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第三十三話 砂漠にて Ⅰ

 照りつける日差しが容赦なく旅人の体力を奪う、砂漠と荒野の中間に位置する唯一のオアシスであり、旅人の拠点としても使われる小さな酒場町「ケープバレー」は今日も多くの旅人を受け入れていた。

 一年ほど前、この地で暴れていた盗賊団は三人の少年により全滅させられた。それ以来この地を騒がせる荒くれ者はいなくなり本当の意味でのオアシスとなっていた。この辺りは帝国の手も薄く騒がしい日常という物は一か月に一日あるかどうかとなっていた。その一番の功績者が現在の剣聖レイ・フォワードである。


 彼が剣聖の称号をカルナックより受け継いだ一報はこの町にも届いてた。それはそれは大々的に祝われたそうだ、またそれと同時に世界各地へと報道された反帝国組織の結成、これもまたこの町にも轟いている。彼等は自分たちが思っているほど以上に世界にその名を行き渡らせていた。

 これには当の本人たちも驚いていただろう、何せ彼らは自分たちがやりたいようにやっているだけであるからで決して世界平和の為と言う訳ではなかった。強いて言うのであれば帝国の思い通りに事が進むことが何より気に入らなかった。ただそれだけだったのだ。


 それが今では世界中の救世主のような扱いをされている地域さえある。それは中央大陸南部の貿易都市、そして彼らの拠点であるメリアタウンである。

 そして、当然のように帝国からは危険人物としてリストアップされている。これは言うまでもないだろう。半年前に帝国の主力部隊でもあった特殊部隊を壊滅、当時の剣帝序列筆頭のレイヴン・イフリートとその上官であり、先代の剣聖カルナック・コンチェルトの友人兼ライバルであったエレヴァファル・アグリメントの両名を失う事となった。それは帝国の戦力の半分を失うにも等しい。


 彼等は文字通りの一騎当千であった。


 現在帝国に残る勢力は一般歩兵と銃兵、各地に散開している部隊と遊撃師団のみ。この中にもう一人、一騎当千と呼ばれる軍人がいる。それがカルナックを裏切った最後の一人である。カルナック曰くエレヴァファル以上に対峙したくない相手だという。


「んで、その最後の一人ってどんな奴よ」


 酒場町に到着した彼等はいつぞや世話になった酒場の一角を借りて休憩をとっていた。アデルは全身打撲を負っていて今はミトの治癒法術にて回復中である。もう一人テーブルに伏せているのが彼らのリーダーであるレイだ。あれだけの極大法術を使った後であり精神的に疲労困憊であろう。

 地図を開いて今後の進路を模索してるガズルにシフトパーソルの手入れをしていたギズーが口を開いて質問した。


「さぁ、俺も詳しいことは知らねぇんだ。おやっさんの過去話なんてお前らが知ってる位の武勇伝とかその程度だしな」

「なんだよ使えねぇな、お前それでも現存の弟子かよ」

「そんなこと言われたって仕方ねぇよ、聞いても教えてくれないしアリス姉さんも知らないんだ。そもそも『アルファセウス伝記』って本にもなってる位だろ? それを読めば多少なりわかるんじゃないのか? 俺は読んだことねぇけど」


 やっと痛みが引いてきたアデルがミトに礼を言って帽子の位置を直しながら返答した。そう、カルナック達が起こした数々の武勇伝は書籍化されて一部では熱狂的なファンが居るほどだ。だが当のカルナックからすれば日記として残しておいた記録がギルドによって勝手に修正と加筆を加えられて出版された書物であり本人としては興味がない。


「でもよ、あのエレヴァファルだって右腕と引き換えにやっとこさ倒せたって相手だろ? そんな化け物と同等かそれ以上って本人が言ってる相手にどうやって太刀打ちするんだ? 俺たちじゃどうやったって勝てないだろ」

「そこなんだよなぁ、おやっさんの右腕がなくなっちまった今じゃ同じ剣の扱いは無理だろうし、いくらエレメンタルマスターって言われるおやっさんでも全盛期に比べれば見劣りはするだろうしなぁ」


 二人がそんな会話を続けているとカウンターからコーヒーができたと声が掛かった。ミラとファリック二人でコーヒーを受け取ると各自に配る。


「オイラはそのカルナックって人がどんな人なのか知らないから何とも言えないけど、とりあえず剣術と法術がものすごく強い人って認識でいいのかな?」

「そうだ、現在は剣聖の称号をレイに譲って隠遁生活……いや、結構前から前線からは身を引いているけど間違いなく現在でも最強の称号はあの人のものだろうな。どうだレイ」

「あぁ、その認識で間違いないよ」


 コーヒーを配り終わったファリックが席について一服したのちに質問をした。先にアデルが答え続いて伏せてるレイが答える。


「残念だけど、僕達じゃまだ先生の域に到達できてないんだよファリック。先のメリアタウン防衛戦だって先生が居れば一人であの機械仕掛けのガーディアンだっけ? あれを破壊してただろうね」

「すごいのねその人、でもそんな人の弟子なんでしょ貴方達」


 代わる代わる質問を続ける自称未来人達、落ち着きを払っているのはミラ一人だった。伏せていたレイが一度伸びをして思いっきり上体を起こして背もたれに寄りかかる。


「弟子というか何というか、なぁ?」

「うん、僕とアデルは正確には弟子というより息子に近いのかもね」


 二人の言っている意味が理解できないミトは首を傾げた。


「僕達二人は孤児なんだ、僕の故郷は帝国によって焼き払われてアデルは天涯孤独。どこ出身で親が誰なのかもわからない。まぁ僕もある意味じゃそうだけどね」

「ある意味?」


 再び首を傾げた。だが今度はギズーとガズルも初耳の情報だったのだろうか顔を上げる。


「僕の故郷『ケルミナ』に帝国が進出してきた時さ、父さんの最後の言葉が「お前は私たちの子供じゃない」って告げられてね。んでメルの最後との言葉というか手紙というか――まぁ何にせよ僕とアデルは孤児なのさ」

「ごめんなさい、私――」


 レイはきっと何の気なしに身の上話をしたのだろう、ミトが申し訳なさそうな顔をしてるのを見てそこでようやく場の空気に気づいた。慌てて話題を変えようとしたが思い浮かぶ話もなくワタワタと手を振って、深いため息をついた。


「まぁお前ら二人の身の上話聞いたところで今後の役に立つ話でもねぇがな、それより見てくれ」


 目線を再び地図に落としたガズルが指を指しながら続きを話す。


「現在地はここ、以降東と南は砂漠で西は荒野、北には二千年前にできた巨大な亀裂。目的地であるカルナック家はこの亀裂の先だ、だがどうやってもこの亀裂を渡るなんてことはできん。何年か前までは先人達がかけた巨大な橋があったそうだけど今じゃ落ちてる。って事は砂漠を超えて亀裂の端から迂回するか、戻って帝国の詰め所があるもう一つの橋を渡るしかねぇ」

「砂漠越えかぁ、嫌な思い出しかないなぁ」


 もう一度ため息をつくとカウンターから笑い声が聞こえてきた。


「はっはっは。坊主、また行き倒れるか?」

「やめてくださいおやじさん、縁起でもない」


 店主のガトーだ、一年前に砂漠越えを果たしたレイがこの町で行き倒れにも等しい到着の仕方をしたのを覚えている。それを思い出して笑っていた。


「んでだ、砂漠を超えるとなると結構な距離を歩くことになるんだがどうする?」

「それはもう仕方ないじゃないかな、直線距離なら近いんだけど僕もこの亀裂だけはどうにもできなかったし、その結果砂漠越えを強行して半場行き倒れ。方向音痴だったっていうのもあるんだけどね」

「やっぱり辛いところだなぁ、西大陸の蒸気機関ってのがこっちにもあればまた違うんだろうけどな」


 ガズルとレイが地図を見ながら半場絶望する。当初の予定では亀裂の西側を回ってカルナック家へと行く予定だったのがまさかのグランレイク越えからの大砂漠越えである。


「無いもの強請(ねだ)りしても仕方ねぇぞお前ら、とりあえず携帯食料と大量の水持ってさっさと砂漠超えようぜ。シフトパーソルに砂が入って仕方ねぇ」


 ギズーの言うことにも一理ある、ここで休憩しているのはあくまでもレイとアデルの回復が主でありそれがある程度住んでいるのであれば一刻も早く町を出るべきである。理由としては二つ、一つは何時帝国が迫ってくるかもしれない状況であること、もう一つは夜になる前にある程度砂漠を進んでおきたいという所だろう。


「それもそうだな、俺はミトのおかげでかなり回復したけどレイはどうだ?」

「僕も何とか大丈夫かな、ただ連続戦闘みたいな場面だけは出くわしたく無いのが本音。と言っても砂漠に入っちゃえば危ない動物も帝国兵も居ないから後は単純な体力面かな」


 アデルが懐から煙草を取り出して法術で火をつける。横目でそれを見ながらギズーも同じく煙草を取り出してアデルに火を求める、面倒臭そうに左手で指を鳴らすと摩擦熱を利用してわずかな火を作り出してそれを放る。アーチ状にゆっくりと落ちてくる火はギズーのくわえてる煙草の先端に当たると小さな音を立てて着火した。


「相変わらず器用な事するなお前は、いっその事曲芸師にでもなったらどうだ? 曲師アデルってな」

「馬鹿言うな」


 ガズルが一連の作業を見てアデルを揶揄うと煙草を咥えたまま両腕を頭の後ろへと回して背もたれにグッと寄りかかった。二人のやり取りを見てレイがほほ笑むと席を立つ。


「よし、そしたら準備して砂漠に入ろう。おやじさんお世話になりました」

「なぁに、いつでも戻ってきてくれ。お前らは俺達の希望なんだ。水はどれだけ必要だ? かき集めてくるぜ」


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