別の世界への誘い
本日は1話のみ、13時の予約投稿です。
エッグブースから冒険者の村の食堂に戻り、その後は宴会が始まった。
ユウキはサトルを探すことも忘れるほど疲れてしまいすぐに宿泊施設に戻りたかった。
シュリに帰りたいと話すとシュリは人を手配しユウキをグリーンゲート社の施設に送らせた。
部屋へ戻ったユウキはベッドに寝転がると安心したせいか眠気が襲ってきた。
そこへ電子音がしてメッセージが届く。
『30日9時 本戦参加者(下級戦士)50名 発表予定』
(訳あり冒険者と言われる集団の中に運営やその他の企業の人間が何人いるのかはわからない。
でも少なくともゼロ民は100名以上がふるい落とされる。
いろんな意味で救われた人が多い気はするが実際はわからない。
みんな同じじゃないから……)
ユウキは自分よりゲーム参加を望む人にかわってあげたかった。
そして思ったより自分がゲームに執着していないことを不思議に思った。
(もっとのめりこむと思ったのに……)
VRゲームを数回した程度なのに過去の嫌な記憶が確実に軽くなっていることは自覚できた。
嫌な出来事は少しのきっかけで表に出てくるが、受け止める自分の気持ちには変化があった。
それは心が強くなったとかではなく鈍くなったという表現のほうが当てはまる。
(あの出来事を、たいしたことじゃないって片づけることはまだできないけど、あんなことを思い続けることが本当に無駄なことなんだって思える。前より動揺もしなくなった。
でもこれって……ゼロに帰ったらまた戻っちゃうのかな)
その頃、サンジェストたちは宴会ではなくアークエンジェル社の開発部でゲームの映像とデータの検証をしていた。
そこにはミラージュに呼び出された、ドルトルの部下のダルガスもいた。
「本戦のチップを入れ込みするタイミングで海賊ゲームに参加した者のデータ集積チップの回収をグリーンゲート社でお願いします。
椅子取りゲームに出ない者はこちらで回収しておきます」
ミラージュがダルガスに言った。
「わかりました」
「防具は、ユウキが壊してくれたことで、フォースが正常に伝達されたことが確認できました。
それと上位装備の海賊ジャックの耐久もテストできたので今後はこの仕様が主流になるかと。
海賊ゲームの中で起きた、ユウキが自分のフォースを周りに伝えた件ですが。
残念ですがあれは伝えたのではなくモブをかいして帯電したようなものでした。
ですが周りのフォース持ちの力が増幅されたことは事実です。
モブの代わりになるような媒体の挟み込みができれば、全員にフォースエネルギーを届ける仕組みが作れるかもしれません。
今そこをつきつめる必要があるかは疑問ですが。
それよりも興味深かったのは外界のフォース取り込みではないかと思われる現象があったことです。
ユウキではありませんが」
ミラージュはそう言いながらモニターにそのときの映像を流した。
「ほお、もしかして……15から来た娘か?」
「そうですサンジェスト様。15出身のリーシャです。
リーシャのエッグが外界からの帯電で故障しました。
そしてリーシャは海賊ゲームの途中で離脱となり……」
映像ではエッグから少し煙が上がっているように見え、シュリがミラージュの話を遮った。
「体は大丈夫だったのか?」
「はい、リーシャの体も脳波も問題はありませんでした。
今後その現象の検証を行うためにはエッグの物理的な囲いをなくすしかないかと。
直接本人の脳や体に外部のエネルギーを伝えられるようにするために、エッグの形状を大幅に変える必要があります」
「考え方を変えたらどうだ?
全ては現物の武器や防具のための仮想での実験だ。
であれば、全てを仮想で実現しなくても、あとは実体での使用をすすめてテストをすればいい。
ペトロ氏のアイデアはすばらしいが、少しもうろくしてるんじゃないか」
「サン!」
「ああ、失言した。つい本音が。ダルガスもいたんだったね」
ダルガスが苦笑いをしている。
「あの……チート者の検知が終了いたしましたので、ここでご報告しておきます」
ダルガスが遠慮がちに手を上げた。
ダルガスの報告は特定できていなかった残り2名のチート者の検知が成功したためソフトの販売は予定通りに行われるという内容だった。チート者はシイカ配下のモニークとマクベス配下のキャル。
シイカとマクベスは、グリーンゲートのテストに協力する形でチート者を紛れ込ませ、データ収集員とともにPTに配置した。検知された2名とデータ収集員2名は、チップが正常のものと置き換えられたあとそれぞれ赤組と白組の中級戦士として登録される。
「防具のテストに関しましては感謝しかありません。
海賊ゲームでテストをしていただいて本当に助かりました。
大金がかかったゲームで失敗するわけにはいきませんので」
ダルガスが額の汗をぬぐいながらそう言った。
「私は別に失敗してもいいが、出資者である国とシイカが怒るだろうな。
国からは……マクベスからは15についての進捗報告はあったか?」
「マクベス様からではないのですが、国側に入れている者からの報告で、大変なことがわかりました。
正直、ゲーム装備のことやチート対策用ソフトの話をしている場合ではない事態が起きているかもしれません」
「それはどういう意味だ?」
シュリが怪訝そうにたずねた。
「実は、21からのワームホールが全て使えなくなりそうだと……」
「なっ……どういうことだ!」
シュリが顔色をかえ詰め寄った。
「国から正式に伝えられた話ではないことをあらかじめ申し上げておきます。
ここへ来ることをペトロ様に伝えると、そのことをサンジェスト様の耳にいれておくようにと言われまして。
ご存じのように、国は毎日のように様々な磁場帯に向けてワームホールを試しています。
今までの場所に変化がないかも合せてそのテストを繰り返しているわけですが。
以前はすぐに作れていたワームホールが数日に1回になり、中にはまったく作れなくなった場所もあるそうです。
そして15へも現在は1ヶ月に1度作れるかどうか、毎日作れていたゼロに関しても作れない日が出てきているそうです」
「なんてことだ……」
困惑するシュリや他の者の中で、サンジェストだけは落ちついた様子だった。
「時空がゆがみ始めたのか。
やってはいけないことを、やりすぎたのだ」
そこにいた誰もが心の奥で思っていたことをサンジェストがさらりと言った。
「この度の椅子取りゲーム参加者は全員ゼロに帰すそうです。
すでにこちらで生活をしているゼロ民をどうするのかはわかりませんが」
ダルガスが言った。
「21は時空の狭間に追いやられるということなのか……。
他の世界と行き来ができないだけなら問題はないが」
サンジェストはいたって冷静だった。
「いずれにしましても15への渡航は今回が最後になるでしょう。
あちらでの問題が解決できたとしても21へ戻ることは叶わないかもしれません。
今度はこちらが閉じてしまうわけですから……」
ダルガスの説明を聞いた一同はサンジェスト以外押し黙ってしまった。
「15へ行ったままの者は連れ戻せない可能性が高くなったか。
せめてワイトの問題だけでも解決したいが。
マクベスめ、そんな大事を隠していたのか。
この件は明日、私が国に確認に行く。
シュリ、ゲームは君にまかせる」
「はい、承知しました」
シュリはサンジェストに頭を下げた。
眠りについたばかりのときに、ユウキの部屋に誰かがたずねて来た。
(だれだよ……ねむい……。 くそっ……!)
気合いをいれて上体を起こすと、入り口のモニターに向かった。
モニターの向こうには見たことのない女の子が立っていた。
「えと……だれ?」
ユウキが話しかけるが、女の子はモニターに視線は向けず、伏し目がちに黙ったままだ。
仕方なくユウキは扉を開けるボタンを押した。
招き入れる前に部屋に入ってきたその子はユウキの胸辺りの身長で、そこからにらむようにユウキを見上げた。
「ちょっ……なにかな」
「あなた、ユウキでしょ?」
つかつかと部屋に入ると腕組みをしてユウキを見た。
ゆるいウェーブのきいた長く赤い髪が、彼女が動くたびにたおやかに揺れて良い香りを振りまいた。
(きれいな髪……それに良いにおい)
その少女の登場に圧倒されたユウキはなぜか顔が赤くなった。
「そ……そうだけど。えと君は?」
「私はリーシャ」
端正な顔立ちだからこそ際立つ大きな青い瞳からユウキは目が離せなかった。
(やばい俺……見つめまくってる)
「あなたのフォース特別なんですってね。
あなたとはタイプが違うけれど私のフォースも特別なの」
(か……かわいいけど、何言ってるんだこの子?)
「突然来てなんなんだよ。
フォースの自慢なんて聞く気もするつもりもない。
そんな話なら出て行ってくれないか。
俺は眠りたいんだ」
指を口にあてながら戸惑った様子のリーシャは、少し顔を赤らめながら言った。
「一緒に……PW-15へ行ってほしい」
「は……はあ? なんの話だよ。
21に来たばかりなのに、どうして15へとか……わけわかんないよ。
だいいちなんで俺なんだよ、初対面だろ俺たち」
そのとき、再び電子音がして開いたパネルにサトルが映った。
「ユウキ、すぐに帰ったって聞いたけど体調が悪いのか?」
「あ……いや、ちょっと疲れただけ」
リーシャに目を向けたユウキは、少し離れるようにリーシャに手で合図をした。
部屋に女の子がいることがサトルに知られても問題はないが、説明するのが面倒だった。
1つしかない椅子にはにユウキが座っているため仕方なくリーシャはベッドに腰を下ろした。
「ゲーム前にサトルを見かけたから探そうと思ったけど帰ってきちゃった。
ゲーム中は人を見る余裕すらなかったし」
「そうか、俺はデータ収集員だったから、少し離れたところで機械のような役割をしていたよ。
戦いの場にはいたが、戦ってはいない。
おまえの活躍はばっちり見ていた。
まあ、ゆっくり休め。
本戦までアークエンジェル社の施設にいることになったから、そっちには帰れない。
何かあったらモニターしてくれ」
「わかった。 発表……明日だよな」
「おまえも俺も訳ありだから外されることはない」
「そうか……」
(俺なんかよりもっとゲームに参加したい人もいたんだろうな……)
モニターを切ってから、少しやる気がなくなってきた自分がいたことに気づいた。
(俺……ひょっとして帰りたくなってる?)
リーシャを見るとベッドで眠ってしまっていた。
あどけない寝顔で無防備に横たわるリーシャを見たユウキはなぜか起こす気が失せてしまった。
ベッドの端に腰を下ろしリーシャを見つめた。
(かわいいよな……言ってることは意味不明だけど)
リーシャの頬にかかる髪をどかしてみたいが触れて良いものか迷った。
ドキドキして耳が熱くなるのを感じた。
思い切って気づかれないようにそっと髪をどかした。
座ったまま、上体をベッドに倒してリーシャの顔を眺めた。
そしてユウキはそのまま眠ってしまった。
部屋のインターホンが鳴りユウキは目を覚ました。
はっとして部屋を見渡したがそこにリーシャの姿はなかった。
入り口のモニターにはハルが映っていた。
「ヤッホ! お疲れユウキ」
部屋に招き入れると、ハルから飲み物や軽食を渡された。
「ありがとう」
「ユウキ大活躍だったってサトルから聞いたよ!
様子みてこいって言われた」
「活躍なんて別に……なんか疲れた。
モニターでもよかったのにわざわざお疲れを言いに来てくれたの?」
「ちょっと顔をみて話がしたかっただけ」
「よーし……じゃあじっくり見ていけよ!」
そういってハルの額にユウキはおでこをぶつけた。
「いったーい!」
それから2人でこの数日の間の出来事を話した。
「ゼロにいた頃、いろいろ思い悩んでいたことが馬鹿らしく感じる」
ハルがしみじみとそう言った。
「ゼロにいたら現状から逃げるのはなかなかできないよな。
こんな心の脱出方法があったなんて、悩んでる人に教えたいよ」
ユウキはハルからもらったジュースを開けた。
「サトルとも話たんだけど、私ね、目標ができた。
帰ったら勉強してこんな世界を作りたい」
そう言ったハルの目は輝いていた。
「まあ、すぐには無理だけど。
結果がでるのは次の世代でもいい。
こんな世界を作るために必死に勉強して働きたい」
ユウキはハルの頭に手を置いた。
「いいね!」
「ゼロで悩んだ日々も無駄じゃ無かったよ。
あのとき考えたことや苦しんだこと全てが心の栄養になった気がする。
だから……死ななくてよかった」
「そうだな……ほんとうに。生きていてよかったな」
「明日発表でしょ?
PT成績1位2位は無条件で残れるんだって。
PT40は最下位から2位になったから私は残れるみたい。
本戦が終わったら私はゼロに帰るね。
今はそれが楽しみ!」
「そうか……そんなに早く帰ってしまうのか。
ハルは本当にふっきれたんだな。
帰るって聞くと終わっちゃうのかって、ちょっと寂しくなる」
(そうだった、ここでの生活は永遠じゃないんだ)
「確かにそうだね。
クリスマスが終わっちゃうとかお祭りが終わっちゃうとか……日曜日が終わっちゃうとか!」
「ぶっ! 同じ程度の話なのか?
まあでもそんな感じかな。
この世界に以外と執着しなかった自分に驚いたよ」
(執着はしてないけど、なんだこの切ない感じは)
「それね、私も。
もっとここにいてゲーム三昧したくなるかと思った。
ゲームボックスで満足したというか、あれだけで変われたというか。
燃焼したって感じ!」
「うん、頭や心にくらった刺激としては最上級だったな。
でも満足かといわれると……どうだろうまだ満足まではいかないかな俺は」
(そう……満足はしていない)
「じゃあユウキは一緒に帰らない?」
「俺は……」
そのときなぜか、リーシャが『一緒にPW-15へ行ってほしい』と言ったことが頭をよぎった。
別に行く義理も必要もないが、ゼロに帰るということをなぜかためらった。
(15って何があるんだ?
今はそこに行くという考えはないけど。
21を去ることや15へ行かなかったことで俺は後悔しないだろうか……)
「まだわからないかな。
帰りたい気持ちが出てきたのは確かだけど、残りたい気持ちもある」
「そっか……」
電子音がしてユウキとハルにメッセージが届いた。
『明日10月30日は本戦出場の下級戦士が発表されます。
発表前の朝8時に下級組は全員、グリーンゲート社の赤組特設会場に集合してください」
「なんだろうね……全員って。
ゼロに帰るかどうかはまた今度話そうね。
とりあえず今は本戦がんばろう!」
「ああ、そうだな」




