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『この星で、最後の愛を語る。』~The Phantom World War~  作者: 青葉かなん
第四章 永久機関・オートマタ
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第四十四話 人ならざる者 Ⅰ

 周囲にあふれるエレメントが震えるのが分かった。

 半年前――カルナックが使用した森羅万象現人神エレメンタル・インストール時に観測されたエレメントの畏怖、意志を持たず自我を持たない彼等(・・)が見せた感情にも似たソレをミトとグラブは感じ取っていた。


 まさに規格外と言えるその現象。


 震える大気に乗せられた精神寒波から感じ取れる言葉には表現できないソレをあえて口にするのであれば恐怖、殺気を持たないソレは確実に対峙する者へ恐怖を植え付ける。


 異変を感じ取ったミトはとっさにレイへと駆けだそうとしたが足が動かなかった。今まで彼に抱く事の無かった感情が一気に押し寄せてきているのが彼女にはこの時理解できなかった。


 少年は優しかった、記憶を失ってどこの誰かも分からない自分の事を匿ってくれた彼に密かに魅かれ始めていた。だが今はどうだ。

 感じた事の無いエーテル、身の毛もよだつほどの重圧(プレッシャー)に体の奥底から震えているのが分かった。同時に目を逸らしたくなる。しかし視線だけは外せなかった。今何が起きているのか、何が始まっているのか。ソレ(・・)から目をそむくことが出来なかった。


「何者なんだ、テメェ本当は何者なんだ剣聖ぇぇぇ!」


 同じ感情を抱いたグラブが恐怖のあまり錯乱し、自らの獲物を構えてレイへと飛び掛かっていた、満ちる狂気に恐怖。畏怖を並べ混沌が渦巻くレイへと彼は襲い掛かる。


 だが――。


 彼の獲物がレイを襲うことは無かった、霊剣によって防がれたのか、はたまた障壁によって吹き飛ばされたのかミトには見えていなかった。気が付いた時にはグラブは後方へと弾き飛ばされていたのだから。


「――っ!」


 何が起きたのか理解できない、何が始まっているのか理解できない、(レイ)が何をしているのか全く理解できなかった。唯一分かる事は彼女自身今まで一度も観測した事の無い膨大なエーテルと、それに渦巻く黒く底の見えない感情、向けられているのはグラブで彼女には向けられていない。そこまでしか理解することが出来なかった。


 故に、理解できなかった。


「レイ?」


 恐る恐る言葉を掛けるも、それ自体に意味がある事なのか。聞こえるはずの声が届いているかどうか怪しい状況でミトは声を掛け続けた。


「ダメだよレイ、それ以上エーテルを使ったら君がどうにかなっちゃうっ!」


 絶え間なく消費されているであろうエーテル反応にミトが更に恐怖を覚える。

 そう、術師であればだれでも知っている事象が今目の前で起こっているのである。これ以上のエーテル消費は彼自身の体を蝕み、精神を汚染し、最終的には――。


「君が()でなくなっちゃう!」


 エーテルバーストを引き起こす。


「分かってねぇなぁ嬢ちゃん」


 勢いよく弾き飛ばされたグラブが片膝をついてミトを睨んでいた、余程のダメージだったのだろうか視点が定まっている様子はなく、足元も微かに震えていた。


「例えその身がどうにかなっちまおうとも、やらなきゃいけねぇ時ってのは必ずあるんだ。このガキのその時ってのが――」


 全身に走る激痛、ダメージが残る体に鞭を打ち直剣を杖代わりにしてやっとこさ立っているグラブが口を動かした。そうだ、今この時この瞬間こそレイにとって今なさなくてはいけない。(おのこ)が苦痛に耐えながらも必死で戦おうとしているこの時こそ、何かを守ろうとしている瞬間だった。


「今この瞬間なんだよなぁ! そうだろう剣聖(レイ・フォワード)!」


 その声はきっと少年には届くことは無いだろうとグラブは確信しつつも叫ばざる得なかった。目の前にいる強敵、怨敵とも言える自分の前にボロボロの姿で立つその姿。グラブ自身堪らなく震えていたのだ、心が叫ぶのだ、体が勝手に動き出そうとするのだ。


 目の前の化け物を倒せと。


「さぁ仕切り直しだクソッタレ! テメェがこの星の運命にどう絡むのか堪らなく楽しみで仕方ねぇぞクソガキがぁ!」


 そう言うと地面を蹴って三度レイへと襲い掛かる、斬撃を繰り出すも見えない何かによって弾かれる事に全く気にも留めないグラブの剣筋がミトにはさらなる恐怖を植え付ける。


「もっとだ、もっとだ剣聖! そう来なくては、そうじゃ無きゃ先に死んでいったアイツらに顔向けできねぇぞ! まだまだもっとだ、俺を楽しませろ。楽しませろぉ!」


 もはや戦いと言う物ですらなかったと、この時ミトはきっと感じていただろう。

 目の前で繰り広げられる行いこそ戦いであろうとも、攻撃を仕掛けるグラブの体は徐々に擦り切れ始めて行った。レイが何をしているという様子は無い。察するにグラブの攻撃時に発せられる衝撃波が自分自身をも喰らっているのだと気づくまでそう時間は掛からなかった。


「今テメェには何が見えている、暴れ狂うエーテルの暴風の中でテメェには一体何が見えてる! 俺か! それともそこの嬢ちゃんか! それとも――」


 一言も発する事の無いレイは、唯々苦しんでいるように見えた。視線は定まっておらず唯々吹き荒れるエーテルの暴風の中必死に自我を保とうと必死に耐えている様子だった。そう、無理もない事象だ。


 初めて行う多重剣聖結界デュアル・インストールを発動させ、その時点で体に掛る負荷を考えればもう一つを重ね掛けするなんてことは自殺行為にも等しい。それだけこのグラブと言う男は強かったのだ。強いからこそ、今の彼では倒せないと悟ったからこその蛮行。言うには簡単ではあるが実際に発動さえる事によって引き起る代償はあまりにも多く、傷つくことが不可避な禁断の奥義。


「何も見えてねぇか剣聖(クソガキ)!」


 止まる事を知らないグラブの剣激は次第にレイの対物理障壁アンチプロテクトシールドを徐々に削っていった、その私怨とも言える気力にミトが知らず知らずの内に後退していた。


「駄目だよレイ、それ以上は本当にだめぇ!」


 悲痛な叫びだった。

 きっと届くことは無いだろうと思える叫び声は金属音が幾多にも重なって聞こえるこの街中でかき消される寸前の声だった。



 それが起点(トリガーポイント)となる。



「っ!」


 グラブが一瞬動きを止めレイとの間に距離を取った。

 精神寒波に襲われながらひたすらレイの防御を削っていたグラブの怒濤の攻撃が一瞬止んで後方へ飛ぶ。十分な距離を取ったグラブが顔を上げるとそこにはあふれ出ていたエーテルが徐々にレイの体に還元している様子が見て取れた。


「起きたかクソガキ!」


 右手に握る直剣をもう一度握りなおして体制を整える、一度深く呼吸をすると三度地面を蹴った。瞬間的に詰められるレイとの距離が瞬きをする瞬間にゼロになると真直ぐにレイの頭部目がけて振り下ろされる。


「――残り七十五秒」


 一瞬だった。

 ゼロ距離まで詰めたはずのグラブはほぼ同じ時間をかけて元居た場所より後ろへと吹き飛ばされていた。


 グラブ自身何が起きたのか理解できていない。レイの頭部をかち割ろうと振り下ろしたはずの剣が右手にはなく、自身は大きく吹き飛ばされている事に気が付くまで時間は掛からなかった。しかし、何をされたのか全く理解できなかった。


「なん――だ、何が起こっ……た」


 同時に全身から鮮血が噴き出した、痛みで意識迄刈り取られるかと思うようなソレにギリギリの所で耐えるが力が入らない。壁に激突しうつ伏せのまま倒れると顔の真横に自分の握っていたはずの獲物が浅く突き刺さった。


「どうして倒れて――る、何故俺――は……倒れてるっ!」


 理解の出来ない事情が幾つも重なり軽くパニック状態に陥るグラブをミトははっきりと見ていた。同時にレイが何をしたのか、どうやって攻撃をかわし迎撃したのか全く分からなかった。そしてグラブ同様にミトも困惑を覚える。


「答えろ剣聖! 俺に……何――しやがったぁ!」

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