2.
自分が温まるためだ。そのついでだ。
何故だか心の中で言い訳を繰り返しながら茶を入れた。
「何かを大事そうに握っているみたいですけど、なんでしょう」
器を受け取ったカムラが微笑む。
彼女の言葉にうながされ未だ眠りの最中の少女を見遣れば、その枕もとにはヴァールの荷物が散らかっていた。夜中に寝ぼけながら引っ張り出したのだろうか。無雑作に広げられたもののうち一つを大事そうに握りしめ、少女はにんまりと笑っていた。
あの日ビルカが掘り返した記憶の品々。その中にはなかった取って置きのものが、今、そこにあった。
出てきたのがあの時ではなくて良かったと心底思った。
ブリキの眼鏡ケースも、そこに刻まれた幾つかの名前も、それらにまつわる思い出も。みんなみんな、ヴァールの胸を掻き乱す。正常ではいられなくする。
頭の中をかき混ぜられて、思考する力は誰かに制御を奪われたように不自由で、自分が自分でなくなるような、そんな不安に襲われた。
心が波立っていた。
しかし同じ波があの時、ビルカに心乱されたあの瞬間に起きていたなら、これほど静かな波では済まなかっただろう。
ヴァールは深く息を吐いた。空になった肺にスムーズに酸素は戻ってくる。苦しさはない。色あせた眼鏡ケースから目をそらさずにいられる。
「なあカムラ」
声をかける。訝し気な視線が帰ってきた。きっとヴァールの表情のせいだ。
「少し、話をしても構わないか」
湖の力にすがり逃げてきた男の顔でなく、志ある男の顔。とうに失くしてしまったと思っていた顔。ヴァール=ハイムヴェーの顔だった。




