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冒険者の村

本日は1話のみ、13時の予約投稿です。

 ◇

「本日もグリーンゲートをご利用いただき誠にありがとうございます!

 いつものジェームズです!

 今日最初のボス戦を制したのはPT11でした! おめでとう!

 いよいよ明日30日は本戦への参加資格を勝ち取った冒険者の発表です! 

 公式サイトでは午前9時にUPされる予定です。みなさまお楽しみに!」

 ◇


 そこにいた冒険者は口々にお祝いの言葉をPT11に贈った。

 特に、ユウキに向けた賞賛の声と拍手が多い。

 ユウキは自分がボスを倒したこと以上に仲間の喜ぶ姿がうれしかった。


 周りの人たちを見渡しながら、今までの学校での自分の態度の浅はかさを改めて思い返した。

 小さな意地と傷つくことを恐れ、都合の良い言い訳を作って人を拒んでいた。

 そのことで気分を悪くした人や傷ついた人がいたかも知れない。


(拒まずに関わりをもっても、案外どうってことなかったのかも。

 でもあそこにいたら……きっとずっとそうは思えなかった。

 ゲームしてるだけで悩みや嫌なことをそぎ落とせるなら、ゼロにも早くこんな場所ができてほしい。

 自分の本質がかわるとは思えないけど、確実に対人スキルは上がった。

 それに……肌の色が違う人たちが一緒に楽しんでいることもすごい)


 いろいろな肌の色をもった人が同じ思いで声をかけてくれている。

 ワールドゼロには国が違えば言葉の壁があるのに、ここにはそれがない。

 言葉が違うなら変換して伝達できてしまえば、他国の人間とつながるのは簡単だ。

 PW-21は当たり前にそれを実践している。


(ゼロにもこんな時代が来るんだろうか……)

 ボスを倒したうれしさで興奮しながらも、ユウキはなぜかそんなことを考えていた。


「あのさー、おまえ、なんか隠してるんじゃねーの?」

 聞き覚えのある声が、集まった人たちの後ろから聞こえてきた。

 誰かが人垣をかきわけながら前に進んでくる。

 近づいてきたのはミルズだった。


「ミルズてめぇ、近寄るんじゃねえ」

 バシュがにらみながら威嚇した。


「あ……あいかわらず乱暴な物言いだなぁバシュよ。同じPTだったじゃ……」

「きやすく俺の名前を呼ぶんじゃねぇ!」


「ご……ごめんよ。君に用があったわけじゃないから」

 そう言って、ミルズはキッとユウキをにらんだ。


「みんな! ここにいるユウキは俺の個人戦の相手だった。

 新装備の不具合で俺は負けたわけだが、あのとき感じたんだ。

 こいつ変な力だしてるってな。

 だから武器に不具合がでたんだよ!

 こいつは絶対チートだ!」


 まわりがざわつき始め、それまでの友好的な雰囲気は一挙になくなり冷ややかな視線がむけられた。

 一瞬で昔がフラッシュバックされ、いたましい事件を起こした犯人の家族として、人々から向けられた冷たい視線をユウキは思い出した。

 ユウキは耳ををふさいだまま動けなくなった。


 そのとき。

「おいシュリ、あいつを排除しろ」

 人垣がさっと左右にわかれると、金色の長い髪を束ねた長身の男性が現れて、ミルズを指して言った。


「了解、サン」

 そう言って、そばにいたシュリが当たりを見回した。

 シュリの鋭い眼光で威嚇されたような気がして、周りにいた者は目をそらした。


「そこの無知な君」

 シュリはミルズに向かってそう言った。

「ユウキはチートじゃない。

 君と違って優秀なだけだ。

 残念だが君は、ゼロに送り返される」


「なっ……ど……どうして」

 ミルズは動揺して顔を赤らめると、すぐにその場から立ち去った。


 颯爽(さっそう)と登場した2人は、革のトレンチコート……というより海賊のジャケットを羽織った、まさにカリブの海賊のコスプレをしているような出で立ちだった。

 そしてその後ろにはなぜかミナトがいて、ユウキに手をふっている。

 ミナトの姿を見たユウキは耳から手をはなして平常心を装った。


 イケメン2人の登場にチャムの目は完全にハートマーク……いや、その辺りにいる女子全員の目がハートマークになっていた。

 そのクールガイズは真っ直ぐユウキに向かってくる。

 今のやりとりを見て、地位のあるひとだと判断したユウキは席を立ち一礼した。

(俺って結構あざといな……)


「サンジェストだ。いいゲームだった。ついてきなさい」

 ユウキだけではなくそこにいた全員があっけにとられた。


「あの……いきなりそんな。申し訳ありませんが俺にも都合があります」

「プッ……」

 ユウキの返答にミナトは吹き出し、シュリは額に指をあてて苦笑いしている。

 このままではサンジェストの立場がなくなると思ったミナトが助け船をだした。


「ユウキ、君は……というよりこの中に、この方が誰だか知っている者はいないだろう。

 この方こそ、今回のフィールド提供企業アークエンジェル社の代表のサンジェスト様だ。

 ここが下界とすれば天界に住まわれるいわば神だ。

 たまたま今日下界に下りてこられたのだ。

 みんな礼を尽くしなさい!」

 かなり大げさな言い回しだったが、すごい人と言うメッセージは強烈に伝わった。


 そこにいた冒険者は一斉に胸に手をおいて敬礼した。

 そばにいるシュリは笑いをこらえている。


 サンジェストは片手をあげ、みんなに挨拶をしながらとても満足そうだった。

 ミナトがウインクをしたことでユウキも悟った。

 ここは素直に従ったほうが良いと。

 サンジェストの前に進み出て頭を上げた。


「知らなかったとはいえ、大変失礼しました。 お供いたします」

「そうか! よし行こう!」

 サンジェストはとてもうれしそうだった。


 シュリがユウキの肩に手をおいた。

「ユウキだね、私はシュリだ。 PTのみんなも一緒に連れてきなさい」

「はい!」


 ミナトはユウキを見てニッコリほほえんだ。

(ありがとう、ミナト。これでいいんだよね……)


 グリーンゲート社の100階にある、VIP専用カプセルカー乗り場へ行くと、アークエンジェルの社名入りで、真っ赤な縁取りがされたカプセルが待機場にあった。

 レース場のピットのような場所が何カ所かあり、そこにそのカプセルが移動してきた。 通常のカプセルの2倍ほどの長さがありドアマンもいる。


 サンジェストとシュリは先頭の扉がついた部屋に入った。

 他の者はカプセル内の側面にある椅子に座った。

 乗り込んで5分ほどで到着した建物は……真っ赤なアークエンジェル社のビルだった。


 そのビルの中にある『冒険者の村』とかかれた部屋に案内された。

 扉をあけるとそこはまるで、異世界ファンタジーの村の中だった。

 マッピングではなく本当に村が作られてる。

 食堂や果物屋もあり、中央の噴水のまわりには装備を整えた冒険者たちが話をしていた。


「すごい……ここも別世界だ……」

 思わずそう言って立ち止まってしまったユウキを見たサンジェストは、少年のように笑って言った。

「びっくりした? もっと感動させてあげるよ!」

 そう言ってユウキの手首をつかむと、先に見える大きな建物に向けて走り出した。


「なんかサンジェストって見た目とのギャップが激しく違うな……」

 小声でつぶやくバシュをレミが肘でどついた。


「ずるいなぁ、ユウキだけ手を引いてもらえて! 私もおいかけるのです!」

 チャムは2人のあとを追いかけた。


「そういえば……レミとアッガイはあまり驚かないんだな、この村を見て」

 バシュの問いかけにレミは少し気まずそうだった。

「ま……まあね。来たことあるから」

「僕のユウキたんを取られた気がする……」

「黙れアッガイ」


 サンジェストに連れられ、入った建物は大きな食堂だった。

 木造のその食堂の中はゲームでよく見かける酒場や食堂のような雰囲気で、20ほどの丸テーブルに椅子が数脚おかれ、すでにそこで冒険者が食事をしていた。

 1階から見上げると2階と3階はオーディエンス用の柵が作られ、そこから飲み物を片手に下をながめながら談笑する冒険者の姿も見えた。


「本当に冒険者の村だ……」

 あこがれても手が届かなかった異世界ファンタジーの風景がそこにあった。

 21に来たときは不安と恐れ、それにとまどいばかりで、今日ボスを倒したことでやっと喜びや感動を体験できたばかりだったが、ユウキにとってこの場所を見た感動はその上を行く。


(俺……本当に感動している。ここに来て良かった)

 うれしさで自然と涙が頬をつたい、自分でも驚いてユウキはすぐに涙をぬぐった。


「え……なぜ? なぜ泣くの?」

「あ……すみません。感動して、うれしすぎて涙がでてしまいました」


 そんなユウキをじっと見つめていたサンジェストは言った。

「お腹がすいていたんだね……どれほど食べていなかったんだい?

 安心して! 建物だけじゃないよ、料理もりっぱなんだから!」


(え?)

 なにかとても勘違いをされた気がした。


12月20日~26日までお休みです。

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