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第三十三話 砂漠にて Ⅲ

「噂だけなら僕も聞いたことはある、一度先生の首を狙って返り討ちになった事。雷帝を暗殺しようとして本人とぶつかった事。その時は雷帝と同等の戦いをしたって話だよね」

「そうだ、俺がフィリップに捕まる前の話だ。今覚えばあの時の俺は人質とほぼ同格だったんだろうな。フィリップ程の男も兄貴を恐れたんだ」


 マイク・ガンガゾンの本当に恐ろしいところは上記でも挙げた武術でも体術でもない。彼の暗殺能力の高さにある。一族の中で見れば規格外な彼の戦闘スタイルはまさに奇抜。


「だから並大抵の旅人や傭兵、軍隊なんて兄貴の前じゃ赤子同然だ」


 その力はレイ達同様一騎当千を誇る。法術一つであたりをなぎ倒し、近づいてきたものは自分が攻撃されたことすら認識できずに死んでいく。その殺戮は全滅するまで止まらない。故の永久殺戮機関(キラーマシン)である。


「でもお前らと一緒なら何とかなりそうだって、本気で考えてんだ。だから荷が下りた」

「そっか、ギズーも色々と大変だよねそう言う所」

「何を呑気な事言ってんだテメェ、兄貴が俺のこと連れ戻そうと来たら間違いなく戦闘になるんだぞ。言っちゃぁ何だがレイヴンなんかと同等な化け物を相手にすることになるんだ、そうなったらレイ。お前でも無事かどうかわからねぇぞ」


 ごもっともな話だ、雷帝と同等に渡り合ったと言うのであればその強さはまさに四剣帝クラスを相手にするようなもの。いくらレイがカルナックより剣聖の称号を譲り受けたといっても実力は同じ四剣帝クラスである。


「四剣帝と同等の強さを持つかぁ、そう聞くと穏やかじゃないよね。そもそも今の四剣帝ってどうなってるのさ」


 レイが眠そうにあくびをしながらギズーに尋ねた。


「テメェは……現状は序列筆頭にアデル、時点でフィリップだ。残りの二枠に関しちゃぁ帝国と西大陸にいるって話だが詳しくは知らねぇ」

「帝国にもまだそんなのが残ってるのか、もしかして噂の先生と一緒に旅をしたっていう――」

「それはあり得ねぇ、アルファセウスの実力は四剣帝どころの話じゃねぇ。あのエレヴァファル・アグレメントだって剣老院(カルナック)と同格の化け物だった。もう一人がそれ以下でましてや四剣帝クラスだとは思えねぇ。間違いなく化け物だ」


 そう言って、自分自身で青ざめた。

 ギズーの考察は多分間違ってはいない、アルファセウスという名はこの世界では英雄に等しい名であり、その力は世界の均衡をいとも容易く崩しかねない存在である。現状カルナックの戦力が落ちた事で総合戦力は帝国が有利であり、その強さはカルナック本人だけが知る。

 そのカルナックが言う、間違いなく対峙したくはないと。かつての英雄にそこまで言わせる相手がまだ帝国には残っていた。


「ゾッとするな、アルファセウスの最後の一人と俺の兄貴。こっちはエースとキング、クイーンがいるが相手はジョーカー二枚。どう立ち向かう? ポーカーフェイスなんて通じねぇぞ」

「そんなこと言われたって僕だってわからないさ。神様にでも祈る?」

「本当に呑気な奴だな、神なら休暇取ってバカンスに行っちまってるぞ」

「それなら仕方ない、それも踏まえて先生に相談しよう」


 そう言ってレイはギズーと見張りを交代する。満点の星空の下でレイは少しだけ困惑していた。現状の戦力と相手側の戦力。どう図ってもこちらが今は不利であり、帝国が本気で仕掛けてきた時の事を想像して冷や汗をかいた。

 彼ら四人は強くなった、だがそれは一般の帝国兵を相手にした時の話である。まだこの世界には先に述べた通りカルナッククラスの化け物や四剣帝クラスが残っている。そして何よりレイの中で気がかりなのは先の戦闘で戦ったあのエルビーと言う未知の生命体。同時にエルビーが残したあの言葉。


”私は幻魔一族の『エルビー』、ちゃんと覚えておいてね坊や達”


 思い出すだけでレイは冷や汗が止まらない。


「幻魔一族――まだ他にもエルビーみたいなのがいるって事だよね」


 一度深くため息をついて両手を後ろでついた。上半身をのけ反らせて満点の星空を見て。


「メル、君は一体何と戦っていたんだ。そして僕は一体誰なんだ」


 彼女の言葉が頭の中を巡る。同時に現状残されている課題についても思考が止まることなく回りだす。

 やることは沢山残されている、現状の戦力強化にミト達三人のこと。そして戦争となった帝国との戦いのこと。考えれば考えるほど答えなんて見つからずグルグルと回りだす。それがレイをある意味追い詰め始めていた。


 自分たちは一体何に巻き込まれたのだろうか、そもそも帝国との戦争に一体何の意味があるのか。いや、帝国との戦争にはもちろん意味はある。現在のこの腐りきった世界を変えたい、そう彼らは願い。刃を向けた。そこから始まったこの戦争がいつまで続くのか、そして帝国の思惑とはいったい何なのか。何がしたいのか。これ以上人々を苦しめどうしたいのか。考えれば考えるほどわからないことだらけだ。

 それでも一度刃を向けてしまったのだ、もう後戻りなんて出来るはずがない。民衆は現状彼ら側に付いている。それも中央大陸全土で戦争が始まるぐらいには広がっている。言うなれば、これは革命だ。今の帝国に反旗を翻したのだ。火種を作ったのはもちろん帝国だ、それに燃料を投下したのはギルドと彼ら四人。世界各地でくすぶっていた火種にオイルを掛け炎上させた。


「この世に、平穏のあらんことを――か。中々難しいよメル」


 寂しそうな目でそう呟いた。

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