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第十一話 剣聖結界 ―エーテルと法術― Ⅱ

 森の中、二人は肩を並べて歩いていた。

 レイの昔話を聞いたメルは本当にショックだったのだろう。先ほどからずっと下を向いたままだ。


「ははは、やっぱりまだこの話はきつかったかな?」


 場の空気を読んだのか、レイは少し明るめにふざけた感じでそう言った。だけどメルは俯いたままだった。


「何で」

「え?」

「何でレイ君はそんなに元気でいられるの? 何で無理をしてまで明るく振る舞うの。嫌だよ私、私は……私は未だ……私は未だレイ君の本当の笑顔を見てないって事じゃない!」


 レイのふざけた行動はそこで終わった。確かにそうかも知れない、レイ自身。生まれてこの方……いや、カルナックの元で暮らすようになってからは未だ本当の笑顔は出していない。勿論それはメルにも言えた事、メルの辛い過去は、レイほどではないがそれ相当の物。しかし、メルの笑顔はレイにだけは本物だった。


「私、見たいよ。レイ君の本当の笑顔が見たいよ!」

「……」

「約束してレイ君。何時か、何年かかっても良い。本当にレイ君が報われるときが来たら、その時は私に本当の笑顔を見せて」




「とまぁ、こんな感じらしい。でも本当かどうかなんて俺には分からないしおやっさんも……。知ってるのはレイ自身だけ」

「凄い話だな、それ……」

「うん、私もそう思う」


 アデルはガズルとプリムラにレイの話を聞かせていた、アデル自身もその話を聞いたときは相当のショックを受けたらしい。だけど今はもう年月が経っている性もあり他人にその話を出来るほどまで回復していた。


「アイツは、俺なんかよりも凄い過去を持ってる。だけど、それを表に出さないのは相当辛い物があると考えて良いだろうな」

「確かに、まだ七歳半の時にそんな事を体験していたなんてな」


 ガズルが帽子を取った、その整った顔にたき火の炎が紅く照らす。アデルは帽子を被ったままだ。


「あいつは、本当に強い人間何だなって思う瞬間だな……まさに」

「もしかしてレイ君が帝国を嫌ってる理由って」


 プリムラが突然口を開いた、その真剣な表情の中には何が映し出されているのか。


「多分、考えてるとおりだと思うよ? 正直アイツはまだ過去の事を引きずってるし、何よりこれからはアイツの旅になる」

「お前はどうするんだ?」

「ん、俺?」


 煙草に火を付けようとしていたアデルにガズルが質問する。少し驚いた表情をしているアデルは煙草をうっかり落としそうになった。


「正直言うとな、俺はレイに付いていこうと思う。同じ家で僅かだけど一緒に暮らしていた仲だし、何より友達で家族なんだ。だからアイツの探している物と敵にしている物の為にも一緒に行こうと思う。それが本当の仲間だからな」

「なら俺もそれに賛成だ、どうせ乗りかかった船だったしな。今更降りるつもりはない」

「あ、あたしも!」


プリムラが少し酔った口調でそれを言った、流石に酒に強いアデル以外は酔っぱらっているとみて良いだろう。プリムラは顔を真っ赤にして、ガズルは既に泥水状態に近かった。





 皆がそれぞれの事を考えながらその夜は更けていく、既にぐっすりと寝ているアデルやギズー、彼等だけではなくレイ以外に例外は居なかった。

 レイは一人すっかり暗くなってしまった森の中にいた、霊剣を腰に装着して何処に行く当てもなく……いや、目指す場所はあった。

「何年ぶりだろう」

 レイがたどり着いた場所は自分が育った村、ケルミナの村に居た。


「ここから始まった、僕の運命はこの村から始まったんだ」


 何も残っていない状態の村があった場所。レイの目の前に広がっている何もない空き地。自分が育った家、友達の家、知り合いの家。全てが跡形もなく消えている。。

 思えばあの日以来この村には一歩たりとも踏み入れていない、それはカルナックのちょっとした心がけとも言える。

 まだその当時のレイはこころが成熟しきっては居なかった、その時に再びその幼い思い出の中から記憶を引き出すのには抵抗があった。だから、レイはこの村に来る事はなかった。


「父さん、僕は今自分の人生を全うしているよ。素敵な仲間がいて、好きな人がいて。カルナック先生に会えて」


 どの位言えば気が済むのか、自分でも分からないぐらいに喋っていた。そして涙が瞳から零れる。

 霊剣を地面に突き刺した、顔は少し斜めに上を向いていた。ギュッと握り拳を作り一度深呼吸をしてもう一度村全体を見回した。


「みんな、ただいま」


 村全体を見回して霊剣を引き抜いた、そしてそれを幻聖石に戻して村に背を向けて歩いていった。




 翌日、全員が起床した頃レイは中庭にいた。

 普段アリスが行っている仕事をレイが半分以上をこなしていた、勿論彼本人の行動でありカルナックやアリスに強制されたわけでもない。ただ、前日のどんちゃん騒ぎでアリスも疲れているだろうという憶測。

 アリスが屋敷内の異変に気付き外に出て来たのはレイが仕事を全て終わらせてからだった。


「全部レイ君がやったの?」

「はい、結構な量が有りますね。特に洗濯物なんか大変でしたよ。……色々な意味で」


 少し顔を赤くして答えた、最初は何のことだか分からなかったアリスだが次第にその意味を把握した。そしてにんまり笑顔を作ってレイを抱き込む。


「もう、ウブなんだからレイ君は!」

「ちょっ、勘弁して下さいよ姉さん!」

「いーやーだ、暫くぶりなんだからもう少しお姉さんにこうさせてよ!」

「ななな、何言ってるんですか! それに、そのショタ癖直ってないんですか? 昔僕が言いましたよね、その癖は悪い癖だから直した方が良いって!」

「嫌よ、こんなに楽しい事止められる物ですか」


 レイの忠告は無情に流された。それにしても今日は寒い、何時雪が降り出してもおかしくないぐらいに寒い。

 それも曇っていてなかなか怪しい塩梅だ。雪が降るには十分な気温と湿度が成り立っていた、真冬の中でやる特訓や修行が一番厳しい。


「そろそろカルナックが外に出てくるわ、後の事は私がやるから最後の支度はしておきなさい」


 急にアリスの口調が変わった、ぎゅっとされていたレイも何時しか解放され半ば放心状態にいた。そしてアリスの顔を見て。


「ありがとう、姉さん」


 そう伝えてレイは再び家の中へと入っていった。


「あの子達ならマスター出来るかも知れないわね」


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