転生
...ここはどこだ。
気がつくと、だだっ広い真っ白な世界に一人きりだった。
これは夢か、そうに違いない。
目を覚まそうと頬をつねったり叩いたりしていたその時だった。
──嗚呼、哀れな魂よ。
突然声が聞こえた。
いや、聞こえたとは少し違う。
音の発生源が分からない。脳内に直接響く感じだった。
──貴方は残念ながら現世に見放されてしまいました。異世界の勇者として第二の人生を歩ませてあげましょう。今なら何でも一つ能力を付与して差し上げます。
お約束のやつだった。
転生してチートして無双するアレだ。
「じゃあ手をかざすだけで即死魔法を撃てる能力をくれ」
魔物退治に苦労したくなかった俺は、なんともチートな能力を得た。
──それでは第二の人生に幸あらんことを...
周囲の喧騒に恐る恐る目を開く。
そこは街だった。
日本語も通じるようなので、手をかざさないよう気をつけながら情報を集める。
どうやら勇者になるには、役所に申請して“勇者”として職に就かなくてはいけないらしい。
申請はすごくスムーズに終わった。
ただ書類を一枚書くだけだった。ユルい。
そんなわけで、勇者として魔物を倒す日々が始まった。
手をかざす。ゴブリンが死ぬ。
手をかざす。ワイバーンが死ぬ。
手をかざす。ケルベロスが死ぬ。
手をかざす。手をかざす。手をかざす。
武器なんて必要なかった。
手をかざすだけで全てが死滅した。
魔物を操る幹部すらも片手で殺した。
何もかも余裕だった。
魔王城に着くまで一月とかからなかった。
その次の日。
街は失職者で溢れかえることとなった。
チートって怖いですね