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望む世界

本日は1話のみ、13時の予約投稿です。


「私が説明いたします!」

 そう言ってベスが席を立った。

 ユウキはサトルに肩を押さえられながら仕方なさそうに椅子に腰を下ろした。


「リーシャ様は歯に衣着せぬというか……説明を省いて話をしてしまわれるので誤解を招くことが多いのです。

 いつもでしたら私がそばにいて説明するのですが、ユウキ様のところへは私に一言も無くお一人で行かれてしまったので。

 きちんと15の状況と手伝ってほしい任務の内容をお伝えした上で、ユウキ様へお願いするべきだったのでしょうが、とにかくリーシャ様は言葉足らずなのです」


 リーシャが顔を赤らめて下を向いた。


「しかも、言い方が上からなので余計に誤解を招いてしまう。

 ユウキ様へは、無理を承知でいちかばちかの賭けのようなつもりで提案なさったものと思います。

 騙して連れて行くとか強制的なものではありません。

 ですが不快な思いをさせてしまったこと、深くお詫びいたします」

 ベスがテーブルに額がつくほど頭を下げた。

 するとリーシャも立ち上がって頭を下げた。


「あ……いや。

 俺も熱くなってしまってすまない。

 もういいから。

 でも、どうして俺だったの?」

 ユウキがリーシャに聞いた。


「それは……ユウキが特殊なフォース持ちだって聞いたから。

 ただそれだけ」


 ただそれだけというリーシャの言葉にユウキは拍子抜けしてしまった。

 リーシャのその行為は、助けてもらえそうな人間に哀願する野良猫のようだと思った。

 15を救いたい一身で自分以外の人たちにも働きかけをしていたのかと思うとユウキは胸が痛んだ。


(王女なのに……こうやって慣れない頼み事をし続けてきたのか。

 本当に……ただ素直に俺を頼ったんだな、この子)


 マコトが手をパンパンとたたいた。

「さあ、この話はもう終わり。

 リーシャも謝ったしユウキも許した。

 一件落着ってな」


「あの……ちょっと質問」

 ハルが遠慮がちに手をあげた。

「お、なんだハル言ってみろ」

 マコトが言った。


「21の人たちは無条件で15を救うことにしたの?

 だって別の世界のことでしょ?」


「ああ、それはな。

 15へ移民した21民はもう50万人を越えているんだ。

 リーシャが21に来た同じ時期に、15から逃げるように帰ってきた他の者たちの現状報告を受けて国は腰を上げた。

 それだけの数の21民を放っておけないからな」


「50万って……そんなに移住していたのか、知らなかった」

 サトルが驚いた様子で言った。


「それで15の問題を解決するためにマクベスプロジェクトなるものが発足して、すぐに15へ兵士を大量に送り込んだ。

 その中にはおれの知り合いのゼロ民もいた。

 当初の計画ではセンターに集めた人たちを21に避難させるのは容易だと考えられていた。

 ところが15へ送ったシップがことごとく戻らなくなりその計画は頓挫した。

 15から戻れなくなった身内や知り合いをもつ者は21の国の重鎮やVIP企業にも多くいる。

 それが幸いして、その後も15へ兵や研究者を送ることは止まらずにいる。

 1つも戻って来ていないがな。

 今ではあちらの状況がいっさいつかめなくなってしまった。

 ことによるとすでにそのセンターと呼ばれるコロニーも壊滅しているかもしれない」


 リーシャが固く口を結んだ。

「そんなことありません!

 軽々しく言わないでください!」

 リーシャの心情を察したベスが口を挟んだ。


「あ……ああ、すまない。

 だがな、リーシャ。

 15へは戻らずに21にとどまるという選択もできるんだ。

 考えてみたらどうだ?」


 リーシャはテーブルに目を落としたまま何も答えない。


(大きな問題をかかえた15へ俺が行くことはまずない。

 本物の命をかけて化け物と戦う世界なんて絶対嫌だ。

 じゃあ俺は何を望む。

 無事にゼロに帰ること?

 あそこで生きて行きたいのか?

 正直、今は21に残りたい気持ちの方が勝ってる)


「私は何があっても、家族のいる15に戻ります」

 顔をあげてはっきりとそう言ったリーシャの横顔をユウキは見つめた。


(彼女のこの固い意志は王族としての義務か?

 それとも家族のそばに戻りたいから?

 王族でもないし家族のいない俺に、リーシャの気持ちは理解できない。

 ただ、この子が必死に道を探していることと、不器用な女の子であることは理解できた)


「そうか。まだしばらく時間はある、考えてみるんだ」

 マコトがリーシャに言った。


 電子音がしてユウキとハルにメッセージが届いた。

「明日チップ交換並びに全階級の顔合わせが行われる。

 赤組特設会場に朝8時に集合」


「明日朝8時だって……。

 もう遅いし帰らなきゃ」

 ハルがそう言うとリーシャが立ち上がった。


「上級戦まで上がってきてくださいねユウキ」

「え?」

 リーシャが大きな青い瞳でユウキを見つめた。


「15に誘ったことは忘れてください。

 あなたとの思い出に上級戦で戦いたい」

 それだけ言うと瞳をふせるように視線をそらしてリーシャは後ろを向いた。


「マコト、帰ります」

「あ……ああ、下に行こう。ちょっと送ってくるな」

 マコトとリーシャが階段に向けて歩き出し、ベスはユウキたちに頭をさげた。

 3人が階段を降りていくのを見届けるとユウキたちはそれぞれがため息をついた。


「上級戦まで上がってきて……だって」

 そう言ってユウキはサトルを見た。


「ああ、そう言ってたな。

 彼女は国の客だからマクベス側で参加するんだろう。上級組でな。

 まあ俺も上級組だけど!

 ユウキ、ハル、2人とも上がってこいよ」


「なんかえらそうだなサトル!」

「ハハハ、えらいもん!」

「こいつ!」

 ユウキがサトルの頭を腕で抱え込んで締め付けた。

「キャハハ」

 それを見たハルが笑っている。


(サトルか俺が21に残ることになったら3人でふざけ合える時間も終わってしまうのか。

 それも嫌だな……)

 ユウキは笑いながらも寂しさを感じた。

 ゼロに帰るか21に残るかはまだ決めていないが、15に行くことだけは選ばないと確信していた。

(それにしても……どの世界がいいかなんて、贅沢な選択だな。

 せっかく世界を選べるのにリーシャには15しかないのか……)


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