悪魔との出会い
何がどうしてこうなった。
私、エリザベート・ノアイユは目の前の出来事の理由を探るべく、今日1日を振り返った。
特に普段と変わったことはしていないはずだ。
いつも通り学園に行き授業をさぼり最近お気に入りの男と逢瀬を重ね、取り巻き共とともに昼食をとり、私に刃向かう糞女共のドレスにジュースをぶっかけてやったりして、良い気分で屋敷に帰宅しただけだ。
うん、いつも通りだ。
では一体何故、私の部屋に悪魔と名乗る不審者がいるのだろう。昔手酷く振った男だろうか?いや、それにしてはとんでもなく美形だ。過去の私がそんな勿体無いことをするはずがない。では夜這いか?はっはーん、なるほどな。私に惚れたが身分的にそう簡単に話しかけることができず、思い余って我が屋敷に忍び込み、私と一夜の過ちをー
「その妄想まだ続く?」
さえぎられた。
「というか私、口に出していた?」
いや、そんなはずはない。この私だぞ?そんな失態を晒す訳がない。
「ムカつくけど 、まあ正解。お前は口に出してはいないよ。」
ほら見ろやっぱり・・・って、ちょっと待て。
「・・・おかしくないか?」
おかしい。いや絶対におかしい。私が口に出していないのならば、何故この男は的確な返答をしてきた?そんなの、私の心の中でも読まない限り絶対にありえなー
「読んだんだよ。」
さえぎられた。
「は?」
「だからさ、お前の心を読んだんだよ。最初に言ったろ?俺は」
『悪魔だってさ』
男が最初に言った言葉を思い出した。確かに、そう、男は口にしたのだった。
ありえない、と言いかけて私は口を噤んだ。だって、この男が悪魔だとしたら、すべての辻褄が合うのだから。
誰にも見つからずにこの屋敷に入り、私の部屋を見つけ出し、心を読むんんて芸当、ただの人間に出来るはずがないのだから。
ニヒルな笑みを浮かべて、男は続けた。
「納得していただけたところでお嬢様、突然ですが、貴方様はこのままでは地獄に堕ちまぁす!」
「はぁ?」
「だから、地獄に堕ちます。」
「フザケンナ」
「でも大丈夫!俺はとてもとぉっても優しいので、お前に救いの手を差し伸べにきました!」
いや話聞けよ。
いきなり演劇がかった大袈裟な動作で話を続ける悪魔に、白けた視線を送る。
「この国にいるとある七人の男達は、大きな罪を犯している。」
悪魔は私の視線をなんて事ないように受け流し、何かを語り出した。
「怠惰に強欲、色欲に嫉妬に暴食、憤怒!そして傲慢!七つの大罪と呼ばれしとんでもない罪を犯してしまったのである!」
「・・・だから?」
私は彼のオーバーリアクションにいちいち反応することをやめ、淡々と思った事を口にした。
男はその麗しい顔に嬉々とした表情を浮かべ、
「お前には、彼らを更正させて欲しいんだよ。」
私は少しだけ目を見開き、
「悪魔らしからぬ要求ね。実は熱血教師だったりするの?」
「まさか。人間ごときには贅沢な罪だからな。そーいうのは悪魔の専売特許だ。」
「つまり同族嫌悪って事ね。」
少し嫌味を込めて言ったつもりだが、この男には効かないらしく、ヘラヘラと笑っていて、なんだか癪に触った。
「それで、どうして私がお前なんぞの要求を受けなきゃならないのよ。」
「察しが悪いな。言ったろう?地獄に堕ちる運命のお前を救ってやると。」
いちいち腹の立つ男だ。だが、なんとなく言いたい事は解った。
「交換条件という事ね。救済の対価が、この要求ってとこかしら。」
「そういう事。」
「でも、どうして私が地獄に堕ちなきゃなんないの。
そこが納得いかないわ。」
そうだ。何故、私が地獄に?人を殺したりなんかした事は無いのに。
「そりゃあお前、七つの大罪を全制覇してる奴、どー考えても地獄行きだろ。」
「関係ないわよ。だって私はエリザベート・ノアイユ。全てが許される人間なのよ。」
「まじか。悪魔もびっくりの傲慢さだなあ。」
あきれたとでもいうように、両手を突き上げる悪魔を殴りたくなった。右ストレートで。
「まあいい。とにかくだ。俺はお前のような人間を探していた。目には目を、歯には歯を、罪人には罪人を!お前以上の適任者はいない。」
「誰が罪人だ誰が。」
「お前の周りは許しても神は許しちゃくれねえぞ?このままだと、お前は確実に地獄に堕ちる。さあお嬢様?」
『選択を』
悪魔の声が私の頭の中に響き渡る。
私の中の、何かが告げる。
もう、逃げられないと。
これがこのふざけた悪魔と私の最初の出会いでありー・・・
私の最低で最悪な日常の始まりであった。