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記憶をめぐる、彼と少女の物語  作者: 葛生雪人
九、迫り来る過去
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 その足音は近づいてくる。

 先導役の男の軽やかな音が一つ。

 それに続くのは、重たく強く地を踏みしめる音。複数であるのに一つの音と思えるほどに揃い、わずかな乱れもない。しかし揃いながらも、進む早さは先を行く男に劣らず、それどころか彼を急かすようであった。

 一つと大勢の足音が、山道を登りゆく。

 迂回路を選ばずに、最も早くたどり着けると険しい道を、人の分け入らぬ獣道を、ゴロゴロとした石を蹴りながら進んでいく。

 山を良く知る者に比べれば、なんと不慣れで荒々しい足どりか。ただ逞しいだけの行進だった。

「もう少し行ったところに、夜を越すのに良さそうな場所に出られるはずです。そこいらで今夜は休んだ方が……」

 案内人が空模様をうかがった。

 陽はだいぶ傾き間もなく夜がやって来る。暗い中、山道を行くのは危険だ。まして獣道なら尚更。

 だが隊列の先頭にいた男は思案する間もなく首を横に振った。案内人と同じように空を見上げはしたものの、まったく反対の判断を下す。

「天気はもちそうですし、夜通し歩きます」

 話したのはその一言だけ。提案ではなく決定だった。他の誰も、同意も反論も口にしなかった。

 黙々と、彼の言葉に従って歩き続ける。

 張り出した木の根を踏み、石を蹴飛ばし、砂礫に足を取られながら進むうち、空は赤くなり、青ざめて、黒く染まり星の瞬きで埋められる。

 わずかに欠けるだけの月が照らす中、男は懐中していた一つの石を握りしめ、口もとを緩ませた。

 気づいたものがいたかどうか。

 男がその顔に浮かべたのは、厭らしく誰をも不快にさせるような下卑た笑いだった。


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