表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/71

海賊ゲーム

 ◇

 ミルズとの戦いで不具合が出たダガーは、グリーンゲート社でインターフェース回路のフォースの容量判定部分の作り直しが行われゴーレム戦で使用された。

 テストが不十分なそのダガーの使用にあたり、グリーンゲートからユウキをテスト要員にしたいとの申し出があった。

 サンジェストはアークエンジェル社と共同テストを行うことを条件にそれを許可した。

 ゴーレム戦のときにはアークエンジェルの開発部員がグリーンゲートに派遣され、改良された武器や装備でユウキに問題が生じないよう万全の体制が取られた。

 結果、ダガーの不具合の解消は確認できた。

 だが防具はフォース伝達のデータ取得にまたも失敗し、フォースがまったく伝わっていないことがわかった。


「ミラージュさん、グリーンゲートまた失敗しました」

 アークエンジェル社の開発部で、助手がうれしそうにミラージュにそう言った。

「言っただろう? 失敗するって。

 いつも高いところから物を言うくせに技術はお粗末なものだ」

 開発部長であるミラージュは少し笑いながらそう言った。


「グリーンゲートのダルガスに連絡をいれてくれ。

 こっちでテストを行うからすぐ来いと」

「了解しました」

 助手がすぐに手元のモニターで連絡をいれた。


 ミラージュはグリーンゲートが失敗することがわかっていた。

 その上で、海賊ゲームでフォース防具のテストをする手はずを整えていた。

 当然サンジェストは全て承知していた。

 問題がどこにあるか知っていながらグリーンゲートに教えなかったのは、ミラージュが研究者としての差をみせつけたかったのか、単に意地悪をしたかっただけなのかは不明だ。

 だがとにかく問題点を修正した『海賊装備』を準備し、更にはユウキの容量がオーバーすることも想定し上位互換の『海賊ジャック装備』も準備していた。

 そして参加者にはいつもの『海賊装備』として装着させた。

 ◇



『開始5秒前、4、3、2、1……』


 バトルボックスのようなウォータースライダーはなく、いきなり船上にダイブした。

 しかも全員、装備の見た目が海賊コスチュームだ。

 あたまにターバンやら海賊マークのついた帽子、布の腰ベルト、女の子は白いブラウスの子もいる。


(かっこいい! テンション上がる!

 って……あれ? 俺の海賊衣装……なんで緑なの?

 カッコ悪いし恥ずかしいんですけど!)

 近くにいる人たちは黒や茶色なのに、なぜかユウキは緑のコスチュームだった。


 握ったショートソードは、すでにうっすらと光を帯びている。

(微量のフォースでも光るってシュリが言ってたけど、戦ってもいないのにもう出てるってことか?)


 シュリがメインモニターに映し出された。

「初心者の諸君はモニターを切って音声だけにしてね。

 モニターついてると(わずら)わしいから」

 音声ゲージは部隊音声とPT音声の2つがあり、話す側がどちかを選択することで、聞く側の対照のゲージが点滅する。


「ホバーボード オンにして。

 初めて乗る人もいるけど、操縦は難しくないよ。

 ホバーボードは海上戦ではどのゲームでも提供される道具で、スケボーと似ている。

 これで空中を飛びながら戦うんだ。

 壊れたら待機10秒で復活。

 ホバーと言えば出てくるからね

 水中に落ちても拾ってくれる優れものだ。

 ボスタイムのカウントダウンが始まったらみんな船から飛び立って攻撃開始。

 船は距離をとっておくから、何かあったらすぐもどること」


「了解!」

 部隊員が口々に叫んだ。


 シュリの指示は的確だった。

 だが部隊長のサンジェストは真っ赤なホバーボードに乗って旋回したりしているだけだった。

(頼れるのは優秀な副官か……)


 のんびり構えていてPTメンバーを探すことを忘れていたユウキのもとに、ホバーボードでメンバーが集まってきた。

(青、黄色、水色……このPTだけコスの色がおかしい! 絶対サンの趣味だ!)


 ユウキ以外のメンバーは、サンジェストとチャム、赤組中級者のレモン、それと本戦では敵になる白組上級者のキンジャルがいた。

 自分の緑の装備の色は気に入らないが、レモンの黄色だけは許せると思った。



『ベルクーガスが出現します』


 その音声の直後、海上のかなり先のほうの水がもりあがり山のようになった。

 ゴゴゴーっと海上なのに地響きのような音が鳴り、沖のほうにあるその水の山がすごい勢いでこちらに向かってくる。


「船に近づけるな! 飛び出して海上で迎え撃て!」

 シュリの号令で一斉に飛び立った。


「回復は引き受けます!」

 PT音声でチャムが叫んだ。

「ボーガンで援護するので腕の切り落としを試しましょう!」

「いや待て、レモン。反射が付いている。

 ダメージも簡単には入らないだろうし、反射でこちらが被弾し続けることになる」

 キンジャルがレモンに言った。

「じゃあどうするのよ!」

「とりあえずサンジェスト様がPTゲージからはずれてしまっているからそこへ行こう」

 PTゲージ内にいればマップ上に赤い点で表示されるが外れるとオレンジ色に変わる。

 範囲は20メートル。


 サンジェストは、はるか遠くですでにベルクーガスに攻撃を加えていた。

 1人だけ真っ赤な海賊装備だからすぐにわかる。


 PTゲージからはずれてしまっているサンジェストの近くまで行くと生命力が1割ほど削れていた。

 チャムがすかさず回復玉を連打する。


「おお、回復ありがと!

 反射で削れてしまうがダメージも少しは入る。

 前回もそうだったからね。

 まだ手段が思いつかないからとりあえずたたく。

 みんなもたたいて!」

(お山の大将とはこういう人のことを言うんだろう……)


 仕方なさそうにキンジャルもレモンもサンジェストのそばで、何の策もたてずに攻撃を始めた。


「ユウキ、あのときみたいに弱点を探れないですか?」

 チャムに言われてユウキはその可能性を試したくなった。


(ゴーレムのときのあの方法が通用するかわからない。

 あの時は体も心も高揚していて必死だった。

 まだ戦いを始めていないこの状態でもそれが可能か……。

 でも試してみたい!)


「チャム、やってみるよ。

 気づかせてくれてありがとう」


「あ……はい!」

 チャムは元気に返事をかえして、満面の笑みで横に浮いているユウキを見た。


「ちょっと何わけのわからないこと言ってるのよ。

 戦いなさい下級組!

 戦い方がわからないなら少しでも敵の……」

 レモンがいらだった様子で文句を言い始めた。


「ユウキ、もしかしてあのゴーレムの時のようなことをやるのかい?

 間近で見ることができるなんて感激だ」

 サンジェストのその一言でレモンは黙ってしまった。


「うまくいくかわかりませんが……やってみます!」

 そう言うとユウキはベルクーガスの背後に飛んだ。


「な……なにが始まるんだ?」

 話が見えないキンジャルは戸惑った様子だ。


 ユウキはショートソードのブレードを額にあて通じ合いたいと願った。

 ブレードが徐々に輝きを増していき熱を帯びた。

 ユウキはソードの先をベルクーガスへ向けて叫んだ。


「熱をみせろーー!」


 ソードの先から小さな稲妻のような光が2本、ベルクーガスの眉間と水中にむかって走った。

(できた!)


「今光った場所がベルクーガスの急所です!」

 ユウキがPT音声で叫んだ。


「おお! すばらしいよユウキ!」

 サンジェストは部隊音声に切り替えた。

「みんな、今からユウキが敵の急所を見せてくれる。

 そこをたたくんだ! ユウキ、もう一度やって!」


 ユウキのソードの先から再び稲妻のような光がベルクーガスの眉間と水中にむかって走った。

「見たか! その光が指す場所が急所だ!」


 サンジェストが叫んだあと部隊は一瞬静まり返ったが、すぐに歓声や雄たけびが聞こえた。


「おい水中ってどこだ?」

「わからなきゃ眉間から攻撃しろや!」

「そりゃそうだ! ガハハ」

 部隊音声は一挙ににぎやかになった。


 サンジェストが近づいて来た。

「ユウキ、ついてきて。 水に潜るよ。

 潜れる時間は3分。浮上してインターバル20秒でまた3分間潜れる」


「あ……あの。俺たちも一緒に」

 キンジャルが遠慮がちにそう言った。

 サンジェストがふりむくとメンバーはみんな集まってきていた。


「そっか……ごめん。いつも1人で走ってしまう。みんなで行こう!

 あ、それと私のことはサンって呼んでね!」

「了解しました、サン!」

 キンジャルがうれしそうにそう言った。


 ユウキは海上で再び急所を指し示す光を出し、サンジェストとキンジャルが位置を確認するために水に潜った。

 部隊の他のPTは、みんな眉間を攻撃している。


 海中から浮上したときに2人は2割ほど生命力が削られていて、すぐにチャムが回復をした。


「急所は蛇のような胴の先についている尾びれの部分だった。

 そこに鱗はないから反射はされない」


 サンジェストはそういうと、部隊音声で応援を要請した。

「ミナトこっちに来て!」


「水中の胴と尾びれはたえず動いていて、それで巻き起こっている水流が体にあたると、すさまじく痛い。ずっと攻撃をされているような状況だ」

 キンジャルが言った。


 すぐにミナトのPTは連結され、モニター左側のメンバー名の下に5名の名前が追加された。


「すごいねユウキ。 よくやった」

 近づいて来たミナトはユウキの頭に手をおきPT音声で話しかけた。

「あ……はい! ありがとうございます!」

 褒められたことも役にたてたことも素直にうれしかった。

 人と関わることを嫌い、どう思われようと気にしなかったユウキは仲間と一緒に何かを成そうとする喜びを感じていた。


 回復役以外は全員水中にもぐり、尾びれへのアタック、浮上してインターバルの間に回復、そしてまた潜る……それを繰り返した。

 ボウガンは水流でほとんど役にたたず、近距離攻撃者も水流で押し戻され、なかなか尾びれまで近づくことができなかった。


(もっと速く、もっと強く!)

 ユウキはそう自分に言い聞かせ、水流にもまれながらあがいたが、どうしても届かない。


 そのとき、海上にいたはずのチャムがものすごい勢いで水中に落ちてきた。

 ベルクーガスにたたき落とされ、意識のないチャムは水流に翻弄されながら沈んでいく。


(チャム!)

 ユウキはすぐにチャムを追いかけたが、チャムの体はどんどん底に押し流されていく。


(ダメーー!)

 そう心で叫んだ瞬間、ユウキの着ていた装備は熱くなり、ボロボロと崩れ始めた。

 そんなことはお構いなしにユウキはチャムを追いかける。


 フラッシュバックだった。

 沈んでいくチャムの姿が、炎の中に消えていく妹の姿と重なった。


(ただのゲームだ。終わればまたチャムには会える。

 でも……今、彼女を見捨てることは絶対にできない!)


 ◇

 ユウキの装備が崩れたことで、開発部がにわかに騒がしくなった。

「ミラージュさん、海賊の装備が!」

「ああ、興奮するねえ。

 フォース装備、海賊ジャックをあの子に着せろ!今すぐに!」

「し……しかしアクティブ中に。

 わかりました上書きします。フリーズしないことを祈って!」

 ◇


 追いかけていた視界が真っ暗になり、何もかもが止まった。

(な……なに……動けない)


 だが視界はすぐに戻り、再びユウキは水流の中にいた。

 なぜか周囲が白く輝き、水流をものともしない。

 目に入った手元の装備の色が、緑ではなく白と黒にかわっていて、輝いていたのは自分自身だった。


(水の抵抗を感じない、それに前よりも速く移動できる。

 随分長くいるはずだけど呼吸もまったく苦しくない。

 いける! チャム、絶対助けるから!)


 ユウキはすぐにチャムに追いつき、片手で腰を強く抱きしめた。


(あがれー!)

 声に出したわけではなく思っただけなのに、水中をつきぬけ上空まで飛び出した。

 水中から一直線に飛び出してきたユウキを見た部隊員は、攻撃の手がとまり唖然とした。


 ユウキはすぐにホバーを出してチャムをかかえて船に戻った。

 その姿を見たシュリは驚きながらも状況を察し、チャムを引き取りながらこう言った。


「凛々しいねユウキ。その装備よく似合っているよ」

 照れくさくて赤面すると、ユウキは何も言わずにその場を飛び立った。


 ベルクーガスのもとに戻ると、既に30分ほど経過しているにも関わらず、モブのダメージは1割程度で、人数もかなり減っていた。


(1割けずれているということは、反射抵抗を越えた状況があったということか。

 攻撃数か……それとも重なった攻撃力か。

 いずれにしても、ダメージを与えることができているということだ。

 攻撃速度と攻撃力を増幅できれば、反射があってもダメージは入るはずだ。

 増幅ができる方法なんて思いつかないけど……。

 タイムアップは1時間だ。ぐずぐずしていられない)


 ユウキは一直線に水中にダイブして、尾びれを叩きにかかった。

 水中で体をひねりながら2本のソードを重ねるように尾びれに突き刺した。

 刺したと同時に尾びれは一瞬で砕け散り、小さな破片がハラハラと水の中に散っていった。


「ナイスだ、ユウキ!」

 キンジャルが叫んだ。

 急所を壊したからこれで終わりかと誰もが思った次の瞬間、先が見えないほどの大量の泡がわいた。

 そして尾が切れた胴の部分から足が生え出した。

 水中にいたメンバーは一斉にホバーで水中から飛びだった。


「やってくれるね開発部。これが僕へのプレゼントかな?」

 サンジェストの声は喜んでいるようだった。


 このタイミングでサンジェストも含め全員の装備が、ユウキと同じフォース装備である海賊ジャックに置き換わった。


「なんで赤じゃないんだよ!」

 サンジェストが怒鳴った。

(いや怒ることろ間違ってるから……)


 足が生えたベルクーガスは立ち上がると、もとの2倍ほどの高さになっていた。


「熱を見せろ!」

 ユウキが叫ぶと、今度は急所が3か所になった。

 眉間と両足の水中に入っている部分。


「上位装備の試しどきだ!

 全員、眉間を狙え!

 今から部隊バフをかける。

 攻撃力・防御力+20%、時間は5分。

 この5分にかける!」

 サンジェストがそう号令をかけ、部隊バフをかけると、一斉攻撃が始まった。


(俺にもっと何かできることは……俺のこの力を分けられないか?

 みんなの攻撃速度と攻撃力を増幅させたい!)

 ユウキは額にブレードをあてたあと、ショートソードを正面に向けた。


「とどけ、俺の力!」


 すると、体全体が金色に輝き眩しい光と共に、赤い光の線が、部隊員たちの体を通り抜けた。

 何カ所かで雄たけびがあがり、フォース武器に強い光を纏う(まとう)者が出始めた。


「ユウキ! 私のソードが強烈に光り始めたよ! すごいよ君!」

 サンジェストが大喜びしている。


「俺のは光らない! なんでだ!」

 キンジャルがものすごく不服そうにユウキを見る。


「アハハ……な……なんででしょうね」

(俺のせいじゃないのに!)


「悔しい! 私も光らない!」

 レモンも激しく怒っている。


 そこからはあっという間だった。

 海賊ジャック装備のおかげで強い攻撃を与えてもその反射で散る者はなく、部隊バフとユウキの力の恩恵を受けたフォース使いたちは眉間をめがけて遠慮なしに攻撃をたたき込むことができた。

 そして5分たらずでベルクーガスを倒した。

 眉間の正面を独占していたのはサンジェストだったが。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ