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メアリシリーズ

イーサンと森の小屋

作者:

短編シリーズ「姉に突き落とされて記憶喪失になった私が幸せになるまで」のおまけ番外編です。

 これはメアリとアーネストが結婚してまだ間もない頃のこと。



 新婚旅行の代わりに二人は森の小屋でゆっくり過ごすことに決めた。


「他の国に移動するのは時間がかかるからな。あそこなら一週間の休みをフル活用できる」


とアーネストが言ったので、イーサンは森での二人の休み期間を安全に過ごせるよう、護衛の体制を整えた。


「ねえ、イーサンお兄様。お兄様も小屋で一日過ごしてみませんか?」


「何を言う、メアリ。せっかくの新婚旅行じゃないか。二人きりで過ごさないと」


「でも、すごく楽しいんですよ。アーニーの手料理も美味しいですし。一日だけ、ね?」


「しかし……」


 イーサンはアーネストをチラリと見たが、アーネストはニコニコしていた。


「そうだ、イーサン。一度お前も連れて行きたいと思ってたんだ。一日くらい、仕事を休んでもいいだろう」


「殿下がそう仰るなら……お邪魔いたします」


 そして約束通り、休みの三日目にイーサンは小屋を訪れた。


「ようこそ、お兄様」


 髪を一つに結び、簡素な服を着たメアリが出迎えた。


 アーネストもいつもの上質な服ではなく、市民が着るような動きやすい服装だ。


「……ちょっと私は場違いな服でしたね」


 仕事用の軍服で来ていたイーサンは頭を掻いた。


「しょうがないさ、こんな服持ってないだろう。私もここにだけ何着か置いてあるんだ。良かったらこれに、着替えるといい。私のだから少し大きいかもしれないが」


 アーネストはそう言ってイーサンに服を投げて寄越した。


(殿下の服……)


 ほんの少しではあるが顔がニヤけているのを、メアリは見逃さなかった。


(ふふ、お兄様、嬉しそう)


「お、似合うじゃないか。じゃあ、少し外で薪割りでもしてもらおうかな」


「薪割りですか⁉︎」


「ああ。ここでは働かざる者食うべからずだぞ」


 イーサンには初めての事ばかりだが、アーネストは手慣れていた。


 昨日のうちに森でウサギ狩りをして、今日の夕飯用に仕込みを済ませており、美味しいシチューを作っていた。


「メインはアーニーが作ってくれるから、私はパンを焼くだけなの。アーニーはとっても料理上手よ」


 メアリがパン生地を捏ねながら言った。


(王太子夫妻が作った食事を食べられるなんて、もの凄く貴重なことだな)


 その後、アーネストと川へ釣りに行ったり、野いちごを摘んだりして時間は瞬く間に過ぎた。


「結構、やる事はあるんですね」


「自分の事を自分でしようとするとなかなか忙しいものだよ。普段は、使用人たちがやってくれているからこそ私も仕事に集中出来るんだ」


「そうですね。私も、もっと彼らに感謝の念を持たなきゃならないですね」


 そろそろ辺りは薄暗くなってきた。


「もう夕食にしましょうか」


 メアリが二人に声を掛ける。


 以前は一部屋だけの小さな小屋だったが、あれから増築して主寝室、客用寝室、リビング、それに台所のある大きな小屋に変わっていた。


 食堂のテーブルには赤いチェックのテーブルクロスが掛けられ、ウサギ肉のシチューと焼き立てのパン、サラダとワインが並べられていた。


「それでは、新しい家族に乾杯」


「乾杯!」


 家族と言われて喜んでいるイーサンに、アーネストがもう一つ爆弾を落とした。


「そうだ、今この場には三人しかいないのだし、ここでだけこう呼ぼうかな。……義兄さん、と」


(……ちょっと待ってくれ! 感情が追いついて来ないぞ? 今、殿下が私のことを義兄さんと呼んで下さった⁉︎)


「に、義兄さんですか? では、私は何とお呼びすれば」


「そうだなぁ、アーニーと」


「ア、アーニー……」


「何だい、義兄さん?」


 頬杖をついた手の甲越しに見つめられたイーサン、完全にノックアウトである。

 頭から湯気を出しているかのように真っ赤になっているイーサンを見てメアリは、


(お兄様、爆死なさったわね……)


 兄の心臓が果たして明日まで持つのか心配になった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 以前に「義兄上」呼びと予想したのですが、それよりも フランクな「義兄さん」は堕ちる(笑) 将来の婚約者がすんごく年下で、彼女が年上フェチという のは、同年代の女性からのあの主従はできてると…
[良い点] 最推しに『にいさん』とかよばれてはたして生きていられるのか…!! イーサン、(萌えで)死ぬにはまだ早い…!!
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