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赤の砦(あきらめない)

本日は1話のみ、13時の予約投稿です。

次の投稿は27日(月)13時です。

 なんとか涙を止めたユウキは、彼にお礼を言った。


「そばにいてくれてありがとう。情けないな……」


「大丈夫か? 気にしなくていい、涙を止められないことは誰にだってある。

 こんな激しい世界で生きているんだから、心も傷つきっぱなしだ。

 それより……人をさがしていたの?」


 世界地図が欲しくて、知り合いの居場所を探していたと話した。

 21に戻るという目的を明かせないため、最近いろいろなことが重なって情緒が不安定だったということを付け加えた。


「世界地図か……。

 地図は簡単に渡さない規則になっているんだ。

 逃げるために必要になる人もいるからね。

 その、知り合いの人ってどんな立場の人?」


「装備品の回収任務をしたときの班長です」


「ああ、じゃあノザン部隊かな。

 ノザン部隊っていうのは物資輸送の護衛が主な任務だけど、見習いの教育も担当している。

 新人が最初にやる任務も護衛とか装備品の回収だから、任務と教育を一緒にやらせているみたい。

 コロニーにも行くんだよ。

 ノザン部隊の兵舎はここじゃなくて一番奥。

 緊急性の高い任務が突発する部隊が一番手前のこのあたりの兵舎を使っている。

 物資輸送や警備関係は奥の兵舎で、上官は兵舎じゃなくて官舎にいる。

 官舎はここよりもっと中央棟に近い場所で……。

 あ、僕はザッツーロ、君の名前は?」


「ユウキです」


「そうか、ユウキ、官舎まで案内してもいいけど、規則があるから地図をもらえる可能性は低いと思う。

 手に握りしめているのはもしかして最初にもらった地図かな?」


「あ、そうです。ほとんど白地図みたいな……」


「貸して」

 地図を受け取ったザッツーロはペンを取り出すと、手書きで国名やコロニーの位置を書き込んだ。


「こうやって人に聞き取りをして書き込んでいくのが良いかもしれない。

 詳しい地図は班長以上じゃないと持っていないから」


「これだけでも助かります。ありがとう。

 今度シャムス班長に聞いてみます」


「うん、それがいい」

 ザッツーロに敬礼をしてユウキは別れた。


 テントへ帰る間、地図から目が話せなかった。

 立ち止まると、人目を気にすることもなく地図に集中した。


(この国の北西側がタルティ国、氷の大地って書いてある。

 北側に砂漠地帯があって、そこを抜けると……フリカ国。

 フリカの西側がジャッジビー。その北にアッシビー。

 更に北に行って……。

 ああ!こんなところにセンターがある!」


 地図には、以前ゼロタウンのマコトの店でリーシャが話していた、センターコロニーの位置が書かれていた。


(21へ帰れる施設があるコロニーはセンターしかないってリーシャが言っていた。

 それにしても随分遠いな……。

 センターに行くには、フリカを通って……なんだろうここ、何も書いていない場所がある。

 フリカ国ほどの大きさがあるから、元は国だったんだろうか。

 そこを通り抜けてラシアに入って……ラシア?

 あれ、このラシア国って確かファビオが住んでいた……)


 地図では、ラシア国が最北で、1番面積の大きな国だった。

 ラシア国の東側に伸びた部分が王都と書かれていて、その王都の、東の端にセンターコロニーはあった。

 見たところ王都は、ラシア国内か、それに隣接した場所だった。

 ユウキは体の痛みを忘れるほど興奮した。


(初めて会った日、ファビオはラシアに家があったと言っていた。

 俺バカだ……最初からファビオに聞けば良かったんだ!)


 急く気持ちが体に伝わり、ファビオのテント、8番へ向けて走り出していた。

(痛いけど、痛くない!)


 ちょうど中央棟の近くまで来たときだった。


「よお、青タンの少年!」

 大声で誰かが叫び、それが自分であることをすぐに悟ったユウキは血の気が引いた。

(まさか……昨日のケンカ相手)


 おそるおそる振り向くと、そこには黒いマントを羽織った3人組が立っていた。

「あ……」

 昨日加勢に入ってくれた3人じゃないかとユウキは直感し、近づいて会釈をした。

「あの、もしかして加勢してくれた方々ですか?」


「おおよ、俺らだ。

 しっかし、腫れてんな。骨は大丈夫だったか?」

 一番背の高い男は、そう言いながら、自分の目の周りに指で輪を描くような仕草をした。


「はい、眼底もあばらも折れていませんでした」


「まあ、だいぶ手加減はしていたようだったしな。

 あいつらの目的は、ケンカじゃなくて、いちゃもんをつけることだから」

 背の高い男はそう言って高笑いをした。


「笑えないだろうカミュー、ひとごとじゃない。

 黒の砦も以前、あいつらに苦い思いをさせられたじゃないか。

 今だって油のことでもめている」


「確かに人ごとじゃない。あいつらたち悪すぎなんだよ」


「ありがとうございました。

 このまま死んでしまうかと思ったとき、飛んできた拳を誰かが手のひらでかるがると受け止めた……。

 奇蹟かとおもったし、すごいなって」

 顔の痛みをこらえて必死にしゃべるユウキのゆがんだ表情を見た3人はほほえんだ。


「あの拳を止めたのは私だ。

 黒の砦、サイファス隊のジュードだ。

 背の大きいのはカミューで、ド派手な髪の色をした子はミリア」

 ミリアの髪はピンクで毛先は黄色だった。


「あ、申し遅れました、俺……じゃない、僕はユウキです。

 驚いたな……あのとき女の人もいたんですか」


「ああ、こいつは拳の達人。俺でもかなわない」

 カミューが言った。


「す、すごいですね。尊敬します」

 ユウキがそう言ってミリアを見ると、ミリアは少し頬を赤らめた。


「き……気に入った!」

 ミリアが手をだしてユウキに握手をもとめた。


「へぇー、仲間以外はほとんど無視するミリアが……珍しいことがあるもんだ。

 でもミリアに気に入られるって……喜ぶべきか?」

 カミューがそう言った途端、ミリアはカミューの上体に足を蹴り込んだ。

「いっつ……」

 それを見たユウキは苦笑いをした。


「ところで、立ち止まったまま何を真剣に見ていたんだい?」

 ジュードが聞いた。


「あ、世界地図です。さっき、国名とかを書き込んでもらったので……」


 ジュードが手を出して、ユウキは地図を渡した。

 軽く見た後、地図を返しながらジュードがユウキの目を見て言った。


「なぜ、地図がほしい」

 なにかを見透かされそうなその目にユウキは戸惑ってすぐに答えられなかった。


「ア……アッシビーに行ってみたくて」

(嘘ついちゃった!)


「えと、アッシビー国の傷薬をもらったんですが、とてもよく効いたので……」

 カイから薬をもらったとき、アッシビー国の薬だと言っていたことを思い出して、思わず作り話をした。


「確かにあそこの薬は良品だ。

 もともとあの国は薬草の産地で、製薬の工場もたくさんあった。

 どこの国も製薬の工場は稼働を休止してしまっているが、アッシビーはまだ数カ所動いている。

 だがなんといっても、手作りの薬の効果が抜群なんだ」


 カミューが説明している間、ジュードはユウキの表情をうかがっていて、そのことにユウキは気づいていた。

(悪いことをしているわけじゃないのに、なぜか逃げたくなる……)


「フリカに来る機会があったら、たずねてくるといい」

 それだけ言うとジュードは黒いマントを翻し、カミューとミリアは軽く手を上げて3人は去って行った。


(貫禄だな……。

 格好だけじゃなくて、実力があるから、堂々としていられるんだ。

 そうだ、ファビオのところに行かなくちゃ!)


 テントの入り口は開けられたままで、中を覗くとファビオとサトルが話をしていた。

 テントに3人は窮屈だということで、ファビオの案内で砦内にある公園に行った。

 石でできた円形のテーブルと椅子があちらこちらに設置されている。


 ファビオはゆっくりと辺りを見回した。

「昼間だからだれもいないね。

 内緒話をするのにはちょうどいい……なんてね」

 そう言って笑った。


「顔が痛くてうまくしゃべれないけど、地図のことを確認したくてファビオのテントに来たんだ」

 サトルがユウキに言った。

「そうだったんだ、俺もそうだ。 ちょっとこれを見て。

 配給品の配達をしている人が書いてくれたんだ」

 ユウキはさっき書き込みをしてもらった地図を石のテーブルの上に広げた。


「へぇー、国とコロニーの位置は書き込んであるね。

 これ以上、知りたいことがあるの?」

 ファビオが聞いた。

 サトルは自分の地図に書き写しをはじめている。


 今度はユウキが辺りを見回して、誰もいないことを確認すると、意を決したように小さくうなずいて話しを始めた。

「ファビオ、正直に話すけど、俺たちゼロに帰りたいんだ」


「まてユウキ!」


「大丈夫だよサトル。

 ファビオを信じて……というか、もしこのことをばらされても状況はさほど変わらない気がする。

 それに多少危険でも、何かしなきゃ現状は変えられない。

 ここでこのまま、訓練やワイト慣れをしていくとしても、帰るという目的のために動き出すんだ」


(無駄でも言い、結果がでなくても出来ることをやってみる。

 情報はすがってでも手に入れるんだ。

 あきらめない、絶対ゼロに帰ってやる!)


 フッと、ファビオが笑った。

「ユウキが正解。僕を信じても大丈夫だよサトル」

 その言葉にサトルは、ため息交じりにファビオとユウキを見た。


「ただし今後は、こんなに簡単に自分の素性や考えを明かしちゃいけない。

 砦で罪を犯した場合、解放軍は拘束も処刑もしない。

 追放するだけ。

 ワイトがうようよいる場所に放り出されたら、それはもう処刑と一緒だ。

 反逆罪や内乱罪なんかは裁判もせずに即追放される。

 裏切りが疑われるような言動や行動は、極力慎むべきだ。

 僕で良かったね、君たちは命拾いしたんだ」

 ファビオのその話にユウキとサトルは目を見開いたまま一瞬かたまってしまった。


「わ……わかった。 軽率だった。

 今後は気をつけるよ」


「そうだな。じゃあ、続きを話てみて」


 ユウキはうなずくと、一呼吸おいて話し始めた。

「俺たちは、拉致されてここに来たんだ。

 なぜ連れてこられたか、誰の命令だったのかはわからない。

 解放軍が何かも知らなかった。

 早くゼロに帰りたい、そのためには21に戻らなくちゃいけない」


「そうか……事情はわかった。

 協力できることはあると思う。

 少し長くなるが、僕のことと……この世界の事情を話そうか」

 ファビオはそう言ってユウキとサトルの顔を見た。


次の投稿は27日(月)13時です。

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