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『この星で、最後の愛を語る。』~The Phantom World War~  作者: 青葉かなん
第四章 永久機関・オートマタ
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第四十五話 敗走 Ⅱ

 真っ暗な空間だった。

 周囲を見渡しても光一つない、例えるなら真夜中の森の中に一人でぽつんと立っている様な感覚だったろう。自分の体ははっきりと見えているがそれ以外は何もない、ただただ暗い空間が広がっているように見えていた。


「無茶をしたね少年」


 背後から声が聞こえたと同時に何かが寄りかかってくるような感覚を覚えた。


「はい、かなり無茶をしました」


 不思議と恐怖は無かった、聞き覚えのある声だった事もあり少年は自然に答えていた。


「私のエーテルで補わなかったら大変な事になっていたよ」

「ですね、それでもあの時はアレしか思いつかなかったんですよ」

「しかしだ、多重剣聖結界も初めて使うのに一気に三重とは驚かされたよ」

「――多重でも勝てないと感じてしまったんです、それだけあの人は強かった。だからこその奥の手とおもったんですけど、まだまだ修練が足りなかったみたいです」


 少年は虚無を仰いで寄りかかる者に背中を預けた。信頼できる間柄で長い時間一緒に過ごした仲間の様な相手に信頼を示す様に。


「少年、私がこんな事を言うのも何だが――」

「分かっています厄災(バスカヴィル)、今回の戦いで貴方のエーテルの八割を消費させてしまった。それもたったの数十秒の時間でです。僕のエーテルが暴走しないように貴方がコントロールしつつ消費限界を超えないように付与してくれた事」


 相手の姿がゆっくりと、朧気ではあるが見えてきた気がした。真っ黒で虚無の空間にぼうっと移る薄暗い影の様なもの、目と口の部分が白く見え始めていた。


「次貴方の力を使えば……貴方は確実に消えてしまう。それが無性に怖いんです、僕の意志で貴方の存在を消してしまうかもしれないという事に」

「その責任まで追う必要は無いよ少年、私もソレは覚悟の上だった」


 少年に寄りかかる力が少しだけ強くなった。


「覚えているかい少年」


 同じように彼もまた虚無を見上げて続ける。


「私は君達に救われたのだ、だから次は私の番なのだよ少年」

「でも、それじゃ貴方は――」

「違えちゃいけないよ、私は既にこの世に居ないのだ。過去の産物が君と言う依り代を得て生存しているに過ぎない。いや、生存とはまた違うかもしれないね」


 無形な口から語られる言葉はどこか寂しさにも似た感情が流れている気がした。これまで少年の瞳から世界を見てきた彼、千年もの歳月を経て見つめたその世界を、彼等は二人で見てきたのだ。


「過去の遺物は過去へ、君達は今を生きる世界の宝なのだ。そして宝は希望であり夢であり、君達を守る為なら私の力を使い切ってくれて構わない」

厄災(バスカヴィル)……」

「よくよく考えて欲しい、君が守らなくちゃいけないのは私の存在か? それともこの世界か? どちらも君にとっては守りたい物なのかもしれない。でも一番に守らなくちゃいけない物は一つだけにしておきなさい」

「一番に守らなくちゃいけない物」

「そう、それさえ守れればいいんだ。君達はまだ幼くて若い、この星の運命なんて大層な事を言う大人もいたけど知った事ではないのだよ少年。それらは本来大人がやるべき事であって君達の領分じゃない。彼等が君達に押し付けているだけに過ぎない事なんだ、だからよく考えて欲しい」


 すっと少年の背中に掛っていた圧が抜けた。

 後ろへ倒れそうになった体に力を入れて踏みとどまる、そして後ろを振り向くと影は笑顔を作り出していた。その表情に少年の瞳から涙がこぼれる。


「君達はまだ子供なんだ、全てを背負う必要は無いんだ」

「それでも僕は、僕はっ!」

「本当に優しい人だね少年は、だからこそ君に全てを託そうと思う」


 影はゆっくりと少年へと歩みを進め、肩に手を置いた。


「もしも、もしも本当にどうにもならないと思ったら躊躇わず私の力を使いなさい。半年前の様に誰かを失うぐらいなら私を使いなさい。もう二度と君にあんな思いをしてほしくはない」


 聞きたくなかった、その言葉を少年は聞きたくはなかった。

 今も影がぼんやりと薄くなっていく彼の姿を見てゆっくりと流れていた涙が溢れだす。存在を確信するようになったのは半年前の出来事、それ以前から少年は彼の事を微かにだが感じていた。

 自身の中に存在する何かに恐怖する事もあった、畏怖する事もあった。

 それは「知らないから」である、彼が一体何者であってなんであるかを知ってしまった以上、彼と言う「情」を抱いてしまった以上無下にする事なんて出来ない。出来るはずがないのだ。


 それが、レイ・フォワードと言う人間なのだから。


 レイは必死に考えた、どうすれば彼の力に頼らずに居られるのか。答えは単純明快で誰にだってわかる事。そう、強くなることだった。

 しかし時間が足りない、それがレイにとって枷となり今なお苦しめている。彼がそれを分からない筈はないのだ。今だって精神上では繋がっている、レイが何を考えどう思い何を感じているのかは呼吸をするのと同じ位簡単に掌握できてしまう。


 だからこそ――。


「コレは私自身の罪なのだ少年、千年前に引き起こした厄災の罪滅ぼしをしたいだけなのだ。それを少年に僅かだが負担させてしまっていることは申し訳なく思うが――そうだね、強いて言うのであれば」


 涙で歪んだ視界に彼の顔が映っていた、それが涙によるものなのか彼自身の表情なのか一瞬理解するのに戸惑った。


「私の消滅こそが、この世界にとっての罪滅ぼしであり……少年への力添えなのだろう」


 笑って居る様にも、少し寂しそうにも。どちらにもとれる表情だった。


厄災(バスカヴィル)っ!」

「そしてコレは私から最後の我儘だ、許して欲しい」


 そう言うと彼は右手をレイへと伸ばし、人差し指で少年のおでこに指先をあてがった。


「ありがとう、もう一人の私(レイ・フォワード)

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