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1階戦直前

 昨日届けられたカーキ色の軍服を着て、ユウキは朝8時に赤組特設会場に入った。

 カーキ色の軍服の上腕部分には赤組を示す太く赤い帯がついている。

 会場内にはチップ交換室が別に設けられそこに続々と人が入って行き、ユウキも後について入っていった。

 そこにはチップ交換用の処置台が10台並べられすでに処置を受けている者たちがいた。

 見知った人たちと手をあげて合図をしながらユウキも列に並んだ。

 自分たちとは違う軍服を着た人たちもチップ交換に来ていた。

 見ると軍服は3種類。

 カーキ色の下級組の他に、黒に銀の装飾品がついた軍服と、鮮やかな青に白の縁取りと金の装飾品がついた軍服を着ている人たちがいる。

(他の軍服かっこ良すぎ。

 上の級にあがれたらあれを配給してもらえるのか。

 装飾品の数からして黒は中級で青が上級組か?

 じゃあ目指すは青だ!)


 チップ交換を終えたユウキがPTメンバーと合流し話をしていると、会場前方のスクリーン前がざわつき始めた。近づくとそこには最新の本戦情報が公開されていた。


 本戦情報

《第2回マクベス(白組)対シイカ(赤組)椅子取りゲーム》

【スケジュール】

 1日 『1階戦』   下級戦士 各組50名

 午前0時開始~1時で階層閉鎖(どちらかの陣営の戦士が15名になった場合も階層閉鎖)

 2日 『2階戦』   中級戦士 各組30名+1階戦で残った戦士

 午前0時開始~1時で階層閉鎖(火炎竜討伐成功か、どちらかの陣営の戦士が10名になった場合も階層閉鎖)

 3日(1)『最上階戦』上級戦士 各組20名+2階戦で残った戦士

 午前0時開始~1時まで戦闘後、各組のキングが登場(どちらかの陣営の戦士が5名になった場合もキング登場)

   (2)『椅子取りゲーム』 生き残った戦士全員

 キング登場~どちらかの組が敵のキングを倒し椅子を壊すまで。


【1階戦:野外戦闘、岩ワーム討伐、敵組戦士討伐】

  地形・環境:砂漠、風化した火山岩場、溶岩だまり

  消滅回数:1回まで可(復活までのインターバル10秒)

【2階戦:洞窟戦闘、火炎竜討伐】

  地形・環境:洞窟

  消滅回数:2回まで可(復活までのインターバル10秒)

【3階戦;フロア戦闘、敵組討伐、椅子取り】

  地形・環境:メタルフロア

  消滅回数:2回まで可(復活までのインターバル10秒)


 ※既出装備情報:1階戦のみ。2階戦以降は当日の発表となります。


【1階追加情報】

  ・配布品:ホバーボード(飛行上限5M)各組10機


「1階戦だけ消滅回数が1だって。

 2回目でエッグに帰還ってことなのか。

 確か2回まで大丈夫って部隊長が言ってたよね」

 ラバスが不服そうにユウキにそう言った。

「変更になったんだろう。

 インターバル10秒は長すぎる気がするな」


「フロアごとに戦闘も全然違うんだね。

 ホバーボードって……僕使ったこと無いけど」


「ホバーボードの扱いは難しくないよ。

 体重の移動だけで操作できる。

 最初は手でバランスを取りながらだったけど、すぐに乗りこなせるから心配ないよ」


「へぇー、そうなんだ。

 10機ってことは全員持てないよね。

 その辺も踏まえて部隊長やみんなと話がしたいな」


「ラバスは真面目だし頼もしいねえ。同じPTで良かったよ」

 ユウキはそう言ってラバスの肩に腕をまわした。

 

「2日は火炎竜か……中級に残れたら焦ろうかな。

 って、俺なんかこういう感じだもん」

 ユウキが笑いながらそう言うと、腕組みをしたハルがにらみながら正面に立った。


「ユウキ、そういう言い方よくない。PTがだらける。本気だしなさい!」

「あ……ああ、ごめん」


(本気だせって言われても……自分でもなんでこんなに冷めているのかわからない。

 死ぬ気でゲームやるって言ってた俺はどっかに行ってしまった)


 ユウキはワームホールが閉じてしまう話や15のこと、そして大きな責任と使命を背負って何年も21から出られないリーシャのことを考えると気持ちが高ぶらなかった。


 ラバスが苦笑しながら小声で言った。

「確かに……楽しいけど最初の頃よりは燃えないんだよね」


「そ……そうだな。なんでかな?」

(いや俺はお前と違っていろんなこと知っちゃったから盛り上がらないんだけど……)


「んー、ものすごく衝撃的でおもしろいゲームでもその感動は長く続かない。

 バトルボックスをこなしていくうちにゲームの刺激に慣れてしまったのかな」

「そうかもな……」

(確かになんの刺激でも人は慣れていく。

 ゼロにいたとき夢中でやっていたMMOだって、これ一生やるだろ!って思ってても数ヶ月で飽きた。

 苦しみや悲しみだって少しずつだけど慣れていく)


「でもきっと、エッグに座ったら僕たちの闘志は燃えたぎってるはずだよ。

 やる気と緊張が相まって手が震える戦闘直前のあの感覚……。

 思い出したらだんだん熱くなってきた!」

 ラバスが笑顔でユウキに言った。

「ハハ、俺も敵を目の当たりにしたらいきり立って雄叫びあげてるかもな」


 電子音がして、いましがた公開された本戦情報が各人に配布された。

 エッグブースの見学に行こうとラバスが提案しPTメンバー全員で赤組特設会場を後にした。

 エントリーゲートへ向かう通路には『戦士たちの広場』と名付けられた部屋が作られていた。


 まずはそこを見学しようと部屋に入ると、赤い絨毯が敷き詰められた部屋の中央に噴水がありそれを囲むようにグレーの軍服に身を包んだ者たちが飲み物を片手に歓談していた。

 軍服の上腕部分に白の帯がついている彼らは白組の下級戦士たちだ。

 冷めた目でカーキ色の軍服を見つめる国軍の彼らの中には薄ら笑いを浮かべる者もいた。

 身長も大きく立ち姿も堂々としていて、カーキ軍団とは明らかに違う規律感にユウキは少し惨めな気分になった。

 彼らのその姿を見ただけで陰キャは自信をなくし伏し目がちになってしまう。


「みんな、堂々と行こう」

 ラバスが小声で言った。

 メンバーは小さくうなずくと胸をはり堂々とグレーの軍団の中に入っていった。

 チラっとこちらを見て笑いながら何かを話している軍人が目に入る。

(クソッ……あいつら余裕だな)


 そんな中から一際(ひときわ)目を引く金髪の青年が声をかけてきた。

「君たち、訳ありのゼロ民だろう?

 あ、失敬、訳ありなんて言い方は良くないね。

 他意はないんだ。

 僕はエイデン、よろしく」


 そう言って手を差し出し握手を求めてきた。

 ハルとミアンの目はハートマークになり、両手で必要以上に長く握手をしている。

 ユウキ、ラバスやユバルもメンバー全員名前を名乗ってエイデンと握手はしたが、そのあとは何も話し出さない。それを見たエイデンが口を開いた。


「実は僕もゼロ民でね。

 家族の関係での移民の口だが。

 ゼロ民と聞くと親近感がわいてつい話しかけてしまう。

 君たちとの戦いを楽しみにしているよ。

 なんせ前回の椅子取りゲームは軍の兵士が負けているからね。

 威信をかけて戦わなきゃいけない」


 ユウキが一歩前に出た。

「声をかけてくれてありがとうエイデン。

 正直あなたたち軍人の姿に圧倒されていた。

 悔しいけど、ものすごくかっこ良い。

 俺たちは21の世界もVRゲームも不慣れだけど、負けてもそれを言い訳にはしない。

 思いきりがんばるよ」


 エイデンはほほえんで小さくうなずいた。


「僕たちはこの世界へゲームに勝つために来ているわけじゃない。

 勝てるに超したことはないけど。

 訳ありであることを消すために、自分を取り戻して生きなおすために来ているんだ。

 僕も後悔しないよう全力で戦う」

 背の低いラバスはエイデンを見上げるようにそう言った。


「たのしい戦いになりそうだ。

 僕たちも手加減はしない。

 じゃあゲームの戦場で!」

 そう言うとエイデンはくるりときびすを返して去っていった。


「うっわーかっこよすぎる。

 そうだった、ゼロ民っていったっていろんな国の人がいるんだよね。

 すっかり忘れてた!

 エイデンと知り合いになりたい!」

 ハルの興奮がおさまらない。


 エイデンが去ったあとユウキとラバスは目を見て小さくうなずき合った。

 グレー軍団を目の当たりにしたことと、ものおじせずに話しかけてきたエイデンに強烈な刺激を受け、戦闘に対する熱量がいっきに上がった。

 敵にも堂々と正面から接することができるエイデンはユウキたちが持ち合わせていない自信に満ちあふれている。それは自尊心なのだろうとユウキは思った。


(実際にケンカしても絶対かなわない。でもゲームなら勝てるかもしれない!)


 電子音が鳴り部隊長から『赤組サロン』へ集合のメッセージが届いた。

 サロンの場所はエッグブースのすぐ近くだ。

 ユウキたちは『戦士たちの広場』を出て再び通路を通ってエッグブースへ向かった。

 通路は途中から屋外へ出る。

 外の景色が目に入ったとたんメンバー全員の足が止まった。


 以前ペトロがサンジェストに公言したように、準備されたエッグブースとその周辺はド派手な演出がなされていた。

 エッグブースの天井は取り払われ、ブースを囲うように地上から何本もの柱が立ち上がり上部には楕円形の観戦ルームが作られていた。

 高さが違うそれぞれの柱の中には観戦ルームへ直通の高速エレベーターが設置されている。


「す……すごいな。

 こんな設備をあっという間に準備できてしまうのか」

 ユウキがつぶやいた。

「ゼロに帰ったら……もう二度とこんな景色はみられない。

 武者震(むしゃぶる)いしちゃうよ」

 興奮した様子でラバスが言った。

「まさに別世界!夢の中なのか疑っちゃう!」

 ハルは祈るように両手を胸の前で握りしめ目を輝かせた。


 観戦ルームの内部の壁には大型モニターを始め、ゲーム内のカメラ視点ごとにいくつものモニターが配置されている。ソファーや椅子、仮眠室も完備され、浴室やカフェカウンター、更には2人の給仕もいる。ゲーム終了までの3日間ここで過ごすことも可能だ。備え付けのパッドで、カメラ視点の切り替え、勝ち組予想のベット、戦士個人への投げトークンもできる。その観戦ルームを使用できるのはスポンサーのなかでも破格のVIPだけだ。


 主催のマクベスとシイカは各組の特設会場が0時の開戦までに観戦用の部屋として準備されるためそこで観戦をする。そしてその中には中級、上級組の戦士も一緒に席につく。グリーンゲートやアークエンジェルの関係者は運営ブースがあり、問題の対処などを行うためそこに詰める。ワームホールの件でサンジェストはゲーム観戦は遠隔で行い会場へはシュリが来る。イライザはいつもこういう場には足を運ばず代わりにペトロが来る予定だ。


 エッグブースの近くまで来ると、背丈ほどあるハーブや花木がブースを取り囲むように植栽されているのが目に入った。風が吹くたびに黄色や赤の花びらがブース内に舞い込んでいる。


「気持ちよさそう!ここでゲームできるなんて最高だね!」

 ユバルが叫んだ。

「うん、すっごく贅沢!」

 ハルが答えた。

 ブースへのゲートが下りているため中には入れなかったが、その両脇に白組、赤組の双方のサロンの入り口が目に入った。


「ここ……ですね、赤組のサロンって」

 ミアンがそう言って部屋の中に入っていきメンバーもあとに続いた。

 サロンに入ると前方に大きなモニターと壇上があり、椅子やテーブルの他に食事を提供するカンターが準備され給仕も控えていた。そこにぞくぞくと赤組戦士が入ってくる。


 壁に掛けられた人数カウンターが50を超えるとバシュが壇上に立った。

「さあ今夜の戦いについて話をしようか。

 バトルボックスと違いエッグに入ってからミーティングをする時間はない。

 戦いが始まってから変わっていく内容もあるだろうが、大まかな打ち合わせはここでしておきたい。

 戦闘終了の条件は深夜1時になるか、どちらかの戦士が15名になるまでだ。

 まず最初に、戦士の人数を報告してもらう者を決めておく。

 2回の消滅で部隊を離脱する者が出たとき、残った人数を声で知らせて欲しい。

 戦いからは少し離れていて良いからそのことに注力してくれ。

 PT1のメルカ、その役目を頼む。

 もしメルカが果てたときは別の者を指名する」


「了解です!部隊長!」

 メルカが手を上げて大声で答えた。


「たのんだぞメルカ。

 それと部隊長である俺が果てたときは副部隊長であるチャムが指揮を変わる。

 チャムが果てたら……まあ臨機応変に誰かやってくれ。

 よし、そしたらみんなモニターに注目。

 ホバーボードについてだ」


【ホバーボード使用にあたり】

 ・各PTに1機ずつ合計10機が配布される。

 ・乗り手はPT内で決定すること。

 ・PTメンバーリストの最上部にホバーボードの青いアイコンが出る。

 ・使用する者がアイコンを押すとアイコンは赤に変わり他の者は押せなくなる。

 ・使用者が離脱した場合アイコンは青くなるので他の者が使用可能となる。

 ・ホバーが破損した場合は待機10秒で復活。ホバーと言えば出てくる。

 ・操縦は超簡単!


「質問はあとで時間を取るから話を先にすすめる。

 ポイント振りはみんな済んでいるかな、やっていない人はすぐやってくれ。

 戦場は全部で5回、10分ごとに面積が狭くなっていく。

 最後の溶岩だまりまで面積が削られると、かなり熱さによる痛みを感じるはずだから覚悟してくれ。

 砂漠はまともに走れないからジャンプしながら進むように。

 気づいている者もいると思うがさっき武器の事前選択が可能になった。

 変更は開始直前までできるってことだ。

 ポイント振りとやり方は同じで、腕の端末でゲームサーバー内の武器選択をすればゲーム開始時に反映される。それじゃあみんなでやってみよう」


 ラバスが手を上げた。

「お、ラバス、今日も何か提案してくれるのか?」

 バシュが言った。


「提案ってほどじゃないですが……。

 前回僕は大盾の性能の良さを話したんだけど、PT構成を考えたとき飛び道具やソードも必要だと思ったので、また独断で話をさせてもらいます。

 僕が考えたPT構成は盾3、ボーガン1、ホバーボードに乗ったソード1。

 盾を構えた3名に守られながらボーガンを持つ者が遠隔攻撃をすれば、ダメージを与えつつワームや敵の戦士のターゲットを取ることができるので、ホバーボードに乗ったソードが攻撃しやすくなる。

 大盾は攻撃を受けている間は盾のカウンターゲージが溜まっていくから、頃合いをみて敵に強烈なカウンターアタックを浴びせることが出来る。

 この構成ならやられにくくタゲも取れるし強打もできるんじゃないかと」


「ありがとうなラバス。

 みんなこれは強制とかじゃない、だがとても参考になる話だ。

 じゃあ武器の選択をやってみよう。PTメンバーと相談しながらな」


 一斉に武器の選択がはじまり場内が騒がしくなった。

 全員の武器の選択が終了すると、軽食をとりながら質問やら相談などが行われていたが、2時間ほどして雑談が始まった頃バシュが手を叩いた。


「はーい、注目。

 11時からエッグブースに入場できる。

 11時30分までにはブース内のテーブルについておくこと。

 テーブル番号はじきに配布される。

 それと大事な注意事項を1つ。

 ダイブしたら部隊モニターは切ってPTモニターと全体音声にすること。

 PTメンバーがしゃべったときはモニターされ、それ以外の部隊員がしゃべったときは声だけになるから区別しやすい。

 じゃあいったん解散!」


 解散と言われたが、ほとんどの部隊員はサロンから出なかった。

 話をしたり仮眠を取る者も多かった。

 この戦いが最後になってしまうかもしれないと思うと、ユウキもみんなと一緒にいたかった。


(チャムはこの戦いでバシュと自分はいなくなるようなことを言っていた。

 楽しんで帰ってねって……。

 あんなこと言われたら……寂しいじゃないか)


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