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記憶をめぐる、彼と少女の物語  作者: 葛生雪人
三、ジャバルの賢老
9/49

3.

 ヴァールの仏頂面を、不幸や苦悩の表れだと思ったのか。

「お前も名前をもらったらどうだ? スッキリして、ほんわかして、うわーっ! となるぞ」

 ビルカはニコニコと笑いヴァールを見上げた。

「俺は――」

 そんなものいらないと言おうとしたのを押しのけて、アルナーサフがビルカの前に立った。

「そやつにはすでに名前があるのじゃよ」

 余計なことを言うのだろうと思ったが抵抗はしなかった。したところで止めはしないだろうし、嫌がってみせれば面白がってさらに余計なことをつけ足すかもしれない。

 ヴァールは聞こえていないふりをして、一足早く山道を下り始めた。

 ビルカはヴァールをの背中を気にしながらも、アルナーサフの言うことが気になって、歩き出せずにいる。

「何という名だ」

 好奇心に負けたビルカに、アルナーサフはにんまり笑って言った。

「ヴァールじゃ」

「ヴァールか。それならさっきカムラに教えてもらったぞ。ウマイものを作る名前だ」

「ただのヴァールではない。ヴァール=ハイムヴェー」

「長いな。ワタシのとはなんかちがうな」

「そうじゃよ。ヴァール=ハイムヴェー。戻ることも進むこともやめた、世迷い人の名前じゃ」

 


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