仲間
本日は1話のみ、13時の予約投稿です。
カフェの中には数十名の冒険者がいた。
(良かった、これで情報がもらえる)
訳あり冒険者たちはグループで座っているようで、顔をつきあわせてコソコソと話し込んでいる。
そこには他者を受け付けない見えない壁があった。
(なんかわかりやすく拒否してるな……。でも情報もらわなきゃ)
ユウキは意を決してとりあえず入り口付近のグループに話かけてみた。
「あの、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
話をしていたそのテーブルの5人は、ユウキをチラッと見たあと一斉に席を立った。
(!! 席を立ったよね! なんだよ……どいう態度だよ)
その様子をみていた隣のグループの女子は、目が合った途端に反対を向いた。
(おいおい、内向的にもほどがあるだろう)
ユウキはだんだん腹が立ってきた。
見回すとカフェの一番奥で、他のグループとは明らかに毛色の違うグループがいた。
コソコソではなく普通に会話をしていて女子は少し派手な感じ男子は明らかに体を鍛えているタイプで、とても訳あり冒険者には見えなかった。
ユウキはそこに行き声をかけた。
「あの、教えてほしいことがあるんですが。
ここに座ってもいいですか?」
驚くふうでもなくチラッとユウキを見ると、真っ赤な長い巻き髪に白いカラコンを入れた女の子が席をたたいて「ここいいよ」と言った。
「ありがとう。ユウキといいます」
「私はレミ。 で……何を教えてほしいの?」
そう言いながらレミと名乗るその女の子は、もう1人の女の子に持っていたドリンクの入れ物を振って見せた。
すかさずその子は席を立ち飲み物を取りに行った。
「昨日の夜ここについたんだけど、バトルボックスのためにステ振りをしなきゃならなくて。
そこで質問なんですが、バトルボックスでどんな戦闘をするんですか?
一応チュートリアルは流してもらってます」
「あんた、変わってるね。
ステの振り方教えて!じゃなくてバトルボックスでどんな戦闘をするのかって?
まあいいや、今やってるバトルボックスは、仮想空間で大量の雑魚モブを成敗するやつね」
「大量のモブを……それって」
「はいどうぞ!」
さっき立ち上がった女の子が、取ってきたジュースをユウキに渡した。
「あ……ありがとう」
ニコっとほほえんだその子は、くせのついた栗色のショートボブが、童顔の顔によく似合っていた。
「えと、詳しい話をする前に。
まずバトルボックスは5人PTじゃないと入場できない。
今日メンバーが1人別のPTへ移っちゃって、今うちは1人足りない。
いろいろ教えてやるから、とりあえずうちのPTに入りなよ。
リダはわたし。無言抜けOKだよ」
ユウキにためらう必要はなかった。
勢いよく立ち上がり直立不動で頭を下げた。
「よろしくお願いします。お世話になります!」
(俺すごくラッキーだ……良かった)
「こちらこそよろしく、助かったよ。
そこのおっきい男はバシュ、おさなっちい顔した子はチャム、そこでパネルじってるのはアッガイ。
入ってくれてありがとね」
ユウキはレミが差し出した手を握り、握手をした。
「よし! これで明日もバトルボックスに入れる!
ありがとな、ユウキ」
浅黒で体格のいいバシュが握手を求めてきた。
「こちらこそありがとう……」
にぎられた手が痛かった。
「アッガイ、ユウキを登録しておいて」
「あいさ」
神経質そうなアッガイは細長い指先で、パネルに打ち込みを始めた。
「そういえばユウキ、名前それでいいの? 来たばかりなら本名のままだよね」
「え?」
みんなは本名ではなく表示用の名前を登録して使っていた。
名前は変えてもフレンド登録している者同士なら、本名やプロフィールを確認することはできる。
「えと……ユウキのままでいいです」
「まあ変えたくなったら、マイページからいつでも変えられるからね。
ってことでとりあえず乾杯!」
レミがそう言ってみんなでジュースで乾杯をした。
(この人たち、本当に訳あり冒険者なんだろうか……)
「さっきの話に戻るけど、今やってるバトルボックスは原野獣を2時間休みなく倒していくだけの単純なゲーム。雑魚モブだからまずやられることはない。
訓練ボックスとも言われていて、VR戦闘の感覚を知るための手慣らし用ゲーム。
元の世界のVRとは全然違うからね、痛いし!」
「じゃあ練習のためにやるって感じですか?」
「それもあるけど、一番の目的はポイント獲得。
装備品や条件は運営から出されたものに従うしかないから他人と差をつけられない。
差をつけられるのはゲームをするたびに貯まっていくていくポイント。
プレイヤースキルは別にして、単純にポイントが多いほど強くなれる。
バトルボックスではみんなこれを稼ぐためにがんばってるんだ。
個人ポイントは合算されてPTポイントになってそれがPTの順位になる。
パーティー順位が高ければそれだけで目立つから本戦に残りやすくなる。
まあプレイヤースキルの高い子は無条件で残れたりするけどね」
レミがそう説明してくれた。
(個人技で目立つなんて俺には無理だな……)
「ミルズが抜けたせいでパーティーの合計ポイントが減って順位が下がっちゃったね」
チャムが口をとがらせてそう言った。
「まったく問題ない。ユウキの方が100倍いいぜ、絶対!」
バシュがそう言ってユウキに向かって親指を立てた。
「アハハ……がんばります」
(って、どうがんばればいいのか……)
「ミルズは意地悪だったから、僕はユウキが仲間になってくれて良かったよ」
パネルを打ちながらアッガイがこちらを見てそう言った。
(なんか……良い仲間たちに出会えた気がする。
学校では人をさけていたのに、切羽詰まれば必死に人の輪に入ろうする。
俺って調子いいのか?)
腕の端末を操作して参加PT一覧を見るようにレミから言われて開けてみた。
PTは40あり、PT11の行だけラインの色が濃くなっていた。
「私たちはPT11。
1回のバトルボックス完了で1人2000ポイントの個人ポイントがもらえる。
参加賞みたいな感じ。5人いるからPTポイントは1万加算となる。
個人ポイントは、最初にもらった基本ポイント2万とステータスポイント1万に加算されていくポイントで、いつでも割り振っていくことができる。
バトルボックスは1日1回しか入場できないから、それ以上は稼げない。
参加日数が多いPTが当然ポイントも多くたまっていく。
その一覧を見るとわかるけど、うちは10回参加してるから10万ポイント、でもミルズが抜けて今は8万に減っている。
今トップの成績のPT1は、14回参加で14万のはずだけどそこも1人ぬけて11万2千に、そしてうちから抜けたミルズが入って13万2千になってる」
その一覧には人数やポイントのほかにメンバーの到着してからの日付が書いてあった。
(到着1日目って……これ春香か大野じゃないか)
「PT40の到着1日目の人って……俺の友達かも」
「へえーそうなんだ。
PT40も5人そろってるね。
あれこのPT、1人だけポイント高いのいるね。
これPT1抜けたやつじゃない?
こいつが抜けたからPT1にミルズは入れたわけか。
でも変だよね。
順位1位のPT1から、バトルボックス開始していない最下位のPT40に移動って。
ああ……こいつはあれだね」
レミがバシュの顏をみた。
「間違いなく、あれだろう」
バシュが答えた。
「うんうん、間違いない!」
チャムもうなずきながらそう言った。
「な……なんのこと?」
まったく状況が読めないユウキが聞いた。
「簡単に言うと、PT40は安泰ってこと」
自信たっぷりにレミはそう言い切った。
(それじゃ意味がわかんないだろう……)
「あのね、いろんな訳ありっていうのがあって……それぞれの事情でここに参加してる人がいるの。
そのうちわかるけど、PT40は絶対潰れない、残るPTってこと」
チャムに笑顔で言われるとなんとなく返しづらくユウキは納得したことにした。
(春香か大野のどっちがいるのかわからないけど、PT40が残れると決まっているなら、俺が残ることができれば一緒に本戦に参加できるわけだ)
「あー、でましたよ最新のお知らせ『バトルボックス』
みんな見て!」
アッガイがそう言ったのでパネルを見たがユウキはどこを見ればいいのかわからなかった。
(どこだよ……)
「あ、ユウキ、お知らせは右下の紙のマークタップね」
「あ……りがとう、アッガイ」
「ほーい」
最新のお知らせ『バトルボックス』の内容は。
バトルボックス(原野獣)解放
24Hフルタイム入場可能
PT人数5人以下可(モブ数の選択有)
ソロ入場可
新規バトルボックス(PT戦)
3PTでのモブ争奪戦
・入場制限1日3回まで
・完了後、参加ポイント1人当たり1万ポイント獲得。
・順位ごとの1人あたり獲得ポイント
1位 ポイント10万 2位 ポイント5万 3位 ポイント2万
新規バトルボックス(ボス戦)
1PTでの参加。
勝利後の再入場はできません。
負けた場合は再度入場可能。
1人あたり獲得ポイント 20万
戦利品:上位装備一式の権利(どの対戦でも使用可能)
「うぉおおお! 燃えるぜ」
バシュが叫んで周りの注目をあびている。
「すごいね、これ。
野獣戦も24Hになってソロで入れるんだ。
これだけポイント稼げるなら振り方を多少ミスしたって問題ないよユウキ。
0時まわったらバトルボックス行くよ。
みんなちょっと部屋に集合」
そう言いながらすでにレミは歩き出していた。
レミの部屋はユウキの部屋の倍ほどあって、大きなテーブルが部屋の真ん中を陣取っていた。
そして可動式の透明ボードが3つもあり、そこにはなにやらいろいろな書き込みと紙がとめられていた。
(なんで部屋のサイズ違うんだよ。
やっぱレミってなんかの訳ありなんだろうな)
「さて、ユウキはまずポイント振ってね。
まとめノートを……あれ、どこやった!」
「ここにあるよー」
アッガイが手渡してきた。
「それ見ながらその辺でやってて」
「はい、レミさん」
「レミでいい。敬語もいらない。
戦う時1文字口にするのも面倒な時があるからね!」
「はい!」
(この慌ただしさが戦いに行くって感じがする。
なんてことはない、ゲームだ、ただのゲームだ。
でも……痛みはあるんだよな。
なにグダグダ考えているんだ俺は)
まとめたノートの最初にはステータスのことだけではなく、バトルボックスの事も書かれていた。
原野獣戦、雑魚1万体の討伐で、2時間休みなく戦闘を行う。
モブに叩かれてもほとんどダメージはないが終盤は体力的にかなりきつい。
体力は持久力ステータスに依存するため、生命力ポイントを少し押さえてでも多めにとること。
基本ポイント2万とステータスポイントの1万は一度振ったポイントを変更することは不可。
稼いだポイントで加算された分はいくらでも振りなおしができる。
モブ1匹で1ポイント。1万体倒して、PTで1万ポイント。個人では2千ポイント獲得となる。
回復は、PTで回復塔を設置しそこから生命力充填ができる。
充填速度は遅いため、大きなダメージを受けたときは自己回復もしくは仲間に回復をしてもらうこと。
主なポイント振り
レ ミ (基本:バランス型 ステ:ダメ減、攻撃速度)
ミルズ (基本:バランス型 ステ:回避、移動速度)
バシュ (基本:持久 ステ:攻撃速度、ダメ減) 攻撃主力
チャム (基本:生命 ステ:魔力、回避) 回復役
アッガイ(基本:生命 ステ:持久、回避、移動速度)タゲ取り
(基本ポイントのバランス型ってなんだろう。
まあいいや。持久力あげろっていうなら……。
基本ポイントは、生命力9千,魔力2千,持久力9千。
魔法はよくわからないから、少しだけ振っておこう。
いなくなったミルズの代わりに入るなら、ステータスは似せたほうがいいんだろうか。
ゲーム内で稼いだポイントで、不足はどんどん埋められそうだから思ったようにやってみよう。
ステータスポイントは、回避0,ダメージ減少5千,攻撃速度3千、移動速度2千。
正直……わけわかんない)
「ポイント振り終わりました!」
「じゃあこっち来て、説明するよ」
(なんだろう、レミってカッコイイよな。
みんなの行動を決定したり指示することに全然ためらいがない。
手練れな感じがする……もしかして運営サイドの人間か?)
「新規バトルボックス(PT戦)に参加する。
3PTでのモブ争奪戦になるから、原野獣戦よりは少しやることが増える」
(ええ! 原野獣戦じゃないのかよ。そこで練習できると思ったのに……)
「原野獣戦みたいにモブはかたまって湧くはずだから、その索敵は今までと一緒で。
戦いがうまいPTと同じ組になれば、モブの取り合いだけじゃなく妨害が入ってくる。
そこで状況を見極めながら指揮する者が必要になる。ユウキ、それやってね」
「え?」
「モブの索敵と妨害してくるPTをいち早く察知すること。
状況をみながら仲間に指示を出す。それが役目ね」
ユウキはレミの説明を聞いて後ずさりをするほど驚いた。
(初戦からPT戦の指揮者なんて無理に決まってる!)
「お……俺じゃあ足手まといにしかならないかと。
指示を出すなんて絶対無理……」
「いいじゃん足手まといだって。
死んでもワールドゼロに送り返されることはない」
レミに軽くそう言われて、ユウキは断る言葉が見つからなかった。
「本戦の……椅子取りゲームで死んだらすぐに送り返されるの?」
「いや、2回までは大丈夫って聞いたよ。
要は3回目で送還されるらしい。
ユウキ、そんな先のことはいいからバトルボックスに集中ね。
相手のPTの動きを見て私たちに指示をだす。
どうすれば良いかとっさの判断が必要になるし戦況を見極める訓練には指揮者になるのが一番。
簡単に負けるようなやわなPTじゃないから安心しなさい!」
「は……はい」
(レミの言う通りだ。なんで椅子取りゲームの話なんかしたんだ俺。
完全にとち狂ってる……)
力なく答えるユウキを見て他のメンバーはほほえんでいた。
(ゲームなんだ、間違ってもいい、下手うってもいい。
出来ることしかできない。
仲間の強さを信じてやるんだ。
死ぬ気でゲームするんだろ、俺)




