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記憶をめぐる、彼と少女の物語  作者: 葛生雪人
十二、ヴァール=ハイムヴェー Ⅲ
33/49

「どうしてこんなことになった」

「よくあることだよ」

「あいつらを知っているだろ。あり得ない。考えられない」

「よくあることさ」

「だから気にするなと? 俺に、いつものように空を飛べというのか?」

「……よくあることだよね」

 ヴァールがどれほど疑念と怒りをぶつけても、友は何食わぬ顔で窓の外を眺めていた。執務室からの景色が気に入らないと日頃からこぼしていたくせに、今日はその気に入らない景色が恋しいとでも言うのか。どこまで聞いているのかわからないという表情で、友は鮮やかな新緑の庭に目を向けていた。

 友のようにはいられなかった。彼らの死を受け入れられず、ただ声を荒げることしかできなかった。

 そんなヴァールに友は言う。

「忘れられないなら、捨ててしまえばいい」

 友の言葉に、ヴァールの怒声が止んだ。

「遺却の湖か? 馬鹿な。俺が俺でなくなる」

「撃墜王はいなくならないさ」

「操縦に関する記憶だってなくなるだろう」

「記憶はなくなる。だが経験は残るそうだ。遺却の湖に入ったって、言葉がわからなくなることもないし、ナイフやフォークの使い方も忘れない。君にとって、ベスティエに乗るのはそんなものだろ?」

「……だとしても」

「何が不安だ? 僕がいる。軍人としての記憶がなくなったって僕が守ってやる。君は大事な撃墜王なんだからね。……行くんだろ? あの遙かなアルタールへ」

 ヴァールは押し黙った。

 しばらく黙り込んだまま考えて、考えて、考えて。ようやくたどり着いたものが『答え』であったかどうかは今もわからない。だが、その時はそうしなければいけないと信じた。

「そうだ。俺は追撃王でなければならないんだ」




 だから遺却の湖を訪れたのだ。

 しかし忘れることはできなかった。何度その水に沈んでみても、ヴァールはヴァールのままだった。

 何日経っても変わらない。

 何日か経ってから、悪友からの連絡もないことに気づいて、ヴァールは何もかも失ったと理解した。

 もうあの高い空を目指すことはできないのだ。



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