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第1章 超越者 ⑧

   ◇ ◇ ◇


「あの……」


 事務所を出ていったあっくんを見送ると、おずおずと相馬さんが口を開いた。


「ん? なんですか?」


「いえ、仕事を請けてくれるのは有り難いんだが……その、大丈夫なのだろうか? 君たちはその、娘と変わらない年だろう? いくら能力者と言っても……」


 ああ、仕事の成否を心配してるのかな。何も知らない素人さんだもんね。


「大丈夫ですよ。私も彼もこの仕事に足をつけたばかりの新米じゃないですし。今回の相手がストーカーでも異能犯罪絡みでも、彼ならどうにかしてくれますよ」


「彼はそれほどの能力者なのかい?」


 んー、これはちょっと説明してあげた方がいいかな?


 私は居住まいを直して、こほんと咳払いをする。まあメイド服だから何をしたって締まらないだろうけど。


「能力者の異能についてはどれくらいご存知ですか?」


「いや、親しい能力者もいないので、詳しくは……」


「そうですか。じゃあ簡単に説明しますね。能力者は大まかに二つに分類されます。能力者という言葉はこの二種を指す言葉ですが――一部の能力者は、普通の能力者と一線を画すんです。そんな彼らのことを、超越者と呼びます」


「超越者……」


「はい、それはもう読んで字の如く。超越者は聖痕(スティグマ)と呼ばれる身体的な特徴を持ち、異能を振るう際にその聖痕(スティグマ)が発現します。能力がすごすぎて体に現れるフィードバックが聖痕(スティグマ)だとも考えられてますけれど――まあそのあたりは現代科学じゃ判明してませんね」


「なるほど……」


「能力者の異能は、前時代的な意味での超能力だと思っていただければ。瞬間移動(テレポート)ですとか、精神感応(テレパシー)だとか。私もこの類いです。私の能力は発火能力(パイロキネシス)なんですけど」


 頷く相馬さんに、私は人差し指を立てて見せた。その指先に小さな火の玉を出して、右に左にと踊らせてみせる。


 おお、と驚く相馬さんの反応に満足して話を続ける。


「で、それ以外が超越者です。既存の能力に分類できないもので、異能に反応して聖痕が発現する能力者を超越した者――超越者と呼びます」


 そこで私は言葉を区切り、


「彼の能力は《深淵を(アイズ・オブ)覗く瞳(・ジ・アビス)》。ま、命名は私なんですけど」


「《深淵を(アイズ・オブ)覗く瞳(・ジ・アビス)》――」


「ちょっと聞いただけではどんな能力か分かりませんね」


「ふふ、詳細は聞かなくてもいいと思いますよ。一般人がこっち側のことを知りすぎて良いことないですし。けど、一つだけ言っておくと」


 あっくんの両親は本当に愚かなことをしたと思う。


 彼が両親に愛されて、清く正しく育っていれば。


 そうじゃなくても、良心的な養護施設で育って、仲間と共に平和を愛する心を育んでいれば。


 あっくんはきっと、どんな巨悪にも負けない正義になっただろう。それこそお祖父ちゃんの組織――スカムだって、本気になったあっくんの手にかかればきっとイチコロだ。

 

「彼を出し抜ける能力者なんていない。たとえそれがどんな相手でも、彼には敵わない。相馬さんは娘さんの命だけ心配していてください。娘さんが生きていれば、彼が必ず連れ帰ってくれますから」


 あっくんの両親の愚かな選択は、世界だって救えてしまいそうな天賦の才を汚してしまったのだ。


 覆水盆に返らず。


 犯罪に手を染めてしまったあっくんの才能は、もう表社会で輝けない。



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