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数日のうちに

本日は1話のみ、13時の予約投稿です。


 ◇

 運営ブースで火炎竜戦を見届けたシュリは、録画を見返しながらダルガスが部屋から去るのを待った。

 深夜のためダルガスは研究ブースには戻らず、住居施設に帰るとシュリは思っていた。

 シュリに挨拶をしてダルガスが部屋から出て行く。

 少し時間をおいてからシュリはグリーンゲートの研究ブース内にあるドルトルの部屋へ向かった。

 深夜だけあって通路で人に会うことはなかった。


「わざわざありがとうございます。

 あ、先に申し上げておきます。

 この部屋は盗聴器やカメラはありませんのでご安心ください。

 火炎竜討伐はいかがでしたか?

 私もこちらのモニターで見ておりましたが」


 そう言いながらドルトルはソファーに座るシュリの前に温かいお茶を置いた。


「んー、気になったのはやはりユウキだ。

 君の話を聞く前に少し私の質問に答えてもらいたいがいいかな?」


「はい、もちろんでございます」


「ありがとう。まあユウキの話なんだが。

 今回またモブの弱点を見抜いたり、周囲のキャラクターの力を増幅した。

 それらは同じような仕組みで起きているのか?」


「いえ、違います。

 まずモブの弱点を見抜いているように見える行為ですが。

 弱点を探し当てたのではなく、攻撃した到達点の熱を感じただけです。

 その熱は本来ダメージを受けた側だけが感じる熱……痛みになるものです」


「あれは……攻撃だったのか?」


「はい、ユウキが祈るようなポーズをとった後に出す、稲妻が走ったような光、あれはフォースを使った遠隔攻撃です。

 ユウキ本人も攻撃しているとは思っていないでしょう。

 被弾、自然被災などのダメージを受けたとき、生体反応としての痛みを感じさせるため、感覚神経の伝達路に熱を感じるように電気的な信号を送っています。

 ダメージを与えた側も、手や足などに微量の痛みを与える仕組みになっています。

 それは敵をたたいた感触や蹴ったときの足の痛みなどをリアルに感じさせるための刺激で、具体的に言うと熱による痛みです。

 到達するまでのプロセスや強弱は違いますが、ダメージを受けたとき与えたとき、どちらも熱による痛みを感じるようになっています。


 ユウキの遠隔攻撃も、通常の攻撃と同じように、その反応として手に熱を感じます。

 ですがユウキはそれと同時にダメージを受けたモブの痛み……熱をも感じ取ってしまうのです。

 その結果、モブの中に熱い部分があると感じ、モブのなかの急所を発見したと思い違いをしているのです。

 なぜユウキの遠隔攻撃が、防御力の数値を下げているモブの急所にだけ当たるのかはわかっていません。

 それにボーガンのような遠隔の飛び道具ではなくソードからそれができてしまう理由も不明です。

 おそらくユウキのフォースは威力も速度も我々の想定をはるかに越えた次元にあるのでしょう。

 しかも脳の未稼働領域を使わずにそれができてしまう……本当に貴重な存在です。


 次に周囲のキャラクターの力を増幅させたように見える行為。

 適当な言葉が見つからず、帯電……的な表現をしてしまいましたが。

 この場合も武器からフォースを放出したのではなく遠隔攻撃をしたのです。

 まずユウキの遠隔攻撃のエネルギーがモブを介して周囲に伝達される。

 伝えられたエネルギーは、受け取ったキャラクターを傷つけることなくそこにとどまる。

 そしてそのキャラクターが攻撃を行う際は、受け取ったエネルギーを上乗せして出力することが出来る……ということです。

 それとどういう作用なのかわかりませんが、ユウキのエネルギーを受け取った者の中に、脳の未稼働領域が動き出し、フォース持ちになる者が現れています。

 受け取ったエネルギーが電気的なショックとして脳に影響しているようです。

 報告はしていなかったのですが、ユウキが放出したフォースエネルギーの量はモブの急所を見つけたときの数十倍でした。

 お叱りを受けるかも知れませんが、そのデータもまだ取れておりません」


「そうか……。正直に話してくれてありがとう。

 結局、ゲーム内だから起こりうることなのだな。

 媒介するモブがいるから可能になっているにすぎない。

 現物の武器では周囲の力を増幅するなんて不可能だ」


「そうとも言えません。要はモブの変わりを作ればいいかと……。

 ただ仮に代替えになる物が作れたとしても、発したエネルギーが到達できる距離や、ユウキ自身の気力や体力など、試験を重ねなければ実現は難しいでしょう。

 現物の武器を使用する際にフォース出力が起きた場合、その武器が脳の反応に従順に適応できるものであればあるほど、威力や攻撃速度はあがります。

 異常とも思えるほどのフォースを持ったユウキが、今完成している最新の武器を使ったらどんなことがおこるのか、できればそれを見てみたいものです」

 ドルトルはシュリが口を挟めないほど夢中で説明をしている。


「なるほどね。

 兵士でもなく訓練をうけたこともないユウキが、脳の動きに反応する最新の武器をもてば強者になれるということか。

 グリーンゲートなのに正直に話してくれてありがとう。

 君はダルガスと違って、心も技術者だから好きだよ」


 シュリのその言葉にドルトルは照れくさそうにハンカチで汗をぬぐった。


「さて、今度は君の話を聞こうか」


 ドルトルは大きく深呼吸をした。

「まず……15からのシップが戻ったと言うのは事実ですか?」


「答えることはできないが、事実として話を進めようか」


「わかりました。

 シップが戻っているのならば、シュリ様にお願いしたいことがございます」


 ドルトルの喉仏が動いてツバを飲み込む音が聞こえるほどだった。


「シュリ様たちがどこまでご存じかわかりませんが。

 助けてほしいのです……私たち家族を」


 シュリは表情を変えずに腹のあたりで指を組んだ。

「君ほどの者でも道を決められないのだな」


「所詮……雇われている身ですから」


「君がこちら側につくなら、サンを説得しやすいし国も協力するだろう。

 手土産として、隠している最新の武器の設計図を持ってきてもらうことも条件に含まれるが」


「家族を助けていただけるなら、指示に従います」

 深刻な表情で少しうつむきながらドルトルは答えた。


「そうか、ならば吉報だな」


「あの……15からの帰還者が下船するのはいつですか?」


「それを知ってどうする」


「その者たちがどれほどの情報を持ち帰っているのかわかりませんが……。

 その内容によっては一挙にことが動き出します」


 シュリは飲んでいたお茶をテーブルに戻すとドルトルを見た。


「なるほど、それを危惧して大胆な行動にでたわけか。

 君を全面的に信用できる情報をもらいたい。

 ペンタグラムベースで話をしたほうが良さそうだ。

 マクベスに呼び出しをかけさせる。

 君の監視は……チップか?」


「はい、外せばすぐに気づかれます」


「早々に話し合いをする必要があるな。

 手はずはこちらで考えて連絡をする。

 数日まってくれ」


「はい、どうか、よろしくお願い……」

 ドルトルがそう言いかけたとき、来訪者を知らせる電子音がした。

 入り口のモニターにはダルガスが映っている。

 動揺したドルトルは言葉はでずに汗が噴き出した。


「どうやら見張りはチップだけではなさそうだな。

 案ずるな、私が話す」


 コクリとうなずいたドルトルは黙ったまま扉を開けるボタンを押した。

 慌てた様子で入ってきたダルガスはキョロキョロと部屋の中を見た。


「ど……どうしたダルガス、こんな時間に」

 ドルトルは精一杯普通に話した。


「シュリ様がなぜここにいらっしゃるのですか?」

 ダルガスはドルトルの問いには答えずにシュリに話しかけた。


「ん? 君は私に会いに来たのか?

 ここにいることがよくわかったね」


 ギクッとしたダルガスは何かを答えようと動揺している。


「ゲームの映像を見返していたらユウキのフォースのことが気になったんだが、君は帰ってしまっただろう?

 それで、研究ブースに住んでいるって噂されるほど深夜まで作業をしているドルトルがいるかもしれないと思って、ここへ来た訳だ。

 おかげでユウキのフォースのことがなんとなくわかった気がするよ。

 私は専門家じゃないから、ある程度理解できればいいんだが、なにせサンジェスト様に報告しないといけないものでね。

 説明できる程度まで知識を上げておかねばならないのだよ。

 ドルトル、本当に助かった。

 これでサンジェスト様に報告できる。

 では私はこれで」


 シュリはそう言うと部屋を出て行った。

「イライザ……グリーンゲートをどうするつもりだ」

 研究ブースの通路を歩きながらシュリはつぶやいた。


 ◇

 マクベスの執務室はある程度の防音がされているが、その中まで聞こえるほどの騒ぎが通路で起きていた。

 話の内容までは聞き取れないが、ときどき執務室のドアを叩くような音も聞こえる。

 外をモニターで見ると、警備の兵士がリーシャと侍女のベスに一方的に攻められ、それに絶えていた。


「ですから今は誰も入れるなと言われているのです!

 出直していただけないでしょうか?」

「どきなさい!」

 モニターフォンのボタンを押させないためにリーシャたちの邪魔をする兵士を、ベスが叩いたり蹴ったりしている。


 マクベスは額に手を置くと大きくため息をついた。

 急いで机に広げていた書類や地図を隣の書庫に投げ入れると、入り口に戻って扉を開けた。

「あ! マクベス様、リーシャ様が」

 警備の兵士は困った様子でそう言いかけた。


「マクベス、話があります!」

 リーシャは、見上げたマクベスをきつく睨み付けながら言った


「はいはい、どうぞ」

 リーシャとベスはすぐに部屋の中に入っていく。


「お前たち悪かったな」

「いえ、とんでもありません!」

 兵士は胸に手を当てて敬礼をした。


「バッチから聞きましたが、15からシップが戻ったのですか?」

 開口一番にリーシャが聞いた。


「バッチから聞いたってことは……サンジェストかしゃべったのか。

 説明するからまずは座って。 ベスも」

 リーシャとベスは並んでソファーに座った。


「確かに15から戻った者たちがいる。

 幸いみんな元気だったから、シップの検査を行いながら聞き取りを行っている」


「なぜいつも隠し事ばかりなのですか!

 その者たちはどうやって戻って……」

 そう言いかけたリーシャの言葉をマクベスがとめた。


「待ってくれ!」

 マクベスの大きな声に、ビクンッと驚いたリーシャは黙った。


「すまない大きな声を出して。

 だが、待ってくれ。

 我々は今まであなたに伝えられなかったことをようやく話せる時がきた。

 今回帰還したシップのことも含め、今まで話せなかったことを近々お話する。

 そしてあなたを15へ帰す手はずを整えるからもう少し待って欲しい」


 下を向いていたリーシャがマクベスを見た。

「なぜ今話してもらえないのですか?

 なぜすぐに帰してもらえないのですか?

 早く15に帰してください!」


「15に帰すという約束は守る。

 今までは帰せなかった理由があった。

 15に送ったシップがことごとく戻ってこないのは、到達していないか別の世界へ行ったのではないかという懸念があった。

 だから国軍の者しかシップに乗せなかった。

 だが帰還した者の話で、送ったシップが全て15へ到着していることがわかった。

 今、あなたを帰す方向で調整をしている。

 帰還した者たちがまだ下船できていないため、現時点での聞き取りの内容は不十分だ

 シップの検査や滅菌消毒は終了したから、今日の午前中には下船して、体調やウィルスなどの細かい検査が始まる。

 本格的な聞き取りはそれが終わってからだ。

 15へ帰る君への手土産は新しい武器だけじゃない。

 想定外の事実を話すことができるはずだ。

 15に関して知り得た情報は、包み隠さずあなたに伝えるからもう少し時間をもらえないか」


 リーシャは何かを思案している様子だった。

「そちらの事情は分かりました。

 全ての情報でなくても構いませんので、今わかっていることを教えてください」


「わかった、数日もらえないか。

 それまでにまとめておく」


「よろしくお願いします。 ベス、帰ります」

 リーシャは立ち上がると軽く頭を下げて部屋を出て行った。


 マクベスは「はあー」と声を出してため息をついた。


「サンジェストめ、余計なことをしてくれたものだ、この忙しいのに。

 まだ不明なことは多いが、リーシャに話すことを精査しなければならない。

 また眠れないじゃないか!」


 ◇


 目覚めたユウキはシャワーを浴びて朝食を食べると昨日のゲームや会話を思い返していた。


(勝敗という意味では昨日は俺たちはゲームに負けた。

 でも勝ち負けや、負けて賞金がもらえないとか、仲間に迷惑をかけたとかそういう気持ちはほとんどない。

 楽しめているってことなのか……。


 ここでの生活はゼロで受けた心の傷を、遠くに追いやることができていた。

 あちらへ戻ればまたすぐに嫌なことを思い出して、その痛みは自分にまとわりついて離れない。

 21の世界なら、新しい自分の人生をきっと始められる。

 ゼロの生活を捨てることは難しいことじゃない。

 それでも……帰れなくなったことで後悔をしないか、損をしないかと、くだらない保身が頭をもちあげる。

 このゲームが終わるまでに答えを出さなくちゃ。

 俺はハルに嘘をつくことになるかもしれない)


 ユウキたちのいる部屋は施設の中にあり、窓はなく日の光は一切入らない。

 ユウキは外の空気を吸いながら日の光を浴びたくなった。


「さてと、まだ通知は来ていないけど、開戦までは時間がある。

 外の空気を吸ってくるか……」


 ユウキは大きく伸びをした。

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