赤の砦(張り詰めた心)
本日は1話のみ、13時の予約投稿です。
◇
見習いのバングルの色について
・赤バングル
配属先:無制限
見習い終了時、中級兵士としての配属となる。
特級品の武器が支給される。
・黄バングル
配属先:無制限
見習い終了時、下級兵士としての配属となる。
赤バングルへ昇格したい者は査定を受けることができる。
・青バングル
配属先:外地戦闘任務は戦利品回収まで、運搬業務は護衛があれば可能。
砦、コロニーなど施設内は無制限。
見習い終了時、下級兵士としての配属となる。
黄バングルへ昇格したい者は査定を受けることができる。
◇
「あのさ……。勝負したんじゃなくて、暴行されたってレベルだよ?」
腕組みをするレミが、食堂の同じテーブルに座っているユウキたちに言った。
ルイバディとファビオは多少傷がある程度だが、他の4人は青く腫れ上がったまぶたの隙間から覗くようにレミを見ている。
「まあ、訓練を受けていないんだから仕方ないやね。
拳をよけたりブロックするにも技術がいる。
骨が折れていなかったのは幸いだ。
手加減はしてくれたみたいだねえ。
良い機会だからみんなで訓練をはじめるか」
ルイバディがそう言うと、4人はウンウンと大きくうなずいた。
「とりあえずツクタンにケガがなくてよかった」
レミがツクタンに向かって言った。
「はい、無傷なのです! ジッド班長が引っ込んでおくように言ってくれたので!
でも、みんなが戦っているとき……ツクタンは涙がでました」
ファビオがツクタンの頭をなでて、顔が腫れている4人は痛みで思い切り笑顔がつくれず、はにかむように笑った。
「その顔で笑うと……怖いな」
ぼそっとレミが言うと、みんなは笑いだし、顔を腫らした4人もほほを押さえながら笑った。
突然、若い兵士が近づいてテーブルに紙の袋を置くと、話をはじめた。
「薬は医療班からもらっていると思うけど、愛用しているアッシビー国のこの傷薬が本当によく効くんだ。
人数分に小分けにしてあるから、使ってみて。痛みも和らぐ」
「おお、ありがとな!おいらはルイバディ。君なまえは?」
ルイバディが袋の中から薬の入った容器を取り出し、みんなに渡しながら聞いた。
「僕は、カイだ」
他のメンバーも口々にお礼を言った。
「どういたしまして。
僕も弱かったから、生傷がたえなかった。
強くなりたくて、暇さえあれば剣術や格闘技の訓練をしたよ。
もちろん体作りも本気でやった。
それで今は、少しだけ自信がもてるようになったんだ。
昨日のケンカは、加勢した黒チームの圧勝だったけど、あの勝利は君たちのものだ。
回収品とプライドを守った。
殴られても何度も立ち向かう姿に、久々に体がふるえたよ。
本当に感動したし、勇敢だったと思う」
そう言ってカイが拍手をすると、食堂にいた兵も拍手を贈り、ユウキたちの胸は熱くなった。
(飛び込んでいって殴られて、最悪って思ったけど、今のことばで気分が上がった。
ダメージは大きかったけど、あのときの選択は間違っていなかったんだ)
「感動ねえ……。
どうもすっきりしない。
だってさ、赤バングルのくせに弱すぎないか?
そもそもバングルの基準ってなんなんかな。
今の赤バングルなら、黄バングルの俺でも倒せそうだよ」
少し離れたテーブルから聞こえよがしに声を上げる者がいた。
拍手していた者たちも気まずそうにフェードアウトしていき、ユウキたちはその言葉に反応できずにいた。
「気にするな、やっかみだ。 じゃあ、また!」
そう言ってカイは自分のテーブルに戻っていった。
カイにそう言われても顔を腫らしたメンバーはなんとなく下を向いてしまった。
「相手にしなくていい」
レミが言った。
「彼は黄バングルのときに一緒だったけど、赤バングルになれなかったから妬んでいるんだ。
さあ、とっとと食べてここを出よう。天気も良いし」
ファビオが場をなごませるようにそう言うと、みんなはうなずいた。
(確かに……赤バングルが見習いの一番上のクラスなら、俺たちは情けない。
強い人はフォース武器を使わなくても、やっぱり強いんだ。
剣術でも格闘技でもなんでもいい、すぐに訓練をしたい)
そのとき、レミとツクタン以外のメンバーの、メッセージ通知音が鳴った。
「タイロン教官からの呼び出しだ」
ため息をついて、ルイバディが言った。
「ケンカのことでしょうか……」
ツクタンが不安そうにみんなを見た。
「たぶんそうだね。 よし、行こうか」
そう言ってファビオが立ち上がった。
「みなさん……気をつけて」
心配そうに言うツクタンに、6人は片手をあげて、大丈夫という合図をした。
呼び出された場所は訓練棟の3-1。授業を受けた場所だった。
「ずいぶんと……」
そう言って言葉が止まってしまったタイロンは、あっけにとられた顔がだんだん笑顔に変わっていった。
「笑いがでるくらいやられたんだね。
予想はついていたが、その顔をみたら笑ってしまう。
君たちを責めるつもりでここに呼んだんじゃない」
緊張していた6人はほっとしてそれぞれが顔を見合わせた。
「むしろ褒めたいくらいだ、個人的にはね。
同じように思っている幹部も多いはずだ。
茶の砦の者はどこでも故意に問題を起こす。
自分たちで騒動の種をまいておいて、問題解決のための交換条件をだしてくる。
噂ではそれで兵隊を奪っていくらしい。
どこも戦う人手が足りないからね。
ケンカや騒動を、相手をゆするための手段として使うんだ。
今回のケンカも、うちから言いがかりをつけられ、しかもケガをさせられたと因縁を付ける予定だっただろうが、そこに黒の砦が関わった。
今から、茶、黒それぞれの遠征隊と、もともと予定されていた会議が始まる。
その会議でこの騒動のことは必ず取り沙汰される。
黒の砦が味方なら不利になることはないだろう。
茶がどう出てくるかはわからないが、お前たちは気にせず早くそのケガを治せ。
正直言って、みっともない」
一同は黙ったまま下を向いた。
「少し問題というか……見習いの間でざわつきが起きている。
赤バングルは弱すぎないかと。
どういう選定で赤になったか……など。
今いる8人は1人を除いて全員Bクラス以上のフォース持ちと聞いているが、どういう基準で色の振り分けがされているのか私は知らない」
(え?1人を除いてって……フォースがない人がいたのか?誰のことだ……)
それから配属、階級などについてタイロンが説明を始めた。
15出身者に関して、見習いを含めた全ての兵士の配属の選定や昇格は、砦毎に設けられた人事院で決定される。
見習いは人事院が全権を持って配置し、一般兵士に関しては配属先幹部と相談の上、人選、配置をし、同時に身元調査も行う。
シップで来た者に関しては、持ち込まれた21からの情報で判断され、どんなに優秀であっても最初は見習いになる。
シップはいつどこの砦に降りるかわからず、一部の乗船者の情報しか積まれていない。
21から来て情報が添付されていなかった者に関しては、無条件で青バングルの見習いになる。
「どういう基準で色の振り分けがされているのか私は知らない。
フォース武器を使ったことがない見習いほど、腕力が全てのように見えるし、やる気が多い者ほど、階級や配属にこだわるものだ。
任務をこなしながら体作りや訓練を行って行く予定だったが、この騒動で注目された君たちは、早急な訓練と成長が必要になった。
そのため今までの赤バングルよりも、訓練に重きを置いたスケジュールに切り替えていく。
今回の騒動が、赤バングルの育て方を見直す良い機会になった。
明後日の朝、遠征隊が帰る。
その日から体作りと訓練を徹底的にやってもらう。
ここにいない女子2名については施設内警備に配属されることが決定した。
今頃、警備隊に呼び出されているだろう。
君たちは、週3日は訓練、残りの3日は回収任務を行い、休みは1日。
班分けは昨日と同じ。シャムスとジッドが班長だ。
遠征隊が帰るまでは休みだ。ケンカ相手と会わないよう気をつけること。
特に中央棟の周辺は避けた方がいい。以上」
そう言ってタイロンが敬礼をすると、6人も慌てて挙手の敬礼をした。
退室するタイロンを見送ったあと、みんな脱力してため息をついた。
「怒られは……しなかったね。
レミとツクタンはもう配属されるのか、なんか複雑な気分だ。
遠征隊がいなくなるまでは休みだから、この間に、普通にしゃべれるようになるといいね」
ファビオはそう言って顔を腫らしている4人を見た。
「耳が痛い話ではあったな。
まあ強くなるに越したことはないから訓練の機会を増やしてもらえるのは願ったりだ。
女子2人とは別行動になるが、仲間であることに変わりはない」
ルイバディがガハハと笑いながらそう言った。
(いろいろな状況が変わっていく。レミだけじゃなくて、サトルやラバスとも分かれる可能性があるんだ。
早く帰るための手立てをみつけなきゃ。でも……何も思いつかない)
解散してすぐにテントにもどったユウキは、服を脱ぐと、傷口にカイからもらった薬を塗った。
帰ることを考え出すと、気持ちが焦って仕方なかった。
(俺……なにやってるんだろう。
21に帰る方法の見当がつかないどころか、解放軍になじんできている。
目的は21に戻ることだけど、何をすればいいのか……。
方法を探せていないし、探し方がわからない)
大きくため息をつくと、半開きの目に入る、傷だらけの腕や足を見つめた。
(ハルは心配してるだろうな。
21ではどんな騒ぎになっているんだろう。
俺はどこへ向かえばいいんだ。
あ……!)
ユウキは、テーブル代わりにしている収納箱の上に置かれた世界地図を広げた。
(俺たちが向かう場所……。
国名、砦、コロニーの位置……この周辺しか載っていないこんな地図じゃだめだ!
シャムス班長が言っていたフリカやアッシビーという国、それ以外の国や施設……この国を知るには地図が必要だ。
ああーもう! 地図がほしい!)
今度は砦の中の地図を取り出した。
(シャムス班長がいそうな場所は……)
兵舎の場所を確認したユウキは、痛みの残る足でテントを飛び出した。
地図を見ながら兵舎へ向かう途中、右手の木立の中に見え隠れする大きな建物があり、それが中央棟だった。
(遠征隊が帰るまであそこには近づかないようにしなきゃ……)
兵舎の近くまで来ると、顔面を腫らしたユウキを、通り過ぎる兵たちが笑いながら見ている。
(ここまで来たけど、どうやって探そう。
兵舎の配置図とか、看板くらいあってもよさそうだけど。
目が腫れてて……見えにくいな……)
痛む足を引きずり、辺りをうろつくが、いくつもある通路のどこへ進めばいいのかわからない。
(どこに……進めばいい)
そう思った瞬間、ユウキの足は、そして思考も止まってしまった。
(俺は……どこへ)
地図を握りしめたまま、その場に立ち尽くした。
「ここで何をしてるの?」
後ろから声をかけられ、ゆっくり振り向くと、そこにいたのは一昨日の夜、替えの服や寝袋を届けてくれた若い兵士だった。
風邪をひかないようにと言葉をかけてくれた彼のことを、ユウキはすぐに思い出した。
「えっと、もしかして、日付を聞いてきた見習い君?
だよね! 昨日ケンカしてたでしょ?見ていたよ。
だいぶ腫れたね。
なぜここに……何か困りごと?」
「人を探して……」
再びやさしく話しかけてくれた彼の言葉に、ユウキはなぜか涙がこみ上げ、慌てて袖でぬぐった。
「人を探していたんだけど……探し方がわからなくて……」
話しながら、こらえたはずの涙がユウキの目からあふれ出した。
それを見た彼は戸惑っている。
地図がほしくて、誰に頼めばいいのかわからず、とりあえずシャムスを探そうと兵舎へ来た。
傷だらけの体で兵舎まで来て、どの道を進めばいいのかわからなくなったとき、それが今の自分の状況と重なった。
そして、頼るべき親を失いどう生きていったらいいのかわからず、途方にくれた過去の自分の姿とも重なった。
親切に声をかけられた途端、こらえていた感情が吹きだした。
止められなかった。
涙も悲しみも、そして情けなさも。
人前で恥ずかしげもなく、こんなにも泣いてしまうほど自分がはりつめていたこと、精一杯だったことに、ユウキはそのとき気づいた。
「ど……どうした。大丈夫? とりあえず座ろう」
「すみません……ごめんなさい。
すぐに大丈夫になるから……」
小さな花壇の縁に2人で腰をおろした。
ユウキはしばらく声をころして泣いた。
その間、彼は黙ったままそばに座っていた。




