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物語の断片集

呪いの万年筆

作者: 風白狼

 薄暗く人気のない道を、一人の男が足早に歩いていた。がっしりした体つきで、口周りに無精髭を生やしている。年は30歳前後だ。その腕には、大金の入ったカバンを掲げている。

 そんな夜道に、ふいに女性が現れた。年は24~25歳くらいで、美人でないとは言えない容貌をしている。彼女は露出の少ない黒いローブを身にまとい、不敵な笑みを浮かべていた。


「嬢ちゃん、こんな夜にお一人かい?」


口笛を吹き、男はそうからかった。人気のいないところでは、女性一人など危険きわまりない。なぜなら、自分のような男がいるからな…。男は相手の出方をうかがっていたが、女は気にした様子もなく、依然とあの笑みを浮かべている。


「お気遣いご苦労様。でも、私はいつも一人なのよ?それより、ダスターという方をご存じかしら。」


女性の言葉に、男の顔が引きつる。この男こそが、女性の言うダスターだったからだ。


「へえ、俺を知っているのかい?」


平静を装っていたが、心の内は穏やかではなかった。こいつはサツか何かの類かもしれない。十分に警戒せねば、自分が危ないだろう。


「よかった。あなたがダスターなのね。人違いだったらどうしようかと。」


女性はどこか可笑しそうに笑った。男の反応を見れば、ダスターであるという事が容易に察せられたのだろう。ダスターは女性の顔を思い出す事に専念していたため、女が万年筆を取り出したのに気づけなかった。

「ただの知り合いなら、良かったんだけどね…」


そう言うやいなや、女性は宙に何か描き始めた。ほとんど一瞬で蛇の絵を描き上げると、それは男に向かって光った。

 体が、動かない。男は、指の先ですらぴくりとも動かせなくなっていた。

「ターゲット捕獲。」

静かな声音で、女性はただそう言った。再び万年筆を取り出し、今度は複雑な幾何学模様を描く。



 ――― 石化の呪い ―――



完成と同時に男の体から温もりが失せ、心なき石となり果てた…。





 夜が明け、巡回の警備員がまだ眠たそうな道を歩いていく。例の道にさしかかった時、警備員は道の真ん中で立つ石像が目に入った。根が生えたようにたたずむそれに、彼は恐れおののいた。

 すぐさま警察を呼び、その10分後、警察が到着した。


「警部!やはり指名手配中の強盗団の一人、ダスターが石化しているものと思われます!」


調べていた人の一人が、彼らを取りまとめる男に報告した。警部はあごに手を当て、少しうなった。


「まさか、石となって発見されるとはな。これでは取り調べどころではない。」


ダスターという男は悪名高い強盗組織の一味だったのだが、その中でも重要ポストであったらしい。しかし、石は口をきいてくれるはずもない。そこへ、警察の一人の慌ただしい声が聞こえた。


「け、警部!背中に奇妙な紋章が…!」

「なに!?」


見れば、確かに背中に複雑な幾何学模様が描かれている。服の模様などではない。警部はすぐにピンと来た。


「なるほど、やはり“奴”の仕業か…」


警部は低くうなる。こんな模様をわざわざ描くのは彼の知る限り一人しかいない。


「例の呪術師、ティルスの事ですか?」


一人の若い警察がそう尋ねる。呪術師ティルス。何十年も前から世間を騒がし、下手な悪党よりもタチが悪い。捕まえようとしても逆に呪いをかけられてしまうので、なかなか手が出せないでいた。


「探せ!!“奴”はまだこの辺りにいるかもしれん!」

「「はッ!!」」


警部の叫ぶ声に反応し、数人を残して警察はティルスの捜索に当たった。





 男どもの下品な高笑いが響く建物に、黒いローブをまとった女性、ティルスが入っていった。彼女が入るやいなや、集まっていた男どもは口笛を吹いたりニヤニヤ笑いを浮かべたりした。気にする事もなく、ティルスは頭領に話しかけた。


「お望み通り、お仲間の一人を石と変えて差し上げましたわ。それじゃ、契約通り後金を払ってもらいましょうか。」


強盗団の頭領は金の入った袋を取り出したが、それをすぐに渡そうとはしなかった。


「あんたが俺様の女になってくれるなら、いくらでも金は渡せるぜ。」


要はこの女を手に入れようとの魂胆である。普通の女性でも御免被りたいような顔つきであるが故に、これは迷惑この上ない。ティルスにもそれは当てはまっており、声だけ平然として返した。


「あら、あなたがその姿を醜い老人に変えてくれるなら、付き合ってあげてもよくってよ?」


さすがに悪名高い強盗団の頭領といえども、この言葉にはたじろぐしかなかった。相手が呪術師では、あまり上手に出られないのだろう。頭領はティルスに約束の金を渡した。



 ティルスは踵を返して外へ出ると、毒づいた。


「何て醜い…。“そっち”の姿の方がお似合いよ。」


彼女は扉を閉めると、万年筆で何か紋章を描き出した。



 ――― 怪物屏風の呪い ―――



建物の中にはもう男どもの姿はなく、代わりに床に醜く描かれた動物の絵があるだけだった…。

以前日記に上げたキーワードの一つ、「万年筆」のタネ明かし

小説だったのです

万年筆で模様を描く事で呪いをかけちゃう呪術師のお話でした~


自分で書いておきながら…

 ティルスこえー

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