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竜の掌中の珠  作者: AGEPHA
9/10

魔力的鍛練をします

長らくお待たせしましたm(._.)m


お待ちくださった心広い皆様に感謝を。



【ルーチェ様、自分の魔力測定結果は覚えているな?】


【覚えてるのです。魔力値は測定不可、属性の適性判定不能。こんな衝撃的な結果忘れられないのです】


 通常なら手━━もしくは前肢━━を空洞水晶に当て属性魔力を順に思い浮かべると水晶を媒介とし空洞部分に魔力が伝わって炎が踊り、水が舞い、風が渦巻き、土が盛られ、光を放ち、闇が包む。その威力で自分の主属性、第二位属性以降の属性の上位順番を知るのだ、と教えられた。

 基本、竜は火水風地光闇の六属性を操れるが闇属性が主属性、第二属性として上位に上がることは稀らしい。基本第四位から第六位内に位置し、使えても影に物を多少収納出来るくらい?生き物の収納は不可とのこと。

 人間の魔力測定も竜族が使用している物ほど精巧な造りではないが類似した水晶で行い主属性を知る。そこから魔力の総量に応じて他属性も鍛えていく人、一属性を極める人、等々目指す先は様々であるが主属性以外、第二位以降の属性は著しい成長は期待できない。稀に主属性と同等に扱える人もいるにはいるがそう滅多にお目にかかれない。竜族の皆が生きてる中でも知っているのは少数。極最近の人物でいえばトロヴァートを建国した初代国王。彼は水地雷光の四属性持ちでどの属性も遜色なく扱えたのだとか。


 建国王とか………もうお伽噺で語られるほど昔の人じゃん……。


 また人間の魔力属性は主属性が主な火力である代わりといえるのかは分からないが竜族には顕現しない氷や雷属性を持ってる人も少なくないらしい。人にとっては闇属性や光属性の方が貴重なんだそう。


【そう。測定不可の判定不能な規格外であるルーチェ様だが魔力の顕現のさせ方もまた規格外。取り敢えず呼び出し(・ ・ ・ ・)てみろ(・ ・ ・)


 何だか散々な言われようだとも思うが――さっき弄られてたリュディガーの気持ちがちょっと分かった――事実なので仕方ない。

 目を閉じて自分の体内を廻る魔力に集中する。22枚のうち4枚のカードを思い浮かべ祈るように手を組む。


『“風の属性を持つ0.Il Matto(愚者)、水の属性を持つⅩⅡ.L'Appeso(吊るされた男)、火の属性を持つⅩⅩ.Il Giudizio(審判)、地の属性を持つⅩⅩⅠ.Il Mondo(世界)、顕現”』


 閉じていた、熱くなった目をゆっくり開けると目の前には実体化してはいるもののその体には(さわ)れないという摩訶不思議な存在の二人の男性と二人の女性。

少量の荷物を携えた男、片方の足首に縄を絡めている男、背から赤い羽根を生やしている女、月桂樹の冠を被った一枚の大きな布だけで体を被う女。皆一様に慈愛の笑みを浮かべて私の前に膝をつく。


『こんにちは、主。今日も訓練なの?大変だねぇ』

『やぁ、主。君が望むままに力を振るうから訓練など必要ないよ?』

『ご機嫌よう、主。また水晶玉で遊ぶの?』

『主。今日は何を作る?』


『皆来てくれてありがとう。愚者(イル・マット)、魔力訓練は皆と直接会えるのが楽しみだからいいの。吊るされた男(ラッペーソ)、頼ってばかりでは嫌。自分自身に誇りを持っていたいの。そうじゃないと生きるのがつまらないわ。審判イル・ジュディーツィオ、遊びじゃないけど概ねその解釈で合ってるかな。世界(イル・モンド)、それはツィオの指示次第』


 口々に語り掛けてくるカードたち。

 そう、彼ら擬人化することが出来たのです。びっくりです。父様(ととさま)と契約した時は私の実体がなかったために魔力そのものが足りず、呪具解放時は魔力耐性が足りず(人型)の姿は見えなかった、らしい。まぁ、視力が覚束なかったのも一つの原因ではあると思うが。成長するにつれて魔力そのものの総量も増え、それに比例して魔力耐性も上がり4歳過ぎた辺りから見えるようになった。

 ただ、他の皆は姿は見えても発している言葉まで理解出来ないみたい。これはチート級の父様(ととさま)でも例外ではない。まぁ、それもそうでしょう。


『まさか魔法言語が日本語とはね……』


 ついつい懐かしくて彼ら(カード)と話すときの口調が砕けたものになってしまってもそれはご愛嬌と流してもらいたい。竜族の皆と話すときはそれらしくしていないと母様(かかさま)役を担っているアルヴィンの眼が怖いのです……。

 と、まぁ、魔法言語と言うからには何やら技名的なもの――俗に言う炎玉(ファイヤーボール)とか氷の矢(アイシクルアロー)等々――は日本語発音で叫ばれるのですが会話文ともなるとまだまだ解明されてないみたい。おかげさまで私とカードの会話は今のところ誰にも理解されていないので気楽です!

 ちなみにこの世界では魔法言語と呼ばれる日本語。使わなくても魔法の行使は可能だったりします。所謂(いわゆる)無詠唱と呼ばれるもの。ただし魔力総量が十分にあり、行使したい現象のイメージが明確に描ける人限定である。魔法言語は魔力の省エネと言葉にすることにより更に明確なイメージを"行使する(・ ・ ・ ・)本人(・ ・)"が認識するために用いられている。また魔力を省エネで使うことで魔力耐性への負荷も軽減されている。魔力総量が少ないと総じて魔力耐性が低く自分が使用している魔法なのに魔力酔いを起こしてしまうのだ。

 竜の皆は本能で行使しているので基本無詠唱。魔力も有り余っているので省エネを気にする必要性もないからだ。

 そういう私も魔力総量には問題はなく属性魔法に関してはほぼ無詠唱で使用するが、カードに備わっている理を執行するときには彼らに指示する意味も込めて言語を使用している。良く言えば臨機応変。悪く言えば気分次第である。


【無事に呼び出せたようだな。では始めようか。今日は火、水、地、風の順番で行使する】


 オラツィオが水晶に手を当てると空洞部分に木で作られたログハウスのような小さな家が出現する。それを見て私も水晶に手を当て審判イル・ジュディーツィオを見る。彼女は嫣然と微笑むと小さく頷き真紅の羽根を小さく広げる。するとゴォッと火柱が上がり見る間に小さな家はぼろぼろと崩れ落ちていく。燃やす対象を失った火は種火程に小さくなるが、オラツィオが指でとんとん、と軽く水晶を叩くと火は空洞一杯に勢力を盛り返す。

 それを見て次は吊るされた男(ラッペーソ)に視線を移す。彼がにこにこしながら小さく手を振ってきた。水晶の内壁から水滴が滲み出てきたかと思うとあっという間に豪雨の状態になり火は沈静化される。それでも水は(とど)まらず体積を増やし続け、水晶の三分の二程の深さで漸く勢いを弱めた。

 世界(イル・モンド)に目をやれば身体に巻き付けてある一枚布の裾余りを軽く翻す。途端、水晶に揺蕩う水は底から盛り上がってきた土に全て吸い込まれてしまう。水分を含み重くなった土はただ静かにそこに在るだけ。

 最後に愚者(イル・マット)に目を向ける。例に洩れず彼もにこにこと笑顔を浮かべながら右手を軽く下から上に振った。その動作に反応するかのように水晶内壁の外周から徐々に空気が渦を巻き数秒の間に荒れ狂う竜巻へとその姿を変える。泥土を巻き込み水晶内を渦巻くそれは、水晶を叩くようにタップされた私の指に呼応するように霧散する。水晶の中に残るものは何もなく、最初に設置された時と同様に、硬質で透明度の高い水晶がただそこにあるだけ。


【……相変わらずケチのつけようのない出来栄えだ。人間(ひと)の習熟度合いがどれ程のものかは知らんが5歳でここまで制御出来れば上出来なのではないか?】


 オラツィオがひょいっと抱き上げ胡座をかいた自分の膝に座らせて大きな手でわしゃわしゃと頭を撫でてくれる。ぶっきらぼうな口調ではあるが私に対する態度は皆とそう変わらない。


【ツィオは私に甘い気がするのです。私は他の子がどのような練習をしているかは知りませんがツィオの言葉をそのまま信じるほど子供ではないのです!】


【いやいや、姫さんは紛うことなき子供だろう】


【向上心があることは良いことではないですか。今の自分に満足しないことは更なる成長を(のぞ)める。諭されずとも理解しておられる姫様は聡明でいらっしゃる】


 オラツィオの鍛練が終わったのを確認したリュディガーとリベルトが石舞台の上に登ってくる。オラツィオにされていたようにわしゃわしゃとちょっと雑めに撫でてくれるリュディガーに対しリベルトは髪型を直すように撫でてくれる。


【ねーねー、まだ闇と光は使えなさそう?】


 リュディガーとの一戦で助言をくれたクルスがいつの間にかオラツィオの隣に座り込み私の腰を抱き上げ自分の膝の上へと座らせる。このお膝抱っこはいつの間にやら定着した私のポジションである。クルスに限らず父様(ととさま)はもちろん、アルヴィン、リュディガー、リベルト、果てはこの端から見たら冷たい物言いをするオラツィオですら私をお膝抱っこするのだ。


【竜族の庇護を受けているとは言え素体は人間(ひと)。こればかりは資質だろう】


 クルスの問いにオラツィオが答える。そう、私は光と闇に似たような現象はカード達が持つ理を使えば起こせるが、魔法として光と闇を行使することが出来なかった。視えるには見えるのだが……。


【姫様の守護者達は何と言っているのです?】


 竜族の皆は私が持っているカード達のことを"守護者"と呼ぶ。私の魔力から造り出したものではなく、独立した何かが私に宿っていると考えている。意志があり、個性があり、カードの名称とはいえ名前がある。無理矢理分類するとすれば使役獣という扱いになるのだろうか。……獣でもないけれど。

 ともあれ私に害を為す存在ではないと分かっているので生まれたときから持っていたことを含め"守護者"と呼ぶようになったようだ。


【聞いてみるのです。『"Ⅰ.Il Bagatto(魔術師)、顕現"』】


 右手を伸ばし声に出して願う。呼び出すのはカード達の中でも随一の知識を持つ魔術師のカード。白いローブに赤いマントを羽織った若い青年が光の粒子とともに造形を形作る。


『やぁ、主。お呼びかな?』

『うん。聞きたいことがあるの。答えられたらでいいから』

『主の質問に答えられないことはない、と断言したい所だけど問いを聞かねば始まらないね。何を知りたいの?』


 目線が合うように膝抱っこされてる私に合わせて屈み込みながらにこにこと笑顔で先を促す。


『さっきまで皆と魔力の鍛練をしてたの』

『うん、知ってるよ。視ていたからね。かなり細かく制御出来てるみたいだね。流石は主、誇らしいよ』

『お、お世辞はいいから!で、聞きたいことっていうのは、火水風地の四属性は扱えるみたいだけど闇とか光とかは私では使えないのかな?』

『お世辞じゃないんだけどね。まぁ、それはおいておいて、質問の答えが先かな。結論から言えば使えるよ』

『……え?』


 今までどれだけ使おうとしても使えなかっただけに自分では行使出来ないのだと思っていた。それだけに魔術師(イル・バガット)の言葉を直ぐに飲み込むことが出来なかった。


【ルーチェ様、守護者は何と言っている?】


【………"結論から言えば使える"と】


【"結論"、ということは現時点では行使する為には何かが足りない、ということでしょうか?】


『琥珀の竜は中々頭が回るみたいだね。主が他の属性を使うには媒介が足りない』


【媒介?】


【確かに人間(ひと)が魔法を使う時は媒介として魔石を通してるみたいだけど、姫様には媒介なんて必要ないよねー?】


 通常、魔法使用の際には魔石を媒介として使うのか……。そんな基礎を今知ったばかりの私は今までにそんなものを使ったことはない。強いて言えばカード達がその役割を担っていたんだろう。


『主の媒介は魔石なんかでは補えないよ。主の魔力の濃度が濃すぎて直ぐに壊れてしまうからね。

 四属性は愚者(イル・マット)吊るされた男(ラッペーソ)審判イル・ジュディーツィオ世界(イル・モンド)が属性持ちだから問題ない。闇と光は僕らに属性持ちがいないから使えないだけで主の魔力濃度に耐えうる媒介を手に入れられれば使えるようになるよ。もちろん主の眼に視えているその他の(・ ・ ・ ・)属性( ・ ・)も、ね』


 そう言い終えると魔術師(イル・バガット)は質問には答えたと言わんばかりに笑顔で手を降りながら光の粒子となって空に溶けていく。


【魔力濃度……耐えうる媒介……視えている他の属性……】


 告げられた言葉を咀嚼するように繰り返す。


【姫さん?何て言われたんだ?】


 クルスの膝の上から立ち上がることも忘れて顎に手を当ててぶつぶつと自分に理解を促すために呟いていると目の前でリュディガーの大きな手が振られる。その気配に気付きながらも反応を返すことが出来ない。魔術師(イル・バガット)に言われた言葉が脳裏を駆け巡る。


 通常魔法を使う場合には魔石を媒介として行使する。でも私の魔力は濃度が濃すぎて魔石を壊してしまう━━らしい。試したことがないから仮説でしかないけれど━━ので私の媒介はカード達になるのだろう。基本的な四属性はカード達が属性を持っているから行使することが出来ると魔術師(イル・バガット)は言っていた。カードそのものが私の魔力で出来たものだと思っていたが私は根本的な所から思い違いをしていたのだろうか?竜の皆が言うとおりナニカが私に宿っている?だから彼等は私の知らない事も知っている……と考えれば一応は納得できる。


 ………いやいや、それはない。無理矢理自分に納得させてみたものの記憶を遡ってみれば竜王様との契約の時に初めて魔力を巡回させたのだ。そして発現したのがあのタロット・カード。やはりカード達は私の魔力でその存在を構成し維持していると結論づけられる。ならば私の知らない知識は……オプションとかほざいてその能力を付与したあの神様もどきの仕業だろう。


 次、闇と光に関して。媒介がないから使えない。媒介があれば使える。でも魔石では私の魔力に耐えられない。かといってカードに闇と光を掌る者はいない。ではカードを創り出したように闇と光を属性とするものを魔力で捻り出せばいいんじゃないか?とも考えたがカードが四属性を持っていたのは私が意図したことではない。それに闇と光を掌るっていっても具体的な現象を思い付かない。精々暗いか明るいかぐらいだ。……自分の創造力の貧困さに絶望した。

 ………ふむ。これって詰んでるんじゃない?自分で創り出せない以上、魔石の他に媒介となるものがあるのか要調査、ってところか。


 最後。私の眼に視えている(・ ・ ・ ・ ・)他の属性。これも媒介次第。

 つまり。現時点ではどーしよーもない、ということになる訳で。


【……い、……おい。ルーチェ、ヴィアラルーチェ!】


【っ!!】


 頬に軽い振動を覚えてハッと顔を上げる。そこには心配そうにこちらを見下ろす筆頭達の顔があった。私はいつの間にか父様(ととさま)の腕の中に抱き上げられていた。


【………大丈夫か?】


【問題ありませんの。……ちょっと考え込んでしまっただけですの】


 父様(ととさま)の問い掛けにへにゃりと笑って答える。笑って答えた筈なのに私を見る皆の顔が痛ましげに曇る。あぁ、そんなに大層な問題じゃないのに。生きるのに不便はない。向ける顔を間違えた。


【守護者には何と言われたのです?】


 アルヴィンの問いに先ほど告げられた答えを寸分違わずに伝える。


【魔力濃度が濃いから魔石が使えない、か。だがまだ試した訳じゃない。要検証だな】


【火水風地は姫さんの守護者達が媒介の役目を果たしてるってことだな】


 オラツィオもリュディガーも私と同じ意見のようだ。良かった、私の解釈は大方合っていたみたい。


【分かんないのは"視えている他の属性"って奴だねー。何が視えるの?まさか魔素とか?】


 クルスが有り得ないとでもいうかのように渇いた笑いを洩らす。


【え?視えないの?】


【【【【【【え?】】】】】】



また推敲するかもしれませんが漸く出せる形となったかな?と思ったので投下。


お読みくださりありがとうございます。


6,750字

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