再会しました
前回に比べるとかなり短めですがキリがいいので投下!!
常に見切り発車で運行中です!!
16/8/20 竜王の自称変更「我」→「予」
声が聞こえる。
【コレがそうなのか?】
【『コレ』とか言うんじゃありません。……髪の色は仰る通りですね。後は目の色なんですが……】
聞き慣れない声。でも慈しむような落ち着く声。
【寝てるのを無理矢理起こすわけにはいかんだろー】
朗らかな優しい声。
【ねー、ねー、見つかったって本当ー??】
明るい弾むような声。
【クルス、貴方捜索に出ていたのではなかったのですか?】
【王都で騎竜やってる奴等が見つけたって聞いたから飛んで帰って来たー!】
声の持ち主達をこの目で見てみたくて重い瞼を必死に開ける。世界の眩しさにまた目を瞑りたくなったが陽の光を遮るように覗き込まれた顔に驚きを隠せず逆に目を見開く形になった。
輪郭がぼやけており色が認識できない。視力に問題を抱えているのかと思ったが、どうも身動きも取れない。
あれか!!転生したはいいけど記憶が戻ったのが大往生間近だったとか!?ちょっと!!竜とのキャッキャウフフな生活どうしてくれんのよ!!と思っていたら、輪郭は捉えられないものの何か動揺している雰囲気は伝わってきた。
【………オッドアイだ】
【アクアマリンとラピスラズリ…ジークヴァルト様の姫君に相違ないかと思います】
ジークヴァルト!!それは竜王様の名前ですよね!?会いたい!!大往生間近だけど約束は果たさなきゃ!!
竜語が喋れるか、通じるかは分からないけどここは何としても会わせてもらわなきゃ!!
「あー!うーっ!!」
………え?
「だー…うっ、うーっ!!」
……言語が不自由です。いや、違う。冷静になれ私。
視界が明暗しか分からず輪郭がぼやけている。確か新生児って3ヵ月くらいまでまともに見えてないんだよね?
体が思うように動かせない。新生児の首が据わるのはこれも大体3ヵ月くらい、寝返り出来るようになるのは大凡6ヵ月くらいだろう。この辺は個人差有りだが世界が違えど大差はないと思う。
上手く喋れない。声帯が発達してない新生児がいきなり喋り出したらもうホラーだよね!!
はい、結論。私は大往生間近の老人ではなく生まれたばかりの新生児でした!!
思考の海に溺れている間に私の体は抱き上げられどこかへと搬送されいる模様。視界が朧げなので誰が誰だか分からんし流れる景色はまるでジェットコースターのよう。つまり、何も分からない、ということで。
ここは足掻いたところで何の意味もなさないと早々に諦めることにした。
【ジークヴァルト様、姫君が見つかりました。この度は間違いないかと思われます】
十数分、揺り籠の中で揺れているような感覚を味わっていたら目的地に着いたようだった。
姫君というのがよく分からないが『この度は間違いない』という発言からこれまでも私を探し続けてくれていたのだろう。そしてその度に呪具から解放されるという希望を浮上させては落胆させていたのだろうか。
ただただ申し訳ない気持ちで、抱き上げられている腕の中から目の前にいる黒い塊に必死に自分の腕を伸ばす。
……腕が短すぎて届かない。
忍ばせたような笑いが頭上から降ってきたかと思えば伸ばした腕がどんどん黒い塊に近づいて行く。触れたいという欲求を感じ取って歩み寄ってくれたのだろうか。私の小さな手は黒い塊に、竜王様のお顔に触れた。
「あーぅ」
【……〔ヴィアラルーチェ〕?】
名が呼ばれた瞬間、瞳が熱くなる感覚を味わった。定められていたかのように私の周りにカードが浮き上がる。そこに絵柄は描かれていないが枚数は22枚。間違いなく私の身のうちに眠るタロット・カードだった。
竜王様と私の体から淡い光の粒が立ち上ったかと思えばその光はカードへと吸収され徐々に絵柄が浮かび上がってくる。視力が覚束ないはずなのに何ではっきり認識出来るかは神様もどきに聞くしか術はないが、このカードは基は私の魔力で構成されている。自分で生みだしたのだから認識出来ていない方がおかしい。……ということにしておこう。
変化はまだ続いていた。
絵柄を取り戻したカードの内2枚、La Ruota della FortunとLa Stellaがくるくると回りながらカードの輪を抜け出すように浮上した。回転が止まったと感じた私が上空に視線を向ければ、目に映ったのはカードそのものではなく、絵柄から飛び出したかのようにその場に浮かびあがる羅針盤のようなものと石の礫。
これはもしかしなくともLa Ruota della FortunとLa Stellaが具現化したもの?カードの状態ですら具現化したものだというのに更にその先があったんかい!!自分が引き起こしている事態だというのに何の説明もされないまま放り出されたようなものだから張本人ですら現状を正しく把握出来ない。把握出来ないのだが、予想はつく。
竜王様と契約した時に使用したカードがこの2枚であること。
契約開始の鍵となる私の名前を竜王様が呼んでカードが現れたこと。
確か契約を結んだ竜王様と別れる前にカードが光の粒となって互いの体に溶け込んだこと。
その光の粒が空白だったカードに絵柄を浮かび上がらせたこと。
そして契約の要となる2枚がカードから抜け出して空中に鎮座していることから導き出される答えなど一つしかない。
契約が執行される。
考えが纏まったその時、羅針盤の針がゆっくりと回り始める。その針の進みに合わせるかのように、浮かんでいた石の礫が燃えはじめる。
……えっと、確か星って隕石でしたね。流れ星は猛スピードで大気圏に突入することでその摩擦により熱が発し燃える原理だったと記憶してるのですが。
竜王様の願いは『呪具からの解放』。そしてそれを叶えるのは確かにLa Stellaの理だけれども……え?なに?もしかして物理的な感じですか!!?
言葉を発しようした刹那。カチリと硬質な音が響く。羅針盤の針が一周し停止した。同時に燃え盛る礫が竜王様目がけて飛来する。流石に見過ごすことが出来なかったのかこれまで成り行きを見守って周りに佇んでいた人たちが一斉に竜王様に手を翳した。きっと身を守るための結界を張ったんだと思う。
でもそれが功を奏すことはなかった。
炎の礫は何の障害もないかのように結界を潜り抜け目的のものを、竜王様の躯を覆っていた布切れだけを正確に撃ち抜き燃やし尽くすと静かに消滅した。空中を見れば羅針盤も消えており、私の体を囲んでいたカードも消えていた。
【【ジークヴァルト様っ!!!】】
【【閣下っ!!】】
巨大な黒い塊、竜王様の質量は目の前から消えていた。周りにいた人が一斉にその場に向かうのを肌で感じるが、私を抱いていた人は安堵の息を漏らすだけでその場に留まっていた。私がいるから遠慮したのだろうか?
「うー?」
通じはしないだろうがごめんね?の意味を込めて発声してみる。
【ふふ、ジークヴァルト様を心配してくださっているのですか?大丈夫ですよ。貴女のおかげで二百年ぶりにあの方は自由を取り戻す事が出来た。ほら、こちらにおいでになりますよ】
言葉の意味はやはり伝わっていなかったが嬉しそうに答えてくれた事には私もほっとした。
ほっとしたが……二百年!?そんなに待たせてしまったのか……。猶予は四、五百年だったから早い方といえば早い方だっただろうが……うん、文句は神様もどきにお願いします。
そんな事を考えていたら不意に体が浮上した。
【予の願いは叶えられた。次は其方の願いが叶えられる番だ、ヴィアラルーチェ。竜族の庇護と、予の加護を其方に】
新たに私を抱き上げた人物がそう言うと、額に温かい感触が降ってきた。ちょっとデコが熱い。
【おや、庇護だけでなく加護まで与えるのですか。では、我々にも許しを頂けるのですよね?】
位置と声音からして先ほどまで私を抱いていてくれた人が揶揄うように訊ねると、頭上からは面白くないといった雰囲気を隠す事もない声音で「好きにしろ」、との返事。
その言葉を耳にした数人の足音が私の周りに集まってくるのを感じた。
【改めまして、我らが王ジークヴァルト様の自由を取り戻して頂き誠にありがとうございます、ヴィアラルーチェ様。私は光を掌る白竜筆頭、アルヴィンと申します。貴女の歩む道に私の加護を】
【姫さんすげーな!!竜族の重複結界を破っちまう人間なんて初めてだぜ!!姫さんの傍にいると面白そうなことが沢山あるんだろうな!!俺は炎を掌る赤竜筆頭、リュディガーだ。姫さんの歩む道に俺の加護を】
【姫様の捜索を担当していた風を掌る緑竜筆頭、クルスだよー。本当は僕が一番に見つけたかったんだけど、あんな環境にいつまでも置いておくわけにはいかないから早期に見つけられたのは良かったよ。姫様の歩む道に僕の加護を】
【地を掌る黄竜筆頭、リベルトと申します。姫様のお部屋は私が設計致しました。不便があれば都度手直し致しますので仰ってくださいね。姫様の歩む道に私の加護を】
【リベルト、赤子のうちは不便があっても伝える手段がないだろうが。私は水を掌る青竜筆頭、オラツィオ。閣下へのご助力感謝する。貴女の歩む道に私の加護を】
次々と額に訪れる温かい感触。うん、さすがに分かるよ。口付けられてますね。その度にデコが多少熱いんだけどもこれが加護を受けている証なのだろうか?
そして自己紹介してくれるのは有難いけども今の私には誰が誰だか見分けがつかんよ!!もう少し成長するまで待っててね。
【結局は筆頭共全てが加護を授けたか。……ほら、予の言った通りになっただろう?】
言った通り、とは何だろうか?私の預かり知らぬところでの話なんだろうな、とは思うが竜王様の声音は自分の目論んだ通りになったと嬉しそうだった。きっと、いや、間違いなくこの台詞はにやりと口角を上げて告げられているに違いない。
【えぇ、えぇ、ジークヴァルト様の仰るとおりですよ。無垢な赤子が我らでも解せなかった呪を解く力には畏敬の念を覚えますし、解呪が成された折、気遣わしげに見上げられれば……絆されもするでしょう】
アルヴィンと名乗った声が降参とでも言うかのように何かを認めた。取り敢えず悪い話ではないようなので華麗にスルー決め込みます。いや、突っ込めないからスルー一択なんですけどね。
【解呪といえばさぁ、ジーク様が姫様の名前を呼んだとき姫様の瞳の色、黄金色じゃなかった?】
明るい弾むような声はクルス、だったよね?彼の言を受けて一斉に私に視線が集まる。ちょっとビックリして目をパチパチ瞬かせると。
【オッドアイ、ですねぇ】
【いや、でも俺も見たぜ。紙切れがひょろひょろ舞ってるのが不思議で、力の根源は赤子かとアルヴィンの方を見たら確かに黄金だった】
リベルトとリュディガーがまじまじと覗きこんでくる。確かに転生前にカードを使った時も瞳が熱くなった覚えがある。さっきも熱を感じたし。あの時は鏡もなく、自分の容姿すら分からなかったから単に魔力を使うと瞳が熱くなるんだろうと思っていたけど、まさか生来の色から変化していたとは…。っていうか今世の私はオッドアイなんですね。猫っぽいですね。
いや、それより黄金の眼ってそんなに重要なの?
【黄金の眼は竜族の血が流れている証。徒人の身でこの眼を持つ者はいない。また竜族で黄金の眼を持たぬ者もいない。人の世に下りた竜族が人間の女と子を成しその血族が稀にこの眼を持つが……】
【竜族に『女』は生まれないから総じて男ばかりもんねー】
オラツィオとクルスの会話に疑問符しか出てこない。え。竜族に女性体はいないんですか?どうやって種族維持してるの?人間の女性に産ませてるとしたら何でこの場に女性がいないの?んー、んー、ん。今は気にしない。喋れるようになったら全部聞く事にしよう。
でも多分、私に竜族の血は流れていないよ?じゃぁ、何でだって聞かれるかもだけど私は基本分からない事は全部神様もどきに押しつけてるからこれもきっとそうだね!!面白そうかなんかの下らない理由でつけてくれたオプションなんでしょう!そうでしょう!!意味があるとするならかなり重要な鍵っぽい匂いがするので全力で拒否させて頂く!!
【まぁ、今は議論を交わしても意味はあるまい。黄金の眼が徒人に現れてなかったのも唯の偶然かもしれんしな】
竜王様の大きな手が私の頭をわしゃわしゃと撫でる。そうそう。偶然ですよ偶然。あんまり深く考えると神様もどきがいらんことしそうだから軽く流しておくに限ります!!現世には手出しできないって言ってたけどこの二百年の間にあの人(?)も進化してるかもしれないし!!……まぁ、あの場所に時間の流れがあるとするなら、だけど。
【…ジークヴァルト様がそう仰られるのでしたら、そういうことにしておきましょうか。何はともあれ漸く自由の身となれたのです。取り敢えず……湯浴みなさってください!!】
アルヴィンが竜王様の腕の中にいた私を取り上げると手でしっしっ、と追い払うかのような仕草をした。竜王様って竜族で一番偉い人?竜?だよね?そんなぞんざいな扱いでいいの?
【二百年も外に縛り付けられてたんだもんねー。土と埃まみれのまま抵抗力の低い繊細な人間の赤子である姫様に触れるのは如何なものかと思いますよ?】
クルスが追い打ちとばかりに風を発生させ竜王様の背を押す。
【そーいや加護の付与からずっと姫さんは閣下の腕の中に抱かれてたなぁ。……姫さんも湯浴みだな】
リュディガーの一言で私の湯浴み争奪戦が始まった。
竜王様は呪具から解放された。
私の願いはこれから叶う。竜王様以外の竜に受け入れられるか一抹の不安はあったけれども声音とその内容から推察するに忌避されてはいないようで一安心だ。
キャッキャウフフな生活目指して、私の竜族庇護下生活は幕を開けた。
お読みくださりありがとうございました!!
今話5,830字




