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第十一話 剣聖結界 ―エーテルと法術― Ⅲ

 太陽は完全に真南に有った。昼を少し過ぎた頃だ。

 中庭には準備を整えたレイとアデルが居る、ギズーとガズルは家の玄関口で煙草を吸いながらぼけーっとしている。最近の二人はこんな感じで一緒にいる事が多い。

 ガズルは勉強大好きっ子、ギズーはその類い希な医者としての資質。二人は共に医学という事で結ばれている。食後など暇さえあれば二人で今後の医学の事に語り合っているのも確かで、相当仲が良いと見受けられる。

 そしてレイとアデルも同様に、この二人はたったの二年間だが兄弟同然のように育てられてきた。勿論兄貴役はアデル、けなげな弟役はレイ。役者決めはカルナック本人だという。


「さて、インストール伝授の前に一つ調べておきたい事があります」

「はい」「なんだ?」


 レイとアデルは同時に返事を返した、二人はカルナックに言われたとおり武器を自分の前に置いている。レイの霊剣は地面に垂直に突き刺さっていて、アデルの剣は両方とも斜めに突き刺さっていた。因みに琥珀の人は静かに地面に横たわっている。


「私が言う事をこれから実際にやって貰い、その結果を私に教えて下さい。先ずは……レイ君」

「はい」

「目を閉じて、エーテルを練りなさい。そして最初に練ったときに頭の中に出た色を教えて下さい」

「色、ですか?」


 レイは何が何のことだか分からないままその場で静かに法術を練り始めた。

 レイの周りに微弱ながら風が集まっていき、その風はとても冷たく、凍てつくほどの風へと変わった。


「緑色、それに白っぽい水色です」

「緑に水色。典型的な癒しの法術ですね、緑色は"風"、白っぽい水色というのは多分"氷"の事でしょう。次ぎ、アデル」

「……エーテルねぇ」


 アデルもレイと同じように法術を練り始めた、法術を練り始めてから数秒後、アデルの足下から急に炎が上がった、そして髪の毛の色も少しずつだが赤く染まっていく。


(これは。そうですか、アデルは炎。何と皮肉な事だ)


「分かりました、アデルの場合は何も言わずに結構です。全く貴方らしい法術だ」

「って、そんなに分かりやすかったのか?」

「えぇ、コントロールはこの際下手でも何でも構いません。あなた方二人の能力は確かに見させて頂きました。今日の所はこれまで、ですが本日の夜に私の部屋に来なさい」


 そう言ってカルナックはまた部屋の方へと戻っていった。




 その夜、アデルとレイは二人そろってカルナックの部屋の前で出くわした。


「この時間だよね確か」

「らしいな、そろそろ頃合いかなって思ってよ。立ち話も何だしおやっさんの部屋の中に入るとするか」

「だな」


 こんこんとドアをノックするがカルナックからの返事はなかった、レイは首をかしげて数秒経ってからドアノブに手を掛けた。鍵は掛かっていなかった。


「先生、入りますよ?」


 レイがそっとドアから首を覗かせた、明かりはついていて、机の上で何かを書いているカルナックの姿があった、どうやら何か書物を書いていたらしい。

 カルナックはいったん何かに集中すると周りが見えなくなる事がある。それは今に始まった事ではない、昔から。例えるならアデルが養子としてうけ居られる前からの話らしい。


「おやっさん」


 カリカリと音を立てながら黙々と文字を書いている、アデルは背中から一刀両断とかかれたはりせんを取り出した。


「ちょっとアデル!」

「大丈夫だよ、こいつなら失神までは行かないけどこちらに気付かせる事ぐらいなら簡単に出来る」


 せーのと振りかぶって勢いよくそれをカルナックの頭目掛けて振り下ろした。スパコーンっと快調な音を立ててアデルは勢いに任せてカルナックをひっぱたいた。

 ズガンと大きな音がした瞬間カルナックは顔面をテーブルにぶつけた。


「あいたたた、誰です? 私に暴力を振るう人……って、アデル君でしたか」


 笑顔でメガネを直して笑う、頭をとんとんと叩いて少しばかり出ている鼻血を止めようとしていた。


「……さて、お二人をお呼びしたのは他でもない。インストールの事です」


 頭の後ろに回していた両手を自分の顎の所まで持っていき交差させる。そして少し上目状態で話を始めた。


「先ず、レイ君のエーテルは希少な多重属性(デュアル・コア)です。風を操り氷を発生させる。防御と補助を備えた万能型のエレメントが備わっています、貴方はまだまだ子供ですし、これから修行を積めばいくらでも強くなると思います。剣の腕もそれなりですから、良い法術剣士になれます」


 レイに目線を送りそれを話した、少し緊張していたレイはホッとして少しリラックスをして近くの椅子に座った。


「……問題はアデル、貴方です」

「俺に問題?」

「そうです、貴方は生まれつき法術が苦手なタイプです。貴方は法術剣士と言うよりは剣士に近い。ただ少し特異な剣士である事は明白です」

「それとインストールとどんな関係があるんだ?」


 アデルは少し強ばった声でそう言った、両手に握り拳を作り歯をギリっと音を立ててかみしめる。


「インストールとは、体内のエーテルを暴走させ、周囲のエレメントを取り込んで一時的に爆発的に強くなる。当然その身体に対するダメージは勿論、エーテルコントロールが上手く行かなければ精神状態はもちろん、ちゃんと活動出来るかどうか定かではない状態になります。言ってしまえばインストール失敗は後に来る自分自身への暴走を前提とした諸刃の剣。これがどういう意味をなすか分かりますね?」


 アデルは握り拳をほどいて少し後ろの方に後ずさりした、顔には変な汗と驚きの表情が有った。そして、カルナックの言った言葉の意味を受け入れようとはしなかった。いや、そんなもの受け入れたらどうにかなってしまう。それ程アデルには危険性のある物だった。


「おやっさん、それってつまり……」

「そう、貴方がインストールを習得してそれを使えば、後に残るのは……死だけ」


 ジジジと電球が音を立てて点滅を始めた、そしてアデルは何も言葉を発する事も出来ずに立ち尽くしていた。


専門用語


■エレメント

世界の至る所に存在する構成部質。

草や木、水等に宿る、それらを統一する精霊などが居る。


■エーテル

術者本人の魔力量の総称

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