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西新宿から始まる異世界生活

 目に広がったのは、幾つもの高層建築物と灯火。人々の往来が激しく、何処か忙しそうにも見える。


 感動の余り、私は裸足のまま数分間扉の前で突っ立っていた。

 

 ふと我に返ると、野菜や果物が詰め込まれた袋を両手に持った白髪のおばあさんがこちらを不思議そうに見つめていた。

「アンタが新居人かい?」

「……はい、そうですが」

「ああ、そうかいそうかい。ここんとこの大家さんが新しい人来るって言ってたから、いざ誰かと思えばこんなにも若い女の子だったなんてねぇ。あ、おばちゃんねぇ、貴女の隣だから、困った事あったら言うてねぇ」

 おばあさんは荷物を下ろして扉を開ける。またね、と一言添えられて部屋の中に入った。

 あのおばあさんと前の世界の人間とでは、服装も、体格も、喋り方の訛りも、全て違っていた。この何気ない近所への挨拶で異世界に来たという事を再認識した。

 しばらく、彼女の居た位置をじっと見つめた後、靴を履いていない事に気がつく。玄関に置かれていた何の変哲もない赤色のハイヒールを履き、再度改めて家を飛び出した。


 × × ×

 

 アパート前に運良く周辺の地図が載った掲示板があった。

 とりあえず最寄り駅『西新宿駅』に向かった。一歩進むたびに何か新しいモノを得たような気分になる。この数分で惹かれたモノは沢山あった。幻想的な建造物が立ち並び、光に囲まれ、そして何より惹かれたのは、人の美に対する意識の高さだ。

 前世界の人間は美に対する意識は両極端だった。王や騎士ともなれば、顔や身嗜みを整えることは当たり前、ただ一般市民以下の地位に就いた者で顔や身嗜みを整える人は少ない。だが、この世界はどうだ。老若男女問わず、今まで通りかかったほぼ全員が最低限の清潔感を保っている。私は感銘を受けた。


 暫く歩くと西新宿駅に着いた。見た感じ新しい駅舎で、人の行き来が激しい。世間はお正月を迎えているからだ。私は銀行へ向かう。だが——。


「……休業!?」


 何せ今日は正月。店も休業の場所が多い。

 この場合、どうすれば良いかは分かる。

 駅にあるえーてぃーえむ?を探せば良い。


 私は駅構内に入り、波を避けながら構内地図に沿って目的地へ向かった。


 × × ×


「これぐらいあれば生活するには充分かな」

 

 限度額である50万円をポケットに突っ込み、近くのベンチで一息つく。片手に自動販売機で購入したミネラルウォーターを一気に飲み干し、近くのゴミ箱に捨てる。分別の文化は慣れないが、郷に入れば郷に従え、という言葉があるように異国に行った時はその文化に従うのが皇女として令嬢としての定めだ。



 頭の整理を行い、立ち上がった瞬間——。



「……おっと、大丈夫ですか?」

 

 私は慣れないハイヒールのせいで、横転しそうになった。だが————。


「……あ、あ、だ、だい、丈夫ですっ」


 私は通りすがりの男性に膝立ちのお姫様抱っこをされていた。銀髪のナチュラルウルフカット。顔は通路を歩く人たちに比べて一回りも二回りも美貌。軽めの灰色のジャケットと黒単色のパンツ。さらに値段が張りそうな革靴を履いていた。


「大丈夫なら、良かったです。ハイヒール初めてですか?」

「あ、はい。ちょっと合わなかったかも」

「靴ならこの辺はもちろん、東京なら色々買う所ありますからね。僕は渋谷の方にお気に入りの店が……って、ごめんなさい。靴とか服とか好きでつい熱くなってしまいました。お金があるなら絶対に買い換えた方がいいですよ。靴は足と人生のお守りですから」


 私はゆっくりと身体を起こして、彼の顔を見上げる。


「ありがとうございました。心配までしてくれて」

「いえ、全然。では」


 私は立ち止まったまま、彼を見送った。


「……お金あるし、色々買っちゃおうかなぁ」


 

 

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