言葉に、一同は無言でうなずいた。
茶の砦内に入った2台のバギーは、縦に並んで減速する。
「幸運を」
シュウが言った。
「ゴー!」
バルのかけ声で、一斉に車から降りたメンバーは、夜道に散っていく。
ものの5分もしないうちに、あちらこちらの屋根や軒などから煙があがった。
叫び声や悲鳴が聞こえ始める。
人がいた場所ではすぐに火が消し止められたが、人がいない家屋や施設では炎が燃え広がっていった。
屋根だけではなく、2階のデッキやテラスなどの高所も狙い、着火弾を飛ばしていく。
道に人が増え始めると、積まれている箱やゴミ置き場にも火を付けた。
住民と兵が入り乱れ、そこに焦げ茶色のマントを羽織った兵も現れ始めた。
「クッソー、みんな都市に出払っちまってるこんなときに、なんでまた火付けなんか起こるんだ!
人がいないのにどうやって対処すればいい!」
ぼやく兵のセリフから、人手が足りていないのは明白だった。
(先にネオ21で騒ぎを起こしておいたのは正解だ。
無事にヘリが飛び立ってくれれば、あとは全力で逃げてアッシビーを目指す。
命がけだし、失敗すればゼロへは戻れず、全てを失うことになるんだろうけど。
先に進むことへのためらいや、戦うことへの恐怖はまったくない。
信じられない。
強くなったとかそういうことじゃない。
ただ……変われたらしい、確実に)
西側エリアの半分ほどに、着火を終えた時だった。
ヘリのローター音が聞こえた。
(飛んだ!)
ユウキたちメンバーはその音を聞き、ヘリの姿は確認できないが、北東の方角にヘリが飛んだことを確信した。
メンバーは、南北に走る舗装された道へ出ると、北へ向けできるだけ自然に歩き出した。
行き交う人や兵士たち、消火用の車両や、手押しのポンプなどで、その道もごった返している。
兵士たちは、状況把握のため現場に駆けつけはしたものの、犯人捜しまで手がまわっていない。
バギーに戻った者は、バラクラバを着けその上からヘルメットをかぶり、出発を待った。
全員がそろったところで、バルが叫んだ。
「北門を突破だ!」
「了解!」
運転手メルケンの声とともに、別のバギーの運転手マルコムの力強い「了解」という声も無線から聞こえた。
2台のバギーは人をよけながら、特に速度を上げることもなく普通に北門へ向かう。
検問へ近づくと、ゆっくりと2人の警備兵が近寄ってきた。
「しっかりつかまっていてくださいね!」
メルケンが叫んだ。
車のシャーシーに直付けされたパイプには一定間隔でつり革がついている。
そのつり革に手をからませ、メンバーは身構えた。
近寄る警備兵の前で止まると見せかけ、タイヤを鳴らしながら急発進し、後続のバギーもそれに続いた。
「お、おい、貴様ら!」
驚いた1人の兵士は後ろに尻餅をつきながらも大声でどなった。
居住地域にワイトを侵入させないため、村や町に通ずる道はことごとく破壊され、放置されてきた。
当初、確かにワイトは移動しやすい道路や道を通って、村や町に入り込んでいた。
車両で移動する場合は、詳細な地図や、道案内できるものがいなければ、目的地には容易にたどりつけない。
壊れた道路に入ってしまえば、そこを抜け出すまでに、十中八九ワイトに襲われる。
この作戦にシュウが名乗りを上げてくれたおかげで、経路の心配はなくなっていた。
「この道はしばらくいくと破壊されていて、車両では通り抜けできません。
道路が破壊されている辺りは、両側に岩場と林があるので、脇にそれることも難しいです。
ここから西向きに走って北上してください。
このあたりの丘陵地から、しだいに砂漠地帯に入ることができます。
砂漠といっても地表面は固く、舗装はされていませんが、走り固められた道が続いています。
林や森もないので、車での距離が稼ぎやすい。
見通しが良い分、見つかりやすくもありますが、舗装された近場の道路はほぼ壊滅状態なので、その経路を選びました。
そこを北上しながら、茶の砦が掌握しているコロニーのうち、1番近いコロニー以外の、3つのコロニーを経由して、アッシビー国境を目指します」
「茶の砦が掌握しているコロニーって……大丈夫なのか?」
無線の向こうからペッツが言った。
「ジャッジビー国内にある4つのコロニーのうち、茶の砦に近いコロニーだけは、検問もあって兵士が砦と行き来している。
そのほかのコロニーには連絡係の兵士が常駐している程度で、検問もない。
ワイトに対する警備や対応は、王府軍から寝返った者たちが高額の報酬をもらって、やっているらしい。
砦から離れすぎているって理由もあるが、茶の砦もネオ21も絶対的に兵士が足りないんだ。
その離れたコロニーからでも、就労の条件が良い、砦やネオ21へ出稼ぎに行く人たちは大勢いる。
コロニーの住人は放っておいても、おいしい思いをさせておけば逃げないと踏んで、管理があまいんだろう。
まあ、もし危険があったとしても、燃料が足りなくなるから3つのコロニーには立ち寄る必要がある」
バルが説明した。
「シュウさんの進める経路以上の案を出せる者はいないよ。
ここからは逃げの一手だ。
敵兵と……ワイトも出てくるだろうな。
ワイトはできれば振り切りたいね。
途中で運転を交代するから、みんな眠れるときに寝ておいた方がいい」
ビスワが言った。
しばらくして、メンバーがうとうとと、し始めた頃。
「後方、ミラーに車両ライトらしき光が見えます!
目視願います!」
無線から、マルコムの叫び声が聞こえ、車内に緊張が走る。
「おかしい、早すぎる。
だいいち、西にそれて北上しているのに、その位置をどうやって……。
つ、追跡装置が……発信器がついていたんだ!
すまない……俺のせいだ!」
ビスワはそう言いながら床を拳で叩いた。
「気づけなかったのはみんな一緒です。
追われることは想定内だったし、ビスワさんがいたから、ここまで無事に作戦をこなすことが出来た。
謝ったりしないでください。
戦わずに逃げ切れるかもしれないし」
ユウキが言った。
「そうだぞ。誰も気にしちゃいない。
先に進むだけだ。
にしてもヘルメットの文字だが……みんなへったくそだな」
バルのその言葉で場がなごみ、笑いがこぼれた。
確かに21★ZEROの蛍光文字は、メンバーそれぞれの個性のように、統一感のない仕上がりだった。
「へたくそだけど、どの文字も、ばっちり光ってるぜ。
上を見上げてみろ。
夜空のたくさんの星もチカチカ光って……俺たちを応援してくれてるみたいだな」
バルは天に向かってこぶしをスッと上げた。
メンバーはみんな、夜空を見上げた。
天井のないバギーからは、満点の星空が見える。
「前方、砂煙のようなものが見えます!
ワイトかもしれない。
目立ってしまいますが、前方の照明を点灯します!」
メルケンは、ビスワのボスにつけてもらった投光器型の照明の、前方部分だけを点灯させた。
すでに、車を停車しなければ鉢合わせになってしまうほど、近い距離まで、ワイトの集団が迫っていた。
「だ、だめです! 避けられません!
立木型のワイト、多数!
照明、全点灯します!」
メルケンは叫んだとほぼ同時に車両を停止させ、後続のバギーも慌てて横にそれて停止した。
「よっしゃ! 戦うぞ!
照明の明るさは足りている。
ゴーグルの暗視モードは必要ないだろう。
立木型なら1人20体を休止させれば6人で120体だ。
いけるいける!」
バルが言った。
(いけるって……その根拠がよくわからない!
でもこういう場合、強気な発言は励みになる)
ユウキはヘルメット横のボタンを押しゴーグルを出すと、車から飛び降りた。




