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1階戦(1)


 テーブル番号を知らせる通知メッセージの電子音で仮眠していたユウキは起こされた。

 テーブルに突っ伏して眠っていた他のメンバーも目を覚ました。

 時刻はすでに10時半をまわっている。


「あの、まだ時間あるから夜のエッグブース周辺を見に行きませんか?」

 ミアンが提案した。

「おお! 行こう行こう!」

 ユバルがそう言って立ち上がりみんなでサロンを出て屋外通路を『戦士たちの広場』方面へ向けて歩き出した。

 エッグブースから少し離れた位置で、ブースや立ち並ぶ観戦ルーム、その辺りの景色を眺めた。

 全ての施設が淡い色の細かいライトで縁取られ、エッグブース周辺の庭園の中には大きな光る玉子のようなライトがいくつも灯されていた。

 プロジェクションマッピングで辺り一面は別の風景に作りかえられ、渓谷の中にいるようだった。

 夜空のはずなのにそこからは大きな滝が流れ落ち、霧のような水しぶきの中を、色とりどりの巨大な鳥が飛んでいる。

 幻想的なその風景をみたメンバーはその感動を表現する言葉が見つからなかった。


「俺……ずっとここにいたいかも」

 ユウキが思わずつぶやいた。

(し……しまった、ハルに怒られる!)

 ユウキは焦ってハルを見ると、ハルは何も言わずにただ黙って景色を眺めていた。

「僕も帰りたくなくなってきたよ」

 ラバスが言った。


「本当にこの世界は魅力的だよね。

 僕たちが知り得た場所はこの世界の極々一部だけど、それだけでもここに住みたくなってしまう。

 でもまあみんな帰されちゃうんだけどね」

 ユバルがそう言った。


「そうそう、みんなで一緒に帰るの!」

 強い口調でそう言ったハルの手をミアンが握った。

「うん、私今は早くゲームを終えてゼロに帰りたい気分」

「今からゲームが始まるのに何言ってるんだミアン」

 ユバルがそう言ってハルとミアンは笑ったがユウキとラバスはただそれを見ていた。


 11時30分になるとエッグブースの中のテーブルは赤組、白組ともすぐに埋まった。

 テーブルやエッグ、さらには各テーブルに配置された管理者のコスチュームも全て赤と白に分かれていた。

 指定された番号のテーブルにはすでに管理者が立って待っていた。


「赤組PT3のテーブルの管理をさせていただきます。よろしくお願いします」

 挨拶をする管理者に、ユウキたちPT3のメンバーは手の端末をはずして渡した。

 PT3のリーダーはラバスだ。


 バトルボックスの時と同様にテーブル上部には大型のモニターが吊り下げられ管理者はその正面に座っていた。

 目元にシールドがおりて、ゆっくりとエッグは後ろに傾き、体はすっぽりとはまり込むような状態になる。

 手の形の電光表示がある場所へ手を置いて両腕は金属の輪によって固定された。

 ヘッドギアの側面にある金属部分が、小さく振動しながら左右に何度も動く。

 それが止まると、ゆっくりと頭を囲い込むような圧迫感がありギアがかぶせられる。

 そして視界全体がディスプレイ化する。

 その時点ではまだパソコンのモニターと変わらず、そこに管理者やPTメンバーの顏、PTリーダーの一覧などが表示されている。

 PTリーダーを選択すると構成員の一覧が開き、その中の1人をタップすれば個人の能力値などのデータを見ることが出来る。

 マイデータをタップすると、選択した武器と共通防具が装着された自分の体が回転しながらディスプレイに表示された。


「ご搭乗ありがとうございます。

 出発まであと15分です。

 これよりステータス、装備品、PTメンバーの変更はできません。

 ゲーム内で獲得したポイントのステータス振り分けはその都度行うことができます。

 10分間システムの最終確認作業に入ります」


(バトルボックスの時はこんなチェックなかったよな……)

 そう思いながらユウキはその10分がやけに長く感じた。


 ◇

 運営ブースではシュリとグリーンゲートのダルガスが話をしていた。

「フォース武器は2階戦からと聞いているが」

「はい、シュリ様。下級戦で使われる装備はフォースを遮断する仕様になっています」

「そうか。前回同様、国軍の兵士に分がありそうだな」


「そうですね。訓練をうけている兵士は戦い方や武器の扱いについて最良の知識を脳が会得しています。

 実戦で体現できなくてもVRゲームの中であれば脳の反応に近い状態で動けます。

 ゲーム内では仕組みや理屈を知っている者の方が、恵まれた体や能力を持つ者よりも有利になります。

 下級戦では確実に赤組が不利です。

 実際、過去の椅子取りゲームでも赤組の下級戦士はすぐに15名まで人数を減らしました」


「仮に……目当ての者が離脱になった場合だが。

 上の階で復活させる手は考えてあるのか?」


「はい、理由はいかようにもつけることができますので、ご心配には及びません。

 赤で復活をさせる人数に合せて白の兵士も復活させます」


「わかった。

 前回は最後の椅子取りでは赤組が圧勝だったな」


「赤組はゲーマーの集団ですから、ゲームのなかで戦い方や武器の扱い方を体得しています。

 前回、あれほど差がでるとは思いませんでしたが拍子抜けするほど、最上階での国軍は弱かった……というより赤組が強すぎました。

 今回、上級に参加する軍の兵士は仮想での練習をかなりやりこんでいるようですので、前回よりは白熱した戦いが見られることでしょう」


「中級以降の双方の組のフォース持ちの人数バランスはとれているのか?」

「ほぼ同人数で調整してはおりますが、レベルBのフォース持ちが突然レベルAのフォースを出力したり、新たにフォースが確認できる者がでる可能性はあります。

 ただし中級戦……2階戦では出力できるフォースの上限を決めておりますので、戦いに適用されるフォース量はその数値を超えることはありません」


「完全解放されたフォース装備の使用は3階戦からということか……」

 シュリはそう言いながら手元のパネルでユウキのデータを見つめた。


 ◇


『出発まで5分前となりました。 状態確認に入ります』


「それでは、よい冒険を」

 管理者がそう言った瞬間、ディスプレイは切られ真っ暗になった。


『身体、脳波状態    良好

 言語・概念エンコード 良好

 埋め込みチップ 現状4 シナプス中継 良好


 違反確認  システム/異状なし キャラクターステータス/異状なし

       装備一式/異状なし


 体感レベル設定   生態と同等

 苦痛レベル設定   生態と同等/自然被災あり/被弾ヒットのみ対象(2次被弾は対象外)

 破壊レベル設定   装備破損あり/ホバーボード破損(待機10秒で復活)

           キャラクター消滅時(インターバル10秒)

 非常用回路  良好』


『仮想領域展開します…………』


 電子的な声の案内が終わると同時に、椅子がガタンと揺れ少し後方に傾いた。


 中継的な演出はなく、すぐに光で目の前が真っ白になった。

 体が放り出された先は日差しの強い砂漠の上空。

 体がすぐに落ち始め手を思いきり横に広げて速度を制御する。

 周りの景色は視界の端まで、ゲーム外の普段の視界と遜色ない。

 その視界の中に、アイコンやマークが並んでいる感じはバトルボックスとまったく同じだ。

 滑空しながら左右を見ると部隊の仲間たちが大勢飛んでいた。

(やっぱりこのゲームすごいよ!)


 バシュから指示されていたように、部隊モニターは切ったままでPTモニターと全体音声をオンにした。


 バシュがメインモニターに映し出された。

「部隊長と副部隊長はメインモニターに割り込みができる。

 まあほとんど音声で済ませるけどな。

 モニターや音声の設定はPT内でチェックしてくれ。

 ほんじゃーいきますか!

 みんながんばろうな!」


「おおー!」

 みんなが一斉に声を上げたために出力された部隊音声が割れた。

 その声を上げたとほぼ同時に砂漠地帯に着地した。


 このタイミングでジェームズから1階戦開戦の告知が流れ、観戦者の投げトークンが可能になった。


 ホバーボードに乗る者はすぐにホバーを出して試乗を始めた。

「同じPTのメンバーの位置はマップ上の赤い点で確認できます。部隊員は黄色。

 直接見ると体の表面が、PTメンバーは赤い線それ以外の味方は黄色い線で覆われているように見えます。

 マップ上の敵の戦士は全てオレンジの点。

 ワームは大きな星形のオレンジになります。

 広域マップで索敵できるのは距離200メートルからです」

 チャムが部隊音声で言った。


 マップ内には味方の赤と黄色の点しかない。

 砂漠のはるか彼方に木が立っているような場所がおぼろげに見える。

 ゆらゆらと蜃気楼のようにたちのぼる砂上の熱気でその木のようなものが本物か定かではないが、目的地や方位を探す術がない今それを目指すしかなかった。


「オアシスの可能性がある。あそこを目指そう。

 PT9,10のホバーボード2名、先に行って確認してくれ。

 部隊範囲は100メートルだ。

 それ以上離れると音声が入らないから注意してくれ」


「了解!」

 PT9と10のホバーボードが飛び出した。

 上限5メートルと低いホバーボードのため油断しているとジャンプしたソードにたたき落とされる高さだ。

 だが速度は速く機動力はある。

 他の部隊印は一斉にジャンプしながらホバーボーを追った。


 しばらくしてホバーボード者からの報告。

「前方、オアシス地帯で間違いないと思われます。

 進行方向0時として11時の方向に巨大な……岩ワームかと思われる物が立ち上がっています。

 敵と思われる者たちが交戦中のうようです、広域マップ上に敵の赤点はまだ表示されていないので200メートル以上離れているかと」


「了解!報告がうまいな!

 部隊に戻ってくれ、オアシスに近づけばいつ岩ワームが頭をだしてもおかしくない」

 バシュが言った。


「あ! 敵が近づいています。1時の方向。

 広域マップに入りました。そちらに向かっています。

 おそらく2PTだと思います」

 ホバーボード者が叫んだ。


「わかった! PT3,PT4、迎え撃ってくれ。

 会話は公開音声を選択すれば周辺にいる者と話ができる。

 PT3と4での会話はPT音声と公開音声を交えてやってくれ。

 部隊音声を使われるとこっちの会話に混ざってしまってまぎらわしいからな。

 会話は相手チームにも聞こえちまうが、相手も公開音声を使っているはずだ。

 煽られるだろうが冷静にな。

 他のPTはこのまま進む」


「PT3了解しました!」

「PT4了解しました!」

 ユウキたちPT3のメンバーはPT4と一緒に1時の方向へ向かった。

 PT3、PT4ともに盾3,ボーガン1、ホバーボードのソード1の構成だ。


 自分たちに向かってくる者たちに気づいた敵のPTも、部隊本隊ではなくこちらを目指して距離を縮めてくる。

 見えてきたのはほぼ全員がソードで、ホバーボード者が2名。


 PT3、4はPT音声と公開音声の両方をオンにした。

「どうしよう緊張する……盾を持つ手に力が入らない」

 ミアンがつぶやいた。


「緊張して当然! ここで立ち止まって体制を整えよう。

 盾者3人背中合わせに。

 ミアン、力が入らなければ地面に刺せば良い。

 大盾だからしゃがめば身は隠せる。

 3人でお互いの背中を守りつつ、真ん中にいるボーガンのハルを守るんだ」

 ユウキが言った。

「わ……わかった」

 盾のユウキ、ミアン、ユバルは3辺に盾を構えハルを囲った。


 見ると黙っているがPT4もまねをして盾3の間にボーガンが入った。


「ハル、ボーガンは連射後の待機10秒だよね」

 ラバスが言った。

「うん、バトルボックスと同じなら連射は20秒はできるはず。

 待機の間は盾を低くして伏せるような感じがいいかも。

 次の連射のタイミングで盾をたてると同時に、カウンターアタックもできればいいけど」

 ハルはそう言いながら左手を下に振り下ろした。

 左手首の上の手甲から筒が飛び出しそれが展開してボーガンになりハンドルが手の中に握られた。

 右手手甲からはダガーをいったん出したが、それは収めた。

 

「カウンターアタックできると思う。

 相手はみんなソードみたいだから叩きまくるはず。

 カウンターゲージはすぐ溜まる」

 ユバルが言った。


「僕はおそらく敵のホバーボードに追いかけ回されると思う。

 盾のまわりを低空でぐるぐるまわりながら飛ぶから、チャンスがあったらボーガンと盾のカウンターを打ち込んで!」

 ラバスはそう言って前方上空で待機した。

「了解!」

 PT3のメンバーが答えた。


「PT4黙ったままだけど大丈夫?!」

 ラバスが言った。


「PT3と同じようにやります!

 だってどうしていいかわからないもん!」

 PT4の女の子がふるえる声でそう言った。


「ハハ、なんとかなるさ!」

 ユウキがそう言った。

「そうそう、やられても誰も責めないよ。みんな仲間だから!」

 ハルのその一言で一挙にみんなの肩の力が抜けて笑いがこぼれた。


 敵が近づくにつれその集団の体格の良さが目についた。

 キャラクターの容姿や体格は実際の人物に模されている。

 俊敏性、回避力などは隠れステータスとして、実体の能力が反映される。

 そうなると赤組下級組ははなから不利な状況に見えるが、嫌なことや怖いことから逃げる能力に関しては白組は歯が立たない。

 それが回避力として付与されている赤組は受けた攻撃の7割ほどしか被弾しない。

 逆に白組は敏捷性が優れているため動きも攻撃速度も速い。

 このことは戦っている当事者たちには知らされていない。


「みんなふるえて待ってたか?」

 近づきながら白組が煽りをいれてくる。

「さーて叩きましょうか!」

 体の大きな敵の兵士が大きくジャンプした。


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