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記憶をめぐる、彼と少女の物語  作者: 葛生雪人
十三、ブリキの眼鏡ケース
35/49

2.

 ビルカの着替えを手伝って、持参した軽めの食事を与えて、彼の後を追うようにと送り出した。しかしすぐに呼び戻して、彼にあまり迷惑をかけてはいけませんよと念を押す。

 わかったのか、わからないのか。どちらともとれる笑顔で、ビルカは再度出発した。

 そうしてカムラは、ぽつりと一人になった。

 突然に緊張はほどけ、緩んだ部分に寂しさや悲しさといったこの部屋の静寂に寄り添った感情が入り込んできた。

 そっと窓を見る。

 この村に、この家に帝都のようなまともなガラスがなくて良かったと心底思った。波打ち、歪んで、身だしなみの確認もできぬようなガラス窓で良かったと。

「もしも、昔のことを話している時のご自分の眼差しに気づいていらっしゃったら」

 もしもこのガラスが、鮮明にヴァールの表情を映していたのなら。

 カムラはふと視界に入った、あのブリキの眼鏡ケースに手を伸ばした。恐る恐る指先で触れてから、優しく包み込む。

「きっとここへ帰ってきますよね。……きっと帰って来て下さいませ」

 カムラはケースを大切に抱えるように、そして何かにすがり祈るように細い指を握り合わせていた。



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