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『この星で、最後の愛を語る。』~The Phantom World War~  作者: 青葉かなん
第四章 永久機関・オートマタ
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第四十二話 カルバリアントの戦い Ⅰ

 まだ日が昇る少し手前。

 三日ほど前から寒気が下りてきて朝晩は冷える様になってきたこの時期、特に西大陸特有の地形効果も相まって冷え込みは一層厳しくなる。何より厳しいと感じる冬を一ヵ月後と迫る中外気温は一桁台を記録した。


 中央大陸の北部と南部を隔てる巨大な山脈がこの西大陸からもぼんやりと見える、ソレに遮られた恒星の光は大気を照らしゆっくりと夜から朝へとシフト行った。東大陸では決して拝む事の出来ない絶景とも言えるこの現象に一日中蒸気機関(アクセル)に揺られた少年達が伸びをしながら降りてくる。一人は少し大き目な青いジャケットに青いデニムを身に着けた少年、その後ろからエルメア(注意:帝国軍服の事)を着たとんがり帽子を被った少年が眠そうに眼を擦っていた。

 少し遅れて純白なケープを肩から掛けている少女と、赤いアウターを着込んだ少年が下りてきた。四人は一度伸びをして周囲を見渡した。

 美の都、水と水蒸気の街、世界一美しい景色。様々な肩書で噂されるカルバリアントの情景をその目に然りと焼き付けているのが分かる。彼等は思って居ただろう、こんな状況でなかったらゆっくりと観光でもしながらこの美しい街並みを見て回りたいと。

 整った道、美しいほど整備された街並み、綺麗に型にはまったような区画。どれを取っても彼等が見てきたどの街よりも綺麗だった。

 強いて言えばメリアタウンが似た様な街並みだったのかも知れない、初めてあの要塞都市に足を踏み入れた時もこの時間帯だった。日差しが昇る前の街並みと言うのはどこも美しい物だと一番手前の少年が口にする。これから街が生き物みたいに動き始める様がとても好きで、そこには血が通った人と同じで眠りから覚めていく感覚が目に飛び込んでくるのだと。

 そんなもんかね? と後ろの少年が眠たそうに口にしたところで少女が頭を叩いた。


「アデルには風情ってもんが無いのかしらね」

「風情ね、悪いがそんな上流階級の人間が使いそうな言葉はおやっさんとの修行中に擦切らしちまったよ」


 先頭で美しい街並みを見つめている少年の後ろで二人がそう話していた。その様子を一番後ろで見ていた少年が面白いやり取りだと笑う。


「姉さんもアデルも気品って物が無いよね、アンちゃんを見て見なよ。黙ってこの街が目覚める様を見てるんだよ?」

「お前にしちゃぁ上出来な事言うじゃねぇかミラ、ミト(こいつ)の弟かと疑問に思う事が多々あるぜ」

「何よアデル、私が何だって言うの?」


 そんなやり取りが静かな街にほんの少しだけ響いていた。

 我慢できずにため息を付いた先頭の少年が後ろを振り返って三人に小言を吐く。


「あのねぇ君達、一日中蒸気機関(アクセル)に揺られて寝不足ってのは分かるんだけど、この街並みを見て何も思わない? アデルだって何か思う所あるでしょ」

「あぁそうだなレイ、そっくりだとは思う。まるで投影機で取った映像みたいで気味が悪いほどにな」


 黒いエルメアを着たアデルと呼ばれる少年が数歩前に出て思った事を口にした、レイと呼ばれた青いジャケットの少年の元迄来ると街全体を見渡す。その景色が一カ月半前に起きた悲惨な戦争を思い出させてくれる。


「できれば思い出したくなかったな、あの街は綺麗だった」

「うん、僕もそう思う。メリアタウンにそっくりなんだ。気味が悪いほどに」


 二人は周囲を見渡した、初めて訪れる街なのに何処か知っている様で、少し前までそこに住んでいた様な。そんな気にさせてくれる街並みだった。


「見てみろよあの街灯、それに中央広場によく似たあの噴水」

「何もかも瓜二つだ、恐ろしいほどよく似てる」


 FOS軍が拠点として活動していたメリアタウンに瓜二つなソレに、二人は唯々驚くばかりだった。当時最先端とは言えない中央大陸――特に南部では技術が西大陸ほど進んでいない状況だったにもかかわらずあの街はとても良く出来ていた。


「それともう一つ、気になる事があるんだ」

「奇遇だな、俺も蒸気機関(アクセル)を下りてからずっと気になってたことが有るんだ。一つ答え合わせと行こうぜ」

「あら、おかしいと感じたのは貴方達だけじゃないのだけれど」


 そう、とても違和感を感じる出来事が一つ。

 それは乾いた発砲音と共に正体が明らかになった。


「早朝って事もあるけどな、ソレにしたって人の気配が全くねぇっ!」


 シフトパーソルから発射された弾丸がレイの顔面に迫る、即座に反応したのはアデルだった。

 左手でツインシグナルを鞘から引き抜くと迫りくる弾丸を弾いて見せた。それを皮切りに四方から数発の発砲音が響く。即座に体内のエーテルを活性化させてレイが氷結剣聖結界ヴォーパル・インストールを発動させ瞬時に氷の壁を作り出した。ドーム型に氷壁が作り上げられると全ての弾丸が氷にめり込んだ。


「着弾数は幾つだミラ」

「七発、北東部から三発と南から一発。残りは全部東部から」

「陽動とはよく言ったものだよねガズル達も、暴れろとは言われた時はどうしよかと思ったけど、周囲に人の気配は全く無いし心置きなく暴れられそうだね。街並みを壊さない程度にしないとトラウマが蘇りそうだけど」


 氷のドームの中で呑気にそんな会話をしていた三人にミトは頭を抱えた。レイの法術詠唱速度が無ければ確実に今の同時発砲で自分達の頭部が撃ち抜かれていただろうと思うとゾッとする。それらを全て考慮していたレイの強さにも頭が上がらないでいた。


「本当に呑気ね男子って、それでどうするつもりなの?」


 幻聖石から杖を具現化させて地面に先をトンっと置いて尋ねる。


「まずは各個撃破が定石だと思うけど、後ろには僕達が乗ってきた蒸気機関(アクセル)がある。補給が済む迄できれば護衛に徹したいけど相手は待ってくれないだろうから――」


 同じく幻聖石から霊剣を具現化させる、一度大きく振りかぶって霊剣に風法術を纏わせる。一呼吸置いてから振り下ろし眼前の氷壁を破壊する。壊れた部分から亀裂が入りそれが連鎖反応を起こし全体にヒビが入った。


「こっちを狙ってるんだから当たるでしょっ!」


 次に左手へと風法術を集約させると地面へと風圧を叩きつけた。すると衝撃がドーム型の氷壁へと伝わり中央に居たレイの周囲へと風が拡散しひび割れた氷壁が四方八方へと吹き飛ばされる。遠目に見ていた狙撃兵は自分の元へと飛んでくる氷を目視すると即座に壁に隠れる事成功するが、近くで狙っていた数名は氷塊の直撃を受ける。


「アデルとミラは司令塔(コマンドポスト)を、僕とミトは蒸気機関(アクセル)を守るっ」

「だそうだ、行くぞミラ!」

「言うなればアデルのサポートだよね、任せてあんちゃん!」


 二人はそう言い残してまっすぐに飛び出していった。それを見てかまた発砲音が聞こえてくる。弾丸はアデルの足元に着弾していくがギリギリの所で交わしているようだった。そのすぐ後ろをミラが走っていくのをレイとミトは見送った。


「大丈夫なのあの二人で」

「単純な戦闘力なら僕よりアデルの方が上だからね、万が一アデルが苦戦することが有ってもミラの法術があれば攻撃面は問題ないと思うんだ。むしろ大変なのは――」


 続いて三発の発砲音が遠くから聞こえた、静かな街中を幾重にも反響し位置の特定を鈍らせているようだった。しかし氷雪剣聖結界ヴォーパル・インストール時のレイには弾丸の軌道が微かに見えていた。二発は自分の元へ、もう一発はミトへ目がけて飛んでくるのが遠目に確認できた。


「防衛戦ってのは体力と神経を使うんだ」


 大振りの霊剣で三発全てをはじき飛ばした。

 剣の腕前だけを見ればアデルの方が上ではあるが、レイもまたカルナックの元で修業を重ねた弟子のひとりである。剣聖の名は伊達ではない事を帝国兵は狙撃用のスコープ越しにその姿を見た。


「それじゃぁ二人が戻るまで頑張ろうかミト」

「バテ無いでね、私はあくまでも補助がメインなのよ。君が戦えなくなったら私も一緒に死ぬんだからね?」

「並の術者じゃ無いって事は一カ月半前に見てるから大丈夫、後ろを頼むねミト」


 二人は背中合わせに立つと三度襲い掛かる弾丸に対し一方的な防衛を強いられることになった。

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