砂漠での戦い
本日は1話のみ、13時の予約投稿です。
次回は3月10日(金)13時です。
赤の砦からコロニーまでは徒歩で5時間ほどかかる。
ワイトの心配がないように造られたその道は、ドーム状のトンネルのような形で、歩く部分は石畳になっていた。
車のように、重量があってタイヤの衝撃が強いものは無理だが、荷馬車程度なら通れるように造られている。
最初は隊列を組んでいたが、気づけば兵士たちは、ばらばらと好き勝手に歩きだし、途中で休んだり持参した食べ物を頬張ったりしている。
気分は落ち込み表情も暗かったユウキたちだったが、コロニーに入った途端、その雰囲気に自然と顔が上を向き、気分も上がった。
「普通に……町だね。ほっとする」
ラバスが言った。
「なんかいい匂いもする」
サトルはそう言いながら匂いの出どころを目で探していた。
「みんなで遊びたいね!」
ユウキが言った。
「大賛成! 自由時間がいっぱいあると、おいらうれしいな」
ユウキは、町を見ただけで、一喜一憂できてしまう自分が不思議だった。
ゼロでは、気が向いたときにだけ、人に返事を返す程度の、無関心極まりない生活を送っていた。
当時は、感情を表に出してそれを他人に見られることが嫌だった。
今は違う。
仲間が喜ぶ姿を見るとうれしいし、自分がうれしいことや楽しいことも共有したくなる。
(俺は、変われたんだ……)
そのことがユウキは素直にうれしかった。
仮設の兵舎に入り、翌日までは自由時間だったため、最優先事項だった占い師のニッキを探すことになった。
ニッキの館にはユウキとサトルが行くことになり、2人は町に出た。
探すまでもなく、仮設の兵舎から町なかにでた目と鼻の先に、ニッキの店はあった。
中に入ると、驚くほど長い廊下の突き当たりに壁を背にして1人の女性が座っていた。
細長いその部屋に窓はなく、床も壁も厚手の布がしかれ、音がまったく反響しない。
身分証を提示すると、手首の端末で確認をして、ガサガサと箱の中から身分証の半分ほどのサイズのタグペンダントを出してきた。
「今日は特に情報はないが、これを渡しておこう。
他のコロニーへ行くことがあれば、これを持っていれば情報屋を利用することができる。
情報屋の名前は全て一緒。占いの館のニッキだ」
そう言ってニッキから人数分のタグペンダントを受け取り、ユウキとサトルは店を後にした。
コロニーでの任務は、装備品の回収を兼ねた、焼き討ちされたワイトの調査だった。
半年ほど前に、黒の砦の協力で地中に燃料庫が造られ、20台ほどのサンドバギーも配備されていた。
サンドバギーは、全て赤く塗装され、赤の砦のシンボルマークであるトカゲが描かれている。
砂漠ワイトは立木型のワイトより背は低くツルも短いが、移動速度は速く、時々弾むこともある。
サンドバギーは6名ほどが乗車でき、屋根はなくリフトアップされ、側面には鋼鉄の網が溶接されていた。
着用する装備は、フォーススーツの上に、以前シャムスが来ていた装備と同じ、防刃で爆破にも耐えられ、胸にはセラミックプレートが入っているボディーアーマーだった。
茶の軍は車両から火炎放射を放ってワイトを根絶やしにしている。
装備は防火炎ではないため、もし茶の軍が火炎放射で攻撃をしてきた場合は、それを避けることを優先するように言われた。
(本当に人と戦うことになるのか。
怖いし……嫌だ。
ゼロにいた頃、言葉で人を痛めつけることは、殴ったりする暴力と同じだって思っていたけど……正直、まったく違う。
今なら相当ひどいことを言われても、余裕で無視することができる。
言葉なんか痛くないと思える自分がいる。
言葉に対する心の強さは、ゼロにいた頃より何倍も強くなったけど、体は違う。
命の危機をすぐそこに感じる脳の仕業なのか、強烈な恐怖と嫌悪を一気に叩きつけてくる。
どんな暴言をはかれたって、人を刺したり刺されたりするよりずっといい)
赤の兵は、サンドバギー3、4台ごとのチームになって、調査を行う。
人員や経路は幹部が決める。
ユウキは最初、タルティカ国に近い砂漠地帯の調査チームに入った。
その経路では集団ワイトは出現しないが、単体の砂漠ワイトは時折現れた。
まるで意思があるかのように、こちらを見ている砂漠ワイトは、しばらく様子を伺ってから、逃げるように転がっていく。
勝機を推し量ることができるなら、考えることができるワイトと思えてしまう。
焼かれたワイトの痕跡はほとんどなく、どこでどれだけのワイトが焼かれたのかは不明と報告された。
砂漠調査を始めて1週間ほどたったころ、ユウキとサトルは砂漠中央付近に向けての調査チームへ配置された。
そこはコロニーを出発して真っ直ぐ北に向けて移動した地域だ。
ワイトの集団も多くでるため、焼かれた痕跡や、茶の兵が実際焼き払っているところを目撃できる可能性が高かった。
砂漠の中央付近にさしかかった頃、転がりながら移動していた砂漠ワイトの集団がこちらに向きを変えて転がってきた。
運転手以外は車両から一斉に飛びおり、身構えた。
「肌が見えているところにツルを打ち込まれないよう気をつけろ!」
誰かが叫んだ。
砂漠ワイトは、気づくとそばにいて、体当たりもしてくる。
花にボーガンを打ち込もうとするが、動きの速さにおおかたのメンバーは苦戦していた。
ユウキとサトル、他に2,3名は余裕で次々と休止させていく。
訓練を重ね戦い方も学んだユウキにとっては、この程度のワイトで、やられる気はまったくしなかった。
ツルを軽く叩き切りながら、着実にボウガンで花を仕留めていく。
命の駆け引きをしているのに、戦いを楽しめるほどだった。
フォースエネルギーに順応してくれる武器は、もう持っているという感覚すらない。
直接手で叩いているような一体感だ。
50体ほどいる砂漠ワイトに20名ほどで対峙していると、砂埃をあげて近づいてくる5、6台の車両が目に入った。
その車両に向けて、両サイドからワイトの集団が寄っていくのが見える。
そのワイトを無視して、車両はユウキたちめがけ速度を落とさずに向かってきた。
「お、おい、すごい数のワイトを引き連れてくるぞ!
あれ、やばいだろ!」
そう誰かが叫んだが、戦っている最中に場所を移動することはできない。
「とにかく早くこいつらを片付けろ!」
今は、相手をしているワイトを倒して、バギーに戻ることしか手が思いつかなかった。
「ヒャッホー!」
妙な雄叫びをあげながら近づいてきた者たちは、兵士ではあるが、赤の砦の者ではない。
車両は、焦げ茶色の塗装に茶の砦のシンボルマークであるヒョウが描かれている。
「茶の兵だ……」
なんとかワイトを倒し終わり、バギーに乗り込もうとした兵士がつぶやいた。
「早く乗れ!」
砂漠の砂に足を取られながら、ユウキたちもバギーに急いだ。
そこには茶の車両を追いかけて、200体ほどはいると思われるワイトが押し寄せてきていた。
ズサーッと茶のバギー6台が一斉に止まった。
車両の後方に設置されている巨大な火炎放射器から、ワイトに向けて一斉に火炎が放射され、見る間にワイトは燃え朽ちていく。
脇から車両を狙うワイトには、屋根のない上部に設置されている火炎弾の発射機から、拳よりも大きな火炎弾が連射された。
当たった火炎弾は被弾すると燃料が含まれているのか、ワイトに張り付くように燃え広がる。
ユウキたち赤の兵はあまりの光景に逃げることを忘れるほどだった。
「何やってる! 車を出せ!」
その叫び声でみんな我にかえり、赤のバギー4台は一斉に走り出した。
遠ざかりながらも、太い火炎とそれにまとわりつく黒い煙がはっきりと見える。
燃えて消えて行くワイトを見ながら、頭を抱えて泣き出す者もいた。
「あいつら、なんてことしやがるんだ! クソー!」
「戦ったらダメなのか? たたきのめしたい!」
「ダメだ、俺たちの任務じゃない!我慢しろ!」
「あの中に俺の家族がいるかもしれないんだ!」
「そうだやっちまおうぜ!」
無線で他の車両からも戦う意思を示す者たちが叫んでいる。
熱くなった1人の運転手は車を止めると、今来た道を戻り始めた。
それをみた他の車両も後を追った。
(まずい、とめなきゃ……。 でもどうやって!)
「サトル、どうする……この状況やばいよな」
「どうするって言ってもどうにもできないよ。
できるだけ逃げる方向で。
俺たちには目的がある」
2人は目を見てうなずき合った。
火炎放射がやんだ茶の車両から少し離れたところに、赤の車両を止めて、運転手以外は全員車から降りた。
「よお、赤の兵隊さん。逃げたのかと思ったよ」
ニヤニヤと笑いながら茶の兵がそう言って近づいてきた。
「貴様ら、なぜワイトを燃やす!
おまえたちの家族だっているかもしれないだろ!」
「さあな、確かにいるかもしれないな。
だがな、ワイトになることを心配しながら戦って、いつまで休止ごっこを続けるんだよ!
しばらくしたら復活して、また俺たちを苦しめるんだ。
休止することは助けてるわけじゃねえ」
(休止を繰り返すなんて、確かに先が見えない戦いだ。
ファビオはワイトから人を助け出せたって言っていた。
でもあれは王府の話だ……ここで話すわけにはいかない。
いらない追求をされてしまう)
「俺たちは、自分の人生の時間を、ワイトに捧げる気はない!
お前たちこそ、目を覚ましたらどうなんだ?
バカはどっちだ!」
(こいつらの言うことも一理ある。
生きている人間の生活を考えたら、ワイトをあきらめるという選択は間違っていないかもしれない。
ただ、家族がワイトになっている人の気持ちは……)
「じゃあなぜ解放軍になったんだ!
家族を助けたかったからだろう?」
「最初はな。だがもう見込みはないと判断した。
どうだおまえたち、茶の砦に来ないか?
一緒にワイトを焼き尽くそう。
たちの悪い菌やウィルスと一緒なんだ。
全部焼いて、根絶やしにすれば平和になる」
(ゼロでも、ウィルス感染した鳥や動物は殺処分された。
そのニュースを見るたびにやるせない気持ちになった。
それと同じことを寄生された人でやろうとしている。
極端な方法だけど、それが正しいと思ってしまう人が出るのもわかる。
こいつらが、そうなんだ)
「俺は……なんか分る気がする」
(え?……)
1人の赤の兵士が、そう言って前に出た。
「な、何いってるんだお前!」
「だってそうだろ! 休止したワイトをいつ助けられるかなんてわからないんだ。
その間も、僕たちの人生の時間は進んで行く。
僕は妹がワイトになった。
いつか助けられる、また会えると思ってがんばってきたけど、毎回任務にでるのが怖いんだ。
最初の頃のような熱意もなくなってきている」
そこまで言った彼は、茶の兵に向かって言った。
「強くない僕でも仲間になれるか?」
「ふっ、大歓迎だよ! さあこっちに来な」
茶の兵が手招きをして、その赤の兵は茶の兵たちの中に入った。
「あの……俺も」
また別の兵士が茶の兵の中に入っていく。
(ど、どうなってる!)
ユウキが小声でサトルに話しかけた。
「サトル……この状況って」
「ああ、予想外だな。っていうかもう引き上げたほうがいい」
サトルはそう言うとみんなの方を向いた。
「とりあえず、ひきあげよう。さあ、みんなバギーに乗ろうぜ!」
サトルは、動揺している赤の兵たちの、肩や背中を押して車に乗るように促した。
「おまえ……茶の砦に行くって……そんなことが、そんなことが許されると思うな!」
1人の赤の兵が、茶に寝返った兵士めがけて突進した。
それをみた茶の兵士が、すかさず剣を出して赤の兵を叩こうとした。
ユウキはダガーに手をかけた。
その瞬間、飛びかかろうと踏み出した赤の兵と、剣を抜いた茶の兵の間に移動していた。
ほんの一瞬の出来事だった。
ユウキはダガーで茶の兵の剣を止め、もう片方の手で赤の兵のこぶしを掴んだ。
移動の速度も、剣やこぶしを止める速さも、人の動きの範疇を超えていた。
それを目にした両方の兵士たちは固まった。
先に剣を収めたのは茶の兵士だった。
「よくわからんかったが、あんたすげえな」
こぶしを止めた兵を見ると、涙ぐんでいるのがわかった。
ユウキがその兵の目を見て小さくうなずくと、兵はこぶしを収めて横を向いた。
「1人狩っていこうかね」
茶の兵の集団の奥からゆっくりと進み出た、ヒゲを生やした大きな男がそう言った。
「さあ、乗った乗った」
サトルはそう言いながら、赤の兵たちの体を押して車両に追い立てた。
数人の兵が剣を抜きボーガンを構えた。
「そこのボウズ、こっちの車に乗りな」
確実にユウキに剣を向けている。
それを見た赤の兵たちも車に乗るのをやめて、剣を構えた。
(まずい、戦闘になる)
「待って、みんな剣を収めて」
ユウキは赤の兵の方へ振り向いてそう言った。
「おとなしくこっちにくれば、他の者に手は出さない」
1人の茶の兵が言った。
「決闘しましょう。そっちの装備も防刃だろうから、決着の判定は……」
ユウキがそう言いかけたがそれを茶の兵が遮った。
「何いってんだこいつ。俺らが本気だせば、お前ら殲滅だよ?
火炎放射だって積んでるんだぜ?」
(どうすればいい……。
俺のことで他の兵を巻き込む分けにはいかない。
こうなったら……いちかばちか)
「サトル、周りを止めてくれ。 頼んだぞ!」
そう言ってユウキは一歩を踏み出すと、次の瞬間にはダガーの柄で1人の後頭部を叩き、もう1人の脇腹を蹴って転がすと、奥にいたひげ面の大男の首にダガーの刃を立てた。
その間、茶の兵は誰も一歩も動けなかった。
「これ以上俺たちに構わずに、立ち去れ!
最後の1台になったらこいつを解放する。
サトル、みんなを車両にのせてすぐ出せるように!」
ユウキが叫んだ。
「了解!」
赤の兵たちは、全員が慌てて車に乗った。
そのとき、ユウキのヘルメットに何かが打ち込まれた。
21★ZEROのステッカーが貼られたヘルメットが宙を飛んだ。
「ユウキーー!」
ズサッと砂の上に倒れたユウキの脇をかかえて茶の兵が引きずっていく。
飛び出そうとしたサトルの顔の前に、茶の兵がボーガンを構えた。
「そこまでだ。
ここで騒ぎになって、みんな殺されちまったら、あいつのカッコがつかないだろ?」
その兵は引きずられて行くユウキのほうに向かってアゴをしゃくった。
「クッ……」
サトルは、ユウキが「頼んだぞ」と言った言葉がうらめしかった。
「安心しろ、殺すつもりなら今やっていた。
ボスが連れて帰りたいってことだから、命はとらない」
茶の兵たちは雄叫びや笑い声を響かせながら去っていった。
「ユウキ……」
そのばにへたれこんだサトルの肩に1人の兵が手を置いた。
「うわぁぁぁ!」
サトルは泣き叫びながら、砂を拳で何度も叩いた。
次回は3月10日(金)13時です。




