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じょっぱりシャモロックR  作者: 四条半昇賀
8/10

7曲目 赤いマフラー

 いよいよ期末テスト二日前になってしまった。一週間前から原則部活禁止である。運動部の生徒も文化部の生徒も頭の中を勉強に切り替える時だ。


「これで今日のホームルームを終わる。ちゃんと勉強するんだぞ」


 と、担任の声で一日が終わった。


「ねえ、令治」


 赤坂が振り向いてきた。凄く神妙な顔をしているから、一体何の話をされるのかと思い、身構えてしまう。


「アタシ、テストやばいんだけどさ、一緒に勉強しない?」


 思わず「やった!」と声をあげてしまいそうにくらい、嬉しい申し出だ。


「オレもヤバいんだけど、今日は軽音部の人と勉強会開こうってことになってるんだ」


 郁美と金木と一緒に勉強する約束をしてしまったことが物凄く悔しい。


「令治君、早く行こう」


 オレのクラスに金木がやってきた。それを見た赤坂は何を思ったか笑顔をうかべて席を立つ。


「アタシも勉強会に参加させてください」


 と金木に正面から頼みに行った。


「僕は別にいいんだけど、美佐ちゃんと郁美って面識あったっけ?」


 困ったように頬を掻いている金木。そこに遅れて郁美がやってきた。郁美「一緒に勉強しよう」と言え、オレの心の声が聞こえたのか。


「私は別に気にしないけど」


 と郁美が言ってくれた。


「じゃあ、アタシも気にしない」


 こんな感じでこの四人で勉強会をすることになった。



 四人で生徒玄関に行くと、物凄く視線を集めている気がした。郁美はイケメンだし、金木は格好いいし、赤坂は髪の色が派手だ。目立たないわけがないか。

 ああ、早くこの場から逃げ出したい。

 郁美と金木が前を歩いていて、オレと赤坂がその後ろを着いていく。


「あ、部室にお菓子とか置いてないよね。僕と郁美で買ってからいくよ」 


 校門を出たところで金木が唐突に言い出した。そして郁美と一緒に駅の方へ歩いて行ってしまった。金木は気をきかせてくれたつもりなんだろうけど、なんかわざとらしくてちょっと白けた。


「じゃあ、オレ達は先に部室へ行こう」


「そうだね」


 赤坂と二人でしばらく歩いている。


「ホント、青森は寒いね」


 白い息を吐きながら彼女が言った。オレにとっての十一月とは、道路の脇に雪が残ってたり白い息が出たりするのが普通だった。


「いつものことだから、これが普通なんだけど」


「へぇー。じゃあ、あと三年の我慢か」


 赤坂は今にも雪が降りそうな灰色の空を見上げて、自分に言い聞かせるように呟いた。


「てか、中嶋は寒くないの? アタシはコート着てるんだけど」


 今度はオレの方を向いて聞いてきた。彼女はライブの時に着ていたコートを制服の上から着て、赤いマフラーをしていた。オレが身に付けている防寒着と言えば、ブレザーの下にセーターと手袋だけだ。


「青森の高校生は冬でも、こんな格好ばっかりだよ」


 赤坂は驚いている。


「アタシは絶対、青森で暮らせない」


 たぶん一生忘れられないんじゃないか、と思うくらい驚いた顔をしていた。

 しばらく歩いていると新城川に架かる橋に差し掛かる。冷たい風が強く吹いていて、赤坂が身を縮ませている。


「寒いっ」


 と彼女は言ったけど、オレはどうしたらいいんだ。貸してやるようなコートは着ていないし、ライブの時みたいに手を繋いでいいのかなどと、考えてしまう。

 だけど、自分から手を出す勇気はなかったので、オレは風上を歩き、風を防いでやることにした。もっとも赤坂がそれに気が付いたかどうか分からない。

 赤坂は部室を初めてみた。


「なんかボロボロだね」


 と一言呟いた。オレはシャッターの脇にあるドアを開けて、部室の中に入ると赤坂も後を着いてきた。


「何、このバンドTシャツとかタオルの数。あ、エキドナのもあるじゃん」


 今度は驚いている。コロコロと変わる表情を見ていて面白い。というか、エキドナのグッズは郁美が置いたんだろうな。


「これ、前に中嶋が着てたTシャツ?」


 赤坂が聞いてきた。たぶん、郁美の物だと思うんだけど、赤坂はライブの時に気付きかけていたから、それ言っていいんだろうか。女装してライブに行ってたことがバレてしまうんじゃないか。


「オレのじゃないし、卒業した先輩が置いて行った物だと思う」


 誤魔化しておいた。赤坂はそれ以上服について追求してこず、壁に掛かったバンドのグッズを眺めている。


「ここ寒いし、早く二階に上がろう」


「そうだね」


 オレから階段を上っていくことにした。だって、赤坂のスカートは短いからオレが後から上ったら、スカートの中身が見えてしまう。

 二階のドアを開けて中に入ると、電気を付けて、こたつの電源を入れた。


「うわー、こたつがある。でも、座ったらスカートに皺が付いちゃう」


 赤坂が人差し指を唇に当てながら考え始めた。その時に一階のドアが開く音がした。


「二人がいない。あ、靴あるじゃん。二階か」


 という金木の声がして、階段を昇る音も聞こえてきた。


「さあ、勉強しよう。僕の進級が掛かってるんだ!」


 高らかに金木は言った。


「ああ、そうだな。浪漫は古文が特にヤバいよな」


 金木の後ろから郁美の声がした。彼がコンビニのビニール袋を下げていた。


「浪漫ってスカートのまま、こたつに入るの?」


 赤坂が金木に聞くと、金木はおもむろにスカートのホックを外した。そして、手を離してスカートが足元に落ちる。オレはとっさに目を逸らした。


「僕はスカートの中に短パン履いてるから。こうやってスカートを脱いじゃう」


「なるほど、アタシもジャージを履こう」


 赤坂が勢いんで自分の鞄を開けた。


「学校に忘れてきた」


 とボソッと呟いた。そしてオレの方を見る。


「中嶋は体育の時に短パンでやってたからジャージは使ってないと思うんだけど、良かったら貸して」


 オレは思いもしなかった提案をされた。確かに今日の体育は短パンでやっていたから使ってないけど、よくそんなとこまで見てたな。


「ああ、いいよ」


 本当にオレの物でいいのかと思いながら、彼女に手渡した。赤坂は当然のように受け取るのだった。


「ありがとう」


 赤坂はスカートを履いたままジャージを履いて、スカートを脱いだ。



 勉強会が始まったけど、オレが教えることになったのは赤坂ではなく、金木だった。四人の中でオレが古典のテストの点数が一番良かったからだ。そして郁美は赤坂に数学を教えている。


「あー、休憩!」


 三十分くらいで金木が伸びをして後ろへ倒れて、ラグを敷いた床へ横になった。


「ねえ、お菓子取ってよ、令治君」


 猫なで声で言われ、小分けにされたチョコレートを三つ取って、彼女に渡す。甘い物を食べたら、やる気を出してくれるだろう。

 だけど、郁美たちの方から視線を感じるので、睨まれているんだろうな。


「そうだ、郁美。葛木君とイタコはどうしたの? 勉強会に呼ぶって言ってたのに」


 金木は郁美に問いかけた。それを聞いたオレは郁美が葛木と仲直りしようとしているんだなと思い、ホッと胸を撫で下ろした。


「ああ、その話か。アイツのクラスまで呼びに行ったんだけど、イタコと葛木だけで勉強会をするんだってさ」


 郁美がため息混じりに言った。

 あの二人は付き合ってるんだろうか。オレも赤坂とそんな関係になれるかなと考えた。

 たぶん、郁美は金木と付き合えるだろうかと考えているに違いない。


「えっと、郁美君。なんかすごく難しい顔しているけど大丈夫?」


 と、赤坂に心配されるくらい彼は考え込んでいた。オレが赤坂の考えていることが分からないように、郁美も金木が何を考えているかが分からないんだと思う。


「ああ、古文だけは頑張らないと」


 金木は上半身を起こして、こたつの上の問題集に向き直った。


「古文の古寺先生が軽音部の顧問じゃなかったら、こんなにも古文を勉強してないよ」


 え、あの赤坂のことを気にいっている古寺先生が?


「あれ、令治君は知らなかったっけ? 入部届を出す時に会わなかった?」


「オレの入部届は篤人が勝手に出してたんだ。だから、知らなかった」


 オレの言ったことを聞いて、金木は笑いを堪えている。


「だって、美佐ちゃんだって知ってることだよ、ねえ?」


 金木はマジメに勉強している赤坂に声をかけた。


「アタシも一年の最初の頃に軽音部に入らないかって誘われていたよ。古寺先生はバンギャだし、エキドナのこと知っていたから、その話で盛り上がった時に」


 何か、いろいろと凄いな。バンギャとはヴィジュアル系バンドの女性ファンのことだ。


「ああ、私も軽音部に入った時、最近はどのヴィジュアル系バンドがきているかの話になったな。あれから半年経ったのか」


 郁美の手も止まってしまった。このままでは誰も勉強しなくなり、おしゃべりだけで終わってしまいそうだ。


「さあ、勉強しようか。赤点なんて取ったら、先生に何を言われるか分からない」


 一番不真面目そうな金木がやる気を見せたので、オレは彼女に勉強を教えた。一方、郁美と赤坂はエキドナの話で盛り上がっていた。もともと好きなバンドの傾向が似ているらしく、二人の距離が縮まっているようだった。

 オレが郁美より数学の点数が良かったら、赤坂にオレが数学を教えられたのにな。


「令治君、疲れてきた? ちょっと休む」


 なんか金木から心配された。


「ああ、ちょっと休もう」


 それを聞いた彼女はおもむろに立ち上がる。


「じゃあ、外に出ようか。ちょっと体を動かしたい」


 と言ってドアを開けて階段を降りていった。オレは彼女の後を追ったけど、二階のこの部屋に郁美と赤坂だけが残るのが少し嫌だった。

 ドアを閉める前に郁美を睨んだら、郁美と目が合ってしまった。それにお互いに思っていることは同じだろう。手を出したら、殺す。そう思っているに違いなかった。

 一階に降りると金木はいなかったので、外に出ると金木はバスケットボールをついていた。


「ちょっとワンオンワンでもやろうよ。ゴールはこっちにあるからさ」


 金木に着いていくと、母屋から歩いてきたら小屋の影になって見えないところにバスケットゴールが一つあった。舗装されている地面は濡れているだけで、雪は積もってない。普通にバスケットが出来そうだ。


「でも、ちょっと滑りそうじゃない?」


 バスケが苦手だから、オレはやりたくなかったんだ。


「どっちかが点数入れたら、終わりでいいからさ」


 金木がしつこく食い下がる。そう言えば、球技大会の前に「背が高いだけでバスケとかバレーをやれって言われたよ」なんて言ったよな。

 もしかして、そんなに上手くないんじゃないか。じゃあ、オレがさっさとボールを入れて終わらせよう。


「一点だけなら」


 すると金木は目を輝かせる。


「郁美は相手にならないし、最近はいい勝負出来る篤人先輩も来てくれないから退屈してたんだよ」


  現役のバスケ部員ではないかと思わせるボール捌きを見せつけてくる金木。


「軽音部の中で僕が負けたのは、イタコのお兄ちゃんだけだから」


 そして、オレよりも運動神経のいい篤人に勝っているのか。オレはどうやらすぐに一点取られて終わってしまいそうだ。


「ほら、僕からボールを取ってもいいよ」


 ボールが手のひらに張り付いているようだった。オレはどうやったらボールを奪って、シュートを打てるんだろう。

 とりあえず、ボールを取ろうと挑むけど、それは全て交わされてしまう。スティックを握る金木の握力の強さはバスケをやっていたからか。


「郁美と美佐ちゃんが仲良くしてるのを見て、どう思った?」


 ボールを取ろうとするオレを軽く避けながら、彼女はそんな質問をしてきた。


「……うるせえ!」


「だよね、僕もあんまりいい気持ちはしなかった」


 彼女はゴールに背を向けて、後ろ向きでデタラメにボールを投げた。もちろん、そのボールはゴールのリングに当たって、跳ね返る。

 オレはボールを追うのに必死で金木の話は半分しか聞いていなかったんだ。

 何とか、ボールを掴んでゴールの方を向いたが、そこには金木が立っていた。


「この話はお互いに悲しくなるから止めよう」


 金木の声色が暗くなった。オレはドリブルしながら、金木を突破するタイミングを図るのに忙しかった。いや、オレから話題を振れば金木に隙ができるんじゃね?


「なんで軽音部に入ったんだ?」


「見て分かるように中学校の時、僕はバスケ部だった」


 彼女はいつもの声色で話し出した。オレは見よう見まねでフェイントを仕掛けたけど、金木を抜くことは出来ない。


「これに勝ったら県大会という試合だった。僕は相手の選手とぶつかって怪我をさせてしまったんだよ。僕が退場した後に試合に負けちゃった」


 彼女はあっさりとオレからボールを奪ったのだけど、シュートはしなかった。完全になめられているけど、話の続きが気になった。


「だけど、ぶつかった相手は県大会に出られなかった。ぶつかった時の怪我のせいでね。だから、僕はバスケ部を辞めて、高校では絶対に運動部には入らない。そう思ったからさ!」


 話し終わってから、彼女はオレに背を向けて綺麗なフォームでシュートした。暗くてゴールすら見えにくかったのに、ボールは吸い込まれるようにリングを通った。


「ドラムなら思う存分体を動かせるって聞いたからだよ。軽音部に入ったのは」


 金木は落ちたボールを拾いながら、そう言った。


「お前ら、いつまでやってんだよ。そろそろ駅に行かないと電車に乗り遅れるぞ」


 部室から出てきた郁美に怒られてしまった。この日はこれで終わったが、オレは金木が軽音部に入った理由を知れて良かったと思う。

 ここから駅に向かう時は、金木と郁美が前を歩き、オレと赤坂がその後ろを歩いていた。そうだ、赤坂にエキドナのギターのピックを渡そうと思い立った。


「エキドナのライブの時に」


 と、オレが話し始めたら、赤坂が顔を赤らめて唇を噛みしめた。オレには彼女がそういう反応したのが意外だった。

 楽しい時間が終わってしまったのが嫌だみたいな感じの表情だと思った。


「ギターの人が投げたピックを掴めたんだよ。だから、赤坂にあげる」


 オレは財布を取り出して、カード入れの隙間からピックを出した。


「え、マジ? ありがとう」


 赤坂の表情がパッと明るくなった。オレは赤坂に手渡すと、彼女は電灯の下に行ってマジマジと見つめていた。



 テストの前日、一人で勉強していた。しかし、自分の部屋で勉強していても身が入らなかった。頭の中は赤坂のことで埋め尽くされていた。

 机の引き出しを片っ端から開けて、姉さんの写真を探していた。仏壇に飾ってある写真よりも後で撮られた姉さんの写真があるはずなんだ。篤人と姉さんとオレの三人が写ったやつが。

 一番下にある大き目の引き出しから、写真が出てきた。それに写っている姉さんはライブの前で少し化粧をしている。

 確かに少し赤坂と似ている気がした。

 そして迎えたテスト一日目。古文だったから、それなりに手ごたえを感じられた。あとの日本史と生物と数学はあまり大丈夫だと思えなかった。

 テスト二日目。政治経済と英語と現代文だった。現代文しか手ごたえがなかった。帰りは赤坂と一緒になり、今日のテストはヤバかったとか明日のテストも大変だという話をしていた。青森駅で別れるのだけど、ふと赤坂が言う。


「一回、中嶋の演奏しているのを見てみたい。あの部室で弾いているのを」


 ライブの前に一回、赤坂の前で演奏してみるのもいいかもしれない。


「明日、テストが終わったら、部室に来ればいいよ」


 急に金木が現れて言った。オレの言いたかったことを持っていかれた。彼女の後ろに郁美もいる。


「いいの?」


 赤坂はオレを見て聴いてきた。オレは首を縦に振る。


「じゃあ、また明日ね。中嶋と郁美君。ほら、帰るよ、金木」


 彼女は金木の手を引っ張って青森駅の西口へ向かっていった。オレと郁美は六番ホームに降りた。


「お前、いきなり好きな人の前で演奏して、大丈夫か?」


 と、郁美に言われた。何故か、根拠のない自信が溢れている。


「大丈夫だろ」


「どうだか」


 郁美とは駅で別れて、家に帰った。

 テスト最終日。残った教科のテストを終えると、オレと赤坂は一緒に教室を出た。郁美たちと合流して、部室へ向かう。

 その途中に葛木とイタコも合流してきた。葛木と郁美が普通に話しているのを見ると仲直りは出来たようだった。

 その時、オレは何をしていたかというと、イタコが東京からきた赤坂にいろいろと質問してたのだけど、イタコが津軽弁で話してしまうから、その通訳していた。

 部室に着いて、オレと郁美と金木はチューニングした。赤坂たちは二階に上がって何か話していたようだ。


「おーい、もう演奏出来るよ」


 金木が二階へ呼び掛けた。オレの心の準備が出きていなかったけど、それを待っていたら何時まで経っても始められない。


「全員、知ってる人だろ。緊張するなよ」


 郁美がオレに声を掛けてきた。


「ああ、分かってる」


 オレは自分のギターを眺めながら答えた。

 葛木、イタコ、赤坂が一メートルくらい離れたところに座っている。


「いくよ、ワン、ツー」


 手筈通りに金木がリズムを取って、演奏が始まった。曲は『グッドバイ青森』だ。

 練習した通りのオレたちの曲を演奏できたと思う。一メートル先にいる三人のことが気にならないくらいに集中していたから、反応も分からなかった。

 後奏が終わると、イタコと赤坂が立ち上がり拍手した。


「おお、令治が復活してんじゃん!」


 葛木がガラにもなく喜んでいる。彼らの反応は良好だ。オレはクリスマスイブのライブでも上手く弾けそうな気がしてきた。


「そうだ。郁美、『小さな愛の歌』はまだ弾けるか?」


 葛木が郁美に話し掛けた。郁美はもちろんだと言わんばかりにベースを鳴らして答える。この格好付けめ。


「令治は、動画で弾いてるの見たから大丈夫だろ。金木、ドラムを代わってくれよ」


 葛木がドラムに座った。彼の言いたいことは分かる。


「あの時は失敗したけど、今なら弾けるかもな」


 オレのトラウマを完全に捨て去るためには、これを人前で弾くことが大事だと思う。


「行くぞ、郁美、令治」


 葛木がリズムを取って、郁美が歌い始める。オレのギターと郁美のベースが重なる。あの時みたいに頭が真っ白にならなかった。指が動かなくなることもなかった。

 むしろ、楽しいんだ! コイツらと一緒に演奏するのが。

 もっと早く軽音部に入ったり、謝れば良かったと後悔した。

 郁美が声変わりしていたから高音が出なかったり、葛木が間違ったりしたけど最後まで弾く事が出来た。

 大失敗したあの時から止まっていた時間が動き始めた。


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