赤の砦(敵はだれ、何と戦う)
本日は1話のみ、13時の予約投稿です。
次の投稿は21日(火)13時です。
テントに戻ったユウキはベッドで横になると体を丸めた。
(椅子取りゲームが終わった日に拉致され、機内で夜を過ごして、見習い兵士にさせられたと思ったら、明日は初任務って。
21では10月3日だったけど、ここは何日なんだろう……)
いらついたユウキは「ああ!」と声をだして上体を起こした。
(もう訳が分からないよ!
明日は……ワイトが出るかもしれない任務にいくわけだろう?
なんでだよ……どうして! クソッ!
逃げられる方法はないのか。考えろ考えろ!)
任務を回避できないことはわかっていたが、方法を探さずにはいられなかった。
「30番、入るよ」
テントの外から声が聞こえてこちらの返事を待つことなく2人の兵士が入って来た。
「え……えと」
戸惑うユウキに同じ年頃の兵士が、むき出しのままの衣類を手渡してきた。
「替えの軍服と部屋着、靴の支給だ。
それとこの袋の中に寝袋が入っている。
汚れた軍服はシャワー室横のリネン室に出してね。
決まった袋にいれて出すこと。袋はそこに行けばあるから。
テント番号と識別番号を書いた紙も一緒に入れておけばテントに届けてくれる」
「あ、はい……」
「水筒や電灯、それに方位磁石とか、任務に必要な道具が一式入っている」
もう1人の兵士がリュックを渡しながら言った。
「ありがとうございます。
あの……教えてほしいことがあるんですが」
「うん?なにかな」
「日付を教えてください。それと暦の名前と言うか……」
「ああ、この世界の子じゃないのか。
今日は、タンバ暦1522年10月4日だ。
今は21の影響で、タンバ暦って言わずにPW15暦って言う人が多いけど。
21も元はリューズ暦だけど、今はPW21暦っていう言い方をする。
タンバって神様の生誕から始まった暦だからその呼び方を大事に思って使っている人も多いんだ。
まあ、どっちでもいいんだけど」
(日付だけは、ゼロも21も15も一緒なんだ……)
「今から冷えるから寝袋に入ったほうがいいよ。
風邪をひかないように、おやすみ」
「あ、ありがとう。おやすみなさい」
届けられた衣服を抱えたユウキは、しばらく立ち尽くした。
(なんだろうこの感覚……。
短い言葉のやりとりで、物を受け取っただけなのに、なぜかほっとした。
いろいろ考えて頭も体も緊張していたけど、それが緩んだきがする。
敵とか味方とか関係なく、みんな普通にいい人に思える。
もしこの人たちが敵だとしても……敵? 敵ってなに?
勝手に連れてきたやつらが敵と言えば敵だけど、誰が命令したのかわからないから敵もわからない。
そうだ、ここにいる人たちは別に敵じゃない……。
って言い切れるか?
はぁ、本当に訳わかんない。
できれば……誰とも争いたくない。
怖いときほど仲間もほしくなるし)
「うっ……さむい」
ぶるっと、寒さで身震いしたユウキは今もらった厚手の部屋着に着替えた。
日中は長袖の軍服でかなり汗をかくほど暑かったが、夜になると途端に底冷えがした。
届けられた寝袋にもぐって更にブランケットを掛けると、ユウキは気を失うように眠りについた。
朝9時、訓練棟の庭では、がたいの良いルイバディよりもさらに一回り大柄な兵士が立っていた。
「シャムスだ。赤バングルの君たちには装備品回収をやってもらう。
砦から南北にわかれて2チームで任務を行う。
兵士3,赤バングル4,管理者1名のチームを2つ作る」
ユウキはラバス、レミ、ファビオと一緒に南側の回収チームになり、管理者はシャムスだった。
砦の南門を出た場所から、地面が白っぽくなっていた。
その上を歩くとざくざくと音がする。
「門から外壁までの間は塩がまかれている。
まかれているというか、地面に張り巡らされている細いパイプから、海水がにじみでるようにしてあるんだ。
海水は数カ所のポンプで近くの海からくみ上げている。
ワイトは塩を嫌うらしい。
この間、この塩場に侵入したワイトはすぐに動けなくなり、数日で干からびたそうだ。
さあ、外壁からそとにでるぞ」
門の警備兵が開けた、外壁の扉から足を踏み出すときは緊張で体が固くなるのを感じた。
外の地面は少し粘土のある土壌で、むき出しになった砂岩や、ところどころに草地があった。
だんだんと色の薄い乾いた地面にかわり、しばらく歩くと渓谷が見えてきた。
「渓谷の場合、川から離れてさえいればワイトの集団にあうことはまずない。
このあたりに出てくるとしてもほとんどが単体か、いても数匹」
シャムスともう1人の兵士は、装備品の位置追跡を行うため、トランシーバーに似た信号探知機を見ながら崖を下った。
ひらけた場所は辺りを注意しながら移動し、再び崖をおりながら南下していく。
「あと数キロ行ったところに、今は使われていない漁港がある。
そこから更に10キロほど南下すると果樹園があって、そこを復活させるための工事が進められていた。
だが移動途中でワイトになってしまう者が続出した。
多くは砦北のコロニーの住人だったが、護衛の兵士もかなりやられた。
それで今工事は中断されている」
シャムスは探知機を見ながら、そう説明した。
「不思議と人が何かやりはじめると、あいつら寄ってくるんっすよね。
中の人は意識がないだろうが、ワイトには意思があるようにも見える。
束で走ってくる姿を思い出すと、ほんと恐ろしいっすよ」
1人の兵士が言った。
「何いってるんだ、見習いの前で」
シャムスが言った。
「おっと、失言」
ユウキは握りしめていた槍の柄に汗がにじんだ。
(怖い。 こんな武器じゃ余計に不安になる。
ソードより長さはあるけど、役に立つんだろうか)
「あそこに見えるのが漁港で、周りには多少民家もあるが今は誰も……」
シャムスがそう言いかけたときラバスが妙な声をだした。
「あ……れ……ヒィィ……」
ラバスは立ち止まり槍を両手で握ったまま動けなくなっている。
「おいでなすったか。
崖を背にすると落ちるぞ、岸壁を背にしろ!」
シャムスはそう言いながら動けなくなったラバスの首根っこを掴んで岸壁の前に転がした。
正面から、ツルだか枝だかわからない長いものを振り回しながら、2体の木が走ってくる。
太い根はたくさんある足のように動き、胴の当たりをくねくねと左右にふり、少しだけついている葉をまき散らしている。
やたらと動いてはいるが進む速度は遅い。
「ワァァァ!」
ユウキは叫ぶとラバスの横に走って逃げた。
レミとファビオは、ラバスとユウキの前に立って槍を構えた。
更にその前にシャムスと兵士3名が立っている。
「ツルが飛んできたら、ちゃんとよけろよ!」
シャムスが言った。
ラバスとユウキは顔を見合わせ小さくうなずくと、槍を構えた。
(当たらないようにしなきゃ……ワイトになっちゃう。
レミもファビオもすごい。俺、おじけずいてる)
「1匹はひきつけるから、誰かもう1匹のおとりをやってくれ。
残りの2人は、きっちり花を摘んでくれよ!」
シャムスの言葉に1人の兵士が前にでた。
「タゲ取りやす!」
「おう、頼んだ。んじゃあ、ツルを切るぞ!」
シャムスはためらうことなくワイトに突進した。
2体のワイトがムチのように振り回しているツルを、シャムスともう1人の兵士が切り落とす。
するとその途端、ワイトは走るのをやめて、ツルで集中的に2人を攻撃しはじめた。
「タゲ取り成功!」
兵士が言った。
すぐに再生するツルをシャムスたちは休むことなく切り落とす。
ミスをすればワイトになってしまう。
(あんなこと俺にはできないよ……絶対失敗する)
切っても切っても、すぐに再生するツルを見てユウキは絶望を感じた。
弓持ちは、花に狙いを定めると2本の矢をまとめて掴んで、いっぺんに打ち込んだ。
ソード持ちは突進して花を1度さして、いったん身を翻したあと、もう一度同じ場所に差し込んだ。
2体とも、刺された途端根をおろして動きが止まり、そのまま灰色の石のようになった。
「す……すごい」
そう言ってラバスは内股座りでへたれこみ、ユウキも立っているのがやっとだった。
(こんなのと戦うって……俺泣きそうだよ。
ゲームとは怖さが違うのは当たり前だけど、怖すぎて足がすくんで何も出来ない。
どうやったらこの臆病な気持ちを消せるんだ!)
「今みたいに誰かがターゲットにならないと、走り回りながらツルを差し込んでくるんだ。
だがおとり役をこなすには訓練がいるし、集中力を継続させるのがきつい。
自信があるときか、やられてもいいとふっきれた時にだけツルに手を出した方が良い。
このタイプのワイトは岩場の移動は得意じゃない。
降りるのも遅いし、ここのように何段も重なったような岩場を登ることはまずできない。
だからといって岩場を登って逃げるのも危険だ。
長いツルで刺される可能性が高いからな。
見ていてわかったと思うが、走る速度はそんなに速くないから、この場所からなら海辺へ逃げるのが正解だ。
別のタイプのワイトだとまた対処方法が変わる。
見習いを連れて行く場所は、このタイプのワイトしか出ない」
(ワイトってそんなにいろんなタイプがいるのか……もう人生詰んだ気がする)
戦いを終えたシャムスや兵士たちは、近くに落ちている装備品を見つけて拾い始めた。
「この辺りには装備品が結構落ちているな。
ワイトを回避できなかったのか、かわいそうに……」
シャムスはそう言って胸に手を置いて装備品に敬意を表した。
その中には兵士のタグもある。
革の小袋に丁寧にタグを入れ、他の兵士は滑車のついた革の袋の中に、装備品を入れていく。
(ワイトに征服されてしまったら、それはもう人じゃない。
あんな姿になってしまうなんて……。
戦死したわけじゃないけど、生きていないのと同じだ)
そこを過ぎると、海が近くなったこともありワイトは出現せず、漁村跡地で休憩することになった。
「ここは大丈夫なんですか?」
ラバスが不安そうに、当たりを見回しながら聞いた。
「基本、海辺にはよってこない。
これだけ海に近ければ、まず大丈夫だろう。
距離の感覚は慣れるしかない。
地面に塩分が多いところも苦手らしい。
だが塩や海水をかけたくらいじゃあひるまないってことだ」
水筒の水を飲み干してもユウキのノドの渇きは癒えなかった。
次の投稿は21日(火)13時です。




