・
「どうしてこんなことになった」
「よくあることだよ」
「あいつらを知っているだろ。あり得ない。考えられない」
「よくあることさ」
「だから気にするなと? 俺に、いつものように空を飛べというのか?」
「……よくあることだよね」
ヴァールがどれほど疑念と怒りをぶつけても、友は何食わぬ顔で窓の外を眺めていた。執務室からの景色が気に入らないと日頃からこぼしていたくせに、今日はその気に入らない景色が恋しいとでも言うのか。どこまで聞いているのかわからないという表情で、友は鮮やかな新緑の庭に目を向けていた。
友のようにはいられなかった。彼らの死を受け入れられず、ただ声を荒げることしかできなかった。
そんなヴァールに友は言う。
「忘れられないなら、捨ててしまえばいい」
友の言葉に、ヴァールの怒声が止んだ。
「遺却の湖か? 馬鹿な。俺が俺でなくなる」
「撃墜王はいなくならないさ」
「操縦に関する記憶だってなくなるだろう」
「記憶はなくなる。だが経験は残るそうだ。遺却の湖に入ったって、言葉がわからなくなることもないし、ナイフやフォークの使い方も忘れない。君にとって、ベスティエに乗るのはそんなものだろ?」
「……だとしても」
「何が不安だ? 僕がいる。軍人としての記憶がなくなったって僕が守ってやる。君は大事な撃墜王なんだからね。……行くんだろ? あの遙かなアルタールへ」
ヴァールは押し黙った。
しばらく黙り込んだまま考えて、考えて、考えて。ようやくたどり着いたものが『答え』であったかどうかは今もわからない。だが、その時はそうしなければいけないと信じた。
「そうだ。俺は追撃王でなければならないんだ」
だから遺却の湖を訪れたのだ。
しかし忘れることはできなかった。何度その水に沈んでみても、ヴァールはヴァールのままだった。
何日経っても変わらない。
何日か経ってから、悪友からの連絡もないことに気づいて、ヴァールは何もかも失ったと理解した。
もうあの高い空を目指すことはできないのだ。




