ネオ21(意外な人との再会)
本日は1話のみ、13時の予約投稿です。
次回投稿は13日(月)13時です。
気がついたユウキはもうろうとする意識の中で、周囲を見渡した。
視線が動くたびに頭に痛みが走る。
そこは見覚えのある部屋だった。
(青い……壁)
脈拍を計測する機械の音が響いている。
21に到着したとき、チップの処理を受けた部屋にそっくりだった。
扉が開き誰かが近づいてくる。
(ミ……ナトさん?)
顔がはっきりと見えないが確かにミナトだとユウキは確信した。
その部屋には他にも数名の人がいた。
ミナトが口に人差し指を当て、しゃべらないように合図をしたのがわかった。
「気づいたようだね。 話はできる?」
そう言いながらも、ミナトは首を小さく横に振る。
ユウキは黙ったままミナトを見つめた。
徐々に焦点が合うようになり、ミナトの顔がはっきりと確認できた。
「まだ話せないようだ。
ベースチップの損傷はなかったが、いくつか別の検査もしよう」
ミナトは、手元のモニターに何かを打ち込んでいる。
その様子は、21で見た風景そのものだった。
ミナトがその場を立ち去り、入れ替わりに来た別の職員に何かを打たれ、ユウキの意識はなくなった。
次に目覚めた時は朝だった。
(俺は、夢をみているのか……。
最初から15になんかいってなかったのか?)
朝と気づけたのは、日の光が差し込む部屋にいたからだ。
(朝日が差し込む部屋……21にこんな場所は)
はっとして、ユウキは上体を起こした。
「いっつ……」
こめかみのあたりに痛みが走ったが、我慢できないほどではなかった。
ミナトに会った昨日の部屋とは違い、そこはゼロにあるような普通の病室だった。
(ここはやっぱり……15なのか)
ゆっくりと床に足をつき、裸足のまま部屋の出口に向かった。
(どうして……ミナトさんがここに)
扉の前に立ったが、扉は動かなかった。
壁を背にしてユウキはその場に座り込んだ。
(これからどうすればいい……)
そのとき扉が開いて荷物を持ったミナトが入ってきた。
座り込むユウキを見て一瞬驚いた様子だったが、ユウキの腕を持って立たせると、ベッドに座らせた。
「天気がいい、外に出よう。これに着替えて」
ミナトが持ってきたのはユウキの着替えだった。
施設の中はあちらこちらで工事が行われている。
雰囲気は21そのものだ。
(この材料はどこから持ってきているんだろう……)
どうでも良いことを、とりとめもなく考えながら、ただミナトのあとをついていった。
一部しかできあがっていない庭園の、すみのベンチに2人は腰をおろした。
ユウキはゆっくりと辺りを見渡した。
「ここは21じゃないんですよね?」
普通にしゃべり出したユウキを見たミナトは、やさしくほほえんだ。
「良かった。 話すことは問題なさそうだね。
君の頭に打ち込まれたのは、暴徒や群集を鎮圧するためのゴム弾。
当たり所が悪ければ大けがをしていた。
ここはね、15の世界にある、ネオ21という都市。
21の世界にあったペンタグラムベースのような都市を目指している。
まだ中心部のこのあたり、王宮とその周辺施設しか完成していないけど。
ペンタグラムベースと大きく違うのは王宮があることかな」
「ネオ21……てっきり茶の砦かと思った」
「茶の砦は、ここから少し北に行ったところにある。
安全な通路でこの都市とつながっているよ」
「そうなんだ……。ネオ21か」
流れる風を受けながら、ユウキは空を見上げた。
「とんでもない状況なんだろうけど……なぜか落ち着く。
ミナトさんに会えたからかな」
ミナトがなぜここにいるかなど、どうでもよかった。
自分が穏やかでいられるこの時間が、終わらなければいいのにと思った。
ミナトがユウキの頭をなでた。
「しばらくの間は、体を休めるといい。
知り合いであることは内緒に。
ネオ21の中央……王宮の周りの警備になるはずだから追跡装置を付けられることはないだろう。
都市や砦から出て、外の任務につく場合は足首に追跡装置がつけられるんだ。
それは逃げると小さな爆破を起こす」
ミナトの話を聞いていたユウキはふっと笑った。
「不思議と、そんな怖い話を聞いても驚かない自分がいる。
成長したのか、鈍感になったのか……。
追跡装置があっても、広域の追跡は無理なんじゃ……」
「いや、できるよ。もう衛星を持っているからね。
とんでもない埋蔵量の油田も」
「え……」
「世界地図はだいたい頭に入っている?
タルティカってわかるかな?」
「うん、赤の砦があったスリトア国の北西にある氷の大地」
「そう、そこは資源の宝庫なんだ。氷の下も海もね。
海洋開発はまだだけど、油田掘削には成功してパイプラインも完成した。
だからこれほどの規模で都市開発を進められる。
材料を調達するための工場もたくさん建って、すごい勢いで雇用も増えたんだ。
ジャッジビーのコロニーは、監視をしていた王府軍の兵も含めて解放軍に寝返ったよ。
みんな良い賃金で喜んで働いているし、寝返ったコロニーは未来の技術で暮らしも便利になった。
4つあったコロニーはあっという間にこうべを垂れたんだ。
茶の砦の兵は、解放軍ではなくネオ21の軍隊だ。
忠誠心じゃなく、高額の報酬で雇われている軍と言える。
ネオ21が茶の兵に命じて、ワイト殺しを始めたから、寝返ったコロニーの住民らが反発をした。
嫌なら他国のコロニーまで送ってやると茶の兵に言われたが、コロニーの人々は誰も出て行かなかったよ。
結局、豊かさと住み心地の良さに、ワイトになった身内のことなんか、理由をつけてあきらめるんだ。
人って……身勝手でみにくいよね。
かくゆう私も本性は同じかもしれない」
ミナトは吐き捨てるようにそう言った。
「君たちは、アリシアがここに連れてくる予定だった。
彼女は捕まってしまったらしいが。
戦う兵隊を集めることが計画を進めるために急務だった。
他の砦にもアリシアのような人間がいて、定期的に人を連れてきている。
ワイトのおかげで、この世界はいいかげんな秩序でまわっている。
整った国、整った世界だったら、こうもうまくことは運ばなかった。
じきに風力、水力の発電所もできるだろう。
山にも海にも囲まれているこの大陸は、自然の恵みにも事欠かない。
タルティカの油田のおかげで、これから都市開発は加速する」
とくとくと説明するミナトをユウキは冷めた目で見ていた。
「種を……寄生植物の種を人に埋め込んだのは、グリーンゲートなの?」
驚いてユウキを見たミナトは、ゆっくりと視線を落とした。
「さあ、知らない。
誰がやったにせよ、ワイトの出現はネオ21の構築に一役買ったんだ」
「ミナトさん……間違っている。
どんな理由があっても、人が滅びてしまうかもしれない物を、世の中に出しちゃいけない。
それが故意であったとすれば、なおのこと、罪を償うべきだ」
こぶしを握りしめ、熱くならないように自分を抑えた。
「誰かにとって間違ったことでも、他の誰かにとっては正しいことなんだよ。
道徳やモラルなんて、守りたい人間だけが守ればいい」
軽くそう言い切るミナトにユウキは腹立たしさを感じたが、努めて冷静を装った。
「見損なったよ……そんな人だったんだ。
前にサトルが言っていた。
初めてサトルのフォースが確認されたとき、いろんな企業や国から誘いを受けた。
だけどミナトさんがいるからグリーンゲート社を選んだって。
ミナトさんぐらいしか信用できる人がいなかったからって」
ミナトは表情を変えずにただ前を見据えていた。
「すまなかったね、がっかりさせて。 私は、こんな人間なんだ」
「以前俺に、私のこと覚えてないかなって、聞いたよね?
まだ思い出せないけど、確かにミナトさんに会ったことがある気がする。
どこで会ったのか教えて」
「さあ……どこだったか。
君が思い出せたら、私に教えてくれ。
思い出せないなら、君にとって必要のない記憶なんだ。
君がここから脱出することを望むなら、協力はするよ。
私のことは、信じていい。
さて、再会のおしゃべりはこれくらいにしようか」
ミナトは立ち上がった。
ユウキはこれ以上話す言葉がみつからず、悔しくて涙ぐんだ。
数日後、王宮を取り囲む壁の上での警備についた。
数メートルほどの幅の通路上になった壁の上部で、警備を行う。
オニオンドーム型の白堊の王宮は、アラブのモスクのようだった。
王宮を囲う壁の外側には更にもう1つ壁があり、壁と壁の間にあるエリアは、リングエリアと呼ばれ、兵舎や、医療棟、部隊棟などが並んでいた。
ユウキもその兵舎にいた。
誰と絡むこともなく、たんたんと日々を重ねると、もうこのままでいいんじゃないかと思ってしまうほど、気力が失われていく。
この世界で、絶対的に優位になれそうなネオ21にいれば、無事に暮らして行けそうな気もした。
警備をしながら、穏やかな人々の表情や、静かな王宮内の風景を目にすると、外はワイトが走り回り、王府や解放軍と争っていることが嘘のようだった。
(この日常が続くなら悪い気はしない。
ゼロを出てからせわしなかった日々が、ずっと前のことに思える。
ここを抜けだしてセンターコロニーを目指さなきゃいけないけど……。
ああ! 余計なことは考えるな! 脱出することだけ考えるんだ!)
ジャッジビー国は食料の調達や生産もうまくいっていた。
農園や牧場、果実園などを復活させ、水耕栽培プラントや鶏舎なども次々と建てていった。
茶の兵が、邪魔になるワイトを、ためらうことなく焼き払いながら。
次回投稿は13日(月)13時です。




