異世界転生と裏切り
屋上の扉をこじ開け、恐怖心で立ち止まってしまわないように目を瞑り、柵を乗り越え、飛び降りた。
やっと、やっとこの生活とおさらばできる… もう笑われて生きるのはごめんだ!前傾姿勢で落下しながらそんなことを考える。これから死ぬという恐怖と、今までの生活から解放されるという安堵感でなんだか変な感じがした。目を瞑ったままだから地面からあとどれくらいの距離なのかは見えないけれど、そろそろ着地するような、そんな気がしている。とある太った少年の、いじめられ人生はここで終わりを告げた。
—そう、ここで彼の”負け組人生”は終わったのだ。―
気が付くと僕は高貴な感じの女性の前に倒れていた。彼女が言うには彼女は『女神』で、これから僕は彼女が管理しているRPGのような世界に送られて、その世界を魔物とともに征服しようとする魔王を倒せば元の世界に別の人間として生き返らせてくれるらしい。僕がそれを快く承諾すると、彼女は
「貴方に一つだけ特別な何かを与えましょう。何物をも切り裂く剣でも、絶対に壊れない縦でも、全ての厄をはじく羽衣でも、如何なる種類の魔法でもいいわ。でも、一つしか与えることはできません。世界に矛盾を生み出すわけにはいきませんし、貴方がもし裏切ったら手に負えなくなりますからね。」 そう言った。
僕は一種類の魔法を極めさせてくれと頼んだ。僕が前の世界でいろんな本を読む中で、一番欲しかった魔法だ。
「いいでしょう、貴方には【魔動技師】の力を与えましょう。すべての命を持たない『モノ』にゴーレムとして仮の命を与え、意のままに操ることができます。形も大きさも貴方の自由ですが、貴方から離れるほどゴーレムたちは単純なことしかできなくなります。 私が与えられるのはここまでです。この力をどう使うか、どう使うことができるかはあなたの想像と鍛錬にかかっています。魔王退治の件、お願いしますよ。」
彼女は淡々と説明を真顔でしたあと、にこやかな笑顔で僕に頼んだ。僕は笑顔で、それに答えるように頷いた。
「よろしい。 ではこれから貴方を私の管理する世界≪エヴドマーザ≫に転移させます。少々揺れるかもしれんせんので気を付けてくださいね。」
僕は再度頷くと少し身構えた。ほどなくして僕の体は光に包まれ、眩しさで目を閉じた。 強い光を感じなくなって目を開けると、そこはにぎやかな街だった。どこにいる人も、楽しそうな笑顔で過ごしている。まるで魔王や魔物なんて最初から存在していないかのように。僕はその楽しげな人々の中で、たまたま一番近いところにいた女性に声をかけ、魔王について何か知っていることはないかを尋ねた。
「え、魔王ですか?それならこの町から南西にずうっといったところのお城にいる思いますよ?」
僕は丁寧に礼を言い、その街を後にすると覚えたての魔法で土を使い、小さなスライムのようなゴーレムをたくさん生み出す。僕はゴーレムの集合体の上に乗り、バケツリレーのように運ばせることで、今自分のできる限りの速度で魔王のいる城へと向かった。
~数日後~
僕は特に魔物を倒すわけでもなく魔王のいる城に到着した。道中障害になるような魔物は山ほどいたが、すべて倒すことなく、土のゴーレムで固めたりゴーレムを布のようにしてを被ることでカモフラージュして素通りしてきた。魔王城の門はイメージしていたものより小さく、ガードも堅かったが僕の障害になるようなものではなかった。門の隣の石でできた壁の一部をゴーレムにして穴をあけ、通った後で元に戻しておいた。しかしさすがに警戒されていたようで城内に入ると囲まれてしまった。ここで殺されてしまってはすべてが水の泡だ。僕は持っていた杖を置き、一番強そうな魔物にただ魔王に会いに来ただけだと伝えた。
「通常なら貴様のような侵入者は殺してしまうのだが、わが軍の調査書によれば今まで一度も魔物を倒していないようだな。敵意はないようだしどうするか… とりあえず拘束しておけ!」
一度その魔物はううむと唸ってから、城の奥へと走って行った。 どう話せば一番伝わるだろうか、などと考えて数分経過したところで訝しげな表情をして魔物が戻ってきた。
「魔王様は面会なさってくれるそうだ。 くれぐれも変な気を起こさぬように。」
僕はその魔物に連れられて魔王の前に立った。玉座に座ってるにもかかわらず、その身長は3mを超えていた。少々その風貌にあっけにとられながら僕は初めて口を開いた。
「まま魔王様!不法侵入の件はお詫び申し上げまする。 じっ、じつは折り入ってお願いがあってここに来たのですっ!」
これは酷い。いじめられていたとはいえもう少し緊張せず話す練習をすればよかった。そう思いながら続ける。
「わたくひこの世界に降り立った時から魔王軍に入りたいと考えておりましてっ! よければお仲間に加えていただけませんでしょうか!!」
魔王に懇願しながら日本式土下座を拘束されながらも繰り出す。 どうだろうか。ダメだったかもしれない。敬語もグダグダだったし、唐突すぎたし、一回噛んだし、必死すぎたし… 何より怪しまれてはいないだろうか。 頭の中が不安と恐怖でごちゃ混ぜになっているさなか、大きく息を吸う音を聞いて頭を上げる。
「いいよ」
思ってもみなかった答え方にえ?と思わず聞き返してしまった。
「だからいいよって。せっかくここまで来てくれたんだし、うちの部下たちも誰もケガしてないからね♪」
魔王は軽い口調で伸びをしながら答えた。
「ありがとうございます。」内心飛び跳ねるほど喜びながら、再度僕は頭を下げる。
「いいよいいよ、そんなお固いのはさ~ 正直面倒なんだよねー」
魔王がそう言うのを聞きながら、僕はこれからの生活に胸を躍らせた。
―彼のいじめられてきた人生はここから、充実した”勝ち組人生”に代わってゆく―
至らぬところ多々あると思いますが、まだまだ修行中の身ですのでぜひ指摘いただけるとうれしいです!
不定期更新のため、続きを待ってます!という酔狂な方は気長にお待ちください♪