表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶をめぐる、彼と少女の物語  作者: 葛生雪人
十三、ブリキの眼鏡ケース
36/49

3.

「イキャクのみずうみというのは、あれか? 例の、記憶が溶けるという、あれか?」

「ああ」

「ではついにワタシの石と対面というわけだな!もうできているんだろ?」

「たぶんな」

「そうかそうか! それは楽しみだ! ワタシの石はどんな色をしているだろう」

「黒だろ」

「赤とか青とか、金色かもしれないぞ」

「いや、黒だ」

 追憶の石はもれなく黒色だ。

「ふん。ならば黒でいい。しかし! 大きくてキラッキラのがいいぞ!!」

「……少し黙っていろ」

 湖に向かっている理由などつゆ知らずビルカははしゃぐ。

 対してヴァールは複雑な心境であった。

 山道をともに歩くのもこれが最後かもしれない。そう思うと清々しさがあった。この実に気の進まない山道の往復さえ済ませれば、何をするでもない日常が戻ってくるのだ。だがそう思うのと同時に、晴れきらぬ心のもやにも気づいてた。

 ヴァールの思惑通りビルカが去るということは、つまりまた一人、湖の恩恵を受け山を下りていく者の背を見送るということだ。そこには村人たちのような餞の気持ちなどない。あるのは惨めさ。それだけだ。

 砂混じりの砂利の道を歩きながら、そんな後ろ向きな感情に支配されそうになった。それでもヴァールは足を止めなかった。それはヴァールのためでもあり、そしてビルカのためでもある。

「なあ、ヴァール!! 昼ごはんを持ってきたのか? なに? さっき食べただろ、だと? 何を言っている。さっきのは朝ごはんだぞ。起きてすぐ食べるのが朝ごはんで、その次が昼だ。太陽の高さなど関係ないぞ! ……しかしもう少しすると日が暮れるのか。困ったな。昼ごはんを食べる前に夜ごはんの時間が来てしまうぞ。ヴァール!早く昼ごはんを食べるのだ!」

 無邪気なビルカの声が響く度、底抜けに明るい笑顔が見える度、ヴァールはつとめて一歩を強く大きく踏み込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ