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記憶をめぐる、彼と少女の物語  作者: 葛生雪人
十一、クジラと若者
28/49

1.

 断続的に目を覚まし、細くなりゆく雨の音を一晩中聞いていた。空が明るくなる頃には眠気を誘うように音は消え、雨粒も目を凝らさなければ見つけられないほどになっていた。

 雲はそれほど厚くないようだ。雲間からもれる薄い光で夜明けを充分確認できた。

 ヴァールはぶるっと震えて、ベッドを見た。

 毛布にくるまって幸せそうな寝顔を見せるビルカ。こういうものを見て頬を緩められる者もいるのだろうが、ヴァールはただただ腹立たしかった。少女にベッドを占領されたこともそうだが、何よりそんな事態を招いてしまった自分の行動に対して苛立ちを感じていた。

 見捨てておけば良かったものを。

 後悔しても遅いが、後悔せずにはいられなかった。そして、つい数日前に似たような思いをしたような気がして、一段と気が萎えた。

 目覚めの一服を済ませ朝食の支度を始めた時、遠慮気味なノックの音が聞こえた。そっと開いた一筋の隙間から澄んだ瞳がこちらをうかがう。ヴァールたちのことを心配したカムラが姿を現した。

 カムラも昨日の雨に足止めをくらっていたらしく、家の中に入るなり「遅くなりまして」と深々と、そして何度も頭を下げた。

「石読みから帰ってきた方々が、ヴァール様に任せた方がいいとおっしゃるものですから……」

 そう付け加えるカムラ。何があったか、端々は彼女の耳にも入っているようだった。

「それでビルカちゃんは」

 ヴァールは目配せで寝室を示した。

「あら」

 ビルカの寝顔にカムラは頬を緩ませる。

「支度を手伝いに来たのですが」

「なんだ」

「できれば、自然に目を覚ますまで待っていてあげたいですね」

 つまり、いつも通りならば「今すぐ叩き起こして連れて行け」と言われると思ったのだろう。訴えかけるような視線でヴァールを見上げる。

 その通りだ。いつもなら叩き起こしているだろう。連れて行けと命令する前に、担ぎ上げて外に放り出しているだろう。だが、今日はそうしない。

「温かい飲み物でもどうだ」

 ヴァールの言葉にカムラは驚いたが、すぐに嬉しそうな表情を見せ、「手伝います」と小走りで家に入った。



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