みんなでダイブ
レミはユウキに、バトルボックスのチュートリアルを読み返すことと、レミの作ったとりまとめ資料も頭に入れるように指示を出した。
(こうやって指示してもらえるのはありがたいけど、頭がいっぱいで目を通すくらいしかできない。
レミみたいな人がいない他のPTは手探りでやっているんだろう。
当たって砕けろ的な? このPTに拾ってもらって本当に感謝だな)
レミの資料。
1 管理者
・PTには運営会社グリーンゲートから管理者が1人ついて、
同じ卓上に座り、エッグの操作、ゲーム進行の監視、
搭乗者の健康状態のチェックなどを行う。
・バトルボックス内でも管理者マークをタップすれば会話ができる。
2 ざっくり知識!
・腕にはめた端末はゲーム前に回収される。
・体を預ける椅子はエッグ、そこに座る者は搭乗者と呼ばれる。
エッグに座ると前面に、上半分が半透明で下は透明なシールドが
出現し、それにより閉じ込められたような状態になる。
両手は固定され、腕に装着された測定用の小さな端末で血圧、心拍、
脈拍、血中の酸素濃度などのチェックを管理者が絶えず行っている。
・頭の中には記憶制御用のチップとは別にゲームデーターを格納した
ゲームチップ、感覚と情報伝達のインターフェースチップが
埋め込まれている。エッグに搭乗すると管理者の操作でエッグ内の
ヘッドギアが自動で動き出し、頭の中のチップの位置をギアの回路
の位置に合わせながら頭にセットされる。
生身の体がエッグ内で寝ていようが気を失っていようが、
回路が繋がっていれば脳は動き、仮想では活動し続ける。
・エッグの中では外には漏れないが実際に声を出してしゃべっている。
その声はリアル世界と同じような音量に調整され仮想領域内に
届けられている。
・距離が離れて一般音声が届かなくなっても会話ができるように、
PT音声は常にオンにしておくこと!
仲間を見失った時は、視界にPTモニターが出せるから
声だけじゃなく仲間の状況も確認できる。
顏くらいしかうつらないけどね!
音声やモニターで呼び出せる距離はバトルボックス内全域、ただし
対象者の回路とエッグ回路の接続が切れている場合はできない。
聞こえる相手の声は調整されたものが脳に送られているんだけど、
普通に会話してるようにしか思えないんだなこれが!
・ゲーム内では、記憶ボタンをタップ後、読み上げたり目で見るだけ
で記憶可能だ。その記憶が脳の記憶細胞まで届いているのか、
チップ内の記憶域に入っているのかはわからないけどね!
(こんなの覚えられないよ。この内容を脳に書き込みしたい。
ゲームサーバー内のどこかに保存できないかな。
そうすればいつでも参照できる)
ユウキが何かないか腕の端末をいじっていると補助メニューにカメラのマークがあった。
それをタップしてレミのまとめ紙を撮ってセーブボタンをタップ。
<プライベートストレージに保存されます。 【Yes】/【No】>
「Yes」と口に出して言うと、格納された。
(おおーできた!)
レミから声がかかり、みんなでグリーンゲート社のバトルブースへ向かった。
バトルボックスの待機場の前まで来くると、そこに設置されているエントリーゲートには、既に数十名の冒険者が集まっていた。
エントリーゲートでレミが申請を行うことでメンバー全員に参加許可の通知が届いた。
エントリーを終えたらゲーム入場の30分前には席についていなればならない。
待機場内へ入ると、奥が見渡せないほど広い部屋のなかに、白い丸テーブルとそれを取り囲むように縦に長い楕円形の黄色い椅子が5つ、それと白い普通の椅子が1つ置かれていた。
(これがエッグか……確かに卵っぽいかも)
告げられた番号の待機テーブルへ行くと、すでに管理者が立って待っていた。
「PT11のみなさまのPT戦テーブルの管理をさせていただきます。
よろしくお願いします」
「リーダーのレミだ。よろしく!
さあみんな手の端末をはずしてこの人に渡してね」
「お預かりします。充電とメンテナンスもやっておきます。それでは席におかけください」
テーブル上部には大型のモニターが吊り下げられ管理者はその正面に座っていた。
エッグに座るとレミの資料にあったように前面にシールドがおりて蓋をされた。
上半分が半透明なためもう周りは見えない。
ゆっくりとエッグが後ろに傾き、すっぽりとはまり込むような状態になった。
手の形の電光表示がある場所へ手を置くようメッセージが流れ、手を置くと、両腕に金属の輪がまわり固定された。
頭をささえるように頭部に接している部分が、小さな振動ではあるが左右に何度も動きそれが止まると、ゆっくりと頭を囲い込むような圧迫感がして、頭に何かをかぶせられたようだった。
エッグ前面の視界に入るすべての部分がディスプレイ化したが、まだパソコンのモニターと変わらないような状態で、そこに管理者やPTメンバーの顏、そして個人の能力値などが表示されていた。
「ご搭乗ありがとうございます。
出発まであと30分です。
ランダム抽選での参加PTが決定いたしました。
PT1、PT5、PT11が同じバトルボックスとなります」
「うわぁ……PT1がいるのか」
最初に聞こえたアッガイの声はノイズもなくすぐそばで話しているように明瞭だった。
「おおー、このさいだ、ミルズやっちゃおうぜ!」
「バシュよ……そういう戦闘じゃない。でもあれだ、嫌がらせぐらいはしないとな!」
レミがそう言うとメンバーはゲラゲラと笑った。
(なんか楽しそうだな……。
この雰囲気だけで、俺もちょっと楽しくなる)
そのときユウキはふと思った。
(レミっていったいいくつなんだ。
態度もでかいし度胸、統率力もある。
それに言い方がめちゃくちゃ大人なんだけど。
本当に20歳以下なんだろうか)
「え……コホン。話が終わるまでお静かに願えますか あとで質問は受け付けますので」
管理者が少しいらだちながらそう言った。
「あーごめんごめん」
レミがすぐに謝った。
「今日のPT戦が実況中継されることになりまして、先ほどこのボックスが選ばれました」
「え? 今なんて? 聞いてないよ!」
レミがわざとらしく叫んだ。
「はい、言ってませんから」
管理者がそう言うと、またみんなはゲラゲラと笑った。
「いいねぇ実況。負けてもかっこよく負けようね!」
「おおー!」
レミのかけ声に、ユウキ以外はもりあがっているが、そのノリを押し付けもしないし、無反応でも誰も嫌な顔をしない。
(なんかこういう感じ……好きだな)
「だからお静かにって!」
管理者のこめかみからピキピキと音が聞こえそうだった。
「ごめんごめん。続けて」
「えっと……装備品についてですが、ボス戦の優勝者の戦利品になっているレッドフォース装備一式を今回に限り使うことになりました。
理由は、実況放送を盛り上げることもあるのですが、新しい装備のテストもかねています。
もし不具合がでた場合はすぐにサルベージし、変わりの武器としてボーガン、防具は若葉の装備が配布されますのでご心配なく。
それでは装備選択画面を表示いたします」
《使用可能な装備品》
【武器】
1 ソード (片手用、両手装着可) 〈無条件配布品〉
攻撃力150 氷、炎魔法付与可 持久力+10%
2 ボーガン (片腕用、両腕装着可) 〈無条件配布品〉
攻撃力150 氷、炎、回復魔法付与可 持久力+10%
チャージ10秒
3 ガトリング銃(片腕用、両腕装着可) 〈無条件配布品〉
攻撃力200 氷、炎魔法付与可 チャージ20秒
4 レッドフォースダガー(片手用、両手装着不可)NEW!
攻撃力300 フォース付与可
【防具一式】
1 装備名:若葉の装備 〈無条件配布品〉
防御力300回避率40%ダメージ減少40% 隠れステータスなし
初心者向けで他の装備よりも防御力、回避率が高い。
2 装備名:レッドフォース NEW!
防御力1000回避率20%ダメージ減少10% 隠れステータスあり
個人の持つフォースに感応するよう微細な脳波を伝達、拡張する回路
が組まれ、脳波に準ずる速度で防具が変化する。
自然界のフォースを導き取り込むことでそれを利用することができる。
※フォースとは宇宙空間すべてに存在するエネルギーのことである。
「みんな! 防具はレッドフォース一択だよ!
私はいつも通り武器はソード2本にする!」
レミがまっさきに叫んだ。
「俺は武器はいつもの両腕ガトリングだ!」
「私は、レッドフォースダガーとボーガン!」
「僕はモブつりがあるからボーガン2機で!」
(どどど……どうしよう)
「えと……レッドフォースダガーとボーガンで」
そういうと私を見たレミがニッと笑った。
「よーし、決まった!」
装備を選択するとディスプレイに、装着された自分の体が表示され、回転しながら、強化された数値も表示された。
(なるほど……攻撃力や防御力は装備依存ということか)
「回復塔の配布は6本です。
今までと同じで、1本あたりの時間は10分で3本まで同時使用可能です」
管理者からの説明が入った。
「チャム、回復塔の設置たのんだよ!」
「アイアイサー!ボス!」
「どころで管理者さん、何体討伐で完了の設定になってるのかな。
そのへんのルール公開されてないけど」
レミがつっこんだ。
「……」
管理者は黙ってしまった。
「どこかのPTがその数に到達したら時間とか関係なしにボックス閉じて、はい優勝ってなるんだよねきっと」
「まあ、そうですね。 でもそこまでの数には到達できないでしょう」
「で……何体なわけ?」
『出発まであと10分となりました』
そのときアナウンスが入った。
「あ! もう10分前です!
入場準備にはいりますのでPTミーティングの開始をどうぞ!」
管理者が画面から消えた。
「チッ……逃げられた」
「んじゃ手短に」
バシュが話し始めた。
「レミと俺はせん滅に集中してアッガイはモブをつる。
チャムは回復塔の設置とボーガンに魔法付与して回復玉をまき散らす。
んでユウキだが。モブと近づく他のPTの索敵。
ゲームに入ると右上にマップがでるからそのなかの小さい赤い点が集中している場所を探すんだ。
マップは拡縮できるから広域半径2キロまで見ることができる。
自分の仲間は白、そして他のPTメンバーはオレンジの点だ
訓練なしでいきなりPT戦だからきついかもしれないが思いっきりやれ。
みんなもユウキを気遣ってやってくれよ」
「了解!」
バシュの指示にみんなが答えた。
「ユウキ、わがままに動いていい。失敗しようがなんでも許す!
それとゲームに入ったとき、たいがいとんでもない場所へ落とされる。
空中だと思ったら手を広げれば滑空できるから、忘れないように。
それと着地は……まあ最初は転がればいい!」
レミが笑いながらそう言った。
「は……はい! 死ぬ気でやります!」
「そうそうその意気ー!チャムがしっかり回復してあげますから安心してね!」
「死んだら復活までは1分。
みんなが移動してしまっても足が速い僕がユウキを迎えにいってあげるね!」
「あほかアッガイ。そんな暇あったらつりまくれ!」
「ほっほーいレミ隊長!」
ゲラゲラとまたみんな笑ってユウキもつられて笑った。
『出発まで5分前となりました。 状態確認に入ります』
「それでは、よい冒険を」
管理者がそう言うと、すかさずレミが叫んだ。
「さあ、みんなでダイブだ!」
その瞬間ディスプレイは切られ真っ暗になった。
『身体、脳波状態 良好
言語・概念エンコード 良好
埋め込みチップ 現状3 シナプス中継 良好
違反確認 システム/異状なし キャラクターステータス/異状なし
装備一式/配布のため異状なし
体感レベル設定 生態と同等
苦痛レベル設定 生態と同等/ヒットのみ対象(2次被災は対象外)
破壊レベル設定 装備破損あり/肉体破損なし/
キャパシティーを超え死亡の場合は1分の消滅
非常用回路 良好』
『仮想領域展開します…………』
電子的な声の案内が終わると同時に、椅子がガタンと揺れ少し後方に傾いた。
そして実体は動いていないが、仮想の中のユウキの体は、真っ暗な中に光が飛び交うウォータースライダーの中をものすごい勢いで流れていた。
「うっうあぁぁぁ!」
ユウキはそのとき怖さで声をあげたのではなかった。
「気持ちいいーー!」
元気だった頃に、素直だった子供の頃の自分に戻っていくようだった。
夜空のようなウォータースライダーの中の景色は、蛍光色の流星群の景色に変わり、その中を速度をおとさずに進んで行く。そして体を誘導するその水のようなものは黄色やピンクに色を変えた。
(たのしい! めっちゃたのしい!)
そして一瞬真っ白な強い光が目に入りまぶしさで目を閉じた。
すぐに目を開けたがそこに見えたのは真っ青な空。
(……空?)
ウォータースライダーの出口は滝の上だった。
(出口がここって! もっと平和にいこうよ!)




