椅子取りゲーム終了
本日は1話のみ、13時の予約投稿です。
ユウキはモニークを倒したエイデンと戦うことになった。
レミに目を向けるとかなり苦戦しているようだった。
(レミ、がんばれ、俺も勝つから!)
ユウキは強くソードを握りしめた。
「あーあ、君と1対1は嫌だな。
まあ僕も軍人の端くれだから、死にいくさでも逃げないけどね」
エイデンは苦笑いしながらそう言った。
「本当の戦いなら俺なんかあなたの足下にも及ばない。
戦ってくれてありがとう、エイデン」
フッと笑ったエイデンは、ソードを顔の前に立てたあと、それを振り下ろした。
――(俺はこの世界にくるまで、ずっとなにかの殻に閉じ籠もっていた)
エイデンは低い姿勢でソードを前に構えたまま、ユウキの懐に入り込むように正面から突進してきた。
――(21の世界に来たのは偶然だったけど、今ここで起きていること全てに感謝したい)
リーチの長いロングソードで正面から来られたら、ショートソードでは受け止めることしかできない。
ユウキはソードをクロスさせて身構えた。
――(ゼロにいた頃の俺は臆病で情けなかった)
正面から突くと見せかけたエイデンは、眼前で体をひねって回転しながらユウキを飛び越すと、ユウキの首もとにソードを振り下ろした。
とっさのことで、転がるようによけたが、ソードはユウキの太ももの後ろに当たった。
「グッゥゥ……」
うめくような声を上げたユウキは次の太刀を避けるため、そのままごろごろと転がった。
――(この痛みも、戦いのプレッシャーも、全てが俺を成長させてくれた)
痛む足を押さえながらもがくユウキに、ジャンプしたエイデンがソードをまっすぐ構えて落ちてくる。
――(ここで果てても悔いはない、でも……まだ終わりじゃない!)
「俺はまだ終わらない!」
向かってくるロングソードの先端を、ユウキは寝転がったまま、クロスさせたショートソードで受け止めた。
その瞬間、ソード同士がぶつかった所が黄色く発光し、光はどんどん増していった。
そして、ぶつかったロングソードとともに、エイデンは崩れて消えていった。
――(自分を変えられるなんて思ってもみなかった。未来を変えるためには自分が変わる必要があることを知った)
ユウキが立ち上がると、レミも敵を倒して勝利していた。
白組の戦士は全滅し、残すはキングのみとなった。
「ユウキ! キングをやるよ!」
レミがにこやかに大声で叫んだ。
「うん!」
――(ここで出会った全ての人に感謝したい)
キングのもとに駆けつけると、ルイバディはすでに討ち取られていた。
キング2人が激しい打ち合いをしているが、どう見てもベルベッドの方に分がある。
薄ら笑いを浮かべながら余裕でサトルを叩く姿は、遊んでいるようにも見えた。
「やっぱり残ったわね、レミ。早く参戦しなさいよ。
もっとも、キングの攻撃力は2倍、防御力は3倍だからあなたたちなんて虫けら同然だけどね」
レミは表情を変えずに、黙ったままベルベッドの後方から攻撃を始めた。
ベルベッドは舞うように叩きながら身をかわす。
2人の敵を華麗にさばきながら、たのしそうに笑っていた。
「俺は!」
ユウキが叫んだ。
いきなり叫んだユウキに、サトルとレミが驚いている。
ベルベッドがニッと笑った。
「俺は、なーに? 言ってみてその続き!」
「俺は! サトルとレミを。 大事な仲間を守る!」
「ブハハ、ふざけるな!」
そう言いながらもベルベッドは喜んでいる。
「おっほ、俺がお前を守るんだろ?ユウキ!」
サトルが言った。
「ユウキをPTに拾ってよかったよ。
あのときのヒヨコが、みごとな竜に化けた!」
レミはそう言って、笑いながらベルベッドを攻撃している。
「おまえたち、ごちゃごちゃとうるさーい!」
打ち合いをしていたベルベッドは、サトルを正面から蹴り飛ばし、反対の足で後ろにいたレミも蹴り飛ばした。
「来なさい! クソガキ!」
ベルベッドはソードの先をユウキに向けてそう言った。
――(思い切り、今を生きる!)
「ウオォォォ!」
踏み込んだユウキはベルベッドに突進した。
2本のロングソードをクロスさせて身構えるベルベッドに、片手でショートソードを打ち込んだ。
予想もしなかった打撃の重みと衝撃でベルベッドは後ろにすべった。
そこに再びユウキが打ち込んだが、2度目は踏みとどまった。
「いい打ち込みね、ノーマルの装備でその強打が出せるあなたのフォースは、格上なのかしら?」
強気にセリフをはくベルベッドだったが、その顔は少しひきつっていた。
「格上とかのレベルじゃないよベルベッド。ユウキはレアだ」
そう言いながらジャンプしたレミは、ベルベッドが持ちこたえているユウキのソードの上から、自分のソードを叩きつけた。
その打撃でベルベッドは片膝を床につきそうになった。
「レミ! おまえー!」
ベルベッドは怒鳴ってレミを睨み付けた。
体勢を崩したベルベッドの背中にサトルがソードを突き刺した。
キングの防具は防御力が高いため、体を貫通させることはできず、切っ先は途中でとまった。
「グッゥゥ……」
ベルベッドはうなりながらユウキとレミのソードを前にはじくと、背中に刺さったソードを抜くため、激痛に耐えてジャンプした。
「きさまら、卑怯だぞ!」
2倍になっているベルベッドの生命ゲージだったが、すでに半分以上削れていた。
顔の表情は痛みでゆがんでいる。
「個人戦じゃあるまいし、卑怯もクソもない!」
サトルがさらりと言った。
「そういうこと。これはチーム戦だ、ベルベッド!」
レミは片方のソードを肩にかついで、もう片方のソードの刃先をベルベッドに向けた。
「俺たちは! 絶対におまえを討つ!」
ユウキがそう言った瞬間、まるでその言葉が合図だったかのように、3人が同時にベルベッドに突進してソードを差し込んだ。
「消えろーー!」
ユウキが叫ぶと、ソードから強烈な光が放射状に放たれ、辺り一面何も見えなくなった。
そしてベルベッドは、四角いブロックが崩れるように消えていった。
ベルベッドが消えると同時に、白組のキングの椅子は、バシャンという効果音とともに崩れ、そこに残った残骸も徐々に消えていった。
『椅子取りゲーム終了、青空の広間展開』
機械的な声で案内が流れる。
一瞬真っ暗になり次に視界が戻ったときには、メタルフロアに青空の広間がオーバーレイされていた。
そこに、キングの椅子に座るサトルと、その両脇に立つユウキとレミの姿が現れた。
空には赤いバナーが映し出され、花火が打ち上げられている。
「みなさまお疲れさまでした。
グリーンゲート社のゲーム進行統括管理者です。
椅子取りゲームが終了しました。
勝者、赤組。
所要時間40分。
赤組のみなさまおめでとうございます。
勝者賞金500万ブールは途中で離脱された方も含め全ての赤組の戦士に贈呈されます。
これで椅子取りゲーム、全ての日程は終了となりました」
赤組の勝利宣言がなされたのち、再び機械的な声の案内が流れる。
『あと20秒ほどで青空の広間からエッグへの帰還となります』
「そっけない案内だな! よし、20秒のうちに目に焼き付けるぞユウキ!」
サトルはそう言って、周りを見回している。
ユウキはキングの椅子を触った。
(この感触と、この思いを忘れない)
エッグへ帰還すると通常のモニターに戻り、テーブル管理者が映し出された。
「お疲れ様でした。
データ集積用のチップをはずす作業は、離脱となりました方々とともに、今日の午前中に取り外しが行われます。
時間や場所の案内は追って通知されます。
端末を受け取りましたら、すみやかにエッグブースから退場してください。
それではエッグを閉じます」
固定された手が解放され目の前のシールドが上にあがる。
同じテーブルには誰もいない。
ユウキは返された端末を手首に固定すると、エッグをなでるように触り、テーブルに手をすべらせながら歩き出した。
別々のテーブルに座っていたレミとサトルが近づいてくる。
ユウキとサトルはハグをした。
レミが「お疲れ」と言うと、3人で顔を見合わせて笑いだした。
「勝ったな!」
サトルが拳を見せてうれしそうに言った。
「うん、勝った! すごく楽しかった」
ユウキも満面の笑みで言った。
「もう終わりか。なんか寂しいね」
レミのその一言にサトルとユウキもうなずき、3人でエッグブースを見渡した。
「死ぬ気分を味わいたいならここで果てればいい……か。
今の俺からすると、もっともすぎて笑えてくる。
悩んでる人たちみんなに教えたい。
ここに逃げ道があることを」
サトルは真剣な表情でそう言った。
ユウキは黙ったままサトルの肩に手を置いた。
「くぅぅ、泣かせるねサトル、すごくいい感想だ。
VRゲームがこんな形で役に立つとは思ってなかったけど、シイカ嬢はわかっていたんだね、さすがだ。
そしてちゃんと変わることができたサトルもえらい!」
「アハ……ほめられた」
頭をかきながら顔をあからめたサトルを見たユウキとレミが笑った。
「ゼロに帰ってからやりたいことも増えた。
これからは、顔を上げて毎日を楽しみたい」
「そうだよユウキ、一度きりの人生、1つだけの命なんだから!
思い切り生きよう!」
レミがユウキの肩をポンポンとたたいた。
そのとき、カチッと音がして、エッグブースの奥の照明が落ちた。
そしてこちらに向かって順番に照明が消えていく。
レミがユウキとサトルの肩に手を置いて、3人で出口へ向かって歩き出した。
聞き慣れないメッセージ通知の音が鳴ってユウキがサトルとレミを見た。
「誰のメッセージ音? 聞いたことない音だね」
「ああ、俺のだ。
グリーンゲート専用のメッセージツール」
サトルはそう言って、メッセージを確認した。
――その出来事は、思いもよらない方向から突然押し寄せた大波のようだった。
――俺たちの未来の航路は、そのメッセージによって予期せぬ舵が切られることになる。




