3階戦(5)
本日は1話のみ、13時の予約投稿です。
◇
運営ブースにいたシュリは、モニターの前から離れて、1人の技術補佐に声をかけた。
「今日はダルガスがいないね」
声をかけられ少し驚いた様子の技術補佐はシュリから目をそらした。
「はい、ゲーム進行にあわせて解説をするため、VIP観戦ルームのイライザ様のもとへ行っております」
「ふーん。君、名前は?」
「グレゴリーです」
「そう、グレゴリーね。
この間さ、ダルガスが部屋から出て行ったら君もついていったでしょ?」
シュリは小声で言った。
「ダルガスが部屋に到着しそうになったら、間違いでしたって警備から連絡が入ったそうだ。
もうじきダルガスが部屋に着くぞって、誰かが警備に連絡をいれたのかな?
しかもその間にドルトルがこの部屋に来て、私に耳打ちをする……タイミングが良すぎやしないか」
シュリはそう言って笑った。
「は……はあ」
何も言葉を返せずにグレゴリーは下を向いている。
「君とは仲良くなれそうだ」
それだけ言うとシュリはモニターの前に戻った。
◇
ユウキとラバスは、白組の砦から急いで赤組の砦へ戻った。
一番下の地面から、最上段を見上げると、破壊された2機のガトリングが消えていくところだった。
援護射撃をしていた最上階のガトリングが消えたことで2階のガトリングの背後に敵が集まり始め、回復塔へも攻撃が始まっている。
「ラバス、俺はかばわなくていい、一緒に攻めよう!」
「わかった!」
赤い炎のロングソードが、2階のバリケードをたたき壊しながらガトリングへ向けて進んでいた。
周りの攻撃をものともせずに被弾したまま進んでいる。
「あんなに攻撃されても消滅しない」
ラバスが立ち止まりそうつぶやいた。
「俺が戦う! ラバスはガトリングへ」
「了解! ユウキ、勝手に消えないでね!」
そう言ってラバスは1段目へジャンプした。
「ああ、ラバスもな!」
赤い炎のソードで無双しているのはリーシャだと思ったが、はっきりと顔が確認できない。
ユウキはその場で大きく息を吸った。
「リーシャ!」
大声で叫ぶと、赤い炎のソードが止まった。
呼ばれた声のする方向へ顔を向けたその戦士が答える。
「ユウキ! 待っていました!」
(やっぱりリーシャだ!)
2人のその会話に、敵も味方も手を止めてしまうほど驚いた。
リーシャは大きくジャンプして最下部のユウキの近くに降り立った。
「いざ!」
そう言って、リーシャは片方のソードを立てて顔の前にもってくると、それを斜めに振り下ろした。
ユウキは2本のショートソードを握りしめて、身構えた。
トンと片足で地面を蹴っただけで、リーシャは数メートル先のユウキの目の前まで飛んで、その勢いのままソードを振り下ろした。
ユウキはショートソード2本をクロスさせて、リーシャの攻撃をかろうじて受け止めた。
だが強い力で押されて、跳ね返すことができない。
ロングソードを挟み込むような状態のまま、ユウキは体をひねって回転した。
ロングソードはそのひねりに巻き込まれ、ソードを持っていたリーシャは倒された。
すかさずリーシャの足を切りつけようとしたが、顔をみたら攻撃の手がとまった。
(知ってる女の子に攻撃できない! 俺だめじゃん!)
そのすきにリーシャはためらいなくユウキの脇腹を刺した。
「グッゥ……」
「ユウキ、甘いですね。
そんな情けない戦いしかできないなら、ひと思いに消してあげます。
あなたに期待したのは見当違いだったみたい」
(ゲームなのになんでためらうんだ、俺!)
リーシャは攻撃の手をゆるめず打ち据えてくる。
たまらずユウキはリーシャを足蹴にした。
しりもちをついたリーシャは意外な攻撃に戸惑ってすぐに立ち上がれない。
「ワアァァァ!」
気合いを入れてリーシャに打ち込むが、頭のすぐ上まで振り下ろしたソードを叩きつけることができなかった。
そこで2人は見つめ合ってしまった。
あっけにとられたリーシャが笑いだした。
周りで戦っている両組の戦士たちも何事かと気にしている。
「もういいです。
最後まであなたが残っていたら、そのときとどめをさしてあげましょう。
せいぜい頑張ってください。
そちらの人員をさっさと5名に減らしましょうか」
そう言うとリーシャは、一飛びで1階部分へ上ると、舞うようにソードを振りながら辺りのバリケードを蹴散らした。
ユウキも後を追って1階へ上った。
軽く踏み込んで2階部分に移動したリーシャは、そこにいたレモンめがけてソードを振り下ろした。
なんとかソードで受けたがレモンはその場に転がり、レモンをかばうためにハルが盾でレモンに覆い被さった。
(ダメだ、リーシャにはかなわない!)
攻撃に耐えようと、身を低くしたハルの姿を見たユウキは、ラバスの時のように体が熱くなった。
2階へ瞬間移動し、気づくとリーシャの前に立ちはだかっていた。
突然目の前に現れたユウキに、驚いたリーシャは後ずさりをした。
ユウキはためらうことなくリーシャに攻撃を開始した。
攻撃速度があがり、連打するユウキの攻撃は見えないほどになっていた。
高速で連打されるショートソードの細かい攻撃は、ロングソードではさばききれない。
仕方なくリーシャは後方にジャンプして1階部分に降りた。
「ユウキ、そいつだけでも止めておいてくれたら助かる!」
誰かが部隊音声で叫んだ。
だがユウキには誰の声も届いていなかった。
守りたい気持ちが強くなると我を忘れる。
さっきまで攻撃できなかったリーシャの姿は、熱くなったユウキには敵としての認識しかなかった。
(俺が、俺が守る!)
そのとき、エッグブースでは2人が座っているエッグの周りに小さな風の渦がいくつもできはじめていた。
庭園の花や木の葉がリーシャの周りに引き寄せられ足下にできた小さな風の渦の中で舞っている。
一方ユウキのエッグには砂や小さな水の玉が集まっていた。
ユウキのエッグの周りにも、それらを巻き込んだ小さな風の渦がいくつも出来ていた。
外界のフォースを取り込みはじめたゲーム内のユウキは、全身が黄色く発光し全ての能力が上がっていく。
リーシャもまた全身から赤い光を発していた。
他の者と同じフォース防具なのに、強く発光する2人はメタリックの防具を装備しているように見える。
リーシャを追って1階へ降り立ったユウキに、リーシャが突進してきた。
2人のソードがぶつかると、その周辺のオーバーレイが四角いブロックのように崩れそうになる。
黄色と赤の光ったメタリック人形のようになった2人は無表情で戦い続けている。
このとき2人の感情は消えてしまい、脳は戦うことだけに反応していた。
◇
運営ブースが騒がしくなった。
「ま……まずいです。
一瞬ですが計算機の電荷密度が異常に上がりました。
コアに想定外の負荷がかかっています。
あの2人を離脱させた方がよいかと」
グレゴリーがシュリに言った。
「一瞬だろう? もうしばらく様子をみよう。
再び同じようなことがおこれば離脱させていいよ」
「は……はい、わかりました。
誰か、ダルガス様に報告に言ってくれ」
グレゴリーの指示を受けた技術者の1人が部屋を出て行った。
◇




