帰れる選択肢
(時空超え……あれは何のことだったんだ)
カチャカチャという金属がぶつかる音で有樹は目が覚めた。
「おっ、目覚めたかい。安心しな、取って食おうってわけじゃない」
そう声をかけてきた男の顔立ちや表情は、医療用のゴーグルとおおきなマスクのせいで見えなかった。
ゆっくりと辺りを見回すと、やけに明かりがまぶしい白い部屋のなかにいた。
やわらかいベッドではなく病院の処置台のようなところに寝かされ、手足はベルトで固定されている。
4人の白衣を着た人が慌ただしく動いていた。
みなマスクをしているが、明らかに複数の人種だ。
有樹は反射的に暴れた。
拘束されたことへの不安からか考える前に体が反応していた。
「まだ処置したてだ。しばらくおとなしくしておいてくれよ」
そういって男が有樹の腕に注射をすると、その途端、有樹の体は脱力した。
(春香と大野は……)
「ふ……ふたりは……どこ」
口は動かせるがとてもしゃべりにくいし声もあまりでない。
「へえ自分のことよりまずはお友達の心配ですか。
クゥー泣けるね。 安心しな、隣の部屋にいる。無事だよ」
「じゃあ……ここはどこ……あなた達は何者?」
「ノーコメント」
(クッ……なんだこいつ!
あれなんだろう……みんな同じ顔に見える)
ゆっくりと部屋を見まわしてみると、そこは近未来の映画にでてくるような部屋で、女1人も含めてそこにいる4人全員が同じ顔に見えた。
(四つ子? ……そんなわけないよな。 俺の目がおかしいのか?)
さっき打たれた注射のせいだろうかだんだんと意識が遠のいて行く。
自動の扉が開き白衣を着た、また同じ顔の人が入って来た。
「ニーナ、シイカのところにデータを持って報告へ行ってくれ」
「わかったわ。 チップは入れたの?」
「ああ、だからしばらくは幻視や幻聴の症状がでるだろう。
時空超えのショックはないらしい」
(あの女の人、外国人だよね。
なんで俺、言葉わかるんだ。
それにチップ入れたとか……何の話してるんだよ。
神様、俺に罰を下すには早すぎるよ。
そんなに悪いことはしていないはずだから……)
ユウキの意識は遠のいていった。
次に気が付いたときは青い部屋にいて、意識ははっきりしていた。
今度は歯医者の診察台のような所に座らされ、手足はやはりベルトで拘束されていた。
足を延ばせば届きそうな位置に青い壁があり、そこに反射した室内のようすがゆがんで写っていた。
(上を向く角度が歯医者だよな……歯の治療?まさかね)
そばに立って有樹を見ながら透明のパネルをタップしている男が言った。
「私はミナト。何も心配することはないよ。
今回開催されるゲームの運営会社であるグリーンゲート社の人間だ。
参加者の適正チェックや準備を担当している」
(今回開催されるゲームの運営会社ってなに……?)
「脳波、記憶、言語チップも正常と……。
さてと、まずは名前を言ってみて」
そう言ってニッコリ笑うその笑顔が、有樹にはうさん臭く見えた。
「えと……佐々木有樹、高校2年17歳住まいは渋谷区代々木……」
「そこまで聞いていない。
ここでは姓は使わない。名と個人の識別番号さえあれば全てこと足りるからね。
私はミナト、そして君はユウキということになる」
(本当に別の世界なのか?
春香は「パラレルワールドへ冒険をしに行こう」って言っていた。
パラレルワールドがなんだか知らないけど、これが現実で元の世界に戻れないなら悩んでいる場合じゃない)
「あの……ここはどこなんですか?」
「ここはパラレルワールドで、君のいたワールドゼロからすると未来型の世界になる」
「パラレルワールドで未来って……さっぱりわからないんですけど」
「君がもといた世界の裏側に実は同じような世界が複数存在した……って考えればいい。
並行的に存在するそれらの世界には、それぞれの時間の進行があって、ここPW-21はその中でも超未来型に発展している。
君は望んでここに来たわけじゃないから知らなくて当然」
「俺は……今から何をする……何をされるんですか?」
「ん? ゲームだよ。
まずは本戦への参加資格を得るためのバトルボックスに挑戦する。
君はここに到着した最終組だから時間がないんだよね」
そう言いながらミナトはしきりにパネルをたたいている。
年は20代後半だろうか、とても落ち着いていて眼鏡の奥からのぞく瞳はやさしそうだった。
「ゲームって……目的は? 何のために?」
「目的……そうだな。
ゲームの企画者はシイカという女性。
彼女がワールドゼロの自殺未遂者に夢と希望を与えるために始めたゲーム。
とでも言っておこうかな」
(自殺未遂者にって、だから萩尾春香か。
でも大野はなんでだ?まさかあいつも……。
それにしても自殺未遂者にゲームをさせることでそれが夢や希望になるって発想が理解できない)
「さっきも言ったが君には時間がない。だから情報を流し込むね。まずはこれから」
カチッっと耳元で音がして、頭を支えていた台が少し沈んだ。
頭は固定され動かせなくなったが、青い壁に移るミナトが手元のテーブルのようなものをタッチ操作しているのが見える。
ガクンっと力が抜け、頭はおきているが体は寝ているような状態になった。
▽
パラレルワールド21、通称PWー21。
オリジナルの世界ワールドゼロに対し、現在確認されているパラレルワールドは21あり、過去型、未来型の世界がある。
ワールドゼロ以外の世界はPWの存在を認め、往来できる世界も複数存在し、それぞれ他の世界を活用している。
PWー21で行われる全てのゲームで流通する通貨はゲーム内通貨ではなく現実の通貨である。
△
(声ではなく文字が頭に流れ込んでくる……)
▽
グリーンゲート社はVR専用のプラットフォームであり、今回のゲームの運営会社である。
対戦が組まれる際はフィールド提供する仮想空間を貸す企業の参加が不可欠である。
フィールド提供企業は試合の放映権や対戦形式、ルールの選定など多くの権限をもち、対戦ごとに運営会社とその内容について契約で取り決めが行われる。
スポンサー企業の参加もあり高額な勝負ほどその数は増える。
試合ごとに視聴者参加型のイベントが出現し、負けた側の賭け金を勝者側で分配する。
そのほか参加者個人へ向けた投げトークンがある。
ゲーム内の人型はNPC(non player character)、運営の従業員、参加者がある。
△
「何か質問があれば言って。なければ他の情報を流すよ」
頭のなかの小さな電流が途絶えたような感覚があり、普通に目を開けられた。
「質問って言われても……まだ頭の整理がつかない」
「今は状況を知っている程度で理解しようなんて思わなくて言い。
あまり考えずに適応していくんだ。
君はこれから対戦型のゲームに参加する。
最初はバトルゲームと言われるもの。
そこで残れれば本戦に参加できる」
「対戦って……戦うゲームをするってこと?」
「そう、ゲームだから死なないけど、相応の痛みはある。
そう聞くと不安になるだろうが、冒険してると思って楽しめばいい。
今、君の頭には小さなチップが埋め込まれている。
こちらに来て意識を取り戻してからの記憶は、そのチップを経由して記憶細胞に書き込みや伝達が行われていて、そのチップをはずせば伝達経路が絶たれ記憶を呼び出すことはできなくなる。
ワールドゼロに戻るときに、チップを外すか残すかの選択ができるから、不安に感じる必要はない。 嫌なことはチップをはずして消してしまえばいいんだから」
(記憶が消せるなんてちょっと便利。今までの嫌な記憶も消せたらいいのに)
「俺が参加するゲームについての情報をもらえますか?」
「いいけど、その前に」
そう言ってミナトは顔を近づけてきた。
(お……おい近いよ)
「私のこと覚えてないかな?」
「え? いや……まったく覚えてない」
「フッ……まあいいや」
そう言ってくるりと横を向いた。
(どこかであったかな……ってここの世界の人じゃないの?)
「今回集められた16歳から20歳までの自殺未遂者は200名。
あ、君もそこに入っちゃってるけど。
ちなみにその人たちのことは『訳あり冒険者』って呼ばれている。
じゃあ今回のゲームの内容を流そう」
▽
《第2回マクベス(白組) 対 シイカ(赤組) 椅子取りゲーム》
【キャッチフレーズ】 死ぬ気分を味わいたいならここで果てればいい!
【仮想帯フィールド提供】 アークエンジェル社
【開催期間】PW-21暦2122年10月1日 午前0時開始~ 終了期間未定
■両陣営共通仕様■
【メインベース】 グリーンゲート社提供 3階層メインベース
【椅子設置場所】 最上階
【キング】 1名
【上級戦士】 20名
【中級戦士】 30名
【下級戦士】 50名
戦士選定に関しては各陣営の基準で行うものとする。
【装備品】 共通装備一式
【ポイント】
『基 本』 20,000ポイント
(生命力、魔力、持久力)各自で振り分ける
『ステータス』 10,000ポイント
(回避、ダメージ減少、攻撃速度、移動速度)各自で振り分ける
※戦闘中に得られるポイントは随時ポイント振り可能
■視聴者参加■
【BETイベント】中級階(白組か赤組の二択賭け)
【投げトークン】 メインベース戦闘開始の合図で投げトークン開始可。
投げ先はワールドゼロからの冒険者宛てのみ。
【突発イベント】 未定
■その他■
シイカ(赤組)特別仕様
ワールドゼロからの冒険者(16~20歳自殺未遂者)200名から、バトルボックス後に選抜された50名が下級戦士として参加する。
△
「ゲームの概要を流したけど流せる内容は日によって決まっているから、まだここまでしか見せられない。
本戦情報だからバトルボックスの情報は少ないが参加しながら知っていけばいい。
成績いかんで50名の枠に残ることができれば下級戦士として本戦に参加することができる。
そうなれば君はシイカの赤組になる。
そもそも白組には訳あり冒険者はいないからね。
マクベス、シイカともにゲームで大成したこのワールドでは有名な大富豪だ。
シイカはワールドゼロの出身。
ワールドゼロから自殺未遂の経験をもつ若者を連れて来てこの世界のVRゲームに送り込み、自殺が無意味でばかげていることを教えたいそうだ。
実際は自殺経験のない人も混ざってはいる……友達についてきたとか。
それでもほとんどは経験者だ。
このゲームに参加した全員が前向きで意欲的になるとは限らないが、救われた者が多いのは確かだ」
(こんなにいろんな情報もらっても俺の普通の頭でどうしろと……)
ユウキは困惑を通り越して遠くを見てしまっていた。
その様子を見たミナトは少しほほえんだ。
「私はここの統括責任者でワールドゼロへ送り返す者を決める役も担っている。
たいがいの者は自らここへ来たが、君は偶然ここに来てしまった。
だから君が望むなら心神耗弱などの理由をつけて送り返すこともできる。
私は運営サイドの人間だけどワールドゼロ出身者だ。
それに君は……まいっか」
「それって……帰ったほうがいいって言ってくれてるの?」
「こんなに長々と説明しておいて今更だが……。
君が帰りたいのであれば、頭のチップを外しすぐに元の世界へ送り返してあげるよ。
そうすればここの記憶も残らない」
(こんな選択ができる状況がくるとは思ってもみなかった。
ここで迷う必要なんかないはずだけど……)




