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『この星で、最後の愛を語る。』~The Phantom World War~  作者: 青葉かなん
第四章 永久機関・オートマタ
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第四十話 蒸気機関の街「リトル・グリーン」 Ⅱ

 支部の中は外見からは想像も付かない程豪華だった。

 輝く装飾品が至る所に散りばめられつつ、きちんと支部として活動する為に必要な物は揃っていた。遠くからシフトパーソルの発砲音が聞こえる事から察するに地下にでも射撃練習場があるのだろう。外見からは想像も出来ない作りに彼等は少しだけ驚く。


「せめてもの威厳って奴だろうなこれ」


 ギズーが周囲に飾られている装飾品を見て一言漏らした。残りのメンバーはその言葉を口にするかと思いながらも苦笑いで見渡す。


「それにしても――」


 自分達の向けられる視線に含まれる感情にいち早く反応したのはアデルだった、ロビーには二十人程の組員がいて常にシフトパーソルが抜ける様な体制を取っている。一見自然体に見えるが彼等の目は誤魔化せない。組員が持つシフトパーソルは遠巻きに見ても良く整備されていて状態は良く見えた。


「用心した方が良いぞレイ、こいつら何してくるか分かったもんじゃねぇ」

「そうかもね、でもここで騒ぎを起こしたら僕達が西大陸で動きにくくなる。ちょっとぐらい無茶な要望は聞いておこうよ」

「ならお前の隣の奴にもそう伝えとけ、今すぐにも抜きそうだぞ」


 アデルが目くばせをする、レイの隣で全周囲を警戒し少しでも変なしぐさを取るモノならホルスターからシフトパーソルを抜こうとしているギズーが見えた。


「僕が良いって言うまで撃っちゃ駄目だからね」

「……分かってんよ」

「ありがとうギズー」


 ギズーの答えに笑顔でそう答えた。


「君達が噂の子供達かな」


 奥から声が聞こえてきた、ゆっくりと彼等の元へ足を運ぶ長身でスキンヘッドな男が一人。左目に布を当てている。カルナックと同じぐらいの背格好でとても低い声をしていた。


「私が支部統括のガイだ、気軽に統括とでも呼んでくれ」

「初めまして、中央大陸反帝国組織FOS軍です。クリスさんからお話は――」

「あぁ聞いてるぜ、こんな所で立ち話も何だ。奥の会議室を使おう、付いて来たまえ」


 会釈をしつつ自分達の紹介をした所で会話を遮られた、周囲の視線もそうだがレイはこの時妙な違和感を覚えていた。何故自分達に敵意が向けられているのか、船上でのクリスが取った親切な対応とはまるで印象が異なっていた。


「っと、その前に――」


 会議室へと案内しようとしたガイは立ち止まるともう一度彼等の方を向いた。


「君達は今非常にバランスの悪いポジションにいる、その所為で我らが組員の対応が不適切になっている。それも含めて奥で話そう」


 そう話した。






 会議室に通された彼等はその殺風景な部屋に驚いた。

 ロビーはアレだけ豪華に飾られていたがこちらは見事に殺風景だった、有るのはテーブルとイス、壁は見た事の無い材料で作られ数枚窓があるだけの部屋だった。


「さぁ座ってくれ、先ずは君達の現状について説明しよう」


 レイ達は各々椅子に座る、ギズーとファリックはそれぞれの獲物をテーブルの上に置く。ガイがそれを目線だけで確認し再びレイを見つめる。


「良い判断だ、シフトパーソルは剣に比べて即効性のある攻撃が可能だ。それもガンナーが二人、直ぐにでも行動が取れるようになっているいいチームじゃないか。先は子供と言った事を訂正しよう」

「テメェが下手な真似しない限りこいつが火を噴くことは無い、武力をあらかじめ示すのは対等な話し合いをする為だ」


 そう言いながらグリップに右手を乗せたままのギズーが睨む、同時のその後ろに座っているファリックもまた同じようにコルトパイソンを握る。


「結構、では今の君達についてだ」


 正面のコルクボードに彼等七人分の手配書を張り出して現状について説明を始める。レイ達は初めて自分達の手配書をこの時目撃することになった。


「帝国は君達全員に懸賞金を懸けた、主に西大陸全土にだ。それぞれ検証額は違うが生死は問わないと聞いている。本来であれば君達がリトル・グリーンに到着した時点で住民が君達の首を狙っていただろう。が、現状私達が今それを抑え込んでいる」

「ギズーの懸賞金が上がってるな、細かいこった」


 ギズーは以前より全国に指名手配されているのはレイ達は知っている。アデルは一年ほど前に見た手配書の金額を覚えていて現状の金額と照らし合わせて小さくぼやいた。


「そうだ、君達の金額はそんじょそこらの賞金首とは訳が違う。一人一人が尋常ではない金額が設定されており全員分を合わせれば豪邸付きで街を買う事も可能だ。帝国がそれを支払うかどうかはまた別だがね」


 彼ら全員の金額を足すとちょっとした国家予算にも迫る勢いであった。彼等は現状自分達が置かれているこの事に少しだけため息を付いた。


「コレだけの金額が提示されているのであれば確かに街を上げて僕達を捕えようとする事も頷けます、事実そうした方が西大陸での戦果は広がらずに済むのではないですか?」

「先にも述べた通り、この金額を支払えるだけの力が現状帝国にあるかどうかは怪しい所だ。我々でもこの金額には最初目がくらんだ。が、現実的に考えてあり得ない数字であることも理解できた。なんせ我々がこの先十年活動できる金額を簡単に超えているからな」


 目をつむって左右に首を振るガイ、一息ついてから窓の外へと視線を泳がす。


「外を見たまえ、技術だけが膨れ上がったこの街を、人の夢の跡だよ。人では足りないが雇う金なんぞ帝国との戦争でこれっぽっちも残っていない。技術屋たちは寝る暇も惜しんで新たな技術を、新たな革新を躍起になっているこの街を。金さえあれば技術の進歩何て今の数十倍にも短縮されるであろう事、それを分からない我々ではない。だからこそこれは投資だ」


 もう一度彼等に視線を戻し話を続ける。


「君達を帝国に差し出すなんて訳ない、この大陸では我々の情報網を駆使すれば君達の様な子供を追い込むことはいとも簡単だ。だが目先の儲けに眩むようでは光が見えたとは言えない。ここからは少々本音を交えた話をしよう」


 懐から煙草を取り出して口にくわえる、着火剤が見当たらずポケットと言うポケットを弄るが見つからない。それを察したアデルは毎度のごとく右手で指を鳴らすと摩擦熱を利用して小さな火を作り出し、ガイが咥えている煙草の先端へと放り投げた。


「器用なもんだな、では続けよう。我々は中央と東大陸へと深く根を張る事を考えている。独占的な商法ではなく現地住民たちとの円滑な取引をする為だ。経済が回ればそれだけ活気と金が動く。金が動けば我々が抱えている研究や技術の更なる飛躍へと繋がる。その為に帝国が邪魔でしかない」

「それで僕達を帝国にぶつけ、あわよくば現皇帝を失脚させる――」

「そうだ、言うなればこれは革命なのだ。君達がどのような理由で帝国と戦っているかなど正直興味はない、それどころか我々の利益に繋がるのであれば誰がどれだけ死のうが知った事ではない。しかし君達が現状を打破するのであれば我々は投資を惜しまない」


 この話を聞いてレイ達は不信感に煽られた、体よく纏められた話ではあるが中身がまるでない。いや、中身などある筈がなかった。彼等への投資は怠らないが自分達はこの戦争で何かをするつもりは無いと言っているのと同じだ。補給はするが戦闘はしない。それがアデルとギズーの苛立ちを加速させた。


「おいオッサン、てめぇ随分とそんな都合の良い事をベラベラと――」


 アデルが立ち上がって文句を言った矢先、彼の顔面スレスレを弾丸が飛んで行った。乾いた音が部屋の中に鳴り響き弾丸はガイの後ろにあるコルクボードを貫通した。


「黙ってろアデル」

「ギズー――テメェ!」

「黙れ、俺達のリーダーは未だ何も言ってねぇ」


 アデルに銃口を突き付けたまま睨みつけてそう喋るギズー。アデルは視線をレイへと落として言葉を失った。


「――て来ました」


 今まで見た事の無いほどの殺気を帯びていた、レイの周囲だけがとても冷たく重い空気になっている。仮に触れる事が出来るのであれば、それはとても冷たい物だったろう。


「――大勢の知人や友人がこの戦争で死んでいったのを僕達は見てきました。その中にはあの街にとって……いえ、僕達にとって(・・・・・・)掛け替えのない人も居ました」


 感情が膨れだす、溢れ膨れるソレはレイのエーテルに反応して周囲の温度を徐々に下げ始めた。


「その中には貴方達の同胞も居たはず、それなのに貴方は誰がどれだけ死のうが知った事では無いと仰るのか」


 ガイは目の前で起こる情景に目を疑った。

 噂に聞いただけの存在、目の前にいるのはただの子供。剣聖の弟子であるがまだ年端も行かないただの子供。今し方迄そう確信していた。しかし。


「彼等は英雄だ、逃げずにあの場所で文字通り命を懸けて戦った英雄達だっ! それを冒涜するというのなら僕達は許さない。あの人達は――あの人(レナードさん)はアンタ達の為に戦ったんじゃないっ! このクソッタレな世界の為に戦ったんだ!」


 そこで決壊した。

 暴走寸前のエーテルに感情が干渉し、周囲一帯が急速に凍り付き始めた。咄嗟の事にアデルが炎帝剣聖結界ヴォルカニック・インストールを発動させ五人を守る。


「落ち着けレイッ!」

「コレが落ち着いてられるって言うのかアデル! この人は――こいつ等はっ!」


 溢れだす負の感情は留まる事を知らない。

 先の戦い、メルリスを失った時に見せた暴走寸前のレイをアデルは必死に宥めようとする、このまま感情に身を任せてはレイの体がもたない事も理解してる。それ故の説得だった。


「許せるはずがないだろアデル! 戦火の届かない所でのほほんと椅子にふんぞり返り自分は血を流さないで利益だけをかすめ取ろうとするクズ野郎だ! あの人(レナードさん)じゃなくコイツがあの場所でし――」


 そこまで言うとレイは言葉を失う、目の前に突き付けられる銃口とその奥に見えるギズーの顔があった。


「――止めろレイ、お前がそれ以上言うな」


 その表情はとても、とても冷え切っていた。

 常にけだるそうにしているギズーは防御されてるとは言えレイの放つ精神寒波の真正面に立ち、冷めた目でレイを見つめていた。


「ソレは俺の仕事だ、お前だけはこっち側に来んな。ミト、レイを連れて外に出ていてくれ。(商談)は俺達で進める」

「ギズー……」


 暴走していたレイのエーテルは徐々に落ち着きを取り戻し、周囲の冷気もゆっくりではあるが元に戻りつつあった。この状況を見ていたガイは彼等の評価を改めなくてはならないと瞬時に理解した。


「さて統括、家のリーダーはちょっとだけ情緒不安定なんだ。あまり逆鱗に触れるような事は慎め、死にたくなければな」

「――あ、あぁ。そうらしいな」


 ゆっくりと落ち着きを取り戻したレイはミトに手を引かれ部屋を後にした、同時にアデルも二人の様子を心配し部屋を後にした。残ったのはガズル、ギズー、ミラ、ファリックの四名とガイ。


「それじゃぁ始めようか、下手な事をすればさっきみたいになるが俺は止めねぇ。次は無いと思え」

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