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『この星で、最後の愛を語る。』~The Phantom World War~  作者: 青葉かなん
第四章 永久機関・オートマタ
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第四十話 蒸気機関の街「リトル・グリーン」 Ⅰ

 船上から見たリトル・グリーンは彼等の目を奪うのに一分と時間は掛からなかった。

 噂には聞いていたがこれ程とは彼等の誰一人として予想はしていなかっただろう、高い建造物に見慣れない配管が所狭しと設置され、隙間からは蒸気が漏れ出している。

 中央大陸では見なかったものがそこら中にあって彼等の好奇心を煽る。特にガズルは噂と本でしか見た事の無い情報故に心が躍った。同じくレイもまた初めて見る光景にときめきを隠せなかった。


「言った通り凄いだろレイ」

「うん、予想以上だったよ」


 二人は船から降りると周囲を見渡した。

 年相応の反応と言えばそうなのだろう、それとは対極的なアデルとギズーは目の前で浮かれている二人にため息を付いた。


「なぁ撃っていいか?」

「着いて早々騒ぎになるからやめとけギズー、だけど気持ちは分かる」


 ホルスターからシフトパーソルを引き抜こうとするギズーをアデルがゆっくりと宥める。普段この役目はレイが担う所だが当の本人は二人の目の前で見た事の無い景色に心を奪われていた。


「蒸気機関ってすごいね姉さん」

「そうだね。やっぱりミラもファリックもこういうの好きなの?」

「オイラはそこまで……でもミラは好きかも」


 最後に下りてきた三人もそれぞれの感想を述べる、ファリックはそれ程でも無い様に見えるが実はこの光景に多少なり心がざわついてる様子だった。ミラは言うまでもない。




 西大陸の玄関口にして人口密度第三位の街であるこのリトル・グリーン、西大陸の北東部に位置するジグレッド程ではないがその活気の高さは中央大陸では中々見られない物だった。各所で露店が立ち飲食物を初め見た事の無い金属片迄売り物は多岐にわたる。

 又、住人の熱気もさることながら街中に敷き詰められた配管から漏れ出す水蒸気から発せられる湿度も相まって町全体の温度が高く感じられる。


「噂通りの暑さだな、稲の収穫期が終わった筈なのにこれじゃぁもうしばらくレイが活躍しそうだ」


 帽子を脱いで仰ぐアデルが静かに呟いた。隣でゆっくりとホルスターにシフトパーソルをしまうギズーもそれに同意して頷く。


「さてっと、先ずはどこに行くんだ?」

「――テメェは人の話を聞いてねぇのか覚えてねぇのかどっちだ、海上商業組合の西支部だつってんだろ」

「あぁソレだそれ、んじゃぁ行くとするか。おい、馬鹿二人!」


 ギズーの悪態にも動じることなく相変わらず目の前ではしゃぐ二人の首根っこを掴んで引きずるように歩き始めた。それを後ろから見ていたギズーは閉まったシフトパーソルをもう一度抜こうとして、やっぱり止めた。


「騒ぎを起こしても面白くねぇ……か、間違いねぇ」


 両腕を組んでアデルの後を追う。その様子を更に後ろで見ていたミト達三人は苦笑いして静かに後を追う。


 西大陸――。

 世界の中心が中央大陸と言われるようになってから久しいが、千年も昔であればこの西大陸こそが世界の中心と言われていた。工業技術と蒸気技術の発達によって中央と東大陸に比べ先に進んでいる。帝国が蒸気機関車(アクセル)を奪ってからと言う物その技術分野情報をひた隠しにするようになった。

 元々は森林が多く緑豊かな大陸ではあったが、技術の発展と共にそれらも徐々に失われて行くようになり、今では千年前と比べると森林は十数パーセントほどしか残っていない。その大多数は北部に及ぶ。

 

 彼等が向かう海上商業組合西支部はこの街リトル・グリーンの中心部にある。

 控えめな装飾で味気ない建物、一見大き目の民家にしか見えないその建物だが周囲は組員がシフトパーソルを装備し警戒している。西支部と名称はあるが実質ここが本部の様なものだ。

 一か月前、本部を構えていたメリアタウンは陥落し現存する支部はここリトル・グリーンと東大陸の玄関口グリーンズ・グリーンのみ。先にも述べた通り東大陸に比べ技術が飛躍的進んでいる西大陸が現状では本部として活動している。


「コレが実質本部ねぇ、やっぱりメリアタウンのは立派だったんだな」


 アデルがレイとガズルの首根っこを掴んだまま西支部の入り口にまで来ていた。道中では中央大陸ではお目にかかれなかった賞品が並ぶ露店に二人が目を輝かせる度に掴む手に力を入れて正面を振り向かせる。そんな作業を十分程度繰り返して到着した。


「そろそろ放してくれないかな」

「馬鹿言ってんな、中に入ったら話してやるよレイ」


 周囲の目が自分達に向けられているのを流石に恥ずかしがっている様子で顔を赤くしていた。ガズルはと言うと利き手でつかまれているせいか表情はレイと違って苦悶に歪んでいた。頸椎を圧迫されつづけて流石にそろそろ限界という処だろうか。


「わかった、なら早速入ろう今すぐ入ろう。首から下がしびれてきた」

「あぁそうだな、俺もそろそろ握力が無くなってきた所だ」


 そう言うと一度だけ後ろを振り返りギズー達がはぐれていないかを確認し、目くばせをした。少しだけ距離を取っていたギズーがソレに気付き舌打ちをしたのを確認した後正面を向いて歩きだす。


「みっともねぇ所見せちまってるが話は通ってるな?」

「――本当に子供なんだな君達は、ただの噂だと思って居たがこれは負けたな」


 扉の前でシフトパーソルを携帯している組員がアデル達を見て驚いていた。


「負けた?」

「いや何こっちの話だ、君達の噂は半年前からこっちにも届いていたんだが年端も行かない子供だとはとても思えなくてな、噂ってのは尾ひれがついて回るもんだろ? だから賭けをしてたんだ。が、俺は負けちまったみたいだ」


 懐から紙幣を取り出して隣で笑顔でいるもう一人の組員に手渡した。


「ソレは気の毒な事で、それで俺達は入れて貰えるのかい?」

「あぁすまない、クリスさんから話は聞いてる。長い船旅ご苦労だったな、入ってくれ」


 懐から通信機を取り出して何か話している、そしてすぐさま扉のロックが外されて開いた。そこでようやくアデルは両手で捕まえていたレイとガズルを開放すると中へと入っていく。バツが悪そうにレイが続き、ガズルは一度伸びをしてから中へと入る。


「――撃っとけばよかったか」

「騒ぎになるの嫌だったんじゃないの?」

「流石に道中あんな目で見られるならと今考えただけだ、さっさと行くぞ」

「はいはい、本当に仲が良い事で」


 両腕を組んでため息を付きながらミトとそんな会話をして二人も中へと入る。その後ろからミラとファリックも続いて行く。全員が中へと入ったことを確認した後組員が扉を閉めて再びロックが掛かる。


「俺にはそんなにすごい餓鬼には見えないんだけどな、お前どう思う?」

「馬鹿言うな――剣聖レイ・フォワード、剣帝序列筆頭「黒衣の焔」、義賊カルナックの右腕とガンガゾンの末っ子。化物ぞろいだぞ、あの四人が居なきゃ今頃この西大陸もどうなってたか分からねぇって話だ、それをただの餓鬼とはお前の情報もその程度だって事だよ。餓鬼と言う名の鬼だよ。それに後の三人もな」


 門前で見張りをしている二人の内、賭けに負けた組員が冷や汗を流しながらそう話していた。

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