異質
変な感覚だった。
僕は今渋谷にいる。誰もが知っている都会の中心。
いつも通りの会社からの帰路。
いつも通りの街の風景。
いつも通りのバカな大人連中。
ゴミ溜めだ。こんな街は。
何も変な事はない。しかし第六感が言う。
「異質だ」と…
「ぁ…なぁ。聞いてんのか?」
振り返る。会社の同僚の圭介だ。
「いや…ごめん、なに?」
「相変わらず暗れぇやつだな恒心は。」
「うるっせぇ。んで、なに?」
「いやぁ金曜日じゃん?無性に性欲が。」
「お前は毎日だろ。」
こいつは本当に性根が腐っていると思う。
汗水流して労働して得た金を、こうも自分の欲に
潔く使えるものだ。
「またデリヘル行くんかお前は。」
「まぁいいじゃん、たまには二人で行こうぜ?」
別に気分でもないが、今日は給料日で特に予定もない。
まぁたまにはいいか。
普段なら行く事もないが今日は変な気分だ。
行ってみてもバチは当たるまい。
そんなバカ話をしていると、俺は背後からの刺すような視線に身が縮んだ。
振り返る。
……誰もいない。
「疲れてんのか俺」
圭介と別れてホテルに入る。
「感想聞かせろよぉ〜」なんて、本当に腐っている。
しかし待ってる間というのはやる事もないのでテレビをつける。
……消す。
ピンポーン
「…来たか」
ドアを開ける。
指名した女の……子…?
じゃなくないか?!写真に加工があるのは俺も分かる、うん、男だし。
明らに違う。
ボーイの男の人に…あれ?1人か?
「……あのぉ、料金はあなたに?」
「……」
答えない。なんなんだこの店は。
部屋に入るなり無言で1人シャワーを浴び始める。
…嫌な子だなぁ。
出てくる。裸だ。紛う事なき裸だ。
ベットに2人で入る。
「(…なにを喋ればいいのだろう)」
なんて考えていると女の子は口を開いた。
「あなた、名前は?」
「え、恒心だけど…君は?」
「ふーん、私はナナ」
聞いといてふーんって。まぁいいけど。
「んで、始めないの?」
「勝手に始めていいよ、1時間だよね。どうぞ。」
なんだこいつ。本当にハズレだ。
とは言いつつ1時間しっかり消化した俺は…?
「ありがとう、お金はいくらだっけ?」
「…いらない。」
え?大丈夫なのかこの店は本当に。
色々突っ込みたい事がたくさんあるのだが。
と、思考したのもつかの間、ナナちゃんは
「…あなたはこれから¥$☆4$#=」
「…え?なに??」
その疑問に意味はなかった。
なぜなら俺の視界はそれまでいたはずの彼女を
捉えられないどころか、360度違う景色が広がっていたからだ。
なんだ?さっきまで俺はホテルで…。
明らかにおかしい。
俺は誰も、本当に人1人いない渋谷の街にいたのだから。
「なんだこれ、どうなってやがんだ…」
とりあえず歩いてみる。しかし誰もいない。
「俺、どうして…」
するとさっきと同じ、背後の刺すような視線が俺を貫く。
さっきは誰もいなかった…でも…分かる。
今度は…イル
帽子を被り、眼鏡を掛け、髭の生えた老人。
青い。と言えばいいのだろうか。
明らかに顔色が悪い。
そして明らかに…殺意を持った目をしている。
コロサレル…
直感で俺は逃げる。ニゲル。
この訳の分からない状況、空間。
やはりこの日は「異質」だった。




