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15からの帰還者

本日は1話のみ、13時の予約投稿です。

次回の投稿は明日、1月22日(日)13時です。


 特区のあるメインパレットの中央にはペンタグラムベースと呼ばれる大規模な国の施設があり、軍の車両以外で乗り入れできるのは国から配布されたカプセルカーだけだった。

 グリーンゲート社やアークエンジェル社など準公的機関として認められている企業には、前方に許可番号が書かれた公用のカプセルカーが何機か配布されている。


 マクベスは白組特設会場を出てすぐに軍のカプセルカーでペンタグラムベースへ戻った。

 シュリとシイカは後から来たハクヒとともにグリーンゲート社の公用カプセルカーを借りてペンタグラムベースへ向かった。


 ペンタグラムベースの地階にある時空超えシップの待機場の一画に、透明のシールドで囲われた急ごしらえの部屋が作られていた。

 シップを隔離するためのその部屋の中には、数時間前にPW-15から帰還したシップがあった。

 乗組員は無事だが全ての検査が終わるまで降りることはできない。


 通常、帰還するシップが出現する場所は限られ誤差はほぼない。

 出現場所にあわせて離発着施設が作られ、それぞれの施設に番号がつけられている。

 ゼロ用の施設はZー1から、PW-15用であれば15-1から順に付番され全ては国が運営している。

 別の世界からもどるシップが同じ場所に出現することはなく、出現した場所で乗組員や積み荷の検査をするのはグリーンゲート社が一手に引き受けている。

 重要な積載物や人員がある場合、到着したシップはグリーンゲート本社施設内のシップ待機場に移動しそこで検査などが行われる。

 今回帰還した15からの船はメインパレット内の15-3という施設に出現し、軍が護衛しながらペンタグラムベースまで移動させた。


 待機場を見下ろす位置にある観覧施設にシップを直に見ようと情報を知らされた一部の軍関係者が集まっていた。

 到着したシュリとシイカはそこで、不機嫌そうにその集団に紛れているサンジェストと合流した。


「どういう状況ですか?サンジェスト様」

 機体を見たあとにサンジェストに目をむけてシイカが聞いた。


「見ての通りシップは乗組員ごと隔離されている。

 乗組員はみな元気らしい。

 公の発表は行わないとのことだが、このことはすぐに広まるだろう。

 それよりシュリよ、この場所は好まない!

 もっと整った場所はないのか?」


「あ……。まだことが起きたばかりだし、もともとシップの待機場にある観覧用の部屋だからVIP用には造られていない。

 今度はちゃんとした場所を準備させるよ、サン」


 そこへえんじ色のパイロットスーツに身を包んだ、マクベスプロジェクトの指揮官ジャキオが入ってきた。


「お集まりいただいた皆様には申し訳ないが、これでお帰り願いたい。

 搭乗者の安息を第一に考えたいので、今夜はこれ以上の作業の進捗はありません。

 ウィルスの懸念もありますのでこの場所も封鎖されます。

 問い合わせについてはマクベスプロジェクト宛てにお願いいたします。

 他の部署では対応いたしません。

 わかっていらっしゃるとは思うが他言は処罰対象になりますので」

 そこにいた者たちは顔を見合わせざわついた。

 そしてため息まじりに部屋から出て行った。


 サンジェストたちに気づいたジャキオが会釈をして近づいてきた。

「みなさま申し訳ありません。状況報告は……」


 そう言いかけたジャキオの言葉をさえぎってサンジェストが言った。

「そうだよジャキオ、こんな場所じゃダメだ」


 驚くジャキオの表情を見ながらシュリが苦笑いをし、シイカは笑いをこらえている。


「は……はあ、確かにここは椅子もなく……」

「ジャキオ、観覧の場所の件はあとで私と話をしよう」

 シュリはそう言ってジャキオにウィンクをした。


「はっ! では失礼いたします」


 ◇


 目覚めたユウキはシャワーを浴びて配達ボックスに準備されていた朝食を食べると手元のモニターからフレンド一覧を眺めた。


(なんで前のPTメンバーとフレンド登録しなかったんだろう。

 バシュたちと会えるのはゲームが終わってからか。

 あのとき……チャムがやられる姿をみたら、もうここで終わってもいいと思った。

 バシュがやられたときは胸のあたりがもやもやした。

 ここに来て初めて経験する感情が多い……)


 今から部屋に行くと、サトルからメッセージが届いた。

(カフェとかじゃなくて部屋で話すのか?何か飲みたかったな……)


 手元の端末で21の映画やドラマを物色しているとすぐにサトルが来た。

 手にはカフェのスリーブがついた飲み物を持っていた。


「気が利くなサトル。飲みたかったんだ。しかもラージサイズ!」


「俺も飲みたくて我慢してたんだ。 早朝からいろいろあってね」

 飲み物を受け取ったユウキはベッドに座り、サトルは椅子に腰を下ろした。


「いろいろあってって……もう昼近いけど、まさか何も食べてないとか?」


「いや、グリーンゲートで品の良いサンドイッチを出されたよ。

 試験場で装備品のテストに協力しているんだ。

 一応グリーンゲートと契約してるから」


「装備品のテストって、ゲームで使う?」


「ううん、本物の武器や防具。

 試用してどれだけ脳波に従順に反応できているかを測るって感じかな。

 専門的なことはよくわからない。

 実用テストは軍で行うらしい」


「そんなことやってたんだ……」


「それより、昨日はお疲れ。

 最後の1人はユウキが決めたんだな。

 投げトークンすごくなかったか?」


「え? あ……ああ、まだ見てない。

 っていうかどこで見るのか知らない」


「マイページのコインがまわってるアイコンクリック」

 言われたとおりに端末を操作したユウキはモニターを見つめたまま黙ってしまった。


「どれどれ……」

 サトルがのぞき込む。


 1階戦 参加賞    50万ブール

 1階戦 勝者賞金  100万ブール

 1階戦 投げトークン 48万ブール

 その他 分配金     3万ブール

 合計        201万ブール


「へえ、円に換算すると2000万かいいねぇ。

 この分配金ってなんだろ?」


「あ、ああ。

 部隊長と副部隊長が辞退した投げトークンだと思う。

 分配されるって聞いてる。

 驚いたよ……こんなにもらっていいのか」


「いいの、いいの。

 ゲームに関係する入出金の管理も全てグリーンゲートが行っているんだ。

 賞金や参加賞はマクベスとシイカ様が支払って、投げトークンは観戦者がくれる。

 マクベスは国側の担当だから当然支払いはセントラル国が行う。

 シイカ様はいくつかの会社を経営しているけどこのゲームに関しては個人的に支払いをしているんだって。

 グリーンゲートはシンガポールにグリーンバンク21という銀行を持っていて、全ての報奨金は円建てでグリーンゲート社員口座として準備される。

 ゼロに戻ったらグリーンゲートの支社で、キャッシュカードはもちろんオンラインバンキング同様のアプリが入ったスマホももらえるんだ。

 俺はもう持ってるけどね」


「へ……へえー、なるほど。

 21に通ってるだけあって詳しいな」


 収入はスポンサーやBETイベントで得られた物だけで、ほとんどはゲーム運営の費用として消えてしまう。

 不足分は国、アークエンジェル、グリーンゲートが折半するが、みなそのことは納得済みだ。

 国はゲームにかかる費用を新しい武器や防具の研究開発費として予算をとっていて、全てのデータは国の権利品になる。

 フィールドを提供しているアークエンジェルはチートソフトのテストを行ったり集積したデータをもらい受ける契約になっている。

 グリーンゲートはデータをもらうことはもちろん、国が発注するさまざまな仕事を優先的にもらい続けるために、いつも率先して協力をする。

 だがその甲斐むなしく、ここ20年ほどは、こうしたイベントがらみの突発的な仕事ばかりしか取れていない。

 それでも長年こなしてきた仕事に関しては、他社が追従できないノウハウを持っているため、未だ独占的な位置を保っていることは変わらない。


「んで、本題に入るけど。 そのお金にも関係する話」


「え?」


「俺、やりたいことが見つかったんだ。

 脳の研究者?無知すぎてどう言えばいいのかわからないけど。

 フォースって何だったのかその正体とか仕組みが知りたくなった。

 もしゼロに帰らなければ、もらったブールは21の中でしか使うことが出来ない。

 ゼロに帰ってもらったお金を、自分のやりたいことや夢のために使いたい。

 俺はそういう結論にいきついた」

 笑顔でそう言い切ったサトルを見たユウキは少し下を向いた。


「俺は……まだやりたいことが見つかっていない。

 こっちで生活できるならそれでもいいかなって思ってしまう」


「向こうに未練はないのか?家族とか……」

「家族っていうか……俺、親兄弟いないから」

「そうだったんだ……ごめん」


「いや、謝るなよ。どうってことない。

 残るかどうか……まだ揺れてるかな。

 いつでも帰れる状況だったら、ここに残ることを選択したと思う。

 まあ、ゲームが終わるまでに決めるよ」


「そうか、わかった。できれば一緒に帰りたいけどな」

「うん……。

 そういえば、さっきシイカ様がいくつか会社を経営してるっていってたけど、あんなに若いのに?

 本戦前の挨拶で、もとはゼロ民でグリーンゲート社と関係のあった両親とここに来たって言ってたから親の会社の手伝いをしてるってこと?」


「あ……そうか知らなくて当然だな。

 シイカ様の両親はPW-15へ行ったきり戻れなくなってる。

 それでシイカ様が残された会社の代表になってるんだ。

 父親のベーカー博士は、今使われているシップの原型を作った人なんだって。

 できあがったシップは過去にない精巧さで時空超えが実現できるすごいものだったらしい。

 それになんて言ったかな、システムで1番大事な部分……そこは公開してなくて、それを解析しようとするとその部分が破損する仕組みになってるとかなんとか。

 要は他で流用できないようになっているみたい。

 ミナトさんから聞いたんだけどね」


「へえー、両親が15から戻れてないってことはわかった」


「お、おい! なんだよ一生懸命説明したのに」

 ユウキがククッっと笑った。


 シイカの両親はゼロでは著名な宇宙航空研究者で、当初21を訪れたのはグリーンゲート社の招待を受けたからだった。

 グリーンゲートが資金や施設を提供するから新しいシップ開発に協力してくれと申し出があった。

 当時シップの製造は国が指定した研究施設でのみ行われていた。

 そのためシップの権利は全て国にあり、グリーンゲートはシップを借り受ける形で運用のみが許可されていた。

 自社でシップ製造を行おうとしているグリーンゲートの動きを知った国はすぐに、シップの製造許可は出さないと通達をし、グリーンゲートは苦汁を飲まされた。


 シイカの父ベーカー博士はどうしても21に残って研究を続けたくなり国に打診した。

 博士が代表を務め、国以外に技術やデータの提供を行わないのであれば、準国営の機関としての権利を与えると国は約束をした。

 資金調達は自由にやってよいが、グリーンゲートの資本が入るのであれば許可を出さないと言われた。

 このことがあってから国とグリーンゲートの不和が生じ始め、国はグリーンゲートが担ってきた仕事を少しずつ他社へまわす算段を始める。

 あまりにも依存することが多く、影響力を増したグリーンゲートを脅威に感じる政府関係者も増えてきていた。


 ベーカー博士に誰かが資金提供を申し入れそれにより博士はシップ製造の会社を設立し、製造したシップは全て国に納品された。

 資金提供をした人物は明らかにされていない。

 シップのパーツごとに研究施設を9つに分散し、全てを法人化してベーカーグループとした。


「あ、そういえばさ。

 30日だったかなミナトさんからメッセージもらって、その内容が気になってモニターしたんだ。

 だけど応答がなくてその後も連絡がない。

 それで施設の部屋をたずねて行ったけどそこにはいなくて、アンコもなかった。

 近くの職員に聞いたら席をはずしているだけじゃないかと言ってたけど」


「気になるメッセージって?」


「グリーンゲートの契約を解除して、どんな条件を出されてもゼロへ帰れって」


「んー、単にサトルがゼロへ帰らなくなることを心配しただけじゃないのか?

 でも返信がないのは気になるな……体調が悪くても連絡くらいはできそうだ」


「だよな……。

 ゲーム中はこの宿泊施設にいないといけないから、終わったらグリーンゲートに戻って探さなきゃ。

 ゼロに帰るまでに絶対会うんだ」


(そうだ、ミナトさんに聞かなきゃいけないことがあった。いつどこで会ったかを)


「ここに来た日、麻酔ガンを撃たれたユウキを見たミナトさんが、運んで来た人に怒鳴ったらしい。

 過去に、いきなり撃たれて心肺停止になった人がいたんだって。

 ミナトさんが怒鳴ったって、みんながめずらしがってた。

 いつも穏やかでやさしいから」


「ちょっ……ちょっと待て。

 麻酔ガンを撃たれたのってまさか俺だけじゃないよな?」


「んー、俺とハルは注射だった。

 ハルのデータは事前に送ってたけどユウキは想定外だったからね。

 想定外の男1名確認って感じで、マニュアル通りの処理だったんだと思う。

 時間がないのに暴れたり問題起こされても困るからじゃないかな」


「処理ってなんだよ! まじか……俺だけあんな怖い目に」

「俺とハルは手を出して打ってもらってからカプセルで眠ったって感じかな。ハハハ」


「ハハハじゃない!」


「いやあ、あのときの機体は新型で俺も初めてみたんだけど、今まで見た中で一番小型だった。

 あそこまで小さくできるのかって驚いたよ」

 サトルは指を顎において小さくうなずきながらそう言った。


「話をはぐらかすな。 はぁ、もういいけど。

 あのさ……俺たぶん会ったことあるんだよね、ミナトさんに。

 いつどこで会ったかまったく思い出せないけど」

 サトルは驚いた様子でユウキを見た。


「だから会って確かめたいんだ。ゲームが終わったら一緒にさがそう」


「そうだな、そうしよう」

 両足のひざのあたりを両手で一叩きするとサトルは立ち上がった。


「ユウキ、中級戦も残れよ。 上で待ってる」


「また、えらそうだな」


「だから俺はえらいんだってば!」

 そう言ってサトルは部屋を出て行き、ユウキはほほえみながらその後ろ姿を見ていた。


次回の投稿は明日、1月22日(日)13時です。

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