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時空超え

本日は1話のみ投稿です。


 ◇

「今宵もグリーンゲートをご利用いただき誠にありがとうございます!

 当プラットフォームで大人気の椅子取りゲームに再び高額の勝負が組まれました。

 該当フィールドでの対戦はこの1試合のみとなります。

 第2回マクベス様とシイカ様の試合の実況ならびに案内役を、前回に引き続きわたくしジェームズがさせていただきます。

 みなさま投げトークン及び賭け金をご準備の上、最後までこの戦いをおたのしみください!


 なお、ゲームの概要やルールの説明は毎日少しずつ皆様へご案内していきます!

 興味のない方はパネルをオフしても大丈夫!

 見逃しちゃった方はグリーンゲート社のサイトから読み込みしてください。

 それではゲームの概要から案内スタート!」

 ◇


 有樹はパソコンの画面をみながらため息をついた。

 今夜もいつもとかわらず、自分をネットにつなげる。

 ネット上では、他人を公然と批判、評価することは誰の許可を得ることもなく毎日繰り返され、真実かどうかの判定はされなくても人を善悪に振り分ける。


(こんなことが許される世の中って壊れている……)

 そう思いながら自分もその文字を必死に追いかけてしまう。

(いったい……俺は他人の何が知りたい)


 いじめを受けている訳ではなきが、周りからみたら有樹は孤独に見えた。

 クラスでの疎外感は前からだが、距離をおいたのは有樹の方からだった。


 数日前未遂に終わったが、同じクラスの女子が自ら命を絶とうとした。

 彼女は運良く、近くにいた人に止められて思いとどまった。

 かかわりのありそうな子たちは、とたんにおとなしくなった。


 その子、萩尾春香とは挨拶をかわす程度で会話らしい会話はしたことがない。

 彼女になにかあったのは誰でもわかる。

 その情報ほしさに大いにもりあがるクラスメイトのSNS。

 それに対して有樹の嫌悪感が限界を超えた。


(あーうざっ)


 そして今、SNSの全てのアカウントを削除した。

 そこに羅列される無駄な文字を見ないですむように。


(削除ってこんなに面倒なんだ。

 ワンクリックですぐ消せると思ったのに……。

 残っているキャッシュはあとで見回るしかないのかな……)


 有樹は萩尾春香に言いたかった。

 こんなやつらのせいで、自分を壊してしまうのはもったいないと。


「有樹、ご飯早く食べてね」

 そう階下から声をかける養母は、とてもやさしくてできた人だった。

 それだけに嫌な態度をとったり反抗することができなかった有樹は、行き場を失ったストレスを毎日育てていくことになった。

 養母が悪いわけじゃないのはわかっている。

 その不快感に理由などなかった。


「はーい」


 そのとき通知音が鳴りクラスで撮られた画像が送られてきた。

 笑顔で写る萩尾春香の後ろに俺が写っている。

(最悪……俺まで一緒にばらまかれるじゃん)


 送ってきた大野悟にメッセージを送った。

『俺も写ってるのになにしてくれてるの』

『よく見ろよ、おまえにしか送ってないよ(笑)』


『なんで俺に?』

『さあ、萩尾春香に頼まれたから』


(なんでだよ……)



 クラスメイトのラインは登録してはあっても、自分からは返事を返す程度、常に受け身の状態だった。

 親しくなかったから少しためらったが、萩尾春香へメッセージを送った。


『萩尾、体は大丈夫なの?

 なんで大野に画像送らせたのかな」

 萩尾春香のラインにメッセージを残しても既読にならない。


 仕方なく大野にメッセージを送った。

『萩尾春香の自宅の住所教えて』

『まかせなさい!』


 口も軽いけどフットワークも軽い大野からの通知は5分もかからなかった。

 会うかはわからないけれど、彼女の家へとりあえず行ってみたかった。


「綾子さんごめん、ちょっと出かけてくる。 帰ったら食べるから」

 そう言い残し有樹はその住所へ走り出した。

 どうしてそうしたかなんて、自分でもわからなかった。


 走り出してすぐに通知音が鳴り、萩尾春香らメッセージが届いた。


『佐々木君ありがとね。 屋上で待ってる』

 そのメッセージとともにMAPのURLがはられていて、そこは現在地から10分ほどで行ける場所だった。


 指定された場所は人通りが少ない道に立つ雑居ビルで、勝手に入っていいのか迷いながらも狭い階段を登った。

 屋上の扉に施錠はなく、扉を開けると少し肌寒い9月の風が勢いよく入ってきた。

 外にでると彼女は扉のそばでコンクリートの地べたに直に座っていた。


「萩尾……尻冷たくない?」

 一瞬おどろいた表情をした彼女はクスっと笑った。

「佐々木君……有樹でいいよね。

 自殺未遂のこと心配されるよりお尻の心配されるほうがうれしい」


 有樹も思わず笑ってしまい、今まで接点がなかった2人なのに笑い合った。


 春香は立ち上がりフェンスに向かって歩き出した。

 2人でフェンス越しに下をのぞくが、歩いている人が1人もいない。

 この町に人を見かけない場所があるのが不思議だった。


「あの赤い光りって飛行機の安全のためらしいよ」

「へえー」

 高層ビルの屋上で点滅する赤い光はだた見ているだけで会話の隙間をうめてくれる。


「負の連鎖を終わらせたくて……その締めが今回の自殺だった。未遂だったけど」

 何の前置きもなく、ただ漏れ出たような彼女の言葉は、すでに追い詰められた状況からは脱した感じがした。


「それで……連鎖は終わったんだろ?」

「そうだね。 もう終わったんだよね」


 新宿や渋谷なら無断で屋上にいける雑居ビルは簡単に探せる。

 以前、ビルの屋上の柵の外でそのへりに座って下をみている女の子がいた。

 気づいた人たちは警察に電話をしたり、ビルに入って説得をする人なんかもいて、みんなで女の子を止めようとしていた。


 誰かこっちを見て、そして止めて! 勢いでここに立ったけど、怖いし本当はやめたい……なんて声がビルの上で躊躇している女の子から聞こえてくるようだった。

 大勢の見ている目の前でダイブをするのは、死ぬこと以外の目的がある。

 本当に死ぬだけが目的なら……人目に付かないところでやるはずだから。


「人がたくさんいる場所で、ご丁寧に遺書まで持って飛び出す気だったんだ。

 そこまではとっても簡単で、思いつき程度の感情でできちゃった。

 目的はね……死ぬことじゃなくて復讐。

 実際に屋上の柵を超えて下を見たら、足がすくんで本当に怖った。

 歯を食いしばっても涙がとまらなくて。

 下を見るな、羽ばたくんでしょ私!……なんて気合いれちゃって」


「失敗してよかったな」

「うん」


 俺たちはまた明日から変わり映えのない毎日のルーティンをこなして高校生活を終えるだろう。

 変わったことと言えば……今夜2人の間に友情的な何かが生まれたこと。


「ちょっと変な話をするね。 もし気が向かなかったら……帰っていいから」

「な……なに?」

 やっかいな話ならすぐに逃げようと思った。


「一緒に冒険しない?」

「ち……ちょっと意味がわからない……」

(なんだかまずい方向に話がいきそう)


「パラレルワールドへ冒険をしに行こう!」

「え……?」


(この子は……心を病んじゃったのか?)

「何言ってんだ、しっかりしろよ。

 おまえおかしくなったのか? 」


「私、おかしくなんてなってないよ。

 有樹も……大変だったでしょ?

 一緒に冒険しに行こう!」


(おまえは……俺の何を知っている)


 その時屋上の扉が開いた。

「あれ……なんで佐々木がいるんだよ」


(ど……どういう展開だ)

「大野、おまえこそなんで登場してんだよ!」


「有樹、一緒に行こう。 不幸つながりで!」

(明るく不幸って言うな!)


「もう説明してる時間ないよ。 とりあえず約束の場所に行こう」


 そう言うと悟は2人の手を握り、フェンスのない屋上のへりからダイブした。

(ちょっ……まだ死にたくない!)


 このことがなかったら……卒業までは平凡でおだやかで安全な……安全な?

(そんなつまらない日常なんて……ほんとはいらなかった)


 高いビルから飛び降りたはずなのに……。

 すぐにコンクリートの地面があって、勢い余って3人でそこに転がった。

「いっつ……」

 下手をすれば足をくじいているところだった。


「わぁ! 血が出た」

 そう言いながらも萩尾春香は笑顔だった。


 よくみると同じビルの屋上に段差ができていて、そこに飛び降りただけだった。

 飛び降りた場所を下から見ると、その段差は1メートルもなかった。

 上からみたときはまったく気づかなかったが、そこには格納庫のようなものがあった。

 自分の体やあたり一面に、何かの画像が映りプロジェクションマッピングの中にいるようだ。

 その格納庫を隠すため目の錯覚を利用した屋上の画像を見せられていたんだと、そのとき気づいた。


(眩しい……)

 突然前方から強い光が向けられ、眩しすぎて目を閉じて手をかざした。

 ゆっくりと少し目をあけてみると、屋上に隠されていた円形の機体から強い光が放たれている。


「な……なにこれ」

 有樹は衝撃的すぎる展開でなにが疑問だったのかさえもわからなくなった。


「アハ……さながら巨大ルンバだな」

「そうだね! おっきいなあ」

(なんで2人は普通に会話してんだよ)


 3人でその機体に気を取られていると、後ろから何かを撃ち込まれた。

(もしかして……死んじゃう?)


 意識はあるが目も口も開けることはできず、体も動かすことはできなかった。

 ガシッっと堅い感触の何かが俺の体をつかみ移動していく。

 そして話し声が聞こえた。


「おい、あと5分だぞ」

「ああ、大丈夫だ」


(だれ? 何の会話? どうなってる俺……)


「早くしなさいよ!」

「へいへい」


 さっきの機体へ乗せられたのだろうか……外の風が感じられなくなった。


「今回は資料どおりだろうな?」

「ああ、でも1人増えてるな。 まあ大丈夫だろう」

「報酬が減らされないことを祈るよ」

「にしても悪趣味だよな。 どこが人助けなんだか」

「まあ俺たち庶民とは良くも悪くも頭の出来がちがうから、理解なんてできないよ」


(こいつらは誰だ……何のはなし……)


「時空越えまであと3分よ! 準備して!」



明日は1話のみ、13時の予約投稿です。


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