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謀られた未来(1)


 通路の先にある階段を、6人はゲルズのあとについて上った。

 後ろからはハンドガンを持った男たちがついてくる。


「この上にイライザ様がいるのか?」

「まさか、こんな所にいるわけがない」

 サトルの問いにゲルズは少し笑いながらそう答えた。


 階段を上りきった場所はブルーのパネルが敷き詰められた格納庫だった。

 そこに垂直離着陸機が1機とめられている。


「ほー、コンパクトだがたいそうな設備じゃないか。

 観戦ルームの上が格納庫になっているなんて、誰も気づかないやね。

 グリーンゲートの技術はやっぱりすごいわの」

 ルイバディは腕組みをしながら関心している。


「VIP専用の観戦ルームに、これほどの設備を、しかも中には航空機まで仕込んで短期間で組み上げるって、さすがに無理があるでしょう。

 随分と前から準備をしていたようね、ゲルズ」

 レミが言った。


 その問いには答えずにゲルズは航空機に向かって歩いて行く。

「少し早く来てしまったが、準備はどうだ?」

「いつでも出発できます。今立てば朝には到着できます」


(朝には到着って……どこに連れていかれるんだ。

 チャムは大丈夫だっただろうか。

 今の状況もこれから先のことも、何も見えてこない)

 ユウキたちのおかれた状況は、見通しのきかない霧の中にいるようだった。


 くるりと6人の方に向き直ったゲルズは、片手を航空機の方へ向けてそちらへ行くように促した。

「行き先くらい教えてもいいんじゃないか?」

 ゲルズの前で立ち止まったルイバディが言った。


「第5、15、5」

 そう言ってゲルズは探るようにルイバディの表情をのぞき込んだ。

「なんだいそりゃ。分かるように言ってもらえないか」


 フッと笑ったゲルズは顎を上に向けて話し始めた。

「まあ軍人でもなければわかりませんよね。

 私たちでもその番号ですぐに場所が分かる者は多くありません。

 第5国はわかりますよね。

 メインパレットから真北にある国で、15の5というのはワームホールの……」


 ゲルズがそこまで言いかけたとき、レミがゲルズを拳で殴った。


「おほ! やるねぇ」

 ルイバディはガハハと笑い、ユウキたちは驚いて口を開けている。


 ゲルズは鼻血を出してその場に転がった。


「うるさいよ、あんた。

 私らは抵抗できない身だ、とっとと乗るよ、みんな」

 ざまーみろというゲルズに対する気持ちが、ユウキたちの口元の笑いに表れていた。


(レミほんとうにかっこいい!)

 ユウキとサトル、そしてラバスまでもが、倒れたゲルズに一蹴りいれてから通り過ぎた。

 選択の余地がないことを分かっていても、みな一様に乗ることへの戸惑いがあった。


(これに乗ったら引き返せないよな、きっと。

 逃げだしたい……)

 そう思ったユウキだったが、小柄できゃしゃなラバスが怯えている様子を見て、守ろうと思う気持ちが強くわいた。

(そうだ……不安なのは俺だけじゃない)


 レミに近づいたルイバディが小声で言った。

「レミよ、あんたわかったんだね」


 レミはチラッとルイバディに目をやった。

「まあね、そういうルイバディ、あなたもわかったんでしょ?

 やっかいなことになったね」


「そうさな……さてどうするか」


 行き先の見当がついたレミとルイバディは、覚悟を決めていた。

 その上で回避できる手段がないかを模索している。

 だがこの急展開と逃れられない強制から、現状の把握はもとより、先を見通す術もなかった。

 どこに連れて行かれるか予想も出来ない4人にいたっては、覚悟を持てるはずもない。

 ゼロで起きた過去の戦争のように、命をおとす確率が高い場所に送られるなら、それなりの覚悟と、置いていく気持ちの整理もしたはずだが。


「おまえたち……覚えていろ……」

 ゲルズは、あふれる鼻血を両手で押さえて上を向いている。


 機体の後部から細長い機内に入り、二重の扉が閉じられる。

 楕円形の観戦ルームの屋根が開いてそこから飛びだった。


 鼻をおさえながら見送るゲルズに、窓からサトルが拳を見せた。

「あいつ今度あったら絶対たたきのめす!」


 機内にはユウキたち6名と武装した3人の見はりしかいなかった。

 6人は機体内部の側面に設置された長椅子に、対面式に座らされた。

 ハンドガンを持った職員とは違い、目の前にいる見はりは、恰幅も装備も明らかに兵士だ。

 装備の下につける兵士用のバラクラバから目だけを覗かせている。

 ベルトで体は固定されているが、振動はかなり感じる。

 旅客機と違い内部の音もすさまじいため声を少しはりあげないと聞こえない。


「あんたらはグリーンゲートお抱えの私兵ってとこかい?」

 ルイバディの問いに兵士たちは黙ったまま視線をそらした。

「こたえるわけはないやね」

 ルイバディは腕組みをして歯を見せて笑った。


 下を向いたまま落ち込んだ様子のラバスにユウキが声をかけた。

「ラバス大丈夫?」

 ユウキのその一言でみんなもラバスを見た。


「うん、ちょっと疲れた。

 不安がどんどん大きくなって……。

 ゼロにいたころの僕に戻ってしまいそうだ」


 隣に座っていたサトルがラバスの腕を握った。

「大丈夫、俺たちがいる。

 おまえは変わったんだ。もとには戻らない」

 そう言ったあと静かに手を離したサトルの顔を見上げたラバスは、にっこりとほほえんだ。


「うん、そうだね。 ありがとうサトル」

 他のメンバーはその様子を黙って見ていた。


(サトルもラバスも過去に、人生をあきらめてしまおうとした経験がある。

 それだけに心の敏感さや、普通の人より不安が増幅してしまう気持ちのありようを理解している。

 サトルはすぐに察知したんだ、ラバスの痛みを……)


「さあ、みんな疲れていることだし、寝ようじゃないか。

 何をするにも体力は回復しておかなくちゃいけない。

 今考えても答えはでないしな」


 ルイバディがそう言うと、みんなは小さくうなずいて目を閉じた。


 ユウキは久しぶりに夢を見た。

「いいかげんにしないか!子供はおまえの所有物じゃない!」

 教会の施設の中で信者たちに取り押さえられた父親が叫んでいた。

 妹をかかえ座り込んでいるユウキの前には、白く薄いローブに腰紐をまわした信者たちが腕を組んで並んでいる。

 その中にいる母は、男性信者に足蹴にされる父をただ黙って見ていた。

(もうやめて……お願い……)


 ガタンッっと大きく揺れた衝撃で、全員が目を覚ました。


(気分わる……)

 久しぶりに家族の夢を見たユウキは、これから起こることの前兆のような気がして嫌な気分になった。


『着陸態勢に入る』

 前の操縦室の方からかすかに声が聞こえる。

 窓から差し込む日の光は強く、朝なのか昼なのかわからない。


「今日は打ち上げのパーティーだったのにな……」

 あくびをしながらサトルが言った。


「こんな状況で緊張感のないことがいえるサトルはすごいよ」

 ユウキが言った。


「僕も……案外しっかり眠ることができてびっくりしている。

 不安はあるけど思ったより緊張しないでいられるのは、みんながいてくれるおかげだ」

 そう言ってはにかむラバスを見て、みんなはほほえんだ。


 窓の外を覗くと、そこは丘陵地帯だった。

 なだらかな丘が続くその中に、美しい風景をぶちこわす銀色の施設。


「為す術なしか……」

 降下が始まるとモニークがつぶやいた。


 その施設の屋外待機場に垂直離着陸機は降下した。

 着陸の衝撃は座った体が弾むほどだった。

 体を固定していたベルトを各々で外すと、出口へ向かうようにうながされた。


 真っ先に外に出たルイバディが開口一番に叫んだ。

「うーん、空気はうまい!」


 ルイバディの隣に並んだレミが当たりを見渡しながらつぶやいた。

「さて、どうなることやら」

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