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赤の砦(脱出に向けて)

本日は1話のみ、13時の予約投稿です。

次の投稿は、3月3日(金)13時です。


 ユウキは集まったみんなに、ファビオから聞いた情報や、仲間に誘われたことを話した。


「僕、泣いていいかな……」

 ラバスは腕を目に当てて、声をこらえながら泣いた。

 みんなラバスの気持ちが痛いほど分かった。

 王都へ行く方法やこの世界のことを心得ている人たちの、仲間になれるかと思うと、弱気になった心を奮い立たせることができた。


「みんな、気持ちは一緒だね。

 仲間になる方向でいいんじゃないの?」

 レミのその言葉にみんなはうなずいた。


「じゃあ、返事をするね」

 ユウキはその場でファビオにメッセージを送った。



 ――1カ月後 PW-15(タンバ)暦1522年11月6日


 訓練棟のフォース装備訓練施設の使用が許可され、今日がその初日だった。

 教官のタイロンとは別に指導員がつき、武器の種類や使用方法から学ぶ。

 武器はそこで貸し出されているフォース武器で、防具はフォース防具ではなく普通のものだった。


「フルフェースなんですね……。

 シャムス班長はイヤーカフを付けていたから、てっきり同じものをつけるのかと」

 ユウキがタイロンに言った。

 ヘルメットは黒いフルフェースで、前方が透明のシールドだった。


「ん?ああ、もとはフルフェイスだったんだが、何年か前にイヤーカフタイプに変わってね。

 取り外しは楽だし見た目もいいんだが、問題が多すぎる。

 衝突したはずみで側頭部にカフがあたって負傷したり、途中ではずれてしまえばフォースは使えなくなるしね。

 最近はまたフルフェイスのヘルメットが人気だ。

 仲間の無線も聞きやすい」


「へえー……そうなんですね」


(これならルイバディのステッカーが貼れるな)

 ユウキはヘルメットをかぶりながらそう思った。


 最初はスリトア周辺のワイトの疑似ロボットを使って、動くツルの部分を叩く練習や、花に剣を差し込む訓練だった。

 ロボット自体が移動することはなく、ツルだけがかなりの速度で飛んでくる。

 透明なパネルに囲まれた部屋の中で、そのツルをを終了の合図がでるまで打ち続ける。

 その攻撃の合間に、花に攻撃をするなど到底できなかった。

 パネル向こうの操作室のモニターの前で、教官と指導員が、攻撃力や攻撃速度の確認を行っている。


 それが終わると、指導員と短剣格闘の訓練を行う。

 対戦室はあまり広くなく、指導員に打ち込む一打一打を丁寧に指導される。

 攻撃の受け方やかわし方、体や周りの物を利用した反撃の仕方も教わる。

 10分ほどの休憩をはさみながら、3時間ぶっ通しで指導をうけ、終わるころには太ももが痙攣するほど、筋肉が疲労していた。


 午後はジムで体作りのためのメニューが組まれていたが、午前中の疲労が抜けないままのトレーニングは泣きたくなるほど厳しいものだった。

 3日間の訓練を終えると、装備品の回収任務につき、旧式のフォースダガーと、手首設置型の単発ボーガンを持つことが許されるようになった。

 ボーガンを持ったことで、ダガーで戦いながら花に矢を打ち込むことができる。

 訓練と任務のローテーションをこなしながら、みんなで集まっては、ラシアへ行くための話し合いを行っていた。

 だが結局、スリトアからは脱出するしかないようだった。

 他の手がないか、しばらく模索することになったが、良い案はいっこうに出てこなかった。


 ――さらに1カ月以上がすぎて12月20日


 気温は多少下がったが雪が降るほどではなかった。

 この頃になると、訓練用の疑似ロボットは、砂漠地帯のワイトのタイプに変わった。

 砂漠地帯のワイトは、集団で行動することが多く、気づけば横にいて、攻撃をうけていた、というほど移動速度が速い。

 長い距離を移動するときは、体を丸めてゆっくり転がりながら移動する。

 ツルが短く至近距離でしか攻撃ができないため、長い剣や中距離、長距離攻撃ができる武器が向いている。

 ロングソードとダガー、ロングソードと手首設置型の単発ボーガンの組み合わせで訓練を行い、自分に向いている武器の組み合わせを探す。

 訓練を行う部屋はせまいため、ロボットが移動することはなく、ツルとの間合いや、そのかわし方の練習しか出来なかった。


「ゼロにいたら、クリスマスがあるのにね」

 朝食を食べながら、ラバスがそう言ってため息をついた。

 休日はいつも朝8時半に集合して、ファビオ以外の7名で朝食を取る。

 聞かれたらまずい話が多いため、外のテラスの端にある、長いテーブルをいつも陣取っていた。


「クリスマスって、こっちでもあるのかな? 砦内が飾られてる感じはないけど」

 モニークが言った。

「神様が違うからないんじゃないか?」

 サトルがそういうとラバスは肩をおとして言った。

「そう……だよね」


 ユウキたちよりも長くここにいるツクタンだが、知っている話題があっても口をはさんでこない。

 こちらから話を振らないと、いつも黙ったままだった。

 レミとはこそこそと話をして、笑ったりはしていた。


 数日前、ファビオは施設内の装備部へ配属が決まり、業務は配達員だった。

 通常、赤バングルが施設内の任務に配置されることはない。

 身辺査定や心身に問題がある場合を除いては。

 本当か嘘かわからないが、ファビオは、親が王府の役人である証明を提出している。

 そのため、前回の配属も見送られていた。

 今回は、査定の前に降格を申し入れ、黄バングル卒業と同等の配属先になる。

 親が王府側である以上、武器を扱わせない部署にまわされる。

 レミとツクタンはもう任務についているため、赤バングルのクラスには5人だけになった。

 他にも昇格した赤バングルはいるが、ユウキたちのクラスには1人も入ってこなかった。

 意図的にそうされたのかはわからない。


「赤の砦から、掌握してるコロニーまでの道が出来たんだってね。

 ワイトに襲われずに行けるらしい。

 そこから黒の砦までは遠いのかな?

 地図には砂漠地帯が書かれているよね」

 レミが言った。


「黒の砦まで行かなくていいんじゃないか?

 直接コンビナートへ行くとか」

 サトルが答えた。


「砂漠のワイトがかなりの強者で、コンビナート方面はかなりの数が出るって聞いたよ。

 砂漠地帯は足場が悪いから、黒の砦から車両で行った方がいいらしい」

 モニークが言った。


 そこにファビオが朝食のトレーを持って現れ、その隣にはザッツーロがいた。


「珍しいねファビオ、しかも人を連れてくるって」

 モニークがそう言って、席をつめた。


「あれ……どうしてザッツーロと一緒に」

 驚くユウキにザッツーロが片手をあげて挨拶をした。


「ユウキ、久しぶりだね」

「あ、うん、久しぶり」


「ザッツーロは、以前みんなに話した、21のペンタグラムベースから来た軍人の1人だ。

 今は僕と同じ配達員。逃げ出しそうな人間は武器を持つ部署には行けないからね」


「ほー、よろしくな、おいらはルイバディ」

 ルイバディに続いて、それぞれが自己紹介をした。


「君たちの話は聞いたよ。

 僕は21へ帰るつもりはないんだ。

 でも解放軍からは抜け出したいし、いろいろ報告もしなきゃいけないから、王都へは行く。

 だから君たちと目的は同じだ」

 そうザッツーロが言った。


「え?21に帰りたくないの?」

 レミが驚いた様子で聞いた。


「ああ、どのみち21は先が長くない。

 あっちに戻ってもまた15に来ることになる。

 それよりも、ここを平和に、正常な状態にしたいかな」


「へえー、いさぎがいいね」

 レミはザッツーロの答えに半ばあきれるように言った。


「その決意すごいね。僕にはまねできない。

 21へ帰れば絶対安全だし……」

 ラバスが言った。


「まあ、軍人だから」

 そう言ってザッツーロは笑った。


「実は、黒の砦にだいぶ協力者が増えてね。

 いよいよ、総司令官も王府軍側についてくれそうなんだ。

 まだしばらくは内緒だけど」

 ファビオが言った。


「そんな簡単になびくものなの?

 私はその話、いまひとつ信用できない」

 レミは遠慮なく本音を言った。


「説得するにあたって、僕たちには切り札があるんだ」

「切り札?」

「ああ、ワイトの真実」

 ファビオが含んだような笑いをした。


「なにそれ……」

 レミは怪訝そうな顔をしている。


「ドヴェ島の北東には海から続く洞窟があって、そこには最重要人物を収容する施設があるんだ。

 ワイトの種を作った研究者の1人が王府軍に捕まって、今そこに収容されている。

 その研究者はグリーンゲートの職員さ。

 それが切り札。

 自殺されないように厳重に見張っているらしい」


 みんな、口を開けたまま固まってしまった。


「ちょ……ちょっとまって、それってみんな知っていることなの?」

 レミが聞いた。


「んー、王府軍にはかなり噂がまわっていると思う。

 グリーンゲートがやらせたって証拠が足りないらしいけど。

 今そのへんを詰めているって話だ。

 グリーンゲートは貴族や解放軍の陰に隠れて、用意周到に動いていて、関心するよ。

 それと、朗報がある。

 ワイトを人に戻すことに成功したらしい。まだ数体だけど」


「おお! そりゃあすごいね! 良い話だ!」

 ルイバディが言った。


「ワイトは、地面からの栄養と、光による光合成の両方を必要とする寄生植物で、吸い上げた養分を1度ワイト自身の体に取り込んでから、宿主が死なない程度の養分だけを宿主に流すらしい。

 真っ暗闇の中で、浅いアルコールのプールにつけておいたものから人が生還したって話だ。

 成功の確率はわからない。

 休止したワイトを掘り起こして、いちいちそんな作業をするのは不可能だから、現実的な方法ではないね。

 でも今別の方法を研究しているらしい」


「助ける方法があることがわかっただけでも、すごい発見だよ!」

 ラバスがうれしそうに言った。


「黒の砦の諜報員が、捕らえた研究者のことを総司令官に話した。

 反王族の貴族がグリーンゲートと組んで、ワイトを作った事実を知ったら、まともな司令官ならそこと手を組むことはない。

 しかもワイトを処分しているのがその貴族の私兵軍で、逆に王府側はワイトを救う手立てを探し当てた。

 変なもくろみや野望をもっている者でなければ、王府軍に加勢する。

 黒の砦がこちらについてくれれば、ラシアへはすぐに行けるよ」


 みんなは顔を見合わせて笑顔になった。


「今日ここに来たのは、急ぎ話しておくことがあってね。

 僕はここから姿を消す。 フリカに仕事ができた。

 数カ月後に、コロニーの出口まで向かえにくる。

 時期が近づいたら知らせるから、そこで落ち合おう。

 そして黒の砦に入る。

 ここに残っている王府の諜報員と、ザッツーロが同じ部署だから、連絡役を頼んだ。

 そのときまでに、赤バングルを卒業して特級品のフォース武器を手に入れるんだ。

 じゃあ、ちょっと名残惜しいが、これで行くね。

 検討を祈る」


 ファビオは立ち上がって、そのまま立ち去ろうとしたが、ツクタンの方へ視線を向けた。

 今にも泣き出しそうなツクタンの頭にファビオはそっと手を置いた。

「泣くな、また会える」

 うんうんと、うなずきながら、ツクタンの大きな目からは涙がぼとぼとと、こぼれた。


「ま、待って!」

 ユウキは勢いよく立ち上がり、去ろうとするファビオに声をかけた。


「気をつけて、ファビオ。必ずまた会おう」


 ファビオがフッと笑った。

「ああ、もちろんだ」


 去って行くファビオの後ろ姿をユウキは立ったまま見つめ、涙を流すツクタンの背中をレミがさすっていた。


(もう止まらないんだ。俺たちはここから脱出する)

 ユウキは拳を握りしめた。


 ――さらに3カ月後 PW-15(タンバ)暦1523年3月21日

 ザッツーロがファビオからの知らせを伝えに来た。

次の投稿は、3月3日(金)13時です。

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