地獄譚
こんにちは、シラスよいちです。
最近は梅雨にも入っていないのに暑い日々が続いておりますが身体のお加減はいかがでしょうか?
自分は大学生活に配信活動にと、睡眠時間を削りに削られ手いっぱいです。
私を反面教師に体調管理確りとなさって下さい。
今回は地獄をテーマに3つ地獄の風景を描いてみました。
ご一読下さると幸いです。
鬼の少年は地獄をさまよっていた。
彼はこれから地獄で働く故、見て回らねばならない。
下には惨たらしいという他ない景色が広がっている。
ここは古今東西落ちるべくして落ちてきた罪人が無限に罰を受け続けている。
【想】
そこは戦場だった。誰もが焦点の合っていない目で血だらけの身体を引きずり、折れた刀で目の前の人間を殺さんとしている。
中には自分とあまり歳の変わらなそうな青年の姿も数多くあった。
「おい、やめないか。死後まで人を殺すのか君は」
青年たちの中でも気弱そうな1人が膝を追っているのを見て鬼は声をかける。
「五月蝿い、私が、私が殺さなきゃ」
何かに焦るように、身体を震わせながらも刀を杖に立ち上がり狂乱の戦場に突っ込んでいく。
鬼は人のみているもの、みてきたものを見ることが出来る。
そこでこの鬼は、青年の最期を覗き見た。
「林檎さんを、私の希望を返せッ」
見えたのは、通り魔に恋人を殺された怒りから悪徳商人や盗人を次々と斬り殺すようになった青年の姿。
人を20は殺した頃、呆気なく捕まり死刑となった。
「もっともっと殺さなきゃ、この世は腐り切っているのに」
鬼には修羅の道に落ちた彼が、自分よりも「鬼」であると思われた。
目を地獄に戻すと、青年が敵と腹に刀を刺し合う形で倒れている。
「私が、私が殺さなきゃ…」
そう繰り返し唱える彼の脳裏に恋人はもういない。
殺さなきゃ、に続くであろう言葉も彼は持ち合わせてはいないだろう。
何者にも代え難い罪悪がそこに写っていた。
【黒縄】
燃えて赤く光る縄で全身を締め付けられ、派手な髪色をした短髪の少女が悲鳴を上げている。
炭縄と呼ばれる黒く焼けた縄目が白い肌にとぐろを巻いている。
縄目に沿って熱鉄の斧で小間切れにされる様子に、慣れない鬼は目を覆った。
だが次の瞬間には元通りである。
無限に罰を受けるための四肢再生が繰り返される光景に、ここが地獄であることを再認識する。
「もうしないから、盗まないから。許して」
一体何を盗んだのだろう。
彼女は父子家庭で、家には誰もおらず高校に上がってからは歓楽街で男に媚びを売り何とか生き繋いでいた。
だが高校を卒業してすぐ父親の借金返済は膨れ上がり、彼女にも返済が降りかかった。
そこで彼女は、彼氏を作って同棲しては家具を売り払い預金を盗む外道に落ちる。
その果てに、最後の彼氏に殺された。
「俺は君にだったら全部あげるのに、財産なんていらないのに。裏切り者」
「アンタに何が分かるのよ」
「分からないよ、言ってくれなきゃ」
「本当は殺したくなかった…」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
彼女は詫び続けるが、誰も赦すはずがない。
彼女は盗みを続けるべきではなかった。
心という大事なものを既に盗んでいたのだから…
かくて彼女は黒い縄にかけられた。
【堆圧】
全てが剣で出来た林が山を作っていた。
そこでは人々が血だらけになりながら剣で出来た木を上り下りし山中を駆けまわっていた。
人によっては切ったところから骨がむき出しになっていたり、血が吹き出たままになっており、駆けまわっていたというと語弊があるかもしれない。這いずり回っていたという表現が適当だろうか。
鬼は中でも凶悪そうな釣り目の男が遠く遠くを泣きながら睨み走るのを確認した。破けすぎて原型をとどめていない服は、色からしてどうやら軍服であると思われた。
彼が地獄に落ちたのは他でもない。
戦地で死にゆかんとする恐怖を薄めるため配属された志那で夜な夜な女を抱いていた。
その中で戦友が先に戦死したと聞いた日、やけ酒の勢いで抱いた志那人の娼婦に斬りつけたのだ。軍部は事実を隠蔽し彼は懲戒処分を受けるだけで放免とされた。
後に戦死した彼の罪を閻魔大王は見逃すはずもなく、ここ堆圧地獄へ送られてきた。
さてここでは罪人の脳裏に焼きつく美女(女の場合は美男)が誘惑してくるので、その幻影を追って剣の山を右往左往するという。
鬼が彼の見る美女を見ると、それは彼の殺した相手ではなかった。
彼にも実は1度だけ愛した女がいた。男が名前を覚えていない故、名は分からぬ。
彼がたった1夜、戦地に送られる前夜に抱いた遊女だ。その日も彼は恐怖を紛らわすべく酒に酔っており、散々遊女になだれかかった。
「戦争が終わったら、きっと私の元に帰ってきておくんなまし」
優しく全てを受け止めていた彼女は、彼が店を出る直前そうこぼした。
彼は無理に決まっている、俺は死にに行くんだと冷めた目で彼女の願いを退けた。
生を諦めてはいたが、なんとなく彼の頭には美女の儚げな笑顔とその一言が片隅に残っていた。
だがしかし戦地で寂しさを埋めるため、彼は賭け事と女に走った。
今彼は泣きながら遊女を追っている。言葉をかけようにも遠のいていく陽炎の如き彼女に
彼が追いついたとしたら、一体どんな言の葉を紡ぐのだろうか。
いかがだったでしょうか?
良ければ感想をいただけると作者が泣いて喜びます。
そろそろ梅雨ですね。雨が続く分、家で執筆する時間が増えるかもしれません。
また次回作が書けたときにでもお会いしましょう!